ザ・グレート・展開予測ショー

〜 『キツネと羽根と混沌と』 第6話前編〜


投稿者名:かぜあめ
投稿日時:(04/ 7/14)




「・・神薙美冬。日本で最年少、13歳でGSライセンスを取得した天才児。解決した事件の数こそ少ないものの、
 それら全てが凶悪かつ猟奇的な危険度の高いケースばかり。故に、17歳である今現在もランキングではすでにトップ10入りを果たしている。」


紙面に並んだその経歴は・・本当に信じられないものだった。
渡された書類を見つめながら、美智恵が思わず感嘆の声を漏らす。

Gメンのオフィスルーム。

ソファーに腰掛け、音もなくコーヒーをすすっていた西条が・・・彼女の向かって何となく気不味気に苦笑した。

「・・・会ってみれば分かると思いますが・・恐ろしく頭の切れる子ですよ。
 霊力の方も申し分無し。事件の処理能力に関してなら、おそらく彼女の右に出るものはいないでしょう。」

「ふふっ、Gメンも形無しってとこか・・。経歴だけなら横島くんより遥かに上ね。まったく・・最近の子たちはどうなってるのかしら・・?」

17歳当時・・かつて自分にも天才と呼ばれていた時期は確かにあったが・・
しかし、それでも今の横島や神薙には到底及ぶものではなかった。

Gメンの権限により特例として許される、事件解決を目的とした、民間からのオブザーバー。
美神事務所の面々は当然として、もう一方は・・・この神薙美冬という少女で決まりだろう。

「スズノは・・まぁ、別格と考えて・・この中で突出してるのは横島くんに神薙さん、それに次いで令子ってところね。
 どうする?西条くん。『どちらに』振り分ける?」

ポンポンと・・背中を叩きながら、そう尋ねてくる美智恵に対して・・西条は少し頬をかき・・

「爆弾魔の件はスズノちゃんと令子ちゃん・・それと他のメンバーに任せます。横島君と美冬ちゃんは・・僕と共に別件で・・」

・・タマモ君には申し訳ないですけどね・・。

困ったようにそう付け加えて、彼はゆっくりとその場を立ち上がった。
形ばかりの薄笑みが浮かぶ。
霊剣を携えながら、睨むように中空を見つめた後・・さらにその先に映る、天井を見上げ・・・


「・・3年間探して、ようやく見つけた手がかりです。まさか向こう側から出向いてくれるとは・・思ってもみませんでしたよ。」


「・・・西条くん。」

なおも何かを言いかけようとする美智恵から目を逸らし、西条は不意に踵を返した。
そのまま、彼は外の廊下へと踏み出して・・・・

「少し、風に当たって頭を冷やしてきます。柄にもなく気持ちが昂ぶってるようですからね。」

・・・・。

・・簡素な部屋に、渇いた声と・・・扉の閉まる音が響く。

人の気配が消えた、無人のスペース。
リノリウムの床。

一人、背中を向け・・・徐々に遠ざかっていく西条の姿を目にしながら・・・・・



「・・3年・・か。長いわね・・・」


美智恵は・・・ポツリとそう、つぶやいたのだった。



〜『キツネと羽根と混沌と 第6話』 〜



白煙の炎が校舎に渦巻く。

淡い陽光。撒き散らすように灰色の羽根をはばたかせ・・・ユミールは楽しげに口を開いた。

「『神薙美冬』かぁ・・。人間の世界では随分な有名人らしいじゃない。
 わざわざ自分の力を抑えるような真似して・・なにをしたいのか私にはよく分かんないけど・・・」

奇妙ともいえるほど大業な動作で・・・悩むように腕を組み、首をひねる。
彼女の芝居がかった言動は・・何故か、道化師を思わせた。

「・・Gメンの動向を把握するには、スイーパーとしての信用を勝ち取るのが最も効果的だ、ということです。
 それと・・これは私の私見ですが・・本来ならば人間とは、神と魔の争いの外に置かれるべき存在のはず・・」

