見つめる(3)終
投稿者名:緑の豚
投稿日時:(04/ 7/ 6)
・・・ヨコシマ・・・
「・・・ヨコシマ・・・ヨコシマっ!」
必死になって呼びかける私の声に、ヨコシマはやっと反応してくれた。うっすらと瞼が開く。
「ル・・・シ・・・オラ・・・?」
「そうよ!私よ!」
私の顔を見て、驚いた表情を浮かべるヨコシマ。見開いた瞳が向けられる。
万感の想いが心を切なくさせる。
「な・・・ぜ・・・?」
「私、ず〜っと見ていたの」
「ずっと?」
そう、ずっと。
答える代わりに、私はヨコシマの首を胸に抱き上げた。
究極の魔体を倒した後、ヨコシマに語り掛けられなくなってからも、依然私の意識はヨコシマの中にあった。
娘に転生できるのならそれもいいかな・・・って思いながら、それからの彼を内側から見つめていた。
ママ候補は沢山いるのに、なんでこんなに鈍感なのっ!て、イライラした事もあった。
夕陽を見つめるヨコシマの悲しみが流れ込んできた時には、大声で呼びかけた。でも、届かなかった。
「辛かったでしょ。ヨコシマ・・・」
ヨコシマがひとり、妙神山で再び過酷な使命を背負わされた時には、怒り、泣き叫んだ。
戦乱の中、彼が大切に思うひとが死ぬたびに、私は彼の心とともに悲しみに震えた。
やがて、ひとりきりになっても戦い続けたヨコシマに、私の心は痛んだ。
夕焼けが見える度に、彼に課してしまった十字架の重さを思い知り、自分自身を呪った。
「でも、もう大丈夫よ。私が一緒にいるから・・・」
ほとんどの霊基を失っていた私は、ヨコシマの魂に包まれた揺り篭の赤ん坊の様なものだった。
ヨコシマが吸収した神魔の霊力は、内なる私にも注ぎ込まれ、復活の礎になった。
溶融の技を憶える前から彼の魂の中にいたからなのか、それとも彼が無意識に守ってくれたからなのか、私の自我は保たれ続けた。
「うふ・・・ふたりきりね」
抜け出すことが出来ない程、彼の束ねる力は強大だった。それは、まるで柔らかく抱かれている様に心地良かったけれど。
皮肉にも、ヨコシマの魂が崩れ始めて、やっと私は顕れる事が出来た。
「だからね・・・キスから始めましょうか・・・ね?」
そして、ヨコシマは・・・
「今の俺って・・・汚ねぇから・・・」
声帯さえ無い喉から響く声も、実際は霊力で空気を振動させているだけ。
ささくれ、触れただけでも崩れ落ちそうな頬の皮膚。
口元の左側から眼窩にかけて、骨が露出している。
バンダナで抑えてはいるが、頭骸にも穴が開き、脳髄さえも失われている。
「臭いだろ?だから止めた方が・・・」
「相変わらず野暮なのね。女の子が求めているのに」
腐れかけたヨコシマの唇にキスした・・・
重なった私達の唇。
千年ぶり、同じ鉄塔の上で、ヨコシマとのキス。
待ち焦がれていた、この瞬間。
うふふ・・・ヨコシマったら。あんなに女の子にモテていたのに、結局この千年、唇に触れた女性は誰もいなかったわね。
私がヨコシマの一番なのよね。・・・コレって自惚れかしら?でも、そう思ってもイイよね・・・
ヨコシマ、もう、離れたくない・・・
「ごめん・・・俺、諦めちゃったんだ。だからもう、崩壊が止められ・・ない・・・」
夢心地から醒めると、そこに待っているのは過酷な現実。
拡散してゆく霊気。かつての神魔のソレが圧倒的に占める中、ヨコシマの霊基だけを拾うのはとてもムリ。
「ねえ・・ヨコシマ・・・ヨコシマっ、愛してる!愛してるからっ!!」
「俺も・・愛して・・・いる・・・・よ・・・・・」
ヨコシマの首が、崩れ始める。
砂で造ったお城が波に浚われるみたいに、ヨコシマが私の指の間からこぼれ落ちてゆく。
「ルシ・・オ・・・・ラ・・・・・・・・」
「いや!いやっ!いかないでっ!ヨコシマぁ〜〜!」
叫んだ。
けれども、私の腕の中にあったヨコシマは、消えてしまった。
手の中に残ったのは、最期まで額に巻いていたボロボロのバンダナだけ。
「うっ!ううっ!うわあぁぁぁ〜〜〜!!」
泣いた。
私は泣き叫んだ。
絶望的な戦いを続けながら、この世界を・・・この世界を通して見つめてくれていた私を愛し、護り続てくれたヒト。彼を、失ってしまった。
私は、声をあげて泣き続けた。
茜色の空は深紫と変わり、やがて夜となっていた。
どの位時間が過ぎたのかわからない。
「ひくっ・・うう・・ひくっ・・・」
身体をバラバラにしてしまいそうな嗚咽がおさまって来た頃、私には別の考えが浮かび始めていた。
そう、そうよ・・・
「・・・ちょっと・・・間違っただけじゃない」
掛け違えたボタンは直せばいい。
「私は・・・」
私は、ヨコシマを選ぶわ。みんなには悪いけど、この世界よりも、誰よりも、あなたを。
涙を拭った。
いつの間にか満月が昇っている。戦乱のせいで表面こそ模様を変えてしまっているけれど、その光はかつてと同じように夜を照らしている。
月光の下、手を見つめる。
「んっ!」
掌に意識を集中する。ずっと一緒にいて、ずっと見ていたんだから、やり方は把握している。
束ねる本質が無くたって、こういう方法論的な事は、私の得意分野なのよ。
・・・・でもっ!
