ザ・グレート・展開予測ショー

奥様はタカビー


投稿者名:浪速のペガサス
投稿日時:(04/ 8/ 9)



旦那様の名前は 雪之丞


奥様の名前は かおり


ごく普通の二人が


ごく普通に恋をし


ごく普通の結婚をしました


――――――・・・が


ただ一つ違ったのは、奥様は


『タカビー』


だったのです


(タカビー!?気高いといいなさい!!(怒)






◇  ◇  ◇  ◇






 時々自分の性格が嫌になるときがある、伊達かおりは思う。
 意地っ張りゆえに素直に好きとも愛してるとも言えず。
 だからと言って行動にうつせるほど積極的でもない。
 昨日も些細な事で喧嘩した。
 勿論、相手の事情、夫である雪之丞の仕事は察してるつもりだ。
 だがこちらだってずっと楽しみにしていたのだ。
 昨夜のことを思い出すとため息が出る。


 理由は簡単。雪之丞がデートの約束をすっぽかした。
 この日には仕事を入れるな、入ったら早く終わらせろ、一月も前から行っていた。
 実はこの二人、結婚してから一度も二人で出かけてない。
 だからこそ彼女の気持ちは浮き足立ってしまって。いろんな人間に話もした。
 それでもやっぱりGSって仕事は因果なものでしっかり休みもとれやしない。
 あまつさえ、いまだ日本での認知度が低い雪之丞夫妻にとっては。



――――二人で行くから楽しいのに……――――


 かおり嬢は常々思う。こういうものは好きな人と一緒に行くから楽しいのだ。
 しかも相手はもともと不器用な人間。あまつさえ初めてのお誘い。嬉しくないわけがない。
 凄く、本当に凄く楽しみにしていた。何度も、見たいと思っていた映画だ。
 しかも好きな人と行きたいとも思っていた映画だ。
 しかしタカビーな彼女はそんな事いえない。
 が。
 いくら結婚したとはいえ先ほど彼女が思ったように元々不器用な男な雪之丞。
 この時もかおり嬢の神経を逆撫でしてしまい。
 しかも本人は無自覚で。いやはや。
 その日のデートは映画だった。珍しく雪之丞からのお誘いの。



『悪ぃ。仕事抜けられそうにないわ。ホントすまねぇ俺から誘っておいて』

「またですの?今日だけは一月も前からいってるでしょ!?」

『悪い!本当にすまない!!埋め合わせは絶対にするから』

「そこが貴方のいいところですけれど今回ばかりは無理なんです!」


 だって
 だって貴方がきちんと帰ってくるようにしたかったから
 だって
 だってどうしても二人で見たかった映画だから
 貴方がそれを誘ってくれたから


『俺の事気にしないでさ、誰かおキヌあたりと見て来いよ?』


 その一言が決定的だった。
 無我夢中で互いに罵詈雑言を言い合い、互いに喧嘩別れした。
 後に残るのは後悔だけ。


 こういうときに彼女はつくづく思う。
 もう少し自分が優しかったら、もう少し自分で行動できたら。
 考えても考えても。
 出てくる答えは同じ。自己嫌悪と後悔だけ。
 彼女は部屋で泣いた。





◇  ◇  ◇  ◇





「なんだってあんなに怒るんだよかおりのやつ…わけが分からねぇや」

「まぁ、女性っていうのは以外に難しいものですからね…僕らが思ってる以上に。」


 つくづく雪之丞は思う、女ってのはこの世で一番わけが分からないもんだ、と。
 電話で散々に言い合った後、雪之丞は愚痴をこぼすためにわざわざピートを呼び出した。
 雪之丞、と言えば真っ先に誰もが忠夫を思い浮かべるが実際本当に仲がいいのはピートだったりする。
 話がそれた。とにかく、雪之丞はピートにこれまでのあらましを話した。
 そして思わず飛び出した最終的な自己の意見が冒頭のそれである。


「大体よ、俺はあいつが見たいって言ってたから誘ったわけでよ。
俺がいなくても大丈夫だろうし。
っつーか友達、おキヌや魔理あたりといけば女同士ででもいけるからって思ったのによ。
なんで怒られなきゃいけないんだ?俺がよ。」