「ふむふむ。最近多いもんねぇ・・考えなしに人界で暴れまわるお馬鹿さんたちが・・。
 そっか、だから人間の手に負えない魔物は、率先してお姉ちゃんが捕縛してるんだね。どおりで強い奴らばっかり相手にしてると思った。」


感心、感心・・・。

大袈裟に頷くと、ユミールは無邪気に笑い出した。
制服を身にまとい・・静かにたたずむ神薙を見つめ・・目を細める。

薄赤に輝く美しい髪と、抜けるように白い肌。神秘的とさえ言えるまでに整った、端正な顔立ち。
あのすまし顔を・・・苦痛と快楽で歪ませてみたい・・。
前触れもなく、そんな衝動にとらわれて・・・・

タマモ同様、このドゥルジという少女は、ユミールにとって最上とも呼べる獲物の一つだった。


「――――本当はここへは・・タマモちゃんに会いに来たんだけどなぁ・・」

ゾクゾクと・・背筋から這い上がってくる感覚を確かめるように、ユミールは小さく声をもらす。
濁った瞳は相変わらず・・・しかし、その中心にぽっかりと浮かび上がったのは・・・

「ねぇ・・ドゥルジお姉ちゃんは知ってるよねぇ・・?」

「?」

明らかに欲情と興奮の色を示す・・・・

「私は・・・」

昏い、闇のように燃え盛る炎で・・・―――――


「綺麗なものを壊すのが・・・だ〜い好きなの!」


刹那。

爆発的に加速したユミールの体躯が・・大きく壁を跳躍する。
突進とも取れる、凄まじい速度。床と並走するように・・彼女は一直線に、神薙との距離を縮めてしまい・・

「・・!」

「遅いよっ!ドゥルジお姉ちゃん!」

両の手を掲げる。
空間に素早く印を刻み、即座に契約を完成させる。

(まぁ・・腕の一本くらい無くなったって、死にはしないよね・・)

神薙を見据え、確信を持って一つうなづくと、ユミールは前方へと腕を突き出した。

ほぼ零距離。
限界近く迫った間合いで、混沌の光が明滅し・・・・

「・・Howring・・」

轟音。
少女のつぶやきと共に、巨大な衝撃波が巻き起こる。
共鳴し合い、爆砕していく校舎を眺めながら、ユミールはその場を離脱した。

「思ったよりもあっけなかったかな〜」

半壊した廊下と・・もくもくと煙を立てる木造の壁。
空をはばたき、薄く笑うと・・愉快そうに彼女はそう言って・・。少し渇いた唇を舌で舐め、腐りかけた翼をなで上げる。


・・・。

これで・・・丁度、10匹目・・。

魔神とまではいかずとも、魔族の中で上位者として名を連ねる者を・・ユミールはすでに10回ほど、『壊して』きた。
最初のうちは加減が分からず、一撃で粉々に砕いてしまったが・・三度目、四度目ともなれば、それもじきに慣れてくる。

要は、いかにして致命傷を与えず、かつ、捕獲できるほどに弱らせるか、だ。
捕獲できなければ狩りはつまらない。獲物で遊ぶことができないのだから。

「みんな、ちょっと油断しすぎだよねぇ・・。霊力だけで物のを見すぎっていうか・・私のコレはそんなのとは全然関係ないのに。」

先ほど衝撃波を放った両掌を見つめ・・にぎにぎと・・グーとパーの動作を繰り返す。
やがてそれにも飽きたのか・・ため息をつくと、ユミールは静かにガレキの山へと降り立って・・・

「さてさて・・お姉ちゃんにはどんなことしちゃおっかな〜。許してって泣いてもやめてあげないんだから。」

・・しかし・・・


「・・え?」

不意に・・灰色の瞳が大きく見開かれた。初めて見せる表情。
驚愕と・・動揺を含んだ鋭い瞳。

・・・どうして?

