ザ・グレート・展開予測ショー

奥様は狐 三日目


投稿者名:純米酒
投稿日時:(04/ 7/28)

旦那様の名前は 忠夫

奥様の名前は タマモ

ごく普通の二人が

ごく普通に恋をし

ごく普通の結婚をしました

――――――・・・が

ただ一つ違ったのは、奥様は

『狐』

だったのです

(・・・・・・・もういい、どーせ私は狐よ・・・)

―――――――――――――――

鼻歌交じりで大き目の湯船に浸かっていたタマモが歌い終わると同時に立ち上がる。

「タダオー、先にあがってるわよー」
そして壁の向こうに居る同居人に声を掛ける。

「あいよー、俺もすぐにあがるわ」

銭湯でこのようなやり取りをすると周囲からは好奇の視線を向けられる。
だが、そんな事も気にならない位二人の心は幸せに満ちていた。
俗にいう「新婚ボケ」という奴だが、外見上の年齢では二人が夫婦だと思っている人は居ないだろう。

シャワーを浴びて汗を流すと、体に残った水滴をタオルで大雑把にふき取る。

ガラス戸を開け、水分を含んで重くなった長い髪の毛を乱雑に拭きながら番台に視線を向けると
先ほどまで座っていた鼻の下を伸ばした好色そうな中年オヤジの代わりに、
大き目のマンジュウの様な物を肩に乗っけた若い女性が番台に座っているのを確認する。

(まぁしばらくこのままでもいいか・・・)

タマモは下着を手に取り裸のまま扇風機にあたる。

(あ〜〜〜〜〜〜・・・・・・・・気持ちいい♪)

上気した肌を吹き付ける風に晒し、目を閉じる。

程よく体が冷えた所で、ガラス張りの冷蔵庫からフルーツ牛乳を取り出す。
そして自分の荷物の入った籠から財布を取り出し、小銭を適当に取り出し番台に向う。

「ハイ、フルーツ牛乳ですね120円です・・・ハイ丁度ですね、ありがとうございます」

精算を終えるとすぐに蓋を取り瓶に口を付ける。

半分くらい飲み終えると、手に持っていた下着を着けて鏡の前に座り髪の手入れを始める。
安物のテレビから聞こえるニュースを聞き流しつつ、ドライヤーで髪を乾かしていると、
壁の向こうに居る旦那様のことを想像して顔を赤く染めてしまう。

(今夜も・・・・・・・・アハッ♪)

