ザ・グレート・展開予測ショー

貧困家族の憂鬱


投稿者名:cymbal
投稿日時:(04/ 8/ 2)



誰かが言ってました。お金が無くても愛があれば良いって。


でも・・・現実はそうはいかないもので・・・。





からん・・・。





「・・・これが最後のおコメですね。」
「・・・ふう。何故、幸せはこんなに早く無くなってしまうのだろう。」


ここは、狭いアパートの一室。
二人の夫婦が向かいあって座っている。
更に脇には布団が敷いてあり、そこには女の母が病(?)に臥せっていた。


「仕事も上手くいかないしなあ・・・。独立すればお金も何とかなると思ったけど・・・世の中甘く無かった。」
「やっぱり私が働くべきでしょうか・・・。ほら、ここに高給のバイト情報誌もありますし!」


そう言って、小鳩は持ち出したのは・・・明らかに風俗情報誌であった。
忠夫の額に嫌な汗が流れる。


「い、いやいやいや!!そんな事したらあかんて!!俺がもっと頑張るからそれは絶対駄目!!」
「そ、そうですか。でも暮らしは厳しいし、私も何かしないと・・・。」


ごほっごほっ!!


「・・・悪いねえ。私がいるばっかりにあなた達にも苦労をかけて・・・。やっぱり早くいなくなった方が・・・。」


横の布団から母親が顔を出す。顔が青醒めており(年中だが)、体調の悪さが伺える。
でも食事中は元気なのだが・・・。(不思議だ。)


「な、何を言ってるのお母さん!そんな事無いって!」
「そ、そうです。俺が何とかしますから。」


重たい雰囲気。まるで昔の貧困ドラマでも見ているかのようである。
著(いちじる)しく昭和の香りが漂う室内。


・・・まあ本当の事を言えば、そんなに食うに困る程、忠夫が稼いでいない訳でも無い。
充分生活出来るくらいの収入は得ている。当然のように・・・他に原因があるのであった。





がちゃっ!





「帰ったでー!!今度こそ大丈夫や!!このペンダントさえあれば間違い無い!!」


勢い良くドアが開く。貧困の原因の張本人のお帰りである。





「・・・・・・・・・ふう。」
「・・・・・・・・・はあ。」
「・・・・・・・・・。」





またか・・・、そんな目で室内の三人はため息をつく。


いわゆる貧乏神。(福の神になった筈ですが。)
通称「貧ちゃん」である。彼(?)の手には安っぽいペンダントが握られていた。


「んっ?どないしたん!?暗いであんたら!!小鳩も!いつでもスマイルやないとあかんやないか!!」
「・・・それ、いくらしたの貧ちゃん。」


諦めたような声で小鳩が尋ねる。忠夫も憮然とした表情でその手のひらを眺めていた。


「なーに、これが何倍にもなって返ってくるなら安いもんやって!!たったの30万や!」
「!!?・・・30万!!?」
「今回は絶対大丈夫やから!!これがあれば病気は治る!お金は儲かる!女にもてるの良い事ずくめや!」


自信満々に言い切る貧乏神。そして余計な一言を付け足す。


「あっ、でも兄ちゃんもてても小鳩を悲しませたらあかんで!それだけが心配でなー、踏ん切りが中々つか・・・」


ぐいっ!


「・・・こ、このボケがーーー!!!何回言やー気がすむんじゃーーー!!!」
「い、いきなり何すんねん!!わしはおまえら二人の為を思って・・・」


忠夫は貧乏神の胸倉を掴んで引き寄せると一気に感情を爆発させた。
仕方無いといえば仕方が無い。理由が理由だからである。


・・・貧乏神は悪気は無いのだろうが、それが非常にタチが悪い。
こんな事は今までも何度もあった。その度に彼らの生活は苦しくなって行く訳である。


実際、部屋の隅には色んな物が転がっている。
幸運を呼ぶアクセサリー。同じく指輪。お金が貯まる貯金箱。黄色い財布。その他多数。
中には関係の無い、背が伸びる食品なんかも置いてあったりするのだが。


「・・・・・・・・・。」
「忠夫さん・・・。」
「な、なんや?やるんか!?訳わからんで!?」


じっと貧乏神の顔を見つめたまま、動かない忠夫。
何かを考えているように、感情を爆発させた事を後悔しているようにも見える。





「・・・しゃあないか。いつもの事だしな。悪いな貧。あやまるわ。」





ストンっ。


貧乏神は真下に落とされてしりもちをついた。
それを小鳩が優しく抱える。貧乏神の頭には「?」がたくさん浮かんでいた。


「・・・飯でも探しに行こか小鳩。貧も行くぞ。」
「あ・・・わし、また何か悪い事してもうたんか?そーなんか小鳩!?」
「う、ううん。そんな事無いよ。貧ちゃんは悪くないもの。ほらスマイルスマイル!笑ってなきゃ駄目でしょ!」


