ザ・グレート・展開予測ショー

逢魔の休日 -No Man Holiday- <Scene 2>


投稿者名:赤蛇
投稿日時:(04/ 8/ 2)

対をなして建つトリニタ・ディ・モンティ教会の鐘楼が見下ろすスペイン階段は、いつ来ても大勢の人で賑わっている。
地元の人たちはもちろん、世界各地から永遠の都・ローマを訪れる観光客が、一度は必ず立ち寄るといっても過言ではないだろう。
だが、魔界からの客となると、そうそうあることではない。

「ポチ!? なんだってこんなところに!?」

そう呼ばれるのも久しぶりだな、と感慨に浸りつつ、横島は驚いて立ち上がるベスパの姿をしげしげと眺める。
なるほど、触角を隠し、顔の文様を取ればどこから見ても魔族には見えないが、それでもベスパ本人であることに間違いはない。
仕立てのよい、落ち着いた色のスーツに包まれた身はすらりとして形良く、あいも変わらぬプロポーションのよさを誇っていた。
だが、幾分か身体の線が細くなったように感じられるのが気になった。

「なに、ちょっとした仕事でヴァチカンにな。もう終わっちまったけどさ」

ヴァチカン、と聞いてベスパが僅かに身を堅くするのが見えたが、あえて気づかぬ振りをした。
昨夜のあまり面白くもない顛末を思い起こし、もう俺には関係のない話さ、とばかりに肩をすくめてみせる。

「それより、ベスパこそこんなとこで何やってるんだ」

ある程度覚悟していたとはいえ、あまり聞かれたくない質問にベスパは一瞬声を詰まらせる。
一瞬の躊躇を覆い隠すように睨んで言った。

「あんたに答える必要があるのかい?」

「別に」

横島はベスパの表情を気にするそぶりも見せず、ただじっと見つめている。
ゆるやかな石段の上を互いの視線が交錯するが、やがてベスパがふと逸らしてささやくように答える。

「―――――観光さ」

「ふうん」

横島は何気もないように相槌を漏らすが、ベスパにはその真意が図りかねた。何か知っているようでもあり、何も知らないようにも聞こえた。
ふと、言葉を返すタイミングを見失い、短くも気まずい沈黙がベスパの上に圧し掛かる。
逃れるように踵を返し、足を一段踏み下ろす。

「もう帰らないと」

「まだいいじゃないか」

密かに心のどこかで期待していたベスパは、その呼びかけにぴたりと足を止める。

「別にホテルのチェックインがあるというわけじゃないんだろ? 俺に付き合えよ」

「それは、あたしを誘っているのかい?」

「とんでもない。自慢じゃないが、俺のナンパは成功したためしがないぞ」

「相変わらずバカだね」

「悪かったな」

他愛のないやりとりをしているうちに、自然と笑みがこぼれていることにベスパは気がついた。
魔界に戻ってから、いや、目の前の男と別れてからというもの、こんなふうに自分が笑ったことがあっただろうか。
まったく、男ってヤツは―――――

ベスパはふっと息を吐き、肩の力を抜いた。

「なら、あたしに付き合ってもらうよ。時間はあるんだろ?」

「ああ、今日は一日中休みさ。で、どこへ行く?」

「まずはカフェへ。話はそれからさ」

そう言って二人は、白い階段を肩を並べて降りていった。

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