〜 『家庭訪問協奏曲』 あと 〜
投稿者名:かぜあめ
投稿日時:(04/ 7/30)
〜『そのさん』〜
「はぁ・・。何で普通に演技ができないの?」
台所でお湯を沸かしながら、タマモが横島へと目を向ける。
西条がアパートを出て行ってから、すでに1時間近く。ここまで遅いと、もう意図的に時間を稼いでいることは明白だった。
「・・んなこと言って・・お前の方こそ大丈夫なのか?ついうっかりボロを出したりしないだろうな?」
全身の火傷をさすりながら、横島が半眼で口にする。
わずかに湯だったティーポッド。
適温を知らせているのだろう。小さめの容器からは、コトコトと軽快な音が漏れ出ている。
「私のことは心配しなくていい。むしろ困るのはこの後ね。」
急に思案顔になると、タマモがわずかに首を傾け・・
「ん?なんで?」
「前世の癖なのかどうかは知らないけど・・私、一度本気で演技し出すとなかなか役が抜けないの。
まぁ、呼び方を変えただけだから別にどうってことはないと思うけど・・。それでも美神さんたちの前で『お兄ちゃん』は不味いでしょ?」
苦笑しながら、タマモが一つ、肩をすくめて・・・
彼女は自分の身に起こるその現象を、一種の自己暗示と認識しているそうだ。
意識的に言葉を矯正できない時。
とりわけ、反射的に声を発するような状況では・・
ついつい、数日前演じていたはずの役が台詞の前面へ出てしまうらしく・・・
「それはそれで難儀だな・・。お前の前世・・やっぱり相当な苦労人かもよ?」
「・・ふふっ。まぁ昔のことなんて全然覚えてないけどね・・」
畳に寝転ぶ横島を見つめ・・タマモがなんとなく可笑しそうに頬を緩めて・・・・
・・・・。
「ねぇ・・横島は一人で暮らし始めて、大体どれぐらいになるの?」
背中をこちらに向けたまま、独り言のようにそう口にする。
「ん?そうだな・・親とはちょくちょく顔合わせてるけど・・。なんだかんだで、もう2年になるかな。」
実の息子をほったらかして・・2人とも一体何をやってるやら・・
言いながら軽く苦笑する横島。
すると急に・・ポッドを動かしていたはずのタマモの腕がピタリと止まって・・
「?どした?」
「・・寂しく・・・ない?」
わずかにこちらをうかがいながら、彼女は小さく口をつぐんだ。
「・・?」
気遣いの言葉が意外だったのだろう。横島は呆けた顔で、思わずタマモの瞳を見返して・・
「・・・・。」
そして・・
わずかばかり押し黙った後、少し嬉しそうに目を細める。
「・・別に・・?それこそ、そんな気持ちがあったのかどうか・・もう忘れちまったよ。」
「つい最近のことなのに?」
目を丸くするタマモに対して、やはり横島は小さく笑い・・・・
「良くも悪くも色々あったからなぁ〜・・。ま、今の暮らしが気に入ってるってのが一番の理由かな?」
「・・・・。」
「悪くないだろ?
