ザ・グレート・展開予測ショー

しちがつなのかはれ


投稿者名:veld
投稿日時:(04/ 7/ 7)






 リョウは空を見ていた。
 七月七日。七夕である。幸いなことに―――天気は晴れ。美しい星空を遮る無粋な雲は見当たらない。
 良いことだ。それはとても良い事だ。織姫も彦星もそうに違いない。いや、無粋な人の目にさらされることを、彼らは望まないかもしれないが。
 しかし、地球の人々は彼らのその純粋なる愛に心を救われることだろう―――そういう日であるべきだ。この、たなばた、という日は。
 彼は無理やりに笑みを浮かべ、そして、消した。

 そして、何故か、泣き出しそうな表情になる。

 七夕の夜―――その悲劇的な話の中にある、唯一の救いの日―――彼の感受性豊かな(ひーろーにあこがれるところみたいな)―――やはり純真な心がそうさせたのか。

 いや、違う。そうではなかった。決して、そうでは―――。



 遠くから聞こえてくるようで、でも、実は近くから聞こえていたりする声。
 それが酷く耳障りだったから―――でも、ないようである。




 やたらとごつい後姿が見えた。
 その前に立つ、三人と一体の人影。
 見覚えがある、揃いも揃って、見覚えがある。
 リョウは視線を再び空に移した。
 一瞬だけ、水面に見えた月の影に心を奪われそうになって―――。
 そんな自分を、少し羞じた。



 自称織姫「わらわはっ!ただ、地球の男と一夜限りのらんでぶーを!」

 じい「黙れ!地球を我が物にせんと侵入してきた極悪えいりあんめっ!お前の目的はお見通しだ!」

 自称織姫「な・・・何の証拠があってそんなことを!?」

 顔をまじまじ見て。
 カナタが呟いた。

 カナタ「・・・・・・・・・勘、カナ?」

 ひゅー、と一陣の風が吹く。
 酷く蒸す初夏の夜に爽やかな一時が訪れた。

 が、その場にそれを満喫しようとするものは一人とていなかった。
 そう、一人とて。

 自称以下略「わ、わらわは無実じゃ〜!!!」

 爺「ええいっ、見苦しいっ!(主に顔が)、暑苦しいわっ!(やっぱり顔が!)」

 むんずとその太い首に腕(?)を巻きつけながら、爺は叫ぶ。
 本当に見苦しく暑苦しいのか、彼女を(正確には顔を)見ようとせず、目をそむけながら。

 ユウリ「じい?・・・ちょっと、可愛そうじゃないですか?」

 ほよよん、とユウリが泡を吹き始めたおりひめを指差しつつ、聞く。しかし、爺はきっ、とユウリを睨むと、いさめるように叫ぶ。 

 爺「ユウリ様、甘いですぞっ、こやつは地球を侵略せんとするわるもの宇宙人っ、遠慮することはなく、さぁ、カナタ様っ、せいりゅーとの力で一気にこやつを滅却するのです。さくさくと!」

 ユウリ「で、でも、爺・・・」

 カナタ「ほ、本当に良いのカナ?」

 爺「カナタ様・・・わかっておりますぞ。カナタ様のお気持ち、爺はわかっております!しかしですな」

 カナタ「・・・カナ?」

 爺「とりあえず、ぽいんとをげっとするためには手段を選んでおれんのです!」

 せいりゅーと「手段と目的を履き違えているような言動ですね」

 ぱちぱちと何故か手を叩きながらぼそりと呟くせいりゅーと。
 が、別段、とやかくいうつもりはないらしい。彼女としてもさくさくと行きたいのかもしれない、いろいろと。
 爺はせいりゅーとを一瞥すると、そのまま彼女の言葉を流し、カナタの手を握った。

 爺「黙れっ、外野っ!さぁさぁ、カナタ様っ、さくっと!」

 カナタ「爺!?」

 いつもは容易く振り払える力が、何故か今日は酷く強かった。





 それはそれとして。
 と、リョウはやっぱり空を見ていた。
 今、この場に何故かいないワネットの行方を考えているわけでは決してない。
 ただ、単に、他に見るべきものがなかったからに過ぎなかった。
 どーせ、どっかでまたはた迷惑なことをして、はた迷惑の尻拭いをするのは俺なんだろう、と自虐的に、こっそりと心の片隅にそんな考えをおきながら。

 「―――まぁ、別に直せる、ってんだから良いけどよ・・・こう何度も恒例行事みたいに壊されてもおれとしても困るわけでなぁ」

 とりあえず、遮るものは何もかもが消えていた。
 ぽっかりと、浴室の上の屋根が砕け散り、なうろまんてぃっく、といえなくもない雰囲気をかもし出している、赤字経営まっしぐらTHE星の湯。
 今回もえいりあんのためにえいぎょーていしなどという不本意な、全く持って不本意なことをしなければならなかった星の湯。
 ぼいらーで熱せられた少し熱めのお湯に浸かるのは二人という体たらく。
 ぶつぶつとなにやらうめくリョウと。
 そんな彼の傍に役得役得とばかりに座るサヤカ嬢。

 「解かるわ。その気持ち・・・あたしもそうよ。記憶消されまくったせいで、授業の内容も忘れちゃうし、もう大変」

 「てか、お前は元々真面目に受けてないだろうから影響はないだろーが。っていうか、何で隣にいるんだ不良女子高校生」

 「うるさいわよ。体が小学生になったんなら心も小学生になりなさいよ。・・・あんたは某探偵か、ってのよ」

 痛いところを突付かれ、湯船に沈み込む不良小学生―――。

 ―――ハッ!

