ザ・グレート・展開予測ショー

文殊〜その意味と使い方〜


投稿者名:透夜
投稿日時:(04/ 7/26)


 四畳半の部屋の中、人外(?)の者三名が『林』『檎』を食べていた。

 しゃく。

 もぐもぐ。

 しゃく。

 もぐもぐ。

「……リンゴだよな」

 部屋の主がぼそりと呟く。

 しゃく。

「リンゴでござるな」

 人狼の少女は肯定の意を返した。

 もぐもぐ。

「間違いなくリンゴね」

 誰に言うとでもなく呟く妖狐。




 ―― 十分後 ――






「お」

 寝転んでいた部屋の主が何かに気づいて起き上がる。

「あ」

 ほぼ同時に、その隣で狼形態で寝ていた人狼も起き上がる。

「んぁ」

 最後にちゃぶ台に上半身を預けていた妖狐も起きる。
 顔を上げると一瞬何処に居るのか分からない、といった風にあたりを見回した。 
……どうやら彼女だけは本当に寝ていたようだ。



「う〜む。食べ物を作っても文珠の効果が切れたら霊気に戻るみたいだな」 

「何か物足りないでござる」

「霊気の補給が出来るから私は構わないけど」

「……お主だって本物の油揚げが食べたいでござろう」

「……否定はしないわ」

「まぁまぁ、とりあえず一時的にしろ食いもんが作れると分かっただけでもいいじゃねぇか」

「ではこの間の『ぺきんだっく』はどうして失敗したのでござろう?」

「あれから調べてみたんだが色々問題があったんだよ」

「どんな?」

「まず字が間違っていた。正しくは『北京拷鴨』らしい」

「三文字ではなく四文字の修行が必要なのでござるな」

「イメージの問題だからあんまり関係ないんじゃない?」

「それに食べた事もない物の味を再現できるはずもないしな」

「ううむ。もっともでござる」

「でもあれ皮しか食べないらしいわよ」

「ま、どっちにしろすぐに霊気に戻ったら意味ないよな」

「食べてすぐにお腹が減るのは寂しいでござる」

「人の話聞いてる?」

「「狐だろ(でござろう)?」」

「……燃やすわよ?」

「燃やしてから言うなよ」
「……」













「……で、結局何がしたいんだったっけ?」

 二人が復活するのを待って妖狐が問いかけた。

「ん?文珠の有効な使用法を考えるのが目的だけど……聞いてないのか?」

「目が覚めてすぐ馬鹿犬に引っ張ってこられたんだけど」

「はは……そういえば理由を説明してなかったでござるな」

 本気で悪いと思ったのか「狼でござる!」の台詞も出てこない。

「も一回狐火浴びたいの?」

 頭に井桁を付けた妖狐が右手を挙げると、部屋の中に五つほど狐火が浮かび上がった。

「落ち着けって。狭い部屋の中で何回も使うなよ。暑くなるだろ」

「暑い……あ、拙者いい事思いついたでござる。文珠を一個貸してくだされ」

「ん。ほれ」

『涼』

 ひんやりとした空気が部屋の隅々まで行き渡り、心地よい空間が作られる。

「なるほど。エアコンの代わりか。こりゃ良いや。電気代もかからねぇし」

「だったら溜まってる食器とか衣類とか『洗』ったら?」

「……」

「何?」

「その手があったか!」









「いや〜予想以上だな」

 シンクは顔が映るほど綺麗になっていた。 
 さっきまで謎のキノコが生えていたとはとても思えない。

「染み、黄ばみもすっきりでござるな」

 除霊仕事は肉体労働である。
 加えてその性質上どうしても汚れの溜まった場所での仕事が多くなる。
 服が汚れてしまうのは当然だろう。

「ついでに部屋を『掃』『除』してみたら?」

「いや、そこまでは……」

「な〜に遠慮してるでござるか?先生。ていっ」

 横島の手から文珠を奪い、念を込める。

「あ、待て、止めろ」

『掃』『除』

 文珠が発動すると、部屋の中に散乱していたものがビデオの巻き戻しのように片付いてゆく。
 当然その中には、まぁ、年頃の男の部屋だ。
 えっちな本なんかも含まれるわけで。

「これはいらないでござるな♪」

「だから嫌だったんだぁ〜!!」

 整理されているだけに一発で本の在り処が分かってしまう。
 嬉々とした人狼の声と、懇願する家主の声はしばらく止む事はなかった。

「自分で言っておいて何だけど、どうしてこんな事まで出来るんだろう?」

 冷静に成り行きを見守る妖狐の呟き。
 それは誰にも分からない。
 


















「宝物が、俺の宝物が〜」

「いつまでしょげているでござるか」

 ちゃぶ台に突っ伏して泣いている家主に声をかける。

「あれは俺の今までの人生そのものだったんだぞ!はじめて買ったときのどきどきとか、しょうもないもん掴まされたがっかりとかが詰まってるんじゃ〜」

「ずいぶん安い人生ね」

「そ、それはそれとして先生は何か思いつかないでござるか?」

「うーん。この場で思いつくのは『裸』とか『脱』とかぐらい……」

『裸』『脱』

「「え?」」

 ちゃぶ台の上にあった文珠が発動し、一糸まとわぬ姿になる二人。

「せ、拙者まだ心の準備が……」
「燃やしてやる!」

 いつもならば、

「裸……は!違う、俺はロリコンじゃないんだー!!」

 と柱に頭をぶつけたりするのだが、

「ん?あぁ、すまん。そっち見ないから服着てくれ」

 と、冷静である。
 どうやらえっちな本を捨てられたのがよっぽどショックだったらしい。

「先生?そんなに拙者は魅力がないでござるか?」
「こういう反応は逆にムカつくわね」

 右手から霊波刀(出力1.5倍)を構える人狼の少女。
 数え切れないほどの狐火を浮かべる妖狐。
 異様な妖気に顔を上げた彼が見たものは二人の鬼だったと言う。 

「……シロさん?いつの間に腕を上げられたんでしょうか?
 えっと、タマモさん?妖力が戻ったのですか?」

 何故か敬語。ちなみに半泣きである。

「辞世の言葉、しかと受け取ったでござる」
「次に逢う時はもう少しマシな男に生まれなさい」

「ちょ、ちょっと待……ぎゃー!」

 合掌。






















 

「ところで何でこのメンバーなの?他の人の意見を聞けば良いのがあるかもしれないじゃない?」

 妖狐が問いかける。
 一般人なら七回くらいは死んでいると思われる攻撃を食らった家主は、すでに復活していたりする。

「馬鹿でござるな。昔から『三人寄れば文珠の知恵』と言うではござらぬか」

 胸を張って答える人狼。

「それに人狼と妖狐が居た方がいい考えが浮かぶんじゃないかと思ってな」

 それに付け加える人狼の師匠。

「……『文殊』ってのは知恵を司る菩薩の事なんだけど」

 半ば呆れ返りながら律儀に突っ込む妖狐。

「「え!?そうだったのか(でござるか)!?」」

(……頭痛くなってきた)

 こうしてある夏の日は過ぎて行く。





 どっとはらい。

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