毎日、美神さんにしばき倒されるたり、おキヌちゃんに叱られたり、シロに散歩で引きずり回されたりするってのは・・」
西条に殺されかけたり、お前に全身燃やされたりするのもな・・。
からかうように、それだけ言って・・・・
何故か横島はタマモの顔を見つめてくる。
タマモの方も、どうしてか、何かを口に出すことががはばかられて・・・
「・・・・。」 「・・・・・・。」
部屋が・・静かだった。
聞こえてくるのはコトコトとなるポッドの音だけ。
少しだけ居心地が悪いような・・・2人でいることがひどく落ち着かないような・・・
・・そんな気がするほど・・本当に静かで・・・
「あ・・そ、その・・茶葉が足りないみたい・・。どこにあるか分かる?」
「へ?あ・・あぁ・・。たしかそれだったら、あそこの戸棚に・・・」
ギクシャクと・・そんな会話をする2人。
動かす手足の左右が同一だったりして・・傍から見るとかなり微妙だったが・・・
横島は、少し高めの位置にある、物置棚を指差して・・
「・・っと・・。ちょっと無理みたい・・。届かないかも・・。」
見れば、背伸びをしているようだが・・・彼女の丈では、どうにも戸棚へ触れられそうにない。
やれやれ、とばかりにため息をつき、横島がタマモのそばへ近づいていく。
「仕方ねえな・・。ほら少しどいて・・・・」
『ろ』
そう言おうとして・・・・
しかし、そこでタマモがよろめいた。
トン、という音ともに、2人の肩が軽くぶつかり・・・
・・普段なら何ということはない、弱々しい衝撃。
しかし今は・・・・・
「あ・・な・・バ、バランスが・・・」
「って・・おい!何でオレの服を掴んで・・・・・わわっ!?」
・・結局、2人は仲良く床に向かって転倒することとなる。頭を打ちかけたタマモを、横島がかばったのが・・さらに良くない。
震動の後、目を開けたタマモを待っていたのは・・・完璧に自分を押し倒す体勢の、横島の姿で・・
「よ・・横・・・島?」
「ちょ・・ちょっと待て!誤解だ誤解!!!すぐにどくって・・・」
・・しかし、横島は気づいてしまう(どこかで見かけたことがあるような展開に(笑))
彼の両掌・・。それがしっかりと・・・揉みしだくように(爆)握っていたのは・・
意味もなくふにゃふにゃした感触の、とある『モノ』だったりして・・・
――――――・・。
「まさかタバコを買った帰り際に先生と会うなんて思いませんでしたよ。暑い中ご苦労さまです。」
「私も横島に兄妹がいるとは初耳でした。Gメン勤務の兄がいるとは・・アイツも血が争えないということですなぁ・・」
階段。ニコニコと笑う横島の担任。
対して西条は・・・首筋に脂汗を浮かべていた。
世間話のつもりかどうかは知らないが・・こちらは正直、気が気ではない。
(まぁ・・実際のところ、横島くんには色々借りがあるからな・・。ここらで一つ返しておいてもバチは当たらないだろう・・)
・・などということは、本人の前では口が裂けても言えないが・・・
西条は、苦笑しながらドアのノブへと手をかけた。
「2人とも。今帰ったよ。さっきそこで先生と・・・・」
・・・。
「あ・・・だ・・・だめ!どこ触って・・・は・・はなして、お兄ちゃん!(← 反射)」
「だ・・だから誤解だって言って・・。ええい!ジタバタすんな!大人しく・・・」
・・・。
「・・・・。」 「・・・・。」
「「・・あ゛。」」
瞬間、4人の間で刻が止まった。
顔を真っ青にする西条。真っ白になって全ての運動を停止する横島とタマモ・・。
担任だけが急にワナワナと震えだし・・・
「お・・お前たち・・。兄妹どうしで一体何を・・・」
「ち・・違う!!誤解だ!!こいつは・・って、一体どうしろつーんだよこの状況はっ!!?」
「ぼ・・僕はもう知らないぞ?この件には一切関知しない!」
「・・何でもいいから・・早く胸から手をどけて・・」
言うまでもなく、さらに事態は混迷を極めていく・・――――――――
◇
〜『えぴろ〜ぐ』〜
「そ・・それでその後、どうしたんですか?」
冷や汗をかきながら、おそるおそるとおキヌが尋ねる。
午後の事務所。
横島とタマモがソファーの上に、まるで魂が抜け出たかのように倒れている。