「………………。」


 愚痴愚痴といつまでもつぶやき続ける雪之丞に対してピートは思わずあきれる。
 鈍感、と言えば皆、この男ですら忠夫をあげるが実際この男もまるで女の心を分かっていない。
 しかも忠夫と違い、意地っ張りな部分もあるため余計にたちが悪い。
 だが、それこそがこの男の美点でもあるわけである。ピートはゆっくりと話しかけた。


「かおりさんは、お前と一緒だからこそ行きたかったんじゃないのか?」

「なんで?あいつが映画を見たがってたのは認めるけどよ。」

「分からないかな〜。一応お前はあの人の旦那さんだろ。」



 ほっとけ、と悪態をつく雪之丞。だがその顔は真剣そのものだった。
 彼も彼なりに何とか自分を変えようとしているのだろう。そんな事が安易に読み取れる。
 それを見るとピートはわずかに苦笑した。それでこそこの男だ、と。
 思えば彼らが結婚した時も散々紆余曲折があって散々な目にあった。
 だけどこの男は不器用なりにしっかりと自分を改善していって。
 そして少しずつでも何とかしてまたつながりが強くなって。
 面倒ごとがあるたびに呼び出されていたピートにとってこうやって間近で友の成長の現場に立ち会うのは嬉しい。
 何度も経験した事とはいえ、これからも続くであろうことだが、嬉しい。


「今回のお誘い、結婚して初めてだろ?しかもお前からのお誘いだって?
彼女は、お前から誘われるって言うのが嬉しくて。
しかも結婚してから初めてのお誘いだったから余計。
謝りにいきなよ?女性は怒らせると色々と怖いぞ。本当に。」


「いや、しかし……。」


 顔を真っ赤にしながらしどろもどろに言う雪之丞。
 その仕草は妙にかわいらしく、かおり嬢がいたとしたらきっと彼女も真っ赤にしてただろう。


「愚痴愚痴言うのは男らしくないぞ雪之丞。
これも修行だ修行!女性のためのお前のための。
さぁ行った行った!」

「フン!いつか仕返ししてやるからな!」


 そういうと雪之丞は走り去った。
 ピートはそれを見てさわやかな笑顔で手を振り彼を見送った。





◇  ◇  ◇  ◇  ◇





 一方かおり嬢はと言うと、いつのまにか泣き止んでいて魔理とおキヌを家に呼んでいた。
 こちらも結局はやってることは一緒、似た者同士である。ただ、彼女の方が幾分意地っ張りで泣き虫だが。
 魔理とおキヌは、かおりの口から次々と出てくる愚痴に対して苦笑を交えながら応対している。


「どうして男って単純の癖にあんなにも鈍感なんですの!?
アレぐらい直ぐに気づきますわよ。」

「まぁ、それが男性の方ですからね。」

「そうだぜかおり。男ってのは単純だからこそ鈍感なんだろ?」


 女三人集まれば何とやらとはよく言ったもの。実際話が脱線しつつあるのも否定しない。
 言ってる事は正直正しい。正しすぎてぐうの音も出ないほどに。
 最初、三人が集まったときには、二人で必死になって慰めていたりもしたのだが。そんな事微塵も感じない。


「本当、男の人って子供ですよね。」

「そうですわ!こっちの気持ちも知らないで。」

「アタシはそういうところとか可愛いと思うんだが…。」

「何故ですの!?魔理さん!」


 魔理の「可愛い」発言によってかおりが思わず声を荒らげる。
 それもそうだろう、その「男」のせいでこんなにも苦しい思いをしていたのにいきなり「可愛い」なんて。
 いきなりの怒声に少々面食らったキヌと魔理だったが、やがて互いに顔を見合わせて笑った。
 そりゃあもう、かおり嬢をすら可愛いと言うかのように。そして魔理が静かに語りだす。


「ようするに!男はいつまでたっても子供だって事さ。
なんかで読んだっけなぁ。男と男の子の違いはおもちゃの値段だけだって。
可愛いじゃないか、そういう風にいつまでたっても成長しない男ってのが。
しかも悪いところはきちんと悪いって言うしさ、物覚えも意外によくてさ。
子供は無邪気さ、しかも鈍感。
うん、男は可愛いって、そういうことさ。
男は、子供がでかくなっただけなんだから、さ。」


