奥様は役立たず?
投稿者名:透夜
投稿日時:(04/ 7/23)
旦那様の名前は 忠夫
奥様の名前は ヒャクメ
ごく普通の二人が
ごく普通に恋をし
ごく普通の結婚をしました
――――――・・・が
ただ一つ違ったのは、奥様は
『役立たず』
だったのです
(ひ、酷いのね〜、これでも一応神族なのね〜)
―――――――――――――――
「そろそろ起きて欲しいのね〜」
耳元で何やら賑やかな声が聞こえてくる。
どうやら愛しの奥様が起こしてくれているようだ。
「おはよう」
「おはようなのね〜」
お互いに挨拶を交わし、最初にする事は触れ合うだけの軽いキス。
目を開けると、頬を紅く染めた奥様が見える。
全く、結婚して三ヶ月経ったのにまだ慣れないのか。
・・・でもそんなところが可愛いんだよな〜」
「もうっ、こ、声に出てるのね」
おっと、いつのも癖が出ちまったか。でも、
「声に出さなくてもお前にはお見通しだろ?」
軽く笑って起き上がる。
布団を畳んでちゃぶ台を出すのは俺の役目だ。
「いや、でも、じ、実際に声に出されると恥ずかしいのね」
流し台に向かうヒャクメの少しどもった声に、ふと笑みが漏れた。
結婚してから気付いたんだが、ヒャクメは恥ずかしがると早口になる。
どうやら恋愛経験はほとんど無かったらしい。ふっ、初々しいやつめ。
「それはお互い様なのね〜。さ、早くご飯食べてほしいのね」
お、元に戻ったか。
さて、今日の朝飯はなんだろな。
「目玉焼きと鯵の開き、それからワカメと豆腐の味噌汁なのね〜」
そう言いながら二人分の朝食を並べる。
意外と、と言うか何と言うか、ヒャクメは尽くすタイプらしい。
「「いただきます」」
声をそろえて言う一言。
何でもないことだけどちょっと嬉しいかも。
「どれどれ。ん。うまい」
「・・・本当?」
ぐはっ。
捨てられた子猫のような瞳は反則。
じゃ、なくて、落ち着け。俺。
「お前に嘘が吐けるわけないだろ」
「うん」
ほ、微笑むな〜今日は遠出しないといけないから体力使えないんだよ。
いや、でもさっきまで憂いを帯びた表情でそのあと微笑むっていうギャップが何ともいえず挙句の果てにほんの少しくびをかしげたりなんかする仕草がちょっと普段とは違うというかおまけに両手はひざの上にあってこうちいさいというか護ってあげたいうというかとにかく父性をしげきされたりするので・・・
ちが〜う!!
「ど、どうしたのね?」
「い、いや、何でもない」
危ない危ない。
と、それは置いて置いて。
毎日の事ながらヒャクメの自信の無さには驚かされる。
どうやら俺の記憶にあるおキヌちゃんの料理と比較してしまうようだ。
そんなこと気にしなくてもいいのに。
というか何年も前の料理の味なんて憶えてるわけないのにな。
「それにしてもほんとに料理上手くなったよ」
「えへへ〜」
うっ、か、可愛い・・・いかんいかん。
目の前のご飯に集中だ。
「ごちそうさま」
「おそまつさまなのね〜」
食器を洗うヒャクメをぼーっと見ている。
多分、幸せってこういう何気ない事なんだよな。
「今日の除霊は何処までいくのね〜?」
「ん?何でも白神山地に熊の妖怪が出たらしくてな。」
「・・・危険じゃないの?」
「どうだろう?ま、美神さんとこから回ってきた仕事だからな。厄介なことは厄介だろうけど、シロをこっちに回してくれるって言ってたから何とかなるだろ」
「そう、ね。きっと大丈夫なのね〜。シロちゃんは私と違って強いのね〜」
声に寂しさが混ざる。
いつまで経っても馬鹿だな、俺は。
ヒャクメが自分の戦闘能力の低さを気にしているのは分かっていた事じゃないか。
「ヒャクメ」
「・・・何?」
「今日は何処へ連れて行ってくれるんだ?」
壁に背を預けて横の床をポンポンと叩く。
「仕事はどうするのね?」
「まだ時間あるし、三十分位ならいいだろう」
「うん!」
そう言って俺の膝の上に座るヒャクメ。
・・・膝?
「おい、ヒャクメ」
「今日はここがいいのね〜。・・・だめ?」
さて、世の中にこんな風に言われて『否』と言える男がいるだろうか?
いや、いない(反語)
「あ、ああ」
辛うじてそれだけ答え、膝の上に座ったヒャクメを後ろから抱きかかえた。
・・・小さくて、細くて、柔らかくて、少しでも力を入れたら壊れてしまいそうなのに、どうしてこんなに暖かいんだろう。
「それじゃ、いくのね〜」
「ああ。頼む」
返事をすると同時に俺は意識をヒャクメの心眼に同調させる。
アシュタロス戦でおキヌちゃんがやっていた事と同じだ。
俺たちは結婚してからほぼ毎日こうして『旅』をしている。
一瞬ぼやけた視界がはっきりしてくる。
蒼い世界。
それ以外に表現の仕様がない乏しいボキャブラリを少し恨めしく思う。
(ここは?)