くっ!辛い!ヨコシマはこんなコトを平気でこなしていたのね。すごいわ。
「はぁっ!はぁっ!つっ!」
疲れるっ!霊力をかなり持っていかれちゃう!だけど・・・うん、何とか成功したみたいね。
掌に小さな珠。ソレを染め上げる漆黒は、ヨコシマが『大極』って呼んでいた片方の色。
白抜きの文字。今の想いを込めたソレも、ちゃんと刻まれている。
それにしても・・・
「はぁ〜〜!」
先の事が思いやられる。こんなに苦労するんじゃ、目標までいつまでかかるのかしら。
それに、複数同時制御なんて、私に出来るのか不安になっちゃう。
いくら、ヨコシマを通して使い方を知っているって言っても・・・・・・・・・
「ルシオラちゃん!何ボ〜っとしてるでちゅか?」
はっ?ここは・・・?あ!
「姉さん、今度のターゲットはあのビルにいるんだから。しっかりして!」
目の前の、懐かしい姿。
「ご・・・ごめんなさい。チョット逆天号の新しい装備を考えてて・・・」
とっさに誤魔化す。
「これだからもう姉さんはぁ!メカフェチの癖を直さなきゃダメだよ!」
「そうでちゅ!早くアシュ様のところにエネルギー結晶体を持っていかなきゃ、土偶羅に怒られちゃうでちゅ!」
空中に浮かぶ私達。
そう。これから病院を急襲して、美神令子さんの霊体を精査するんだわ。
そして・・・
時間を遡るのには成功したみたいね。タイミングも狙った通り。
これからは、慎重に行動しなきゃ。
アシュタロス様、御免なさい。私は貴方を裏切ります。
娘は愛に生きます。
今はまだ、どうすればいいのか解りません。だけど、絶対救ってみせます。
彼が愛した世界を。命を賭けて護ってくれた夕焼けを。そして、ヨコシマを・・・
どうか・・・力を・・・・
「じゃ、行きましょうか」
飛翔する。一番逢いたい彼がいる、あの場所へ。
『愛』 『横』 『島』 『逢』 『時』 『間』 『逆』 『行』
今までの
コメント:
- 横島君じゃなくてルシオラが時間逆行したのか〜。
面白かったです。 (Y.A.R)
- あぁ、火の鳥が飛んでいくのが見える 。 (トンプソン)
- ルシオラのみの逆行というのは、とても面白そうですので続編をお願いします。 (みかん)
- 緑の豚さん、初めまして。
私も「上手く生き物に取り込まれれば、新たな知的生命へと成長する核になるハズ」のくだりで火の鳥の未来編を連想しました。
読み進めながら、「ここまでパワーバランスが崩れるなら、『魂の牢獄』はそれを助長するだけで意味が無いのでは?」とか「勘九郎の例はどちらかというと、彼程の力と魔への傾倒がないと陰念みたいになってしまう事を意味しているのでは?」とか色々気になりましたけど、あまり深く考えるのも野暮でしょうか。
最後の「ルシオラが逆行する」という締め方が斬新でしたので、賛成票を。 (dry)
- 神魔○完計画…っ!?Σ(゜д゜ノ)ノ
机に両肘ついた猿の眼鏡がキラーンと光るのを思い浮かべてしまい…ゴメンナサイ、冗談です。
最後に残ったのが復活したルシオラ一人だと言う皮肉な結末、彼女の「世界よりヨコシマを選ぶ」と言う決意が逆行先でのどんな行動に結び付くのか、一抹の不安を残す形になっているのが印象的でした。
文珠での時間逆行だったら年月日を指定するのでは…とも思いましたが、ルシオラだったらあれで逆行できそう、つうかむしろふさわしいかもと思いました。 (フル・サークル)
- 始めまして、緑の豚です。
コメントへのご返事が遅くなってしまいました。
Y.A.Rさま
初めて書いてみたSSだったので、素直に嬉しいです。
トンプソンさま
書いている時はデビルマンをイメージしていたのですが。やっぱり影響を受けていたのでしょう。
みかんさま
続編・・・うっ!思いつかないよぉ〜!・・・ご期待には沿えそうにないです。スミマセン。
dryさま
ご指摘の通りで、詰めが全然甘かったですね。
「知的生命へと」の下りは、Nスペ『地球大進化』にも触発されました。
フル・サークルさま
そっ!そうかっ!老師がっ!・・・逆行後の世界では猿の暗躍が始まるのかっ?
どちらにしろ、横&ルシにとっては辛い話にしてしまった感は否めません。
読んで頂いた皆様へ
拙い内容ですが、一読頂きありがとうございました。 (緑の豚)
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