ザ・グレート・展開予測ショー

奥様は元幽霊


投稿者名:cymbal
投稿日時:(04/ 7/23)



旦那様の名前は忠夫。


奥様の名前はキヌ。


ごく普通の二人が


ごく普通に恋をし


ごく普通の結婚をしました。


――――――・・・が


ただ一つ違ったのは、奥様は


『元幽霊』


だったのです。


(幽霊は別に良いんですけど・・・「ごく普通」だったかな。)


―――――――――――――――


時計の時刻は午前6時。


まだ表も・・・いや夏だからもう明るい。
でも横島キヌの朝は早い。彼女は顔を洗うと気合を入れて二階へと上がって行く。


とんとんとんとんとん・・・。


二階に上がった彼女の視界に真っ先に入って来たもの。
それは馬鹿面をして眠る旦那様。横島忠夫。
貧乏生活が長かったせいか、身体を丸めて小さくなって横たわっている。
ごみだらけの部屋で寝慣れているからだろう。何だかおキヌの口元も緩む。


ちなみに最近、結婚式を挙げたばかりの二人。新婚ほやほやのぐでんぐでん(?)である。


「起きて下さい・・・。よこし・・・じゃない、た、忠夫さん。」


出会いから5、6年は経っている筈なのに今だに名前で呼ぶのが抵抗がある。
色々と事情もあるのだが、付き合う前の時間が長過ぎたからであろう。
それ故の照れがいつまでも抜けきらないのが原因であった。


「うーん、まだ・・・もうちょっと寝かせてくれー・・・。」
「駄目です!今日も仕事が入ってるんですから!!さあ、起きて起きて!!」


毎日繰り返すこの光景。この後続く事もだいたい同じ。


「そう言わずに・・・後5分だけ・・・。昨日あんまり寝れんかったし。・・・ねえ?」
「・・・(ぼっ)。」


・・・何があったのかはまあ、察して頂けますか。


「と、とりあえず起きて!」


そう言うと布団を勢い良くひっくり返して抜き去る。


ドスンッ!


「だあっ!!」


それと同時に横島(どっちも横島ですが)の身体が畳の上に転がり落ちた。
壁際まで着いた所で後ろから明るい声。


「・・・起きました?(にっこり)」
「毎朝この起こし方止めて・・・、いつか問題が起こるかも知れん。」


壁に顔を向けたままで横島が返答する。


「身体が丈夫だから多分問題無いですよね。」


そう言うと後ろを振り向いて部屋を出て行く。食事の準備に向かったのだ。
残された横島は寝床の横に置いてあるタバコに火を点けるとこう呟いた。


「前からこんな性格だったっけ・・・。つーか仕事って昼から・・・だよな。」





ちゅんちゅんちゅん。(鳥の鳴き声。)





・・・目に朝日が眩しい。しかし又寝る勇気も無いので(恐いし)居間へと降りて行くのであった。










ちちちちちっ。・・・ぼっ。


「さーて・・・と。」


おキヌはコンロに火を点けると、お湯を沸かし始める。


「やっぱり朝は和食だよね。」


と言って野菜を切り、お湯にダシを入れる。(インスタントだけど。)


「ふわ・・。」


あくびを噛み殺しながら後ろから「旦那様」が降りて来た。
おキヌは一度手を止めて、そちらの方を見る。


居間には机が置いてあり、先ほど表に出てポストから取っておいた新聞がそこには置かれていた。
横島はそれを手に取るとパラパラとめくり出す。


「ふーん・・・。ほほお。成る程」


一見真剣に読んでいるように見える。だがおキヌは知っている。
4コマとスポーツ面しか読んでいない事を。


「何か書いてあります?忠夫さん。」
「えっ!?いや、・・・そーだほら小泉さんがアメリカに物申ーすって、・・・すげーなこの人まだやってたんか。」


慌てて三面記事へと紙面を移動する横島。
何となく彼なりの見栄なのかも知れない。
それを知っていながら尋ねるおキヌも性格悪いけど。





そうこうしてる間も片手間に調理は進んでいく。そしておキヌの視線はたまにちらちらと後ろを向いている。
・・・何だか「旦那様」を見てるだけで幸せ・・・かな。これが新婚という奴であろーか。
思わず目の前で行われている事を忘れてしまう。


