君ともう一度出会えたら(25)
投稿者名:湖畔のスナフキン
投稿日時:(04/ 7/19)
『君ともう一度出会えたら』 −25−
「横島さん、ケガはないですか?」
文珠で瞬間移動すると、目の前におキヌちゃんの姿があった。
周囲を見渡すと、狭い部屋に雪之丞や唐巣神父、冥子ちゃんにエミさんなどいつものGSメンバーが揃っていた。
ヘリの爆音が聞こえるところを見ると、どうやら大型ヘリで移動中らしい。
「無事だったのね、横島君」
ヘリの中には隊長の姿もあった。
「令子のマンションに向かった西条君から連絡があって、皆に非常召集をかけたわ」
「そうだったんですか」
「それで、状況は?」
「俺とルシオラで地下から強襲をかけたんですが、アシュタロスとベスパが待ち伏せしていました。
文珠もジャミングされて使えず、やむなく逃げてきました」
「令子のマンションに出現した、あの構造物は何なの?」
「あれは、コスモ・プロセッサ。宇宙の構成を自由に組み換える装置です。
ヤツがエネルギー結晶を狙っていたのも、あの装置を動かすためだったんです」
「アシュタロスの目的がわかった以上、是が非でもそれを阻止しなくてはいけません。
このまま敵に接近し、攻撃を続行します!」
隊長が、ヘリの中にいるメンバーに告げた。
「了解」
「やるっきゃないワケね」
「仕方ないですノー」
「ま、待って! ほっといたら、令子ちゃんが、令子ちゃんが死んじゃうわ〜〜〜〜」
ヘリの片隅で、美神さんの肉体が横たわっていた。
その傍で、冥子ちゃんが半ベソをかいている。いかん、暴走寸前だ。
「大丈夫。冥子ちゃん、落ち着いて。美神さんはまだ死んでいないから!」
「本当なの〜〜横島ク〜〜ン」
「美神さんの魂は、エネルギー結晶とともにコスモ・プロセッサに吸い込まれたけれど、
まだ消滅していないから、魂を取り戻せば助かるんだ!」
「令子ちゃん、死ななくてすむのね〜〜」
冥子ちゃんの表情に、笑顔が戻った。
とりあえず一安心だな。こんな狭い場所で暴走されたら、戦う前に全滅しかねないし。
「だが急がないと、令子ちゃんの肉体の方がもたない。
無理やり魂を引き剥がされたから、生命エネルギー不足で、代謝活動が停止する恐れがある」
様子を見ていた西条が、横から口をはさんできた。
「それも大丈夫だ。打つ手はある。おキヌちゃん、ちょっと」
「何ですか、横島さん?」
「美神さんの魂が戻るまで、美神さんの体に憑依してくれないかな?」
「私の体なら幽体離脱に慣れているから、少しの間なら大丈夫ですね」
「おキヌちゃん、悪いけど令子の体は頼むわね。
それからマリアは、病院におキヌちゃんの体を運んでちょうだい」
「イエス、ミセス美神」
俺たちの会話をじっと耳を傾けていた隊長が、指示を下した。
やはり美神さんのことが気になっていたのか、緊張した表情がいくぶん緩んだように見える。
「あの、隊長。もう一つだけ、言いたいことがあるんですが」
「何かしら、横島クン?」
「このままヘリで移動すると、目立ち過ぎます。
離れた場所で降りて、地上から接近した方がいいと思います」
「それもそうね。この辺りで着陸しましょう」
しばらくして、俺たちの乗っていたヘリは、近くの公園に着陸した。
アシュタロスのいる場所まで少し離れているが、徒歩でも近づけないわけじゃない。
おキヌちゃんは美神さんの体に憑依し、残った体はマリアが病院へと運んでいった。
「横島クン、ちょっと」
ヘリから降りた俺を、隊長が呼び止めた。
「何でしょうか?」
「少し話があるんだけど」
ちょうどよかった。俺とルシオラは、皆とは別行動を取ろうと思っていたから。
そう考えた俺は、隊長と二人で皆から少し離れた場所に移動した。
「これも、あなたの予定?」
突然、隊長が懐から銃を抜くと、俺に突きつけてきた。
まさか、隊長までもが……
「ヒャクメが昏睡状態になる直前に、私に話してくれたわ。
あなたが未来から来たこと、そして何か目的をもって動いているということもね。
答えてくれるわね。横島クンの目的は、いったい何なの?」
「皆を助けるためです……と言っても、信じてくれませんよね」
俺は、一人苦笑した。
「ルシオラね?」
「わかりますか」
「あなたが誰に一番執着しているか。それが見えれば、すぐにわかるわ」
さすが隊長だ。油断も隙もあったもんじゃない。
もっとも傍から見れば、見え見えだったのかもしれないが。
「あなたが経験した未来で何があったのか、今は聞かないでおくわ。