期待に胸を膨らませ、服を着る。
しばらくマッサージチェアに腰掛けてボーッとした後、外へ出る。

すると同じタイミングで横島も銭湯の外へでてきた。
打ち合わせも何も無しで一緒になれる、その事実が二人を嬉しくも恥ずかしくもさせるのだった。

アパートへの帰り道は、二人にとって至福のひと時だ。

「大丈夫か?湯冷めして風邪引くなよ」

季節柄、寝苦しい夜になりがちな今だが、肌を多く露出させる服を着ているタマモを心配する。

「大丈夫よ♪こうしてれば暖かいしね・・・」

組んだ腕を自分の身体に抱き寄せる。
横島の肩に頭を乗せるように、身体を預けると目をつむりほお擦りをする。

腕に感じるタマモの胸の感触に酔っている横島だったが、
自宅アパートの部屋に明かりがついてる事を見ると真面目な顔になる。

「なぁ・・・出る時電気は消してたよな?」

「電気つけるほど暗くなかったから間違いないわ」

顔を見合わせて確認する二人。

「つー事はだ、誰かきてるのかな?」

「留守の家に勝手に上がりこむなんて一体どんな奴かしら?」

頭をかしげる横島とは対照的に、帰ったら思いっきり甘えようと思っていたタマモが憤慨する。

扉を開けると横島にとっては恐怖が、タマモにとっては未知の存在が自信に満ちた笑顔で二人をみていた。

「・・・・・・ダレ?」
「・・・・・・・・・・な、なん・・なんで・・・・」

見たこともない人物に首をかしげるタマモと恐怖のあまり痙攣を起こしかけてる横島。

「久しぶりだっていうのに・・・なにやってんだかこのバカ息子は・・・」

グレートマザーこと横島百合子がそこに居た。





重苦しい雰囲気が部屋に漂う。

座卓に向かい合って座る百合子と横島、そして横島の隣に座って、まだ腕を離さないタマモ。

黙ってお茶をすすっていた百合子は二人が話しかけるのを待っていた。
母親の鋭い視線に横島は只うろたえるのみ、タマモは値踏みされるような視線に機嫌を悪くしていた。

意を決したように横島が、母親に当然の疑問を投げかける

「なんでお袋がコッチに?まさかまた親父が浮気したんじゃぁ・・・」

睨まれてしまい、最後の方の言葉は聞き取れないくらい小さくなる

「とうさんの浮気は相変わらずよ、そのことで用事があったのは確かね。
 でもね、一番の目的はあんたの付き合ってる子を見に来たって所ね」

以前は腐海に飲み込まれていた部屋を一瞥した後、タマモを見る。

「こんなに部屋が綺麗になってたから、私はてっきりおキヌちゃんだと思ってたのに・・・」

「・・・おキヌちゃんでなくて悪かったわね」
ムスッとしたままお茶請けとして持ってきた油揚げを口に運ぶ。

「誰も悪いとは言ってないじゃない。ただ意外だなぁってね・・・アラ、美味しいわね」
百合子も油揚げをつまむ。

美味しいと言われてわずかに顔を綻ばせるタマモを見て、百合子も微笑む。

「タマモちゃんだったかしら・・・貴女随分若く見えるけど幾つなの?」

この問いかけに横島はおおいに焦った。
隠し事の通用する相手ではない事は承知しているが、正直に話すのも何だかためらわれるものがある。
だが、タマモはあっさりと答えたのだ。

「生まれてから一年とちょっとね」

この答えに百合子は面喰らってしまう。
冗談を言ってる訳ではないのは、彼女の目を見れば判る。
だが目の前の彼女は息子と同年代と言ってもいい容姿をしている。

混乱している百合子を見て腹をくくった横島は、タマモが妖狐であることを話した。

「ふーん・・・妖怪ねぇ・・・」

目の前で狐に変身された日には信用せざる終えなかった。

「まぁ取り合えずその事は納得したわ。でもタマモちゃん、貴女本当に忠夫でいいの?
 こんなの相手にしてたら貴女が苦労するだけよ?」

「こんなの」呼ばわりされた横島が机に突っ伏している。

「あ、あのなー・・・俺も少しは成長してるんだけど、イエ ナンデモアリマセン」

百合子が無言で放つプレッシャーに黙るしかなかった。

「さっき話したとおり私は妖怪として狙われてるから、強い人に守って貰わないといけないの。
 私には忠夫しかいないのよ・・・」

悲しそうな瞳で百合子に答える。

「強い人って・・・一介のゴーストスイーパーに務まるものなの?」

息子が随分とかわれて居る事に少々驚く百合子。

「一介のゴーストスイーパーだからこそ・・・かな。
 私の前世が玉藻前だっていうことで今の政府は私を傾国の妖怪として目の仇にしてるもの・・・」

自嘲気味に自分の立場を語るタマモを見て、怒りがこみ上げてくる。

「忠夫!こんなに良い子を不安にさせてるんじゃないよっ!本ッ当に情けない・・・」

横島は言い訳はしなかった。
こればかりは自分ではどうしようもない事が痛いほどわかっていたから・・・

百合子は自分のハンドバッグから携帯電話を取り出すと慌しく、電話を掛け始める。

「・・・・あ、クロサキ君、夜遅くにゴメンね。ちょっと頼みたい事がるのよ・・・・・・
 うん、専務から自○党に流れた弾(金)についての資料をすぐに送って頂戴。
 ・・・・・ありがとうね、ケンちゃんによろしく言っといてね、じゃぁ」

携帯電話に向って怒涛のようにまくし立てる百合子に唖然としている二人。
そんな二人をよそに、いつの間にか現れたバイク便の兄ちゃんから封筒をうけとり、届いたばかりの資料を確認する。
一通り目を通し、ニヤリと笑った百合子は母親のそれではなく、村枝の紅百合と呼ばれた当時を彷彿とさせる物だった。

そしてまた携帯電話を手に取る。

「・・・あ、もしもしリューちゃん?ひさしぶりー、今回の参議院選挙残念だったわねー♪
 まぁ貴方が総裁じゃないから、そんなに痛手でもないか。
 ・・・・・・・なによそんなに怒ること無いじゃない、こっちはいい情報もってるのよ。
 貴方としてはジュンちゃんに選挙の責任押し付けて、党内を自分の派閥で固めたいんでしょ?
 ・・・あら♪やっと話を聞いてくれるのかしら?・・・・・・そうねこっちとしてもタダで教えるわけにはいかないわ
 そうね・・・貴方の方で何とかして欲しい事が有るのよ・・・ま、詳しい事は後でゆっくりはなしましょ。じゃぁね」

一仕事終えて満足げに微笑む母親を見て、恐る恐るたずねる横島

「・・・なぁお袋・・・一体何を企んでるんだ・・・?」

「どうもこうもないわよ、政府から狙われてるっていうんなら政府に脅し入れて解らせれば良いだけの話しじゃないの。
 全く・・・こんな事も思いつかないなんて・・・」

((普通はそういうこと思い付かないよなぁ・・・))

常識ハズレの百合子に思わず顔を見合わせる横島とタマモ。

「何やってるの?出かけるから支度しなさい!」

「はぁ?これからどこに?」

「いーから黙って支度しなっ!ほら、タマモちゃんも!」

百合子に急かされて、腰を上げるふたり。
外にでると、これまたいつの間にか呼び寄せたタクシーがアパートの前で待っていた。

((これから一体どうなるんだ?))

