ザ・グレート・展開予測ショー

柿盗り物語り


投稿者名:BB
投稿日時:(04/ 7/27)

吉法師(後の信長)は柿の木を、そしてそこに実っている柿の実をじっと見ていた

腹が減っているわけではない

第一、柿は部屋にあったし、誰かに取るように命じればすむことである

だが吉法師は自分の力で柿を取りたかった


吉法師が母親の元から離れたのが一月前、

その頃から吉法師は”うつけ”と呼ばれ始めた

吉法師が跡継ぎとしての経験を積むための実験的行動は

周囲の家臣たちの目には奇行としかうつっていなかった

もっとも、彼自身の実験も大した成果を上げずに終わることのほうが多かったのだが

「よっ、と」

なるべく高いところにある枝に飛びつく 

しかし、手が掛かり体重が加えられた瞬間、枝は突然

”ボキッ”

と音を立て、折れてしまった
 
予想もしなかったことに驚いた吉法師は

バランスを崩し、一瞬の浮遊感を感じたあと地面に打ちつけられた

背中を強く打ちつけたため、しばらくは息をするのもままならなかった

なんとか呼吸を取り戻そうともがいていると、ふと人の気配がした

「わ、若どうなされました?」

見慣れた、いや、見飽きた顔が駆け寄ってきた

うるさいのが来たと思いつつ

なんとか呼吸を取り戻すと

「・・・柿」

とだけ短く答えた

背中の埃を払いながら登るのに手頃な枝を探し始める

”これにするか”と今度は低いところにある比較的しっかりとした枝に手を掛けようとしたそのとき

体が浮いた

いや、正確には持ち上げられていた

「じ、じい?」

「さっ、これなら届きましょう」

「あ、ああ」

戸惑いながらも吉法師は柿の実に手を伸ばし、よく熟したそれを三つ懐にいれた

「取れたぞ、おろせ」

しかしその言葉は無視され、逆に更に高く持ち上げられ肩車にされていた。

「お、おい?」

その言葉も聞こえないかのように、平手はゆっくりと歩き出し

「若もまだまだ軽うございますなぁ」

と笑った。

吉法師がバツの悪そうな顔をしていると、ふと平手が足を止めた。

「若・・・大きくなりなされ。じいはいつでも若の味方ですぞ」

「・・・・うん」

平手は満足そうに頷き再び歩き始めた

吉法師はこみ上げてくるものをごまかすため柿を口に運んだ

果汁が吉法師の腕をつたい平手の頭へとしたたり落ちた

「わ、若。やめてくだされ」

吉法師はニヤリと笑いガブリと柿にかぶりついた



終わり

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