けれども、そんなにルシオラって娘が大事なの!? 令子をあんな目にあわせてまでも!」
隊長が厳しい口調で、俺を詰問してきた。
「隊長……俺は、隊長だけは分かってくれると思ってましたよ」
「何の話?」
「隊長は知ってますよね。どうすれば、アシュタロスを確実に倒すことができたか」
「……」
意表を突かれたのか、隊長の詰問がそこで止まった。
俺の胸に突きつけていた銃口も、いくぶん下がっている。
「今となってはもう遅いですが、アシュタロスを倒すには、美神さんの暗殺が一番確実な手段でした」
「……そうね」
「でも隊長には、それだけは絶対に受け入れられなかった。
それで手段を選ばず、アシュタロス打倒の道を模索した。俺を犠牲にしてもいいと思ったこともあるでしょう」
「それについては、否定はしないわ」
「俺にとっては、ルシオラがそうなんです。
あいつを助けるためなら何だってする、一時期はそう思ってました」
「今は違って言うの?」
「俺は結局、甘チャンな人間なんですよ。とても隊長のように、非情には徹しきれない。
だから美神さんに負担をかけないよう、別の道を選ぼうとしました。
けれでも、今のやり方を決めたのは、美神さん本人だったんですよ」
「令子が……」
隊長が、驚愕した表情を見せた。
美神さんが俺の正体を知っていたことについては、まったく気がついていなかったらしい。
「美神さんとルシオラは、俺の秘密を知っています。
その上で、この方法を取ることを主張しました。それが、一番確実だからって。
俺は反対したんですが、聞き入れませんでした。
勝つために手段を選ばないなんて、本当に隊長にそっくりなんですよね、美神さんは……」
「……令子は助かるの?」
「美神さんの意思が強ければ、そう簡単に魂は分解されません。急げば、まだ間に合います」
「わかったわ」
隊長は銃口を下げると、銃にセーフティロックをかけた。
その時、俺の背後で、ガサッと草がゆれる音が聞こえてきた。
「誰!?」
「すみません、立ち聞きするつもりはなかったんですが……」
公園の植え込みの中から出てきたのは、ルシオラだった。
「隊長、俺とルシオラは別行動を取ります。隊長たちは、後から来てください」
「私たちを囮にするつもり? ま、いいわ。その代わり、令子のことは頼むわね」
「任せてください!」
俺はルシオラの手を取ると、二人でその場から駆け出していった。
隊長と別れたあと俺とルシオラは、アシュタロスのいる美神さんのマンションに向かって移動を始めた。
(このまま進んでいくと、また東京タワーの近くを通るな……)
前回の記憶が、俺の脳裏をチラリとかすめる。
「ヨコシマ。悪霊が、皆のいる方角に集まってきているわ」
「向こうも前進を開始したみたいだな。雑魚は隊長たちに任せよう」
その時、俺は強い魔力をもつ何かが、こちらに接近してくるのを感じた。
「何か近づいてくるわ!」
「悪霊なんかじゃないな。たぶん、復活した魔族だ」
数分もしないうちに、二叉の矛を持った若い女の魔族が、俺たちの目の前に現れた。
「メドーサ!」
「アンタは、人が考えていることのウラをかくのが得意だからね。
たぶん他のGSたちとは、別行動をしていると読んだのさ」
「やはり、復活してたんだな」
「アタシだけじゃないよ。他にも大勢よみがえっているはずさ。
どっちにしても、こうして生き返ったからには……」
メドーサが矛をかまえると、その先端を俺に向けた。
「横島ァ! 真っ先にアンタを殺す!」
「そんなこと、させるもんですか!」
俺の横にいたルシオラが、俺をかばうようにして一歩前に出た。
「おまえ……たしかアシュ様直属の……」
「ルシオラ。悪いけど、ここは俺にまかせてくれ」
俺はルシオラを下がらせると、霊波刀とサイキック・ソーサーをかまえた。
「復活直後だからそれほど強くないはずだけど、それでもメドーサの技量は侮れない。俺が前に出る」
「ヨコシマ、気をつけて! 絶対に無理はしないでね」
前回ルシオラは、メドーサとの戦いでダメージを負ってしまった。
そのダメージが、ベスパとの戦いで不利な要因となった可能性がある。
「フン。正面から向かってくるとは、いつになく勇ましいね。
二度も私に勝ったからって、次も勝てるとは限らないよ!」
「違うな、メドーサ。俺はお前を三度倒している。今回で四度目だ」
「何を、わけのわからんことを──!」
メドーサが自分の間合いに飛び込むと、矛を突き出した。
俺はサイキック・ソーサーでその攻撃を反らすと、霊波刀で鋭く斬りつける。
