ザ・グレート・展開予測ショー

君ともう一度出会えたら(26)


投稿者名:湖畔のスナフキン
投稿日時:(04/ 8/ 8)

『君ともう一度出会えたら』 −26−



》》Reiko


 宇宙のタマゴの中に吸い込まれてから、いったいどれだけの時間が経ったのだろうか。
 広大な亜空間迷宮の中を、私はひたすら逃げ回っていた。

 事前に横島クンからここの構造について聞いていたが、本当にここは不思議な空間だ。
 最初は好奇心で、宇宙のタマゴの中に作られた世界をあちこち見て回っていたが、やがて私の存在に気づいた土偶羅がプログラムワームを放ったため、本気で逃げ回らなくてはならなくなった。


 今の私は、魂で直接この世界のありさまを感じとっている。
 この宇宙のタマゴの中にいる間ずっと感じていたこと、それは外の世界、つまり私たちの世界が、アシュタロスの強大な力によって歪められ、悲鳴をあげていることだった。

 アシュタロスは、さらに強大な力──コスモ・プロセッサとエネルギー結晶──で、外の世界を直接改変しようとしている。
 まさに宇宙をレイプするようなその行いに対して、私たちの世界が強く反発しようとしていることがわかった。
 これが横島クンが言っていた──前の世界では、私が言っていたが──、『宇宙意思の反作用』なのだと思う。

 しかし、プログラムワームに追いかけられ続けて、休む暇がなかった。
 根性だけで逃げていたら、そのうち力を使い果たしていたに違いない。
 実際、前回は力尽きて、魂が分解する寸前まで追い詰められていた。

 でも今度は大丈夫。必ず横島クンが助けにきてくれる。
 そのことが私の魂にとって、大きな希望となっていた。


 亜空間迷宮をさまよっている時、偶然にもエネルギー結晶が置かれている場所を発見した。
 隙を見て突入し、逆操作で復活しようとしたが、プログラムワームに見つかってしまい、ギリギリのタイミングで追い出されてしまった。

 一瞬だけ外の世界に出た時、アシュタロスと対峙する横島クンの姿が見えた。
 彼はもうそこまで来ている。きっとアシュタロスを出し抜いて、私を助けにきてくれる。
 だから……彼を信じて、もう少しだけ頑張ってみよう。




》》Vespa


「クッ! 異物のせいで装置が動作しない。どこまでも私の足を引っ張るつもりか、メフィスト!」

 バーーン!

 システムをデバッグしていたアシュ様が、鍵盤を両手の指でいっせいに叩きつけた。

「手のひらの上で躍らせていたつもりが、踊っていたのはこっちの方だったとはな!」

 アシュ様は本気で怒っていた。わずかに開いた唇から、ギリギリと歯ぎしりする音が聞こえてくる。

「アシュ様、私が迎撃にでます。アシュ様はその間、デバッグに専念してください」
「……ベスパ?」
「それから、一つお願いがあります。私の霊力のリミッターを、すべて解除してください」
「だが、おまえは既に、チューンアップを済ませている」
「メフィストは捨て身の覚悟で、アシュ様を妨害しています。
 それに敵が未来を知っているからには、相手の意表をつく行動が必要です!」
「ベスパ、寿命についてはわかっているな?」
「はい。わかっています」

 もともと私たちは、莫大なパワーと引き換えに、寿命が一年と短く設定されている。
 パワーが上がるということは、私たちにとっては寿命が短くなることを意味する。
 だが私には、他の道を選ぶことはできなかった。

「アシュ様。アシュ様は、私にだけ心を見せてくださいました。私は最後までお伴します」

 アシュ様の真の願いはわかっている。
 でも、できることならば、勝利して生きのびて欲しかった。

「……わかった。許可しよう」

 アシュ様が右手を私の頭の上に乗せ、私のリミッターを解除する。
 リミッター解除と同時に、私の体から凄まじいほどの力が溢れ出てきた。




》》Lucciola

 コスモ・プロセッサに向かっていたヨコシマと私は、やがて東京タワーのすぐ近くまできた。
 この場所には、いろんな意味で思い入れがある。
 二人で夕陽を見た場所。そして……ヨコシマの記憶の中にいた私が、散っていった場所。

「ヨコシマ」

 私はヨコシマを呼び止めた。
 前方から桁違いに強い霊力をもった存在が、高速で接近している。

「来るわ! たぶんべスパよ」
「よりによって、同じ場所か」

 ヨコシマがチッと、小さく舌打ちをする。

「絶対に、無理するなよ」

 ヨコシマは心配そうな表情で、私を見つめた。

「ヨコシマこそ、絶対に無茶しないでね」

 ヨコシマの記憶を通してみた、前回の戦いの記録。
 そこでは私とヨコシマが、お互いをかばいあいながら、命をかけて戦っていた。
 だが私は命を落とし、生き残ったヨコシマには、癒されない大きな心の傷が残った。

 絶対に生き残ること。
 それが今度の戦いにおいて、二人の間で暗黙の了解となっていた。

「下がってて、ヨコシマ。ジャミングが効いているから、今のべスパにはあなたの霊力は通じないわ」
「ルシオラも注意しろよ。危なくなったら……」
「ええ、わかってるわ」

