ザ・グレート・展開予測ショー

奥様は狐 四日目


投稿者名:純米酒
投稿日時:(04/ 8/ 2)

旦那様の名前は 忠夫

奥様の名前は タマモ

ごく普通の二人が

ごく普通に恋をし

ごく普通の結婚をしました

――――――・・・が

ただ一つ違ったのは、奥様は

『狐』

だったのです

(・・・・・・・何よ・・・・・・)

―――――――――――――――

久しぶりに事務所総出での除霊があった。

最近は小物ばかりで稼ぎが渋いとボヤいていた令子も、高額の報酬に目が眩み、少々ハイになっていた。
おキヌもシロも横島と一緒に居られるとあって、何処か落ち着きが無かった。
そんな事もあって、浮き足立った三人は除霊の際に油断してしまったのだ。

だが、横島が身を挺して庇った為三人はほぼ無傷で済み、除霊の方も文珠のおかげで何とかなった。
しかし、除霊に文珠を使い切ってしまい、三人を庇った時に負った傷は癒す事は出来なかったのだ。

おかげで、横島は久しぶりに白井総合病院に世話になることになった。




「重度の全身打撲に右腕の複雑骨折に左足の肉離れ、頚椎の捻挫(むち打ち症)
 更には背中一面を覆う裂傷の数々・・・それに伴っての大量の失血もある。
 しかしだ・・・・・・横島君、君は何故そんなにも元気なのかね?
 常人ならば意識を失っててもおかしくはないんだが・・・」

院長が全身包帯姿でベッドに横たわる横島をみて、努めて冷静にたずねる。
美神達がこの病院を利用するようになってからは、大抵の事に驚かなくなった物の
横島の常識ハズレの不死身っぷりだけには、未だに釈然としないものがある。

「いやぁ、これでも生身で大気圏突入も経験してますからね〜。ちょっとやそっとじゃぁ死にませんよ」
自由になる左手で頭を掻いて、愛想笑いを浮かべる。

「笑い事じゃないわよ!!なんで忠夫ばっかりがこんな目にあうのよ!!」

「・・・タマモ。ナイフもってるんだから落ち着いてくれ・・・」

ベッドの側に腰掛けてリンゴを剥いていたタマモが、興奮してオーバーアクションで怒りを露にするが
手に持った果物ナイフも激しく動くので危ない事この上ない。

「あ・・・ゴメン・・・」

小さな声であやまりながら、鮮やかな手つきでリンゴの皮を剥いていく。
幾つかはご丁寧にもウサギを模したかたちになっていた。

二人のやり取りに院長はかるくため息をついて、百科事典はあろうかという厚さの横島のカルテを小脇に抱えて出て行く。
患者が見た目以上に元気で心配ないと思った事と、二人の邪魔してはいけないという年長者の心配りからだ。

「でもさぁ・・・毎回怪我したりするのは忠夫だけなのよね・・・
 同僚を大事にするのは構わないけど、自分の事も大事にしてよね。
 もう貴方だけのからだじゃないんだから・・・・・・」

果物ナイフを鞘に収め、切り分けられたリンゴに爪楊枝を刺す。

自身も楊枝をつまみ、綺麗に剥かれたリンゴを頬張る。
が、横島は一向にリンゴに手をつけない。

「・・・・どうしたの?」
上半身を起こしてベッドに腰掛ける横島に、タマモは首をかしげて尋ねる。

「いや・・・利き腕かこうだからさ・・・」
ギブスに固められた右腕を指差し、ニヤニヤと笑っている。

「・・・はぁ、わかったわよ」
横島の考えてる事が何か分かったタマモはため息混じりに答えるが、まんざらでもなさそうだ。
そしてリンゴを手に取り、身を乗り出し横島に差し出す。

「ハイ・・・あーーん♪」

「あーーーん・・・・・・うんやっぱりタマモに食べさせてもらうとおいしいなぁ」
だらしなく表情をくずし、リンゴを咀嚼する。

「こんな事で味が変わるわけないじゃない」
軽口を叩いてみるが、自分も似たような経験を持っているので強くは言えない。

「いいからいいから・・・あーーん」
二つ目のリンゴを催促する。

「もう・・・しょうがないわね。ほら・・・あーーん♪」
微笑みながら2個目のリンゴを差し出す。

横島の口にリンゴが運ばれようとしているまさにそのとき。

「先生ーーーーーーーお見舞いにきたでござるーーー!」
「横島さん体の方はもう大丈夫ですか?」

シロとおキヌが横島の病室に入ってきた。
足りない一人は、たぶん母親に捕まり今回の一件について絞られているのだろう。
僅かに開いたドアの向こうで、言い合う二人の声が聞こえてくる。