メドーサは上半身をひねってその攻撃をかわすが、俺は続けざまに二度・三度と攻撃していった。
「この太刀筋は、小竜姫の……」
「この五年間、俺は必死になって修行したんだ。おまえにも、ベスパにも、アシュタロスにも負けないために!」
「クッ……」
メドーサは間合いをとるため、いったん後ろに下がった。
すかさず俺は、サイキック・ソーサを投げつけると、空いた左手に文珠を作って握り締める。
「ウオオオォォォッ!」
メドーサが矛でサイキック・ソーサーを受け流した隙に、俺は間合いに踏み込み頭を狙って斬りつけた。
ガッ
霊波刀の一撃を、メドーサが矛を振り上げて受け止める。
そのため、胴がガラ空きをなった。
「これで、終わりだあああぁぁぁっ!」
俺は左手に握り締めた文珠を、メドーサの腹に叩きつけた。
「ま……また、こいつに……」
メドーサはガクガクと膝を震わせると、バタンと地面に倒れた。
「死んだの?」
「いや。文珠で『眠』らせただけだ。たぶん明日の朝まで、目を覚まさないと思う」
「このままで、大丈夫かな?」
「アシュタロスさえ倒せば、他は問題ないよ。俺たちが勝てば、メドーサも自分で生きる道を探すと思う」
「ヨコシマって優しいのね。メドーサには、ずいぶん苦しめられてきたんでしょ?」
「これで四回倒したから、いまさら命までとろうとは思わない。
メドーサの方で、どう思っているかはわからないけど」
そういえば最初の頃って、メドーサには手も足もでなかったよな。
実力からすれば、小竜姫様と同じくらいだから当たり前なんだけど。
それになんといっても、はじめてディープキスをした相手だし。
「ディープキスがなんですって……」
えっ!? なんでルシオラが、拳を握り締めているんだ?
「さっきから、全部聞こえてるのよ……」
ハハハ……久しぶりに、やっちゃったみたいだ。
考えていることを口にするクセは、もう治ったと思っていたのに。
「えっと、その、これには深いわけが……」
「あとで、ゆっくり聞かせてね」
バチン!
とりあえず一発だけ、俺は頬を張り飛ばされた。
(続く)
今までの
コメント:
- アシュタロスを倒すには、美神令子の暗殺が一番確実な手段だった、とは言い切れませんね。そもそも、エネルギー結晶がこの時空に存在しなくなっても、それでアシュタロスが死ぬわけではない。計画の失敗を知って自暴自棄になり、地球と人類を道連れにした可能性も充分あるでしょうし。
あと疑問点が二つ。第一に、この話の中では、各国政府は、アシュタロスの計画の鍵であるエネルギー結晶が、美神令子の魂に含まれていることは知らなかったんですか? 原作では知っていて、有無を言わさず美神令子を暗殺しようとしたが、アシュタロスの核の脅迫によって、その計画は中止になったんでしたよね? (Dr.J)
- もう一つの疑問ですが、原作では美智恵は、必要とあれば、娘の命を犠牲にする覚悟をしていましたよね? 話の前後の流れからしても、公的な場で公言したことからしても、それが嘘や演技だったとは考えにくい。どの時点で、どういう理由で、それが変わったんですか? (Dr.J)
- Dr.Jさん、さっそくのコメントありがとうございます。
>アシュタロスを倒すには、美神令子の暗殺が一番確実な手段だった、とは言い切れませんね。
美神の暗殺については、実際はそうでなかったかもしれません。
しかし大事なことは、美神暗殺という手段がGS協会上層部で認識されていた、アシュタロス
打倒の重要な手段であったことです。そして、そのことを美智恵も知っています。
次の会話につなげるために、横島がその話題を持ち出したということです。
ついでですが、アシュタロスが自暴自棄になってうんぬんというのは、これはDr.Jさんの
想像でしかないと思います。 (湖畔のスナフキン)
- >そもそも、エネルギー結晶がこの時空に存在しなくなっても、それでアシュタロスが
>死ぬわけではない。計画の失敗を知って自暴自棄になり、地球と人類を道連れにした
>可能性も充分あるでしょうし。
これはDr.Jさんの想像にすぎませんね。
もっともこういう発想をアシュタロスがしたとしてSSを書くこともできますが、
それについては私の関知するところではありません。 (湖畔のスナフキン)
- >原作では知っていて、有無を言わさず美神令子を暗殺しようとしたが、アシュタロスの
>核の脅迫によって、その計画は中止になったんでしたよね?