 接近してくるべスパの霊力は、予想よりもはるかに強力だった。
 限界ぎりぎりまでパワーアップしたか、それともリミッターをすべて解除した可能性もある。

「ここよ、べスパ!」

 私は広場の真ん中に立つと、べスパが見つけやすくするために、体を発光させた。

「あんただけか。ポチは逃がしたのかい?」
「俺もいるよ。いまさら、逃げも隠れもしないさ」

 背後で隠れていたヨコシマが、姿を現した。

「女に戦わせておいて、自分は見物かい? いいご身分だね。それとも、おまえから先に始末しようか──」
「べスパ!」

 私はすかさず、べスパに向かって牽制の霊波砲を撃った。

「私の目が黒いうちは、ヨコシマには絶対手を出させないわ」

 速射で撃ったので威力は弱いが、その攻撃はべスパの頬をかすめ、頬にわずかな傷をつけた。

「それから、一つ教えて。アシュ様はあなたに何をしたの? そんなにパワーを引き出したら、寿命が……」
「もともと、私たちの命は一年たらず。
 どうせ短い命なら、惚れた男(ひと)のために使うのが、悔いのない生き方なんだろう?
 悪いけど姉さん、それを教えてくれたのは、あんたさ」

 私を見返すべスパの目には、一点の曇りもなかった。

「そう、わかったわ。あなたは最後まで、アシュ様についていくつもりなのね」
「……今の私には、あんたは絶対に勝てないよ。覚悟はいいね?」

 たとえ勝ったとしても、べスパの命はもう長くはない。
 べスパは既に、自分の死を覚悟しているようだ。

「私たちは負けないわ。必ず勝って、未来をこの手で掴んでみせる!」

 その言葉が、戦闘開始の合図となった。
 私とべスパは同時に飛び上がると、空中を飛行しながら激しい霊波砲の撃ち合いをはじめた。




 戦いは、序盤から不利だった。
 べスパは攻撃力・移動速度ともに大幅に向上しており、私がつけいる隙をほとんど見せなかった。
 幻術を駆使して攻撃をかわしながら、ヒットアンドアウェイの攻撃を繰り返すが、機動力に勝るべスパの防御をなかなか崩すことができない。

「そこっ!」

 ズガン!

 べスパの攻撃をぎりぎりのタイミングでかわした私は、幻術を使ってべスパの背後へと回り込んだ。

 バシュッ!

 こちらも霊波砲を撃つが、べスパは背後の気配を察知し、すかさず回避行動をとる。
 そしてお返しとばかりに、三発連続で撃ってきた。

「どうした? 動きがだんだん鈍くなってきてるよ。もうスタミナ切れかい!?」

 悔しいが、それは事実だ。
 強化されたべスパの攻撃をかわすために、最初から全力で動き回っていたから。

 私はべスパの攻撃をかわしながら、東京タワーの展望台の上にチラリと視線を向ける。
 そこには、予定どおりヨコシマの姿があった。
 ヨコシマと私は一瞬でアイコンタクトすると、旋回して飛びながら東京タワーへと向かっていった。

「どこへ行く、ルシオラ!?」

 すかさずべスパが、私のあとを追いかけはじめる。

「そうか、ポチだね。……いいともさ。最後くらい、二人一緒にいさせてあげるよ!」




》》Yokoshima

 べスパの攻撃をかわしながら、ルシオラが俺の方にやってきた。
 しかし、そのすぐ後から、べスパもこちらに向かってくる。
 かなり、きわどいタイミングになるかもしれない。

「ヨコシマ!」

 ルシオラが俺に向かって、右手を伸ばしてきた。
 俺は文珠を二個作ると、右手の指の間に挟んで念を込める。

「いくぞ、ルシオラ!」

 俺は飛び込んでくるルシオラにタイミングを合わせて、手のひらを開きながら右手を突き出した。

「『融』『合』!」

 俺の右手とルシオラの右手がピタリと合い、俺の右手にあった文珠が光を発した。
 次の瞬間、ルシオラの体が吸い込まれるかのように、俺の体と重なり合う。

「融合完了!」

 ルシオラの姿はあとかたもなく消え去り、俺だけがその場に立っていた。

「ポチっ! おまえいったい何を!?」

 ズドン!

 べスパが俺に向かって、霊波砲を撃ってきた。
 俺はサイキック・ソーサーを出して、その攻撃を受け止める。

「そんなバカな! おまえの霊力は、ジャミングで完全に封じたはずなのに……」
「俺とルシオラが融合したことで、霊波の質が変化したんだ。おまけに、パワーもずいぶん上がっている」

 俺はフワリと空中に浮かぶと、文珠を手に持ち、べスパに正面から突っ込んでいった。

「時間がない。一発でケリをつける!」
「くっ……ナメんじゃないよっ!」

 べスパは両腕に霊気を集中させる。
 俺は『盾』の文珠とサイキック・ソーサーで、二重に防備を重ねた。

 ズドーーン!

 突っ込んできた俺に向かって、べスパがカウンターで特大の霊波砲を放った。
 俺は二枚重ねの盾を斜めにして、その攻撃をはじくと、攻撃を受けた反動を利用して進路を斜めに変更する。

「べスパ、すまない!」

 特大の霊波砲を放った直後の隙を、俺は見逃さなかった。
 べスパの斜め前方から、必殺の霊波砲を放つ。

 ドンッ!

 俺の攻撃は、べスパの腹部を貫通する。

「アシュ様!」

 致命傷を負ったべスパは、そのまま地上へと落下していった。
 やがて落下地点のあたりから、爆炎が巻き上がるのが目に入った。




(べスパ……)

 俺の心に、べスパの死を悲しむルシオラの声が聞こえてきた。

「今は、ああするしかなかったんだ」
(でも……)
「大丈夫。べスパは必ず復活する。後でまた会えるように、やるべきことをやっておこう」
(そうね。必要な霊基さえ集まれば……」

 俺とルシオラは、妖蜂たちがべスパの霊基の回収を始めたのを見届けると、アシュタロスのいるコスモ・プロセッサに向かって前進を再開した。


(続く)

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