(オーストラリアの北東・・・グレートバリアリーフと呼ばれるところなのね)
(ここが・・・)
そこには、写真や、水族館でしか見られないと思い込んでいた世界があった。
こういうところを見ると東京の海は本当に汚れていると感じる。
(珊瑚礁ってほんとに生き物がいっぱいいるんだな〜)
(くすっ。大抵の人は自分で見たことがないものは実感できないから当然ですね)
(・・・)
(どうしたのね〜?)
(何か普段は子供っぽいのにこんな時は俺の方がガキっぽいなと思ってさ)
(仕方ないのね。逆に何を見ても無感動になったらそこから先には進めないのね)
(そんなもんか?)
(そんなものなのね。さ、時間がもったいないのね)
(そうだな。なぁ、あれなんて魚だ?)
(あれは・・・)
(こっちの・・・)
(・・・)
(・・・)
蒼い世界が霞み、見慣れた四畳半の部屋へと意識が戻ってくる。
「さ、そろそろ仕事に・・・」
立ち上がろうとしたヒャクメを抱きしめる。
「そのままでいいから少し話を聞いてくれないか?」
「・・・」
「ありがとな。今までさ、結構いろんなとこ見て回っただろ?俺、頑張って働くからさ、いつか、全部見て回らないか?オーロラとか、砂漠に落ちる夕日とか今日視た珊瑚礁とかをさ」
「オーロラ見る前に凍えちゃうのね」
「二人でいれば暖かいだろ?」
「砂漠なんか何もないのね」
「二人でいれば退屈しないさ」
「サバンナに行ってライオンに襲われたら?」
「あのな、神族と人類唯一の文珠使いがいるんだぞ?」
「あと、アマゾンに行って」
「大丈夫だって。俺たちはアシュタロスにも勝ったんだぞ」
「でも、結局私は何の役にも立たなかったのね」
「何言ってるんだよ。西条達がパピリオに勝てたのは心眼があったからだし、それに最後まで一緒に戦えた神族はお前だけだっただろ?」
「・・・」
あ、やべ泣かしちまったか。
「ありがとうなのね」
そう言ってヒャクメは振り向き、キスをしてきた。
涙を目の端に浮かべた笑顔は、とても綺麗で、多分、ここで抱きしめてしまったらもう止まらないだろう、と言うところまでいってしまっていて、最近成長したそれでも人より小さな理性は、
「愛しているのね。あ、な、た(はーと)」
消し飛んだ。
「ヒャクメ〜」
一瞬で服を脱ぎ捨てルパンダ〜イブ。
「きゃぁ〜♪仕事はどうするのね〜♪」
「そんな事は後から考える!」
今までの
コメント:
- 一番最初に伺いを立てておきながら、こんなのしか書けなかった_| ̄|○
純米酒様、申し訳ございません。
どうか生ぬるい目で見てやって下さい。 (透夜)
- いいっ!とってもいいっっ!!
嘘の通用しないヒャクメと、裏表の無さ過ぎる横島ってお似合いですね・・・
ヒャクメはもう役立たずじゃぁ有りませんね、なんと言っても横島君を幸せにしてるんですから!
たぶん私が書いていたらヒャクメがカワイソウな目にあっていたと思います
そう考えると透夜さまに感謝の言葉しかありません (純米酒)
- ヒャクメ!ヒャクメだ〜!
と言う訳で、はい、ヒャクメなら無条件で一票です。なんて。嘘です、ごめんなさい、面白かったです。
何と言うか……意外、でも非常に“らしい”話でしたね。彼女の“能力”にのみ焦点が当たっていて、少々味気ないとも思いましたが、でも、良かったです。意外な二人の意外な営み。僕的にはこの二人は友達夫婦なイメージがあったので、こんなにおしどり夫婦になるとは思いませんでした。この二人を、こんな風に書くとは。感心致しました。 (竹)
- まいフェバリット
>「いや、でも、じ、実際に声に出されると恥ずかしいのね」
いいですね〜。
>シロちゃんは私と違って強いのね〜
あの、アシュタロスを500年先に吹っ飛ばしたのは私なのね〜
役立たずじゃないぞ! がんばれヘタレ神族
二人の魂に安らぎあれ! (伊三郎)
- ( す。いや、あのとき役立たずといわれたのが相当深くに食い込んでしまっているようで。子犬? のようにどこかおどおどぎみで夫に尽くしてるって・・・・・・イイかも? (おちつけ、自分)
いやはや、あそこでルパンダイブは当然ですな!
・・・どうも、テンションがちょっとおかしいのでこの辺で失礼を。楽しませていただきました〜!)