以前ならば、横島もタマモも突然の乱入者に対して何らかのリアクションを起こしていた。
しかし、今はお互いが相手のことしか見えていない。
なので、怪しく目を光らせネクロマンサーの笛を吹く巫女や、低い声で唸る人狼の少女は目に入らない。更には霊波を纏った笛の音も、怒りと嫉妬に満ちた唸り声も、ましてや部屋の外で口論する母と娘の声は、全くと言って良い程二人には届いていなかった。

だが、二人だけの世界に旅立っている者には届かなくても、第三者には確実に届いている。いや届いているというよりかは第三者にとっては騒音以外の何物でもない。

結果、病院関係者や患者とその見舞い客等にたっぷりと嫌味と怒りの混じった非難を浴びる事になってしまった。

・・・因みに美神親子、おキヌ、シロの全員が頭を下げている現在も二人はイチャついていた。
二人が来客に気が付いたのは、皮を剥いたリンゴ全てを食べ終えた後だった。








「全く・・・所構わずイチャついて・・・」
令子は呆れと八つ当たり気味の怒りが混じった声をあげる。
おキヌとシロも令子の意見にほぼ同意のような表情を浮かべている。

そんな三人に苦笑いを浮かべて誤魔化そうとする横島だが、タマモが棘を含んだ声色で言い返す。

「何よ!私がどう看病しようがアンタ達には関係無いじゃない
 もともと忠夫が怪我したの原因はアンタ達が油断したからじゃないの!!」

こう言われてしまっては何も言い返すことが出来ない。
しかし、意地っ張りな令子はついムキになってしまう。
理解できても納得できないのだ。

「丁稚が私を守るのは当然の事でしょう!!?
 それに怪我だって文珠つかえばすぐ治るって言うのに、
 肝心な時にストックが無いなんて普段ムダ使いしてるからでしょうが!!」

感情に任せて口にした反論はもはや言いがかりのレベルを通り越していた。

娘の余りの幼い思考に美智恵は頭を抱える。
多感な時期に一緒に居てやれなかった事を後悔しつつ、せめてこの子だけはという視線を腕に抱いた次女に向ける。

「・・・・・・開き直ったわね」

タマモの殺気を混ぜて睨む。別に自分自身に向けられているものではないが、うろたえてしまうおキヌとシロ。
令子は相変わらずつっぱって、タマモを睨み返している。

「何よ!後から出てきたくせに偉そうに・・・コイツはアタシのモノなのよ!」

「千年も昔の事を持ち出して正妻ヅラしないでよね、忠夫は私の良人(おっと)なのよ!」

「なっ・・・何でアンタがそんなこと知ってるのよ!!・・・まさかママ!?」
意外なカウンターに狼狽し、冷静な判断がつかなくなっている令子は非難の視線を母親に向ける。

しかし、ここで怯む様では令子の母親は務まらない。さらりと受け流す。
「あら、私はなーんにも言ってないわよ♪」
しかも笑顔で「ねーひのめ♪」などと言っている。

「話したのは俺ですよ、美神さん。タマモに隠し事なんてしたくないですからね」
以前なら、泣き言と共にこの場から逃げ出そうとしていたであろうが、今は己の全てを賭けて守りたい人がいる。
経験上、歯向かえばタダでは済まない事は十分承知しているが、逃げるという選択肢は頭に浮かばなかった。

「ヨーコーシーマー・・・・・・人の秘密をベラベラと・・・・・・死ね」

前世の自分が、横島の前世にベタボレだったという「自身の記憶からも抹消していた死ぬほど恥ずかしい秘密」を他人が
バラしたとあっては心中穏やかで居られない。

恥ずかしい秘密を知っている存在から、その秘密の漏洩を防ぐにはいろいろな手段がある。
仲良くなるか、秘密を知る者の存在を抹消してしまうか、はたまた強制的に記憶を消すか・・・

【忘】の文珠の使用も考えたが、いま令子のポケットにある文珠は横島になんの断りも無くヘソクリしていた物だ。
今その文珠を使えば、おキヌやシロはともかく、母親に先の除霊の一件で「もったいない」という理由だけで使うことを躊躇ったのではないかと勘繰られる恐れがあったのだ。また、文珠で怪我を治せと自分で言った手前、いまこのタイミングで文珠を使うことが出来ないのだ。