この話は横島一人称が基本なので、美神暗殺未遂の場面の描写はありません。
しかし、美神暗殺未遂については、原作と同様、あったものと考えてください。
核の脅迫については、本文中に記載があるので、過去ログのチェックをお願いします。 (湖畔のスナフキン)
- >もう一つの疑問ですが、原作では美智恵は、必要とあれば、娘の命を犠牲にする覚悟を
>していましたよね?
これも上記と同様、横島がいない場面(原作と違った行動をしていた)なので、作品中での
描写はありません。
このSSは原作の流れをかなり意識していますが、どうしても追いきれない部分は出てきます。
不足部分については脳内補完をお願いしたいですし、それに不満であれば、ご自分で納得
のいくSSを書くことをオススメします。 (湖畔のスナフキン)
- >話の前後の流れからしても、公的な場で公言したことからしても、それが嘘や演技だった
>とは考えにくい。どの時点で、どういう理由で、それが変わったんですか?
これは実際の美智恵の行動を追えば、容易に想像できます。
美智恵は非常な側面ももっていますが、娘の命を進んで消すような女性ではありません。
原作でも美神を鍛えたり、横島の犠牲がありえることも想定した上で逆天号に攻撃を仕掛けたり、
合体技に最後の希望も見出しています。
世の中には、娘を虐待するような母親も存在しますが、美智恵はそんな母親ではなかった
というのが、私の美智恵観です。
Dr.Jさんは納得できないかもしれませんが、これはそういう作品だということでご理解を
お願いします。 (湖畔のスナフキン)
- メドーサをあっさり撃退した横島ですが、命まで奪って無くて安心しました。折角の逆行ですから、大局はルシオラの生存ですが、全てを納得のいく方向に持って行って欲しいものです。
美智恵の、作戦行動中にもかかわらず、私情を交えて横島をなじるのは、母故なんでしょうかねぇ。 (R/Y)
- 美智恵さんこわい〜〜
でも、美智恵さんが美神さんが大事なように横島にとってはルシオラが大事なんですよねぇ・・・
その後の自分で「甘チャンな人間なんですよ。」と言い切ってる横島がかっこいい!!
でもその後で、メドーサとのディープキスをばらしてルシオラに殴られて・・・
うん、これでこそ横島だ! (純米酒)
- 最後の、横島はどこまで行っても横島なオチに賛成票を(笑)
美智恵さんは、原作でも美神を守る事に腐心してて、人類より娘を取る『母親』として描かれてますから、こうでいいと思います。 (逢川 桐至)
- R/Yさん、純米酒さん、逢川 桐至さん、コメントありがとうございます。(^^)
・R/Yさん
>折角の逆行ですから、大局はルシオラの生存ですが、全てを納得のいく方向に持って行って欲しいものです。
ネタバレになるので詳しく話せませんが、続きを期待してください。
>美智恵の、作戦行動中にもかかわらず、私情を交えて横島をなじるのは、母故なんでしょうかねぇ。
そのとおりです。
Dr.Jさんへの返答で長々と書きましたが、それが私の美智恵像ですので。 (湖畔のスナフキン)
- ・純米酒さん
>でも、美智恵さんが美神さんが大事なように横島にとってはルシオラが大事なんですよねぇ・・・
『俺は死んでも世界を守る!』って大見得切る人がいないのが、GSらしさだと思うのですが、
その誰もやらない役割を横島が担当してしまったこと。しかも大事な人を犠牲にせざるをえなかった
ことが、原作最大の山場であり悲劇だったのではないかと思います。
でもやっぱり、愛する人は大事なわけで、その辺りのアンビバレンツな感情が伝わっていれば
作者としてはありがたいです。 (湖畔のスナフキン)
- (コメント続き)
>その後の自分で「甘チャンな人間なんですよ。」と言い切ってる横島がかっこいい!!
逆行直後は、なんだか「ルシオラのためなら、全てを犠牲にしてでも!」って感じもあったのですが、
時間が経つにつれ、だんだん横島らしさを取り戻していったのだと思います。
でもそういう甘チャンなところも含めて、横島というキャラらしさなのかもしれませんね。 (湖畔のスナフキン)
- ・逢川 桐至さん
お久しぶりです。(^^)
>美智恵さんは、原作でも美神を守る事に腐心してて、人類より娘を取る『母親』として描かれてますから、
原作のアシュ編の美智恵は、一見どこまでも非情に徹しているようですが、あれも娘の命を
救わんがためなんですよね。
原作では横島とルシオラの関係が強く印象に残りがちですが、前半部分での美神と美智恵の
微妙な関係も、快心の描写だと思っています。 (湖畔のスナフキン)
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