もくもくもくもくもくもくもくもく。


「・・・ん・・・焦げ臭い・・・お、おキヌちゃん。後ろ!後ろ!!」
「えっ!?あっ、ひゃーーー!!!」


もくもくもくもくもくもくもくもく。


気付けばおキヌの前方で灰色の煙が立ち昇っている。
塩鮭に火が付いて煙と共に炭になろうとしていた。


「火消して!!火!!つーかコレだ!!!!」
「えっ!?」



いつでも携帯お役立ち、一家に一珠。「文珠」の出番である。
少々使い方が勿体無い気がしないでもないが。まあ気にしない。


ぱしゅうーーーー。


「冷」


ボンっ!!


ぶわーーーーっ!!もわわわわわーーーー!!


「おわあっ!!!」
「きゃあ!!!味噌汁が!!!」


強烈な冷気と共に水蒸気が立ち昇る。辺りは一瞬霧がかかったように視界がゼロになった。


しゅうううううう。


「ま、窓空けて窓!!」
「は、はい!!!」


がらっ!!


近くにあった高窓を空けると外へ「霧」が流れ出て行く。時間と共に段々と辺りが見えるようになり・・・。


「火は消えた・・・かな?」
「・・・でもご飯が。」


見るも無残。キッチンには霜が降りて真っ白。味噌汁も凍り付いている。
何より文珠の発動時に辺りの物を吹き飛ばしたらしい。


「うわあ・・・。まじい。借家なのに・・・・。」
「・・ど、どうしましょう。」


さすがにGSとして独り立ちはしていたものの、まだ20代前半の若さ。
家を持つ程の金は持ち合わせていなかったのです。(一軒家が良かったんです!)


「まあしゃあないか・・・。ちょいやり過ぎたけど・・・。」
「あ、いや調理に集中して無かった私が悪いんです。ごめんなさい!」


何となーく気まずい二人。だがおキヌは横島を見下ろしながら妙な事に気付く。
横島も同時に上を見上げる。


(見下ろす・・・?)(そういえば・・・あの窓にはおキヌちゃんは手が届かないような?)


「あっ!!」
「おおっ!?」


おキヌの身体がふわふわと浮かんでいる。幽体離脱と言う奴だ。
今の文珠のショックでおキヌの身体から抜け出てしまったらしい。


「へえ・・・何か久しぶりに見たような・・・。」
「もう・・・まじまじと見ないで下さい。」
「いや結構新鮮な気が。」
「何考えてるんですか!?」


おキヌは横島の自分を見る目がいつもと違うような感じを受ける。
何と言うか・・・言葉通り「邪」と言いましょうか。


「・・・おキヌちゃん・・・しばらくそのままで居てみない?」
「はあ!?」


いきなり何を言い出すのか。訝しげな目で横島を見つめる。


「いや、ちょっと懐かしいと言うか・・・何と言うか・・・。たまにはいいんじゃないかな。」
「だ、駄目です!!身体をこのまま置いとくのも危ないし!」
「それは俺が何とかするから!!ねっ!この通り。」





「せめて俺が仕事に行くまで!!愛してるよおキヌちゃん!!」





こーまで言われて押し切られてしまうおキヌ。実に都合の良い台詞ではあったが(うそ臭いし)。
まあ悪い気はしなかったから。例え心がこもっているように聞こえなくても。


とりあえず久しぶりに宙に浮かぶ事になるのであった。










ふわーり。


「じゃあこーひー淹れてきますね。」
「何だか喋り方まで戻ったような・・・。」
「そーですか?自分じゃわからないんですけど・・・。」


そう言ってようやく片付いたキッチンの方へとふわふわと流れて(?)行く。
何だか微妙に少し動きがぎこちない。身体に慣れすぎて感覚が掴めないのかも知れない。
ちなみにおキヌの身体には文珠で結界をかけておいた。これで悪い霊も寄って来ないだろう。