なんのかんの言っても彼らは運命共同体。
別にもういる意味も大して無い貧乏神だが、家族の一員である事には違いない。
ちょっといたずらの過ぎる子供のようなものである。(と、素直に思えれば楽なのだが。)





すたすたすたすたすた。





表に出るといつもの川辺に向かう。食える植物を探しに行くのだ。
ほとんど自給自足(?)である。(ちょっと違うけど。)


忠夫と小鳩は並んで歩き、仲良く手を繋いでいる。
こーして見ると幸せな夫婦には違いない。小鳩も嬉しそうに笑っている。
まさしく、「ひまわりさん」に負けない笑顔と言う奴だ。


・・・貧乏神は少し、気落ちした様に離れて歩いていた。
自分は小鳩を幸せにしてやりたいと思っているが、いつも裏目に出てしまう。
何故だろう。自分はもう貧乏神では無い。福を授ける立場な筈なのに・・・。


「やっぱり、わしがおらん方がええんかも知れんなあ・・・。」


前方を歩く夫婦を見つめながらそー呟く。小鳩は一つの幸せを掴んだ。後は金銭面の問題だけである。
福を授ける力が無い今、もう自分の存在意義は無いのかも知れない。


「・・・どーした貧?・・・さっきの事は悪かったって。ちょっとイライラしてただけだから。なっ。」


(・・・この兄ちゃんも悪い奴や無い。見かけ以上に頼れる奴や。小鳩をいつまでも守っていってくれる。)


「貧ちゃん?・・・やっぱり落ちこんでるの?」
「な、何をぬかすか小鳩!わしはいつでも福で一杯の貧乏神やで!!目一杯笑顔やないか!!」
「お前・・・言ってる事矛盾してるぞ。」


思わず笑ってしまう忠夫。小鳩もつられて笑う。
・・・それを見て、貧乏神は心に痛みを覚える。





(なんやろ・・・、この感情は。つらいで。)





そして・・・その日、その後は何事も無く過ぎていった。


一つの・・・大きな穴が空いた事には誰も気付く事は無く。










「忠夫さん!!忠夫さん!!起きて!!」
「んっ?な・・・何だ?小鳩?」


・・・翌日の早朝。小鳩の声がアパート内に響き渡る。
顔は母親並に蒼白で、鬼気迫るといった感じだ。


「び、貧ちゃんが・・・貧ちゃんがいないんです!!!」
「・・・・・・どっかに出かけたとかじゃ無くて?」
「こ、こんな手紙が私の枕元に・・・。」


忠夫がそれを受け取り目を通す。
ぼんやりとした頭でそれを読み終えると・・・考えるより早く、足が駆け出していた。


バタンっ!!!


「あの馬鹿!!変な事考えやがって!!!」
「忠夫さん!!!」


瞬時に飛び出して行った忠夫。その後を追う小鳩。手紙が室内の床にふわりと落ちた。





「さよならやで。小鳩。それに兄ちゃん。わしがおらんでも幸せになるんやで。」





手紙の端が滲んでいた。ふるえる文字で。たった一行。





・・・街中を走り回る二人。端から端まで。隅から隅まで。


「俺が昨日、あんな事しちまったから・・・。くそっ!」
「貧ちゃん!!貧ちゃん!!!!どこにいるの!!?」


二人の声が悲しくこだまする。答えは返ってこない。
それでも・・・大声を出して名前を呼ぶ。


「貧ちゃーーーーーん!!!」
「馬鹿野郎!!!何処行きやがった!!!!まだお前は仕事を果たしてねーだろ!!!」


「うるせーぞ!!!朝っぱらから大声出すんじゃねーーー!!!迷惑だ!!」


近くのマンションから苦情が響く。だが、それを反論するかのように忠夫が叫んだ。





「こっちゃー家族を探してんだ!!てめーの事情なんぞ知るか!!!」
「・・・・・・・・・・・・忠夫さん。」





小鳩の胸に「家族」と言う言葉が刻まれる。
そうだ、貧ちゃんは家族なのに。いつまでも一緒にいる。離れる事なんてありえない!