二人は訳も解らないうちにタクシーに乗り込んだ。


訳のわからぬままたどり着いた先は都内某所にある接待や政治家の密談等で活躍する有名な高級料亭だった。

二人とも途中で買ったスーツに着替えているので入店拒否はされなかった。
しかし当の本人達は、何故自分がここに居るのか全く理解できないでいる。
困惑しながら取り合えず百合子の後についていく。

仲居さんに案内されて通された間には・・・

「やっほーリューちゃん」
「お久しぶりです、赤井さん・・・いえ今は横島さんでしたな」

アシモト元首相が居た。




「なるほど・・・そちらのお嬢様の身の安全を確保ができれば良い訳ですね」

「そういうことよ、でも忠夫がリューちゃんと知り合いだったなんてねぇ・・・言ってくれれば話はもっと簡単だったのよ」

慣れない宴席に緊張していた横島が、急に話を振られて慌てる。
実際に知り合いと言えるほどの面識がある訳ではなく、
いつだかのオカルトテロリストを逮捕する時にトイレで簀巻きになっていた当時首相だったアシモトを助けただけという間柄だ。

「何も言わせなかったのはお袋だろうが・・・」

夕食を食べていないことに気が付き、目の前にある高級料理を食べながら答える。

そんな横島とは対象的に、アシモト元首相から目をそらしうつむき続けるタマモ。
当然、料理には全く手がつけられていない。

「いやいや、私もあのときの事は非常に感謝していますしね、
 何より核ジャック事件を解決した第一人者でもありますからね。
 彼の願いならば聞かないわけにはいきませんよ」
そういって酒を煽るアシモト元首相。

「明日にでも話をつけましょう。それと・・・例の作戦の指揮担当者には資料整理でも担当してもらいますかな。一生ね」

腹黒い笑顔を浮かべるアシモト元首相を見て満足げにうなずく百合子。

「じゃぁこの話はこれでお開きね♪また何かあったらお願いするかもしれないけど・・・」

「いえいえ、こちらも村枝さんには世話になっていますからな、お互い様というやつですよ」



秘書を伴って料亭からでるアシモト元首相を見送り、自分たちも待たせておいたタクシーに乗り込む。
タクシーが動き出すと、今までずっと黙っていたタマモがぽつりと呟く。

「なんだか上手くいきすぎじゃない・・・?」

「大丈夫よ♪自○だけじゃなく民○、○民、公○にもちゃんと圧力掛けておくようにクロサキ君に言っておいたから」

さらっととんでもない事を言う百合子。
相変わらずそこの知れない母親に少し引き気味だった横島だが、隣でうつむいているタマモの頭を撫でながら励ます。

「別に上手くいかなくたっていいさ。いざとなったらどっか外国にでも行ってしまえばいいんだしな」

そして肩に腕をまわし抱き寄せながら付け加える。

「俺はお前の為なら何だって出来る、何だってやってやるさ。だから心配するなって、な?」

額にキスをして、何とか慰めようと必死の横島。
横島に体を預けるような体勢になり、横島の胸に顔をうずめる。

横島の匂いと温もりに安心したのか、タマモが表情を和らげる。

「わかってる・・・忠夫は頼りになるもんね♪」

そんな二人を見て百合子がタクシーの運転手に小声で何かを伝える。


ビジネスホテルの前で止まると、百合子がタクシーから降りた。

「あれ、お袋?部屋に来るんじゃなかったのか?」

「ん〜・・・二人の邪魔しちゃ悪いし♪」

百合子の言葉に真っ赤になる横島とタマモ。

「ビックリしたわよ。部屋に入ったら一つの布団に枕が二つ、枕元にテッシュまであるもんだから♪」

止めとばかりに爆弾発言をもらす。
百合子の言葉で銭湯に行く前から布団を引いて準備していた事を思い出すと、二人は全身を真っ赤にする。

「じゃぁね。忠夫、優しくしてあげるのよ、女はいつでも不安なんだからね」

「わかってるよ・・・親父と同じ様なこというなよ・・・」

「・・・そ。ならいいわ。じゃぁ運転手さん、後宜しくね」

百合子がホテルに向って歩き出そうと、タクシーに背を向けた時、

「あ、あの・・・お義母さん!・・・・・・ありがとう・・・」

「いいのよ、義娘が困ってるんだから何とかするのが母親ってもんでしょう」

それだけ言うと、またタクシーに背を向けホテルに向って歩きだす。

タクシーが動き出した後も、何処か自信に満ち溢れたその後姿にタマモは魅入っていた。




家に着くと二人はすぐに倒れこんだ。
精神的疲労でもう何もやる気が起きなかったのだ。

「・・・このまま寝たらしわになっちゃうね」
スーツ姿のまま寝転がり、顔を横に向ける。

「そうだなぁ、でもなんか疲れちまって・・・このまま眠りたいよ」
のそのそと布団を広げ、ネクタイを緩める

「そうねぇ・・・」

広げられた布団にごろごろと転がっていくタマモ。
そんなタマモを見て心の底から可愛いと思う横島は、隣でうつぶせになっているタマモを抱きしめる。

しばらくすると規則正しい寝息が聞こえてきた。どうやら二人ともそのまま眠ってしまったようだ。

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