本気で思い出したくないのか・・。横島がブルブル首を横に振り・・・
「・・いや、何とか誤解は解けたし・・一人暮らしの方もなんとかごまかせたんだけどね・・。
そこに至るまでの過程が筆舌に尽くしがたいというか、なんというか・・・」
家庭訪問なんて、もうこりごりだ・・。
この時、横島は・・・心の底からそう思って・・・
「自業自得ってことね・・『お兄ちゃん』?」
不意にタマモが小馬鹿にした口調でそう言ってくる。
彼女もかなり消耗しているはずなのだが・・・
横島よりは回復が早いのか、わざわざ呼び方まで変えて、笑いながら横島を振り向いた・・
・・のだが・・・
「ば・・バカ・・・」
途端、横島の顔に再び戦慄が走る。
「?どうした・・・・・の?」
嫌な予感がして、タマモが聞き返そうとすると・・・・背後から、殺気にも似た異様な気配が漂ってきて・・
「「「・・お兄ちゃん・・?」」」
3つの声が同時にハモった。
「は?・・え・・ええっ!?ま・・まさか横島・・3人に演技のことは・・」
「話すわけねえだろっ!!!んなことが発覚したら、美神さんがって・・・・どあああああああっ!?」
「え?あわわ・・み・・美神さん?落ち着きましょう?横島さんたちの話をちゃんと聞きま・・・・」
「言い残すことはある?2人とも・・」
「な・・ちょ・・ちょっと・・。暴力に訴えるのは良くな・・・・・・きゃあああああ!?」
「み・・美神殿が乱心したでござる・・。」
数秒後、逃げるように(というか逃げているのだが)事務所を飛び出す2つの影と・・それを追いかける(内、2人なだめ役)3つの影。
炎天下の中、よく倒れないものだと感心するが・・・・
・・・そんなこんなで、横島曰く『悪くない』日々は・・今日も今日とて全開で幕を開けたのだった・・(完)
〜おまけ〜
一方、場所は変わって・・・・
「さ・・西条くん?どうしたの?急に有休を取りたいなんて・・。それにその疲れ果てた顔は・・」
「先生・・しばらく、そっとしておいて下さい・・。僕はもう・・精も根も尽き果てました・・」
なんてことを言いつつ、机に突っ伏す西条。
窓から見える5つの影を見つめながら・・・歳には勝てないなぁ、なんてことを思う・・・
西条輝彦、二十ピ――――歳の今日この頃でした。
〜あとがき〜
やっちまったぜ!!かぜあめ!!!これでみんなに、石を投げられまくりだっ!!!(爆
・・と、いうわけでこんにちは〜。ここまで読んでくださった皆さん、どうもありがとうございます〜
多分、全世界で初です(もしもオレより先に書いた方がいらっしゃるなら、すいません(泣))
タマモに横島を「お兄ちゃん」と呼ばせたのは!!!!(轟爆
いやはや・・ずいぶん前にお蔵入りした作品を久しぶりにリメイクしたのですが・・
・・どうなんでしょうか?(汗)タグを使えばもうちょっと面白くなると思うのですが・・うう・・。
かぜあめの作品は全般的に横島と西条の仲がいいです。
ライバルであり、コンビにすると一番面白そうな二人なので・・・
これで今年に入ってから49投稿目の横タマ作品ですね〜次回の連載ではちょうど50回目!!
書きすぎだ・・>オレ(笑
ではでは次回、連載でお会いしましょう。スズノが大ピンチです。それでは〜
今までの
コメント:
- なんか本当に追ったら仲のいい兄弟になりそう
タマモに『お兄ちゃん』かぁ〜・・・・・・・
うらやましくなんか・・・うらやましくなんか・・・あるなぁ
最近は横タマ+西条が増えてるからいいっすねぇ (wata)
- タマモンが横島君に「お兄ちゃん」・・・・・・・・
なんだかとっても良いです。 (純米酒)
- 面白かった!タマモ萌え〜(え?
BLind faith coLLar(だったか?)のGSパラレル(SS)で、タマモがお兄ちゃんって言ってるんですけどね(ぼそ) (モノリス)
- >「あ・・・だ・・・だめ!どこ触って・・・は・・はなして、お兄ちゃん!(← 反射)」
>「だ・・だから誤解だって言って・・。ええい!ジタバタすんな!大人しく・・・」
萌え━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!
