ザ・グレート・展開予測ショー

蒼き狼と白き狼 1


投稿者名:ろろた
投稿日時:(04/ 8/ 4)


「う、あ……」

横島は目を覚ました。
最初に目に入ったのは不安な顔で見つめるシロであった。
視線を動かすと美神、おキヌ、タマモの美神除霊事務所の面々。
そして小竜姫、パピリオ、ヒャクメの妙神山の神々(一部除く)といったメンバーだ。
ここに集まったみんなもやはり、シロと同じく不安な顔で横島を見つめていた。

さらに視線を動かし、場所を把握する。
純和風な部屋、自分は布団で寝ているみたいた。
確かここは妙神山の修行場の一室、横島がよく修行に来てはここで寝泊りしていた。

「どうしたんすか?」

声を絞り出す。
雰囲気に呑まれ、明るくは言えなかった。

「目を覚ましたのね。これで大丈夫ね〜」

と言ってヒャクメは聴診器みたいな物を横島の額から外した。
例の心を覗いたり、その者の状態を見るトランクに入っている機械(?)だ。

「せ、先生〜〜」

シロは感極まって横島に抱きつき、顔を舐め始めた。

「お、おい、シロ。止めろって」

横島は何とか上体を起こし、シロを宥める。
シロも仕方なく渋々、離れた。

「えーっと俺は何でここにいるんすか?」

横島の記憶ではいつもの様に、シロの朝の散歩に付き合ったところまでは覚えていた。

「私が説明するわ」

美神が言ってきた。
シロだと感情に走ってしまい説明できないだろうと、思ったからだ。

話はとても簡単だった。
横島がシロの散歩の途中で横島が倒れたのだ。
焦ったシロは急いで横島を事務所まで運び、美神が病院に連絡し入院する事になった。
だが、横島が倒れた原因はさっぱり分からなかった。
過労でも栄養失調でもましてや他の病気でもなく、現代医学から見ても何一つ解明できなかった。
とある医者が取り乱したのは言うまでもない。

美神はこのままではいけないと思い、妙神山まで来たのだ。
そしてヒャクメに見てもらい、出た結論は時間が経てば起きるだった。
その結論に皆はこれでいいのかっと突っ込んだのだが、『無理に起こす事もできるけどそれは危ないのね〜』の一言で取り合えず終結した。

それから三日後、ようやく横島は目を覚ましたのだ。

「そのせいで三日も仕事を休んじゃったわ。大損よ」

美神は憎まれ口を叩くが、それは心配を表に出したくないだけの事だと横島意外は気付いていた。
春休みでよかったと横島は思った。横島は無事に三年に進級できる事になったのだ。
進級する為に冬休みを補習ほとんど潰したが。

「すいませんっす。迷惑を掛けて……」

横島は身の危険を感じ、謝る事にした。

「……いいのよ。この埋め合わせはしてもらうから」

顔を赤らめる美神を見て、横島は怒っているのだと思った。
つくづく鈍い男である。

「あの、横島さん。これを……」

「何すか、小竜姫さま?」

小竜姫が手鏡を渡してきた。
疑問に思う横島だが、それを受け取り律儀にも見てみる。
そこに写っている姿に驚愕した。

「出来損ないのヴィジュアル系ーーーーー!?」

鏡面に写っているのは確かに横島だ。
前と違い、髪の色が蒼みがかった黒になってはいたが。
銀髪(前髪だけ赤)のシロ、金髪のタマモ、亜麻色の美神は素材がとてもいいだけに似合っている。
しかし横島は典型的な日本人の黄色の肌、それにあまり二枚目ではない顔(横島主観)では、はっきり言って似合っていなかった。
そういうふうに叫んでもしょうがないだろう。

「それで横島さん、言いにくい事なんですけど……」

打ちひしがれる横島に小竜姫はさらに述べた。

「どうやら人狼になっちゃったみたいです」

「「「「えーーーーっ!?」」」」

美神、おキヌ、パピリオ、シロが叫んだ。
逆にヒャクメとタマモは涼しい顔をしている。

「ヨコシマが本当のポチに……」

パピリオが的確な一言を言った。

「尻尾があるーーー!?」

横島は確かめる為に尾てい骨のところを触ると狼の尻尾があった。
髪と同じく、蒼みがかった黒色の毛がふさふさと生えていた。

「ヒャクメ、あなたはどうしてこうなったか知っているんでしょ?」

霊視したヒャクメなら原因を知っていると思い、小竜姫は尋ねた。

「うふふ〜、聞きたい〜?」

本当に嬉しそうな笑顔で聞き返すヒャクメに、小竜姫は不安を感じたが頷くしかなかった。

「簡単なのね〜。人狼のシロちゃんとそういった関係だからね〜」

「そ、そういった関係……」

おキヌは顔は赤め呟く、想像したのだろう。

「男と女の関係なのね〜」

ヒャクメがきっぱりと言った。

美神は神通鞭を構えた。
おキヌはどうしていいか分からず、おろおろしている。
パピリオは顔が真っ赤だ。
小竜姫はぶつぶつ言いながら、神剣の柄に手を当てた。
タマモはシロを無理矢理、外に引っ張っていった。
ヒャクメはにこにことした顔でこの場を見ていた。