立ち昇る白煙の中、全くの無傷で佇む人影を目にし・・ユミールが忌々しげに吐き捨てる。
地を穿つ威力を持った強大な光弾。
それを神薙は片腕で・・まるで紙細工でも弄ぶかのように、易々と受け止めていて・・・

「・・こんなもので討てるほど・・私の首は安くありませんよ・・。」

『紙細工』がひしゃげる。神薙がかすかに指先を動かすだけで、簡単に歪み、叩き潰されてしまう。

「・・・っ!?」

同時に一帯を覆いつくす・・冷気の霧。
友人と言葉を交わしていた時とは別人のような、氷の視線がユミールを射抜いた。

「くっ・・このっ!」

彼女が再び腕を掲げ、印を切ろうとした・・・しかし、その次の瞬間。

「!?きゃうっ!?」

強烈な衝撃とともに、一瞬にしてユミールの右腕が氷結する。
利き腕を封じられ、指の動きを中断させると・・・彼女は俊敏な動きで空へと舞い上がり・・・・
・・・いや、舞い上がろうとして・・・・・

・・そこで、気づく。
自分の周りを囲むように、いつの間にか張り巡らされた・・宙を浮く無数の石柱の存在に。


「・・・チェックメイト。」


風に揺れる紅髪を押さえながら、神薙は一言、それだけつぶやいた。


「・・火角・・結界・・・?」

呆然とユミールはそう口にして・・・・
キョロキョロと・・信じられないものでも見るかのように、モノリスの一つ一つに目を移していく。
数十センチ程度の、小型の形状ではあるが・・確かにそれは・・・

「・・いつの間に・・・仕掛けたの?そんなヒマ与えたはずは・・」

「たった今ですよ。風水結界は私の得意分野ですから。」

言って、手のひらを返し、神薙が魔力を開放する。
並みの魔族であれば、完成までに数ヶ月はかかる筈の行程を、ゼロから構築し・・そして1秒にも満たない時間で結界を作り上げてしまう。
驚異的・・・などという生易しい域ではない。それは、悪魔の為せる業だった。

「思い出した・・。そういえばメドーサさんが昔使ってた火角結界も・・全部、お姉ちゃんが作ってたんだっけ?」

「えぇ。そして・・これはその改良版。1メートル以内という局地的な範囲にしか効果を及ぼしませんが・・
 威力に関してなら香港で発動しかけたものの比ではありません。」

軽薄な素振りを偽りながら・・・ユミールは小さく唇を噛んだ。
神薙はああもあっさり言ってのけたが・・こんな状況を狙って作り出すなど・・実際、そうそう出来ることではない。
例え、一瞬で結界を完成させることができたとしても、高速で動き回る敵をその内に捕らえるには・・・・

「・・・私の動きは全部お見通しだったってことか・・・・」

目の前の魔神は・・こんな手など使わずとも、いつでも私を殺すことができた。
そして・・それをしなかったのは・・・・

「・・相変わらず人が良いんだねぇ・・ドゥルジお姉ちゃんは・・。そんなに死にたいの?」

私を傷つけたくないという・・くだらない考えに捉われているから・・・


「・・・・・。」


目を伏せる神薙に・・ユミールは嘲るような笑みを浮かべた。


『あとがき その1』

ゆ・・ユミール・・そんなズタボロに負けておいて・・よくもまぁ、ドゥルジさま相手にそんな舐めきったた態度を・・(汗
ま・・まぁ、最近こそメドーサや遠藤さんたちのせいで、そのホワホワっぷりが露呈しているドゥルジさまですが・・
腐ってもラスボス格。実力的にアシュタロスとほぼ互角という設定なので普通に負けることはちょっと考えられないキャラですね。
第2のヒロインがこんなに強いと主人公である横島の立つ瀬がありません。

・・と、いうよりユミール相手に負けたら、一気に18禁の流れに突入しちゃいますので(笑)
ドゥルジさまの18禁小説を楽しめるのは製作スタッフたちだけの特権・・・ごふっごふっ!!何でもございません(爆

ドゥルジさまの一瞬で風水結界を構築できる、という能力は今後もたびたび登場させる予定です。
原作には出てこなかった金角結界とか水角結界とかも使わせてみたいですね〜・・・と、いうわけで後編へどうぞ。

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