- 上の()文をかいたものです、はじめまして。
どうも間違ってしまったようで・・・次回は気をつけます(汗)
本当にしつれいしました。(「す。」のまえはただのあいさつだったり) (あわし)
- ヒャクメで久しぶりに萌えました〜vvv
>「今日はここがいいのね〜。・・・だめ?」
>「あ、ああ」
ヒャクメ可愛いよv横島君それ、分かりづらいよ。 (紅蓮)
- 皆様、コメントありがとうございます。
>純米酒さま
えっと、掲示板に書き込んだ時点でヒャクメが美神に「役立たず!」とか言われる話が出来ていたのですが、投稿する直前に旦那様との掛け合いが少ない事や、「甘さ」が足りないのでは?
と、思い直しこのような話になりました。
>竹さま
>彼女の“能力”にのみ焦点が当たっていて
実は炭化した玉子焼きや、鍋からあふれ出す大量のワカメといった「役たたずっぷり」に焦点を当てた部分もあったのですが、収集が付かなくなったので割愛しました。
“らしい”と言って頂けると嬉しいですです (透夜)
- 収集ではなく収拾でした。
>伊三郎さま
>アシュタロスを500年先に吹っ飛ばしたのは私なのね〜
そう言われてみればそうでした(汗
すっかり失念していました。
これからもヘタレ神族を暖かく見守りましょう。
>あわしさま
やはり暴走しない横島は横島じゃないだろう、と言う事で最後に暴走させました。
『目』がいっぱい?あるのでもっと強調できたらよかったかな、と思っています。
>紅蓮さま
>ヒャクメ可愛いよv横島君それ、分かりづらいよ。
ヒャクメを可愛いと言って貰えて本当に嬉しいです。
そして申し訳ございません。
横島の台詞があちこち分かりづらいですね。
この辺りは精進しますのでお許しを。 (透夜)
- ヒャクメは決して役立たずではありませんよ。単に戦闘能力がないのと周りにいる者たちが非常識なだけです(笑)
和食な朝食なのは妙神山での影響なんでしょうね。
煩悩は横島君の活力源でしょうからお約束に忠実なのです^^; (綾香)
- お話自体は面白いのですが、ヒャクメ様を過度に役立たず呼ばわりするのは如何なものしょうか。
原作の「DeadZone(横島君や美神さんが平安時代へ行ってアシュタロスと初の会合を果たす)」でも、咄嗟の機転でアシュタロスを未来へ吹き飛ばすという反則技、もとい、柔軟な思考を示しています。
そういった柔軟な思考や独創性はなまじの武力よりも遥かに役立つものだと思います。 (s-cachi)
- 透夜様
はじめまして リキと申します
拝読させて頂きました
こんなに可愛いヒャクメが読めるなんて
自信なさげなオドオドした子犬のようなヒャクメ・・・
くーーーーっつ堪らないっす
>それに最後まで一緒に戦えた神族はお前だけだっただろ?
こ・・・堪えました・・・
はい、マイ・ハニー(おいっ)小竜姫様は速攻リタイヤなさいましたです
面目しだいもございません
てな訳で(どんな?)次回作お待ちしてますねv (リキ)
- だ、題名が…
題名だけでかなりうけました。
他に特徴はなっかたんですか〜(泣 (スナクター)
- >綾香さま
ほとんど私の考えていた事を仰っています。
ヒャクメはアシュタロス戦でも何気に美神よりも霊力が高い事を仄めかしています。
ただ、自分は戦士ではないので、と付け加えていますが。
>s-cachiさま
申し訳ございません。
私自身他の題名も検討していたのですが、どうしても冒頭部分のうまい掛け合いが思いつかず、また純米酒さまの企画に参加という形をとっている以上、やはり最初の『奥様は役立たず』を使うのが良いだろうと考えたからです。
それでもヒャクメが割りを食うのを避けたため、題名に『?』を付けることにしました。
次にヒャクメを主人公とした話を書くときは、柔軟な思考と、能力を存分に発揮できるようにしたいと思います。 (透夜)
- >リキさま
小竜姫様、いいですねv
私は人外のものが大好きです。
横島の隣にはシロがいて、ヒャクメがいて、タマモがいて、グーラー(?)がいる。
でも多分一番隣に居て欲しいのは小竜姫です。
ええ。多分私の勝手な妄想です。
と、いうわけで次はこの中の誰かが出てくる予定です。
(『奥様〜』とは違います)
>スナクターさま
題名は純米酒様から頂いたものです。
私が考えていたら、
『奥様は目がいっぱい』(生まれつきだからしょうがないのね〜)
『奥様は神族・・・カナ?』(カナ?じゃなくて正真正銘神族なのねっ)
『奥様は(とっても)年上』(年齢の差なんて些細なことね〜)
のいずれかでしょうか? (透夜)
- >s-cachiさま
私からも謝らせてもらいます
「ヒャクメを端的に表せて、なおかつヒャクメからの突っ込みが入りそうな肩書きは・・・」と考えていた時パッと思いついた物をそのまま晒してしまったもので・・・」もっと深く考えればよかったと反省しています。平安時代に死に至る大怪我をした横島を救ったのも間違いなくヒャクメなのですから・・・ (純米酒)
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