 雪之丞さんもそうだろ?そう言いたいかのようにウィンクを投げかける魔理。
 おろおろして思わずキヌのほうにかおりは顔をむけるが、キヌは優しく微笑んでいるだけ。要するに気持ちは魔理と同じ様子。
 それを見たかおりはおろおろ、二人はにっこり。
 このままではまずい、非常にまずい。かおり嬢は狼狽してきた。なんとかしなくては。


「ただいま〜……。」


 その声を聞くやいなや、三人はそれぞれの反応をする。
 魔理とキヌは互いに顔を見合わせ、にっこりともにやりともとれる顔になり、かおり嬢はさらに狼狽。
 声の主は、雪之丞。


「さて、騒動の主が帰って来ましたし、アタシらは帰りますか?」

「そうですね、魔理さん♪」

「な!?ちょっ…!?お待ちになって二人とも!!」

「「かおり(さん)!!頑張って(くださいね)♪雪之丞さんお邪魔しましたー♪」」


 そそくさと二人は退場し、入れ替わりで入ってきたのは雪之丞。
 何故二人がいるのかはともかく、妙に笑顔でいたのが雪之丞にとって無性に不気味だった。
 まぁ、それは良い。気を取り直して雪之丞はかおり嬢の方をむいた。

―心臓の音がうるさい。心が高揚しているのがよく分かる。
 落ち着け、落ち着けよ俺。いつもどおりでいいんだからさ―


「なぁ……かおり?」

「なんですの?」


 先ほどまでとはえらい違いの、抑揚のない声と能面のような表情。
 忠夫でいうところの「こらアカン」状態に思わず雪之丞はたじろいだ。
 一方かおり嬢はというとこちらも実は精一杯の虚勢であったりする。

―心臓が高鳴ってますわ。あぁ、なんて私は…
 でも駄目。ここでそれが彼に知れたら私の負けですもの―


「あ…ああああああのよ。そ、そそその……。」

「男らしくないですわね。だからなんですの!」


 気持ちとは裏腹に動揺したり、声を荒らげたりするご両人。
 二人とも先ほどまでの様子がまるで嘘のようである。
 片方は苛立ち、もう片方は情けなさ。それぞれの気持ちを抱えて。


「その…すまなかった!!俺、お前の気持ちが分からなくて!
俺の方から誘ったってのに。ホント、スマン!!」

「・・・・・・・・・」


 プライドが高いこの男が珍しくも頭を下げた。そりゃあもう見事に。
 だけどかおり嬢は何も言わないでそれを見てるだけ。
 ただ、頭を下げた雪之丞を見てるだけ。
 一見夜叉(雪之丞視点)なその気迫、しかしその心中は実は穏やかではなかった。

―この人が頭を下げて……。なのに私はいつもどおりで。
 私はどうすればいいの!?いつもどおりな事しか出来ないで―

 かおり嬢はこんな時ですら変われない自分に対する嫌気を再確認していた。
 しばし二人の間に沈黙が流れる。
 そんな時である、かおり嬢はふと思い出した。魔理が言っていた「子供」という言葉を。

―そうですわ!子供ですからこうやって彼は素直に謝りにきたんですもの!
 でしたら私から折れてあげなさるのが常!可愛いものですわね男の人って……―

 自分なりに良い様に解釈していた(汗)
 だがそれもこの人物なりのごまかし方。
 素直になれない自分をごまかすための精一杯の虚勢。
 やはりかおり嬢、どこまでたってもタカビーのようである。


「……で。埋め合わせは?」

「は?」

「埋め合わせは何をしてくださるのって聞いてるんです!」


 それをきいて見る見る雪之丞の顔が明るくなった。
 喜びを隠そうともしないで、満面の笑顔になって。


「お、おお!!早速明後日、一日暇が出来るんだ。一緒にどっか行こうか。」

「いいですわね。でもその前に…」

「?」


 クスリと笑って、かおり嬢は雪之丞の口に自分の口をつけた。


「一緒に今夜お食事しましょう?それぐらいの甲斐性くらい、ありますわよね?」

「ぁぁ…。」


 頬どころか、顔中真っ赤にして雪之丞はつぶやいた。
 どうやら二人は元の鞘に納まりそうだ。
 そしてかおり嬢は愛する旦那の腕に自らの腕を絡ませた。


―男の人って本当に子供なんですわね♪―


 今後もこの奥様のタカビーは直らなそうだが、なんとかなりそうである。



おしまい♪

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