ザ・グレート・展開予測ショー

奥様は犬?


投稿者名:純米酒
投稿日時:(04/ 7/16)

旦那様の名前は 忠夫

奥様の名前は シロ

ごく普通の二人が

ごく普通に恋をし

ごく普通の結婚をしました

――――――・・・が

ただ一つ違ったのは、奥様は

『犬(狼でござるッ!!)』

だったのです

―――――――――――――――


午前四時

まだ日の昇らない時間に横島は起き上がる

Tシャツとトランクス姿で頭をボリボリと掻きながら、あくびをかみ殺している
昨晩、床を共にしたはずのシロが隣に居ないことをいぶかしみながら、寝ぼけ眼で辺りを見回していると
部屋に漂い始めた肉が香ばしく焼ける臭いに気が付く

(今日も肉料理フルコースか・・・朝からってのはちょっとキツイけど、シロの手料理だしなぁ)
一人で微笑みながらくたびれたGパンを履き、薄汚れたデニムのジャンパーを羽織る

横島が台所に行こうとした其の時、鳥の丸焼きをのせた大皿を持ってシロが戻ってきた

「おはようございます、先生!」

ニッコリと笑ったシロに横島も笑顔をかえす

「おはようシロ、でもいつまで先生って呼んでるつもりなんだ?」

「・・・な、なんだか照れくさいのでござるよ・・・」
顔を真っ赤にして俯くが、尻尾はちぎれんばかりにパタパタと振られていた

「なんだ、折角二人っきりだって言うのに・・・まぁいいや、ところで今日の朝飯はなんだい?」

「今朝は名古屋コーチンの丸焼きでござるよ♪これでスタミナバッチリ、先生の体調も万全でござる!!」
自慢の料理を旦那様に説明するシロ、その顔はまだ朱に染まっている

「じゃぁさっさと喰って散歩に行こうぜ、今日は学校に行かなきゃいけないからな」
テーブルの前に腰を下ろし、テーブルを占領する雑誌やらを脇にどける

シロはテーブルの空いたスペースに鳥の丸焼きを置く
「さ、先生、召し上がれ♪」

「いただきまーす・・・・・うん、美味いぞこれは美味いぞ!」
横島がもも肉を切り取ってかぶりつき、料理の感想をストレートに表現する
別に横島のボキャブラリーが少ない訳ではないが
シロ自身感情をストレートに表すので、横島も回りくどい表現をやめたのだ

実際、どこぞの美食家のように「まったりとして、それでいて少しもしつこくなく・・・」などと講釈をしてもシロは理解できないだろう

「よかった・・・先生のお口に合うかどうか少し心配だったのでござる」
そう言ってシロも、もも肉を切り取り可愛らしくかぶりつく

結婚する前までは、食事ともなると【師弟】から【好敵手】と変化していた二人だが
今では横島が一口食べてからシロも食べはじめるようになっていた

優しい横島では考えられないが、万一「こんな不味いメシが喰えるかー!」とちゃぶ台をひっくり返された時には
また新しく作りなおすつもりでいるからだ

そしてなにより
大好きな人が自分の手料理を美味しそうに食べてくれるのを見て、幸せを感じられるようになっていたからだ




ヘビーな朝食を終え、シロが台所で鼻歌交じりに食器を洗っている

横島は学校に行く準備をしながらシロの背中を見て一人悦に浸っている

(なんかこういうのっていいよなぁ・・・・・・)

自分には縁の遠いと思っていた光景に、自然と頬が緩む

「洗い物終わったでござるよ〜♪」
エプロンで濡れた手を拭きながら振り返る

「おう、今日はどこにいく?今日は仕事の方は休みだからな、少し位なら遠出してもいいぞ」
鞄に教科書等を放り込み立ち上がる

「う〜〜〜ん・・・そうでござるな、晩御飯の材料の買出しも兼ねて仙台まで・・・」

「それはちょっと遠すぎる・・・せめて関東以内にしてくれないか?」

シロと自分の感覚の違いに冷や汗を垂らす横島

「では茨城の常陸牛を買いに行きたいござる!牛肉は久しぶりでござるから♪」

「茨城か・・・まぁ何とかなるだろ」
少しばかり逡巡したが、まだ日の出前だった為往復しても間に合うと踏んだのだ

「では早速行くでござるっ!」
横島の腕をとり、家をでる


楽しい散歩が始まった


散歩は相変わらず、シロの全力疾走に任せて横島は自転車で着いていく(引っ張られていく)というスタイルだ
人狼の健脚にある程度は着いていけるようになったものの、それは酷く体力を消耗する
丸一日休みの日でもなければ到底付き合える物ではない

シロにとっては少し物足りなくても、横島と確実に二人きりになれる時間である為、楽しい事には変わりは無かった


しかし、今日の帰り道は重苦しい雰囲気に包まれていた

目当ての牛肉が買えなかったのである
よくよく考えれば当然の事だ、日の出と共に店を開けている肉屋は滅多に・・・というかこの世のどこを探しても無いだろう
ダメ元で牧場にも寄ってみたが、当然何の連絡もなしに肉は売ってくれない

かくして、目当ての牛肉を手に入れられなかった鬱憤を、帰り道を120%の速さで走る事によって晴らし
予定よりもだいぶ早く帰宅する事になった


だがシロはまだ落ち込んでいた

裏表の無い性格というか、隠し事の出来ない性格というか・・・人狼であるがために感情が尻尾にストレートに出てしまう

横島はまだしょげている妻を慰めようと必死だった

「なぁシロ、元気だせよ。牛肉はまた次の機会にでも・・・」

「でも・・・折角先生に美味しいお肉を召し上がって貰おうと思ったのに・・・一生懸命晩御飯の献立も考えてのに・・・」
旦那様に喜んでもらおうと思っていたが、上手く行かなかった事を悔やんでいる