タマモにお兄ちゃんと呼ばせてるSSはありますよ〜 (紅蓮)
- >おキヌちゃんに叱られたり 叱ってましたっけ?
>意味もなくふにゃふにゃした感触 『腹』かと最初思いました。(こうやって、敵をふやすんだな〜、俺)
>西条輝彦、二十ピ――――歳 28でしたっけ?原作?
でも、やったぜ!!かぜあめ様!!シリーズ化して下さい。 (ん・ばぎ)
- 最悪のタイミングで第三者に目撃されるのはお約束ですものね^^
タマモンと横島君はかなり相性いいと思っています。
私もタマモンみたいな妹欲しい!!(><) (綾香)
- ……私には妹属性はないはずなんだけどなあ……(<撃沈されている) (HAL)
- 『これで今年に入ってから49投稿目の横タマ作品』って、今年に入って、もうそんなに書いてたんですか!!!!なんか『かぜあめ作品』の上半期終了って感じですね★なんか今、考えると、かぜあめさんの作品ってホントにリアルタイムって感じですね!!!しかし今回はタマモに『お兄ちゃん』って言わすとわ!!!うん!!うん!!なかなか良い感じですね★こういうのもナカナカ良いですね♪!!つーか今年の下半期も頑張ってくださいね!!かぜあめさん!ホント楽しみにしてますから!! (GTY)
- はじめまして、あわしと申します。前編、後編ともに読ませて頂きました。
いや、実に面白かったです! 展開はもちろん、タマモのセリフの端々でぼーっとしてしまう自分がいて。
・・・妹属性とかそういうオプションは装備されていなかったはずなんですがね、自分。みごとにこの作品のタマモにど真ん中を直撃されましたw
これからも楽しい作品を期待しています。それでは、頑張ってください! (あわし)
- >「あ・・・だ・・・だめ!どこ触って・・・は・・はなして、お兄ちゃん!(← 反射)」
>「だ・・だから誤解だって言って・・。ええい!ジタバタすんな!大人しく・・・」
何かが音を立てて壊れた瞬間ですね(笑) (透夜)
- すいません。
賛成です。↑
票を入れてませんでした (透夜)
- ……重ね重ね申し訳ないです。
賛成に一票です。 (透夜)
- いや〜、いい展開ですねぇ。
でも、こんな苦労しなくてもタマモの幻術で化かせばそれで済むんじゃ…
…ってもしかして禁句!? (九十九目)
- タマモに萌えたけど西条がかなり受けました。
ラストのところとか。大賛成です! (ヘイゼル)
- ちょっとだけ萌えたっ!グッジョブ!!(゚ー^)b☆ (NAVA)
- お久しぶりです。
いや、良い話ですな〜。
文句なしで賛成です。 (青い猫又)
- 私の所のタマモはおキヌちゃんを「お姉ちゃん」と呼んだことがあります。本人の前ではありませんが。
しかし、ノリのいい話でした。
西条も違和感なく溶け込んでて、やっぱりこのカテゴリーのキャラなんですね。 (林原 悠)
- 先生の目の前で「偶然」押し倒しポーズと胸を掴んでる両手・・・
お約束な結果でもありますが、アクシデントの最中でもなり切って「はなして、お兄ちゃん」と叫んでいるタマモが事態を更に取り返し付かない感じにしています(笑)
横島と西条の「まともな話し合いが出来ない兄弟」もアレな感じでよかったです。 (フル・サークル)
- >「あ・・・だ・・・だめ!どこ触って・・・は・・はなして、お兄ちゃん!(← 反射)」
>「だ・・だから誤解だって言って・・。ええい!ジタバタすんな!大人しく・・・」
本当に最悪のタイミングで目撃されるんですね 横島君w (明鴉)
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