ザ・グレート・展開予測ショー

蒼き狼と白き狼 2


投稿者名:ろろた
投稿日時:(04/ 8/ 9)


赤いバンダナを巻き、学ランを着た男は学校の前に立っていた。

(しょっぱなから一週間も休んでしまった)

三年からは真面目に来ると決意したのに……。
赤いバンダナを巻いた男―横島は心の中で悔やんでいた。
アシュタロスの件が終わってからは、ちゃんとした給料を美神から貰える様になった。
美神をよく知る者には世界の破滅が近い、と騒がれたのは言うまでもない。
そういう訳で学校には普通に行ける様になったのはいいが、今までサボりすぎた為に補習を受ける嵌めになり長期休みが潰れる事が多かった。
もう休みを潰さない為に、三年からは真面目に行くと決めたのだ。

横島が今日まで学校を休んだのはバイトのせいではない。
とある事がきっかけで横島は人狼と化してしまった。
急激に変わったので人狼の体に慣れるのに時間が掛かってしまったのだ。

人狼の人間形態でも尻尾だけは残るが、タマモに変化の術を教えてもらったので今は尻尾は見当たらない。
横島としてもさすがに尻尾があるまま、学校に行くのは恥ずかしいからだ。
その術を習得するのにも時間が掛かった理由の一つ。

髪の色だけは蒼みがかった黒色のままだ。
元の黒に染めようかと思ったが、シロとタマモに反対された。
髪の色は毛皮の色、それは獣の誇りだと言われたのだ。
横島はそこで疑問に思った。
シロの前髪の赤は染めているんじゃないか、と。
地毛だと泣きながら言われた。
恋人を泣かせてしまったので、今の横島はちょっと鬱だったりする。

そんな事を考えながらも横島はクラスに着いた。
三年生のクラスは校舎の三階にある。
一年は一階、二年は二階とオーソドックスな校舎の作りだ。

「おっす、みんな。待たせたな」

戸を引き、元気よく挨拶をする。
が、

しーーーーーん。

何故かクラスのみんなは呆然とした表情で横島を見つめていた。
時間は予鈴五分前、遅刻や欠席をしている者を除けばみんな揃っている。
横島は怪訝に思い、教室から半歩出てプレートを見る。
そこにはちゃんと『3−A』となっており、横島が在籍するクラスだ。

三年生になったがクラスの面々は二年と同じになっている。
これはいつもの手の応用か?
横島はそう思った。

今までも久し振りに学校に行くとみんなが騒ぎ出した。それはもう大げさに。
今回は趣向を変えて、黙る事にしたのかと横島はそう結論付け教室に入った。
一学期は始業式を含めて一週間も休んだので自分の席が分からず、ピートに聞いてみる事にした。

「ピート、俺の席はどこだ?」

「……あの、横島さんですか?」

横島が声を掛けたのは金髪碧眼の美青年、そしてバンパイア・ハーフのピートだ。
その表情はどこか戸惑っていた。

「何を言っているんだ? 当たり前だろ」

「本当に横島君?」

割って話しかけてきたのは黒く長い髪が綺麗な美少女、愛子だ。
机の妖怪、いわゆる付喪(九十九)神と言われる存在である。
こちらも同じく戸惑っている。

「横島サン……」

大男が横島を見て呆然としていた。
二mを超える身長に顔には何かペイント(?)をしている。
言うまでもなくタイガーだ。

「何!? あれが横島?」
「うそ、あれが……」
「マジかよ」
「何だって!?」

とクラスメイトが次々に騒ぎ出した。
次第に横島も不機嫌になり声を荒げた。

「横島だって言ってるだろ!! いくらなんでもその態度はないだろ!!」

「…………」

クラスメイトもこの声は確かに横島だと思い、押し黙った。

「ピート。俺、何か変か?」

異様な雰囲気に堪りかねて横島はピートに尋ねた。

「その髪はどうしたんですか?」

戸惑いながらもピートは言ってきた。
声が多少、上擦っている。

「う、これは染めているんじゃなくて急に変わったんだよ」

横島もここではシロの事は言えなく、適当に答えた。

「そうですよね。似合っていますよ」

ピートの言葉に横島は疑った。
自分ではあまり似合っていないと思っているからだ。

「本当か? どうも違和感があるんだよなあ」

「そんな事ありませんよ。とてもカッコいいです」

う〜んと横島が唸る。
しかしこれはピートのお世辞と思う事にした。

「横島君、何か人間以外の霊気も感じるわ。何かあったの?」

愛子の鋭い指摘に横島はどきりとする。
妖怪なだけに敏感なのかもしれないと横島は思った。

「それは後で話すよ」

一言で答える。
クラスメイトがいる為、人狼の件を話すにはちょっと躊躇われた。

キンコーン、カンコーン

予鈴が鳴り、担任も入ってきたのでこの話は打ち切りとなった。
ピート、タイガー、愛子はもう少し聞きたいみたいだったが、仕方なく席に着く。
横島もピートに席を教えてもらい、座った。
担任は横島を見て何か思ったふうだったが、横島だからと自分に諭しHRを始めた。