そんな気遣いを嬉しく感じる横島だが、彼もまた自分の為にシロが落ち込んでいるのが辛かった

「ありがとうな、シロ。その気持ちだけで十分幸せだよ、だから笑ってくれ。
 おまえの笑顔が見れれば、俺は他に何もいらないよ」

そういってシロを優しく抱きしめる

シロは無言だったが、尻尾は左右に揺れ始めていた

しばらく二人は無言で抱き合っていた


だが、シロがあることを思い出す

「先生、学校は大丈夫でござるか?」

「・・・・あーーー!やべぇこのままだと遅刻しちまうッ!」

慌てて立ち上がり、Gパンとデニムのジャンパーを脱ぎ捨てる

すでに見慣れた姿とはいえ下着姿の横島にシロは顔を赤らめる

素早く制服を着るとカバンを掴み玄関にダッシュする

「あっ、先生。お弁当を忘れてるでござる!!」

台所に走っていき、ハンカチに包まれた物を横島に手渡す

「サンキュー、じゃ行ってくるぜ!」

「行ってらっしゃいでござるよ♪」









あっという間に昼休み

仲の良い幾人かがグループを作って談笑を交えて昼食をとる

どこでも見られるありきたりな光景だ

横島もその中の一つのグループの中にいた

「あら横島君、今日も愛妻弁当?青春よねぇ〜」

「はっはっは、からかうなよ愛子」

「いいですノー・・・魔理しゃんは料理が苦手だと言って作ってくれんのですケンノー」

「あきらめるなタイガー!いつかお前にも人生の春はやってくるさ!」

冷やかす愛子、羨ましがるタイガーに笑顔でこたえながら包みを解くと

箸と







ペディ○リー・チャム 生肉タイプと
犬用ビーフジャーキーが出てきた

思わず目が点になる二人

だが横島は

「シロめぇ、フンパツしやがったな♪」
と極上の笑顔で愛妻弁当(?)を見る


そこへ他のクラスから差し入れの弁当を受け取っていたピートが戻ってくる

「愛子さん、タイガーどうしたんですか?」

ピートが固まった二人に声を掛けるが反応は無い

何があったのかと横島の方をみてピートも固まる

そこには笑顔でドッグフードをかきこむ横島が居た








その日の午後の授業は、横島の精神鑑定と事情聴取で潰れてしまった







一方横島が学校に行っている間、シロは家事に精を出していた

意外かもしれないがシロは一通りの家事をこなせるのだ
人狼の里では戦いの他に家事が出来て初めて一人前と認められるからだ

ただ・・・洗濯だけは苦手としていた
シロのジーンズの片方がカットされているのも、Tシャツの袖が無いのも、ヘソが見えるくらい丈が短いのも
全て洗濯の時に力加減を間違えたからである・・・

だが今は『洗濯機』という文明の利器がある
苦手を克服できたシロにとって家事は「愛しい旦那様の為の仕事」なのだ

「さぁッ!今日も頑張るでござる!」

洗濯物を洗濯機に放り込み、晩御飯の材料を近所のスーパーに買出しに行く
食材を冷蔵庫にしまい、脱水の終わった洗濯物を丁寧に干す
ついでに布団も一緒に干し、埃を払っておく
箒とチリトリを使って部屋の隅々まで掃除する
本棚に隠されていたHな本をまとめて縛り上げ、廃品回収の札をつけて玄関脇に置いておく
干していた布団を取り込んだ所で一休みする

(そういえばそろそろお昼時でござるな・・・)

学校で弁当を食べている横島を想像する

(今日はフンパツしちゃったでござるからなぁ・・・今夜は・・・エヘ、エヘヘヘ♪)

しばらくの間別の世界へ旅立っていたシロが、自分のお腹の音で現実世界に戻ってきた

横島と全く同じメニューで昼食を済ませると、晩に備えて料理の下ごしらえを始める

(先生にはタップリと精のつく物を用意するでござるよ♪長老からも早く子を成せとせっつかれてるでござるからなぁ♪)

晩御飯の支度を終えると横島が帰って来た

「ただいまぁ〜あー疲れた」

「お帰りでござるよ先生・・・ってどうしてそんなにやつれているのでござるかっ!?」

「いやぁ学校でな・・・」

横島は午後の精神鑑定と事情聴取について語った
シロの持たせた弁当が原因である事を伏せて・・・

「失礼な輩でござるな!先生がキチンと学校に行くのがそんなにおかしいのでござろうか?」

「いやぁ、なんだかんだいって休みがちだから仕方ないさ」
苦笑しながらカバンを放り投げ制服を脱ぐ

横島が普段着に着替え終わると

「それよりも先生・・・拙者も少し聞きたい事が有るのでござる・・・これはなんでござるか?」
そう言って玄関脇に置いてあったHな本の束を横島の目の前に持ってきた

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
横島の表情が凍りつく

「納得のいく説明をしてもらうまで夕飯はおあずけでござるよ♪」



結局、タップリと4時間シロのお説教を受けた後に夕飯と相成ったのでありました



夕飯も無事に終わりあとは寝るだけ

横島が押入れから布団を二つ取り出そうとした時

「きょ、今日も布団は一つでいいでござるよ」
と顔を真っ赤にして告げる
そして
「今夜は寝かさないでござるよ、忠夫さん♪」
と付け加える


こんなことを言われてしまっては、横島は止まらない




その後二人がどうなったのか語るのは野暮という物だろう

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