 鼻まで沈み込んで、彼は目を見開き、湯船から飛び出した。
 げほごほっ、と気管に水でも入ったのか、咳を吐きながら。

 どうしたのよー。
 と、何故か嬉しそうに尋ねるサヤカ。何故かその鼻からは一筋赤いものが滴り落ちている。
 それをリョウに解からないようにそっと手で隠しつつ―――。
 リョウはそれに気づきもせずに、わなわなと身を震わせて、うめいた。

 「そ、そういえば、俺は・・・俺は学校とか、どうなってんだ・・・」

 「さぁ・・・?」

 体が小さくなってからは行ってません。

 「・・・登校日数やばいんじゃないのか・・・」

 「てか、もう退学になってるんじゃない?」

 「・・・!」

 「良いじゃない、このまま星の湯を継げば」

 なっ、何を勝手なっ!
 そんな横暴が赦されて良いのか!
 っていうか、ここ、全然儲けないんですけど。暮らしていけ無いんですけど。
 寧ろ赤字ばかりなんですけど。続ければ続けるほど、某自称天才(天災か?)爺と同じくらいに赤字エンドレスなんですけど。

 「・・・・・・・・・まぁ、別に、もう、それでもいいかなぁ・・・」

 とか、深く考えずに、リョウは落ち着いた。
 っていうか、もう、それしかなかった。選択肢は、それしかなかった。
 慌てても、どうにもならないもの。少しだけ、ほんの少しだけ、実は女々しかった。

 「あんた、カナタくんの口調がうつったんじゃない?」

 「・・・もう、どうでも良いんだよ、俺は・・・」

 結局、投げやりだったりした。








 てか、男湯に入ってくんなよ。

 良いじゃない。垣根も壊れちゃってるし、他にお客さんもいないんだから。

 俺がいるじゃねぇか。

 あら、あんたはいっつも番台で見てるじゃない。平気でしょ、そういうの。

 ・・・悔しいことに、最近では・・・あぁ。お前の色気の無い裸でさえ・・・うが〜。

 ・・・色気がないってどーいーことよ!










 そのころ。

 星の湯を眺める四つの影。

 「えっと・・・ところで、私はどうすれば良いんだろうか・・・」

 ちょーくを決められ、顔を青くして『ぎぶぎぶっ』と、謎の生物の細長い腕(?)を叩く思い人の姿を遠くに眺め、彦星はぼんやりと呟いた。
 そこには男の悲哀がたっぷりと込められている。哀愁とか、そういう類のものではない、単に疲れきった空気だけだったが。
 横島は苦笑しつつ、背を向けた。正直、めんどかった。
 そんな彼を笑顔で制す美神女史。いくらで買収されたのかは不明だが、顔にはまるでやる気がないわりにはかたくなだった。それが横島には悲しかった。

 「いや、何ていうか・・・」

 もう、いいじゃないっすか。美神さん。
 にっこりと横島はうめく。
 けれど、美神は首を横にふる。
 あんた一人を逃がしはしないわよ。
 結構痛い眼差しだった。

 振り返り、ぼんやりとしている彦星を眺める。

 「そろそろ、見切りつけた方が良いんじゃないのー?」

 本音をつい、こぼしつつ。
 その声を聞き、ただ苦笑いばかりを浮かべていたおキヌちゃんが、疲れた声を出す。

 「美神さん、それはちょっと・・・」

 ちょっとだけ、良い考えかもしれません。
 などと思っていたとは、彼女以外の誰が知りえようか。

 「いや、あれには俺しかいないから・・・」

 応える彦星もやっぱり苦笑いだった。
 義理よりも強い絆がそこにはあるようで、腐れ縁というほか無いものであるような気もする。
 何にしても、美神には解からなかった。横島にも、おキヌちゃんにも、解からない。
 これが男と女の関係というものなのだろうか、と。そんなことを考えて。
 考えることを、やめた。






 「でも、私、あの中に入っていくのは嫌よ」

 「私もやです」

 「俺は女湯だったら構わんけど」

 ばきっ、と、乾いた音が響き。
 そして、夜空でキラリと星が瞬いた。



 彦星はそれを見て。
 あぁ、やっぱり今夜って、七夕なんだな。
 と、何故か、ふと、思った。 




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