よって、令子は横島の抹殺を計ろうとしたのだ。

もちろんそんな暴挙はタマモはもちろん、美智恵やおキヌ、シロが許さないし、横島もタマモを残して死ぬ気は更々ない。
しかし、悲しいかな。この場で令子を止められる可能性があるのは美智恵しかいない。
その美智恵も赤ん坊を抱いたまま、修羅と化した令子を止められない。

素早く状況判断を終えたタマモは横島を抱き上げて病室唯一の窓に駆け寄る。

「止められないなら、逃げるまで!脱出!!」
窓を開け放ち、飛び出そうとする。

「ちっ・・・あさましいことを!」
神通棍を鞭状にして逃げるタマモの足に絡ませる。

盛大にコケるタマモと横島を目の前にして勝ち誇る令子だが、何故か周りの視線は冷ややかなものだった。
すると、神通鞭に捕らわれていたタマモが、見る見るうちに点滴を吊るす棒に変わっていく。

「なっ・・・幻術?」

タマモに化かされた事に気が付き、急いでベッドを振り返るとそこはすでにもぬけの殻だった。
そして病室の入り口に立ちふさがり、竜の牙から作られた武器を構える美智恵と、霊波刀を構えるシロ。
そしてひのめを抱いて椅子に座るおキヌが複雑な表情で令子を見つめていた。

「・・・・・・なるほど、タマモの幻術で時間稼ぎしてる間に、横島君とタマモは逃げた。
 そして、ひのめをおキヌちゃんに預けて身軽になったママとシロで私を止めようって寸法ね・・・」

こめかみに青筋を浮かべながら、令子は今現在逃亡中であろう二人の作戦を理解し、歯噛みしていた。

「令子!いくらなんでもやり過ぎよ」

「先生は拙者が守るでござる」

「美神さん・・・ひのめちゃんも居るんですから穏便にできませんか?」

三人からかけられた言葉は令子の耳には届いては居る。
が、これ位で止まる訳が無い事を三人は十分知っていた。

「何よ!私だけが悪者なの?
 シロ・・・あんたこのまま横島君とタマモがくっついちゃってもいいの?」

「拙者は先生と一緒に居られればそれで良いとおもってるでござるよ」

苦し紛れに考えたシロを味方につけるための言葉は全く効果を発揮しなかった。
しかし、その後シロの口から続いた言葉は意外な人物を令子の味方にした。

「その事を先生とタマモに話したら、タマモは『2号でいいなら別にかまわない』と言ってくれたでござる!」

「!!・・・・ひのめちゃん、ちょっとひとりでおねんねしててね♪」

抱いていたひのめを主のいないベッドに寝かしつけると、おキヌはネクロマンサーの笛を手に取り令子の隣に立つ。

令子は内心ほくそえんだ。一人で美智恵とシロの相手はキツイものがあるが、二対ニならば望みはある!と。

突然の展開に驚きを隠せない美智恵とシロ。

「(美智恵殿・・・拙者なにか不味い事をいったのでござろうか?)」

「(・・・・・・・この場合は横島君とタマモちゃんね・・・・)」


小声で話す二人に向っておキヌは宣言する。

「横島さんの2号の座は私のものですっ!!!今回も3号扱いされてたまるもんですかっ!!」

盛大にズッコケる三人。

「こればかりはシロちゃんといえど譲れません!!」
目に怪しい光を湛え、シロを睨みつける。

「それは拙者も同じ事!!おキヌ殿・・・ヤルというのなら手加減しないでござるよ・・・」
素早く立ち上がったシロが再度霊波刀を構える。


「・・・ママ、どうする?」
先ほどまで怒り狂っていた令子だが、二人のやり取りにすっかり素に戻っていた。

「・・・・・・・これは本人たちに解決させた方がよさそうね」
美智恵はすかさずオカルトGメンに連絡を取り、横島とタマモの捜索、追跡を命令する。



一方その頃、自分達のおかげで問題がややこしくなってるとは思っていない二人の逃亡者は、呑気に公園をぶらついていた。

「ねぇ、どこか他に行ってみたい所ある?」

「んーそうだなぁ・・・タマモと一緒ならどこでもいいよ」

「そんなこと言わないで、ちゃんと決めて」

怪我をしている横島を車椅子に乗せ、ナース服姿のタマモが車椅子を押していた。
その姿は、入院患者と看護婦(今は看護士が正解)そのものだ。

二人はこれからわが身に降りかかる災難を知らずに、イチャイチャしていた。

公園のそこかしこから羨望と嫉妬の混じった視線を投げかけられながら・・・



〜つづく〜

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