そして昼休み。
屋上に横島、ピート、タイガー、愛子が集まっていた。
昼食のついでに聞きたい事があるのだろう。

「横島さん、今日はお弁当なんですね」

「本当、珍しいわね」

「やっぱりおキヌサンですカイノー?」

横島が持ってきた弁当箱を見て、三人が口々に言う。
今までの横島を知っている者なら当然の反応だ。

「いや、シロが作ってくれたんだ」

「シロさんですか?」

ピートは少し驚いた様に言う。
タイガーも同じく驚いていた。
愛子は怪訝な表情、そういえばまだシロの事は話していなかった。

そこで愛子にシロの事を説明し、自分がこうなった理由も述べた。
でもシロとは付き合っているが、もう深い関係になっている事は言わなかった。
それはちょっと恥ずかしいと思ったからだ。

「そうだったんですか、いくら何でも人狼になるとは思っても見ませんでしたよ」

「それはワッシも同感ジャー」

二人とも少し顔が強張っている、人狼にはいい思い出がないせいだろう。
そして愛子は、

「愛する女と一緒の種族になる。青春よね〜」

とよく分からない事を言っていた。




「先生ー、散歩に行くでござる」

「そうだな」

夜になり、何時ものごとく横島が住むアパートまでシロが散歩に誘ってきた。
横島はジャージに着替える。もちろん尻尾を通す穴付きのだ。



「今宵はいい満月でござる。ね、先生」

「本当だな。満月の時は体が軽く感じるよ」

「くぅーん。そうでござろう」

「人狼ってのは月に影響されるんだな」

「大昔からの決まり事でござる」

二人は普通に会話しているが、その走る速さは並じゃない。
マラソン選手でも追いつけないようなスピードで街を疾走している。
それを二人は息も切らせず、しかも会話しながら走っていた。

人狼に変わり、人間とは違う事をこの数週間で色々と気付かされた。

第一に嗅覚。
人の何万倍も鋭い為に普通の生活を送るのも最初は大変だった。
人、街にはそれは数え切れないぐらいの匂いに溢れている。
シロ、タマモは無意識的に嗅ぎ分けているが、人狼に成り立ての横島はそれが出来ずに匂いだけで気絶してしまった事もある。
あと、女性のあの日も匂いで分かってしまい、とても気まずくなる事もままあった。
今日もクラスの女生徒の何人かはあの日の為に、顔を合わせられなかった。

第二に運動能力。
これは横島にとっては純粋に嬉しかった。
シロの散歩に命を賭けなくてもすむようになったからだ。
人狼は人間と比べて反射神経、動体視力、身体能力は遥かに優れている。
そのせいで最初、横島は普通に走る事もままならなかった。
体の反応に頭が追いつかなかったせいだ。

と苦労も多かったが、今では何とか人狼の能力に慣れて来た。
毎日付き合ってくれたシロとタマモにはとても感謝している。



「到着でござる」

「ふう、綺麗な月だな」

今日はとある海辺が折り返し地点だ。
雲一つない空には月が輝き、海にはもう一つの月が浮かんでいる。

「先生、ここに座るでござる」

浜辺に大きな流木があり、そこにシロは腰掛けていた。
横島もそこに近づき、

「きゃんっ!」

シロが短い悲鳴を上げた。
横島はシロの後ろに座り、両手で抱きしめたからだ。

「せ、せんせい!?」

「昨日はすまなかった。髪の事に気付かなくて……」

「そ、それはもう気にしてはござらん。だから、その……」

「駄目。これは昨日の罪滅ぼしだ。シロは嫌か?」

シロには見えないが、横島は意地悪く口元を綻ばせていた。

「そんなふうに言われたら断れないでござるよ」

「はは、ちょっと意地悪だったかな」

二人はしばらく月を眺めた。

「先生から告白されてもう一月でござるね」

唐突にシロが口を開いた。

「そうだったな。あの時のシロは何だが可愛く見えたから、思わず言っちゃったよ」

「うー、それでは拙者はいつもは可愛くないみたいでござる」

頬を膨らませシロがむくれる。
横島はすまん、すまんと言いながら頭を撫でる、シロは気持ちよさそうに目を細めた。

「今でも夢を見ているみたいでござる。拙者が選ばれるとは思っていなかったでござるよ」

「シロと一緒に居ると普通に話せるからな」

「先生……」

アシュタロスの件から美神、おキヌらの様子はどことなくぎこちなかった。
横島はすっかりと立ち直ったのに、この二人は何時までも気にしていたのだ。
ルシオラの事を―
だけどシロだけは前と同じく接してくれた。
アシュタロス、ルシオラの事を話しても変に同情しなかった。
横島はそれが嬉しかった。堪らなく嬉しかった。
そしてシロが好きなんだと気付いたのだ。
まあ、告白はその場の勢いになってしまったが、上手くいったから気にする必要はない。

「シロからはいい匂いがするな」

横島はシロの首元に鼻をあて、匂いを嗅ぐ。

「そうでござるか? 拙者は何もつけていないでござるよ」

シロとタマモは香水や化粧の類をつけない。
人間用に作られている為に、鼻が利く二人にはそれらは苦痛でしかないからだ。

「何かこう、お日様の匂いがするよ」

「先生もとてもいい匂いがするでござる。暖かい匂いが……」

二人きりしか居ない海辺はとても静かだった。

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