ザ・グレート・展開予測ショー

奥様は狐 五日目


投稿者名:純米酒
投稿日時:(04/ 8/ 6)

旦那様の名前は 忠夫

奥様の名前は タマモ

ごく普通の二人が

ごく普通に恋をし

ごく普通の結婚をしました

――――――・・・が

ただ一つ違ったのは、奥様は

『狐』

だったのです

(・・・狐のどこがいけないの?・・・・・・・・・・・・・)

―――――――――――――――

公園でよく見かける光景といえば、子供たちの遊ぶ姿や人生の大先輩がたと平和の象徴のひと時のふれあいだろう。

しかし、今目の前ではごく一部だけ、異質な世界が創造されつつあった。

「タマモ・・・・」

「忠夫・・・・」

ベンチに座り、頬を赤く染め、切なげな瞳で見つめ合うふたり。
二人の周りにはあるはずの無い花畑も見える。

タマモは横島の胸に顔を寄せ、目を閉じる。
そんなタマモの肩に腕をまわし、しっかりと抱きしめる横島。

まさにそこは『悲しみも苦しみもなく、愛と幸福だけが存在する二人だけの世界』だった。



「・・・・見るに耐えん、ライフルと銀の銃弾を寄越せっ!!」

双眼鏡を放り投げ、空いた手を部下に突き出すロン毛の男。

「しかし・・・我々の任務は捜索と追跡のみのはずでは?」

多少は理性の残っている部下の一人が、暴走しようとしている上司をなんとかなだめようとする。

そんな部下に対して、怪しく光る目で睨みつけながら質問を返す。

「諸君・・・我々は何者だ?・・・そう、誇り高き『オカルトGメン』ではないか!
 その使命は崇高で尊いものだ!それが・・・それが何故今、俗に言う『バカップル』とやらの捜索と追跡という
 愚にもつかぬ事をせねばならんのだ!しかも、原因は目の前で二人だけの世界に浸っているあの二人だというのだ
 ・・・・これを許せるほど僕は年をとっていない・・・」

うっとおしい長髪を振り乱し、漢泣きにむせびながら力説する。

「まぁ仕方が無い事じゃないですか?文珠使いに妖狐ですから・・・警察に任せるわけにはいかないでしょう」

手にした資料を読み返しながら相槌をうつが、何気なく放った言葉は上司を激高させるだけだった。

「そういう問題ではない!!彼等は痴話喧嘩の種をばら撒いておきながら、自ら責任を取ろうとせず逃げ回っているのだ!」

そういって血涙を流すロン毛は美智恵から聞いた事の顛末を、部下に詳しく話して聞かせた。
みるみるうちに部下の顔色が変わっていく。そして、素早くライフルをさしだしこういった。

「弾丸は装填済みです。お得意のライフルの腕前を見せてください」

彼もまた血涙を滝のように流していた。

「フッ・・・任せたまえ!あんな男の風上にも風下にも置けない奴は、今この場で始末した方が世の中の為と言うもの!」

ライフルを構え、狙いを定める。レーザーポインターは確実に横島の頭を捕らえていた。

「ふっふっふっふ、覚悟したまえ横島クン!これは粛清なのだ、天誅なのだよ!」

もはや引き攣った笑顔としか言い様の無い表情で獲物を見つめ、トリガーに指を掻ける。

「はっはっは、そぉーれパスッと一発―――・・・」

しかし、銃声はいつまでたっても聞こえる事は無かった。

「お、おいっ!何だ君達は!!何をする、放せっ!」

「警察だ。怪しい男が銃構えて大声で叫んでると通報があってな」

「失礼なっ!!僕は怪しくなんか無い!!」

「君はどう見ても世界一怪しいぞ」

「えーいっ、放せ!!今あの邪悪を討たねば人類の未来が―――・・・」

「あーハイハイ。話は署でじっくりと聞いてやるから安心しろ」

国家権力に拘束され、ズルズルと引きずられていく。

西条輝彦 二十○歳 独身、戦線(?)離脱。

因み彼の部下は他人のフリをしてなんとか誤魔化していた。この世渡りの上手さで彼の出世は間違いないだろう。




一方そのころ白井総合病院の駐車場では、病院から追い出された四人(+ひのめ)は横島の足取りを追って移動の準備中だった。

「公園に居るみたいね、すぐそこだから歩いていけるわよ」

無線を切り、美智恵が全員を見渡して言う。
しかし、三人からは何の反応も無かった。

おキヌとシロはすでにボロボロでもはや実力行使もままならず、今では口喧嘩で勝負している最中だ。
令子は珍しく二人の間にはいってなだめ役に回っていて、余裕が無かった。