「いや・・・、でもマジで懐かしーな。高校の頃に戻ったみたいな気がする・・・。」


過去の思い出が脳裏を駆け巡る。あんな事、こんな事。悲しい思い出。楽しい思い出。
気付けば不思議と身体がキッチンの方へ向いていた。別に何をしようと言う訳でも無いのだが。





抜ーき足、差ーし足、忍び足。





・・・目的地(?)に着くと空に浮かぶ彼女の姿が目に入ってくる。鼻歌を歌いながらカップを取り出していた。
なんつーか、カワイイ・・・よなあ。何故昔は何とも(ってことも無いが)思わなかったのだろうと思う。


(い、いやいや別に普段が駄目とかそーゆう訳じゃ無いんだ!決して変な趣味に目覚めたとかそんな・・・!)





でも・・・


それでも・・・自然と手が・・・。





さわりっ。


「きゃあ!!」


びっくりして身体を震わせるおキヌ。思わずカップを下に落としそうになり態勢を崩す。
それを横島が抱きかかえた。


「おっと。」
「な、何するんですかいきなり!!」
「あ、・・・何かつい。何でだろう?」
「あっ、ちょっと目つきがいやらしくないですか!?」


そんな事は無いつもりだったんだけど。と言おうとも顔つきに説得力が無い。


「そ、そうでもないと・・・いやあるかも知れん!!」





とおっ!





勢い良くその場に押し倒そーとする。いきなりの事でおキヌも準備が出来ていなかった。
幽体の状態に慣れていなかった事も横島に幸いした。


「ちょ、ちょっと!!忠夫さん!!もしや二度も幽霊を押し倒す伝説を作るつもりじゃあ!!?」
「幽霊だろーがそんな事は構わーん!!もう男として火が付いてしまったのだ今更止めることなど不可能だ!」
「きゃーーー!!嫌ーーー!!!じゃないけど嫌ーーー!!!」


がばあっ!!










となる筈でしたが・・・・・・・・・。
生身の人間では無いのだから、ある一線を越える事など当然(多分)不可能であった。
しばらく何やら努力した後、諦めたように二人は離れる。










「・・・・・・・・・・・・。」
「・・・満足しました?(ぎろり)」
「・・・・・・俺は何をしていたのだろう・・・。」
「さあ、何をしていたんでしょうねえ・・・。(じろり)」


すうっ。


ちょっと放心状態の横島を尻目に自分の身体に戻るおキヌ。
何だかここだけは手馴れたものと言った感じだ。
そして横島の方に振り返り、ドスの利いた声を浴びせた。


「さて、・・・忠夫さん。そろそろ仕事の時間じゃなかったでしたっけ。(きっ)」
「えっ、まだ二時間早い・・・。」
「・・・何か言いました?」
「い、いえ!バリバリ働いて参ります!!!」


おキヌのただならぬ迫力に顔が青醒める横島。ダッシュでその場から移動し、服を着替える。
そしてそのまま玄関から逃げるように飛び出そうとした。


「あっ、ちょっと!!」
「は、はい!!なんでしょうか!!!」
「早く帰って来てくださいね(にっこり)。」
「は!?はい!!早く帰ります!!!行ってきます!!」


あまりに急な態度の豹変に横島は戸惑いつつも返事を返す。
そして・・・。


「あっ、それともう一つ。」
「は・・・!










ふっ。










「いってらしゃい!!」
「・・・はい。」


その光景をたまたま目撃した隣の主婦。思わず一言。


「・・・あらまあ。若いって羨ましいわ。」





・・・横島は混乱したまま顔赤らめつつ、駅へと向かって走り出していた。
何が起きたのか色々迷う事もあるだろうが。


「・・・女はよーわからんわ。まあ・・・」



唇に先程の感覚が蘇る。



「・・・ええか。」


そう言って彼は駅構内に入って行った。
そして・・・夜には彼は再び駅から徒歩5分の借家に戻ってくる。少し不思議な秘密(?)を抱えた奥様の元へ。


おしまい。

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