・・・忠夫と小鳩が懸命に街を駆けずり回っているその時。
いつも来る川辺に・・・彼(?)はいた。


「・・・・・・やっぱり、寂しいで。胸にぽっかりと何か・・・なあ。」


地面にぽたりと落ちる涙。昨日、散々流した筈なのに。
あの手紙を書く時も。・・・たった一行だけなのに。
本当はもっとたくさん書く筈だった。でも・・・あれ以上は何も思い浮かばなかった。


初めて小鳩に会ったその日から・・・随分と長い間あの場所にいた。
最初に見た時はカワイイお嬢ちゃんやったっけ。
いつの間にか、わしよりデカくなってまいよった。・・・まあ本当はあっという間やったんやけど。


・・・あの娘にとって、わしは邪魔者以外の何ものでも無い筈やった。
自分には何も関係の無い事で、勝手にそこに居た居候。そして貧困を・・・与える邪魔者。


外見では笑ってた。わしの冗談にも付き合ってくれた。
あれは・・・本気だったのか・・・それとも・・・あかんな。疑うのは良くないやな。
すまん小鳩。


・・・時間は過ぎ、あの兄ちゃんで出会い。そして全てが解決した。
小鳩は「わし」から開放された。今思えば、あの時にこの決心をするべきだったのかも知れん。


結局・・・わしは何を与える事が出来たんやろか。ただ、そこに居ただけ。
役に立たない。あの娘を不幸にする・・・名前だけの「神様」。





ぽちゃん。





川に石を投げ込む。波紋が川に広がって、そして消えた。


「わしもこんな風に・・・・・・・・・役目は終わった・・・な。」





少しずつ・・・身体が薄くなっていく。まるで最初からそこに存在していなかったかのように・・・。
でも・・・。





「待たんかい!!!勝手にいなくなってもらっちゃ困る!!!」
「貧ちゃん!!やっと・・・見つけた・・・。」


貧乏神の後ろから声がかかる。息を切らし、精一杯の大声で。
それと共に彼(?)は現実に呼び戻される。身体が元に戻って行く。





「お、お前等・・・。あ、あかん、近寄よったらあかんで!決心が鈍ってまう!」


そう言いつつも目からは再び涙が流れる。・・・わしを探しに来てくれた。
わしはお前等にまだ必要にされ・・・。駄目や。甘えたらいかん!わしはいなくなるべきなんや!


「何で・・・何で出ていくの!?私達と貧ちゃんは家族でしょう!!」


家族・・・まだそう言ってくれるんか。嬉しいで小鳩。でもあかんのや。
そんな事言ったら・・・わしは・・・わしは。


「貧・・・お前は腐っても神様だろーが!!小鳩を幸せにするまで出て行ってもらっちゃ困るんだよ!!」
「・・・兄ちゃんがおるやろ。あんたならこの後もこの娘を幸せにしてやれる。わしはもう必要ないんや・・・。」
「・・・アホかお前は、今まで何を見てきたんだ!俺よりずっと長く小鳩といるくせに・・・。」


「貧ちゃん・・・私はね・・・必要だとか必要じゃないとかそんな風に見た事は一度も無いよ。」
「こ・・・小鳩。」


「側で見守ってくれてるだけで、一緒に生活するだけで、それだけで・・・別に何もいらないの。」
「・・・まあ本当は裕福にしてくれれば一番問題無いけどな。そりゃ俺が何とかするし。」


一言多いで兄ちゃん・・・。でも・・・でも・・・わしは・・・わしは・・・!





「わしは・・・おってもええんか?本当に・・・また迷惑かけるだけかも知れへんで!?」


そっと・・・、小鳩が近寄り貧乏神を抱きしめる。
それは心からの行動。偽りのかけらも無い。





「・・・いいの。お願いだから・・・帰って来てくれる?それが私が唯一の欲しい「もの」だから。」


「こ・・・こ・・・小鳩ーーーーー!!!!わしは、わしは!!本当は・・・・・・!!!!」





誰かが言ってました。お金が無くても愛があれば良いって。


でも・・・まだそれじゃ一つ足りない。それは愛とは違う形。でも大事なもの。





「何だか凄い・・・嫉妬感。ちくしょーな気分だな。まあ・・・今日だけは・・・いいか。」







後日・・・。







からん・・・。


「やっぱり何処を探しても無いものは無いです。」
「仕方無い。調達してくるか・・・。出かけよ小鳩。」


狭いアパートの一室。相変わらずの音。いつもの会話。


がちゃっ!!


勢い良くドアが開く。そこに目一杯の笑顔を湛えて、誰か(?)が飛びこんで来る。


「小鳩!!今度こそ大丈夫や!!!このリングがあれば一気に解決やで!!!」


「・・・・・・やっぱ出てけ。」
「貧ちゃん・・・・・・。笑えないよ。」


おしまい。

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