そんな三人をみて軽く頭を押さえてため息をつく美智恵。

(横島君、タマモちゃん・・・・ちょっと恨むわよ)

一人この事態を全く理解していない(出来ない)ひのめは、呑気に母親の腕に抱かれながら穏やかな寝息をたてていた。





公園内に響くパトカーのサイレンにも破られる事の無く、周囲の好奇の視線をも物ともしない『二人だけの世界』は
唐突に終わりを告げた。


くぅ〜


「「・・・・・・・・・」」

横島の胸にうずめたタマモの顔が真っ赤に染まる。
対象的に横島は少しばかり意地の悪い笑みを浮かべる。

「や、やーね忠夫ったら、あんなにリンゴ食べたのに・・・」
照れ隠しに軽口を叩く。

タマモと二人で過ごすようになってから、横島は終始タマモにペースを握られていた。
それも悪くないと常々思っていた物の、心の奥底から湧き上がる悪戯心は抑えられなかった。
肩に回していた腕をタマモの腰の辺りに移動させ、手のひらをタマモのお腹にあてて軽くさする。

「やぁっ・・・くすぐった・・・ぁ・・やめ・・やめて」

止めさせようと体をまさぐる横島の腕を掴むが、体の芯を走る快感に似た感覚に身をよじるだけで腕に力が入らない。

そんなタマモの耳に唇を寄せて、横島は耳朶に吐息をわざとかけるように囁く。

「そんな事言って・・・ココ(胃)は正直だよ」

「そ、そんなこと・・・ないっ・・・あぁぁ・・んっ」

タマモのお腹をなでさする横島の手は止まらない。

真っ昼間から『堂々と』公園で繰り広げられる『患者と看護婦(看護師)』による『桃色な行為』

――――――どうやら『二人だけの世界』はもう一つ高い次元に移行しただけのようだ。

「ほらほら・・・素直になろうぜ、タマモ・・・な?」
左手の動きはどんどん大胆になっていく。

「はぁぁ・・・ん・・・ほんとうに、もうやめてぇ・・・」

瞳に浮かぶ涙と体中を走り抜ける感覚を堪えながら懇願する。
その表情を見たら、横島はまず間違いなく行くところまで行ってしまうだろう。
だが、幸いな事に横島はタマモの耳に唇を寄せている為、タマモの表情は見えていなかった。

調子に乗っている横島に、タマモは少しずつ怒りを感じ始める。

「ちょっと、いい加減やめないと・・・ひゃぁぁっ!」

「いい加減やめないと・・・なんだい?」

今までは少しか耳をくすぐらなかった横島の熱い吐息が、タマモの耳を直撃する。

これにはタマモも驚いたが、おかげで焦点の合わなかった瞳に光が戻る。

そして狐形態に変化して横島を睨む。

横島は今まで感触を楽しんでいた、服越しで感じるタマモのお腹が
急にサラサラでフワフワの毛皮になったことで正気に戻った。

「あ・・・ごめん。ちょっと調子に乗りすぎたよ」
まだ睨む狐タマモに済まなそうな表情で謝る。

しかし、目はまだ横島の顔を睨んでいた。

プイッと顔を背けると横島の膝の上で丸くなり目を閉じるタマモ。

「本っ当に悪かった、なっ?だから元に戻ってくれ。でないと・・・でないと俺・・・・


 





 

 どこにも行けねぇよ・・・・・・」

片手で車椅子を操作するのはとても難しい。

周囲には自分達のおかげ(所為?)で人っ子一人いない。

一人公園の真ん中でぽつねんと取り残される形になった横島だった。


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