そして横島は部屋の隅でガタガタと震えている。


―しばらくお待ち下さい―


一方、外のシロとタマモはというと。

「申し訳ないでござる」

シロは深々と頭を下げた。

「それは別にいいのよ」

タマモは屋敷から爆発音が聞こえてくるが気にせず言った。
逆にシロは拍子抜けする。
外に連れ出したのはシロに何か言うかと思っていたからだ。

「いいのでござるか?」

「だから別にいいって言っているでしょ」

「…………」

シロは黙って聞いていた。

「美神とおキヌはヨコシマに何かと気を使って話していたわ。時々だけどヨコシマもその事を気にしていたのを見てたしね、私。シロだけは普通にヨコシマに接していたから、そこから男女の関係になっても不思議じゃないわ」

「タマモ……」

顔を伏せるシロにタマモはさらに続ける。

「恋愛事で他人を気にしてどうするのよ? 極論だけど当人同士がよかったらそれでいいのよ、恋愛は」

「タマモも先生の事が好きなんでござろう?」

シロの不意な発言にタマモはどきっとした。
普段はそういった横島に対する感情は何も表に出していなかった筈なのに。
意外と人を見ているのね。と改めてシロを見直した。

「よく分かったわね……」

「感情によって匂いが違ってくるのは当然でござる。タマモも先生の前だと嬉しそうな匂いがしたでござるよ」

人や妖怪等の分泌物は感情で匂いが変わってくるのだ。
まさかシロに教わるとは思わなかった。

「ふ〜ん。なら、私はヨコシマの愛人になってもいいのね」

「そ、それは、その……」

言いよどむシロだが、特に嫌そうではなかった。

「あら、終わったみたいね」

タマモが言う通り爆発音や屋敷が揺れるのが収まっていた。



「で、どうしてこうなったの?」

シロとタマモが戻ると美神はヒャクメの肩を掴み、詰問していた。
思ったより部屋は荒れていなかったが、横島は血の海に沈んでいた。
だがあの横島だ、すぐに復活するだろう。

「説明するから離すのね〜」

「分かったわ」

ようやくヒャクメから手を離す、美神。

「みんなも知っている通り、横島さんは魔族因子を持っているのね〜」

その言葉に美神、おキヌ、小竜姫があからさまに顔を歪める。
タマモはそれを冷ややかに見ていた。

「シロちゃんはフェンリルの魔力を受け継いだ犬神族の末裔なのね〜」

「それは分かっているわよ」

美神が刺々しく言う。

「行為を重ねる内に横島さんの魔族因子とシロちゃんの魔力が混ざり合って、不安定な横島さんが変わってしまったのね〜」

フェンリルは邪神ロキの息子、その魔力は絶大で世界を滅ぼしかけた魔獣だ。
その魔力と横島の魔族因子が共鳴したらしい。
らしい、と言ったのはこの件は前例がなく、あくまでヒャクメの霊視による憶測だ。

「そういう事だったんすね」

いつの間にか横島は復活し、ヒャクメの言葉に頷いていた。
人狼になった事で、さらに回復力が上がったかもしれない。

「ところで横島クン、何でシロに手を出したの。あの子はまだ年齢一桁の子供なのよ?」

震えた声で美神が言った。
浮気した旦那を問い詰める口調といってもいい。

「そんな事を言ったら、俺が好きになったルシオラはまだ一才にも満たなかったんすよ」

「そうでちゅよ。パピとは数分しか生まれた時間が違いまちぇん」

美神が言葉を詰まらす。
横島とパピリオが言った通り、ルシオラ、べスパ、パピリオは見た目は全然違うが生まれた時間差はほんの僅かだ。
ちなみにシロとタマモはアシュタロスの事は横島から聞いている。

「そうよ。私達、人外に年齢なんて関係ないわ。それにシロはあなた達が考えているほど子供じゃないわ」

「タマモ……」

横島は少なからず感動していた。
幼い(ように見える)シロとの関係がばれたら、美神に何を言われるか分からない。

「……はあ、分かったわ。それじゃあ事務所に戻るわよ」

「はいっす」

横島が勢いよく立ち上がり、さり気なくシロの手を取る。

やっぱり横島は美神、おキヌ、小竜姫の視線には気付かなかった。


つづくのかな?


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