ザ・グレート・展開予測ショー

見つめる(1)


投稿者名:緑の豚
投稿日時:(04/ 7/ 6)

夕陽が沈む。
昼と夜との一瞬の隙間。儚いからこそ美しい。
鉄塔の上に座り込んで、俺は、西の空を眺めている。
「この夕焼けだけは、変わらないなぁ・・・」
誰にともなく呟く、独り言。

「いや・・・違った・・な・・」
誰にともなく・・・ではない。誰もいなくなったこの世界では、たったひとり生き残った俺の言葉は、全て独り言。

アシュタロス・・・その名前さえ懐かしい。あのクソ野郎は、世界を破壊しようとしやがった。
が、本心は違った。己の消滅を願った、只の囚人。
そんな奴相手に無我夢中で戦い、惚れた女の命と引き換えにしてさえ守った世界・・・それこそ、もっと残忍だった。

懐かしいひとたちと成し遂げた勝利。それが、つかの間のモノだった事はスグ知らしめられた。

デタントなんて所詮嘘っぱち。
アシュタロスが滅ぶ以前、神魔のバランスは魔族側が圧倒的に優勢だったのだ。
考えてみりゃ当たり前。
中間に属す人間にとって、神になるには長年の切磋が求められる。だが、勘九郎の例を挙げるまでも無く、魔族になるのには欲望と簡単な契約があればいい。
比較するのもバカバカしい。堕天の例は幾千あっても、魔族が神になるコトなんて数える程しか無いのと同じ。

神族側のデタント派ってヤツの正体は、要は魔界がアシュタロスを失って弱体化したタイミングを狙い、勢力の固定を狙った連中のことだった。
それどころか、もっと魔族側の力を削ぐのに躍起になった奴等もいた。
そんな勢いに反抗した魔族たちは、反デタントの旗を掲げた。しかも、それは魔界の多数を占めた。
デタント派の魔族、ほとんどが堕天した元土地神たちの声はだんだん少数派となってゆき、やがて消えた。

神族過激派の急襲と、それに対抗した魔族軍。その戦場は、ふたつの世界の間・・・人間界。
それだけで、大西洋を挟む四つの大陸は焦土と化した。

聖書級崩壊ってヤツの口火は既に切られていた。

人界の抵抗は空しかった。
最新の兵器も、精鋭の軍隊も、戦略核さえ通じない。只巻き込まれ、虫けらの様に踏み潰され、死んでゆくのみ。
そんな中、極東と呼ばれていた島に英知が集結した。
よもや戦いとは呼べない狂乱が渦巻く中、その目的も見出せないままに・・・・・・







「横島クンには、重大な命令を下します」
緊張する俺に隊長から下った指示。それは、斉天大聖の指揮下に入る事。
従った俺を妙神山で待っていたのは、圧縮された時間の中での修行。
「呆れました。基礎が全く出来ていませんね」「これで、ど〜してあんなに強いんでちゅか?」
そんな小竜姫様とパピリオの後ろで、キセルを咥えたままの斉天大聖老師もウンウン頷く。
「小僧、お主には霊力を制御するための練行が必要な様じゃのぉ」

チャクラを意識しつつ、体内で霊力の流れを自在にコントロールする。それが、俺に与えられた課題。
実戦形式の訓練もたまにはあったが、ほとんどは禅や呼吸法などの、地道な修練に費やされた。
老師に言わせれば、俺は極端に偏った戦術だけしかモノに出来ていなかったらしい。
「束ねるんじゃ」
文珠は、俺の能力が発現した形態のひとつであり、逆説的に言えば文珠を創りだせる事が俺の本質。つまり、取り込み、凝縮し、自らのカタチにするコト。
その根本を掴めと、叱咤の声。
世界がどうなっているのかと思うと焦りを覚えた。が、今集中すべきは強くなる事だと自分に言い聞かせては、黙々と修行に打ち込んだ。それは、体感では数十年にも及んだ。
指摘されて初めて気付いたが、ルシオラの霊基構造を取り入れていた俺は、老いる事は無かった。

「ようやく己を極めたようじゃな」
永い時を経て、やっと実感が掴めた俺に、修行の仕上げを申し渡す斉天大聖老師。
「最後に、お主が成し遂げねばならぬことはのう・・・」
それは、小竜姫様とパピリオとの『同期』。
本質を掴んだ今の俺には、霊力の差は障害にならない。しかし、3名での『同期』なんてコト自体が可能なのだろうか。
半信半疑なまま、それでも老師の指示通り俺は、ふたりに文珠を1個ずつ手渡した。
小竜姫様も、パピリオも、それぞれ手のひらの文殊を握り締め、念を篭めている。

「準備はいいですか?」
「もうOKでちゅ!」
小竜姫様の真剣な問いかけに、いつに無く真面目に返すパピリオ。
「文珠は私達で制御しますから、横島さんは」「チャクラに霊気を集めるのに集中するでちゅ!」
この成功に人類の、いや、世界の命運が掛かっている。俺は瞳を閉じて精神を統一した。
そんな俺の掌に、文珠を持ったふたりが手を重ねてくる。

「では!始めます!」「いくでちゅよ!ヨコシマ!」
文珠が、発動する。
俺の身体に、ふたりが溶け込んでくる。

−ポチ・・・パピのこと怒っちゃイヤでちゅよ−
−また・・・辛い思いを押し付けてしまいます−

何か・・・聞こえた様な気がした。けれども、集中を途切れさせる訳にはいかない。

力の奔流が、俺のチャクラに向かって溢れてくる。
束ねる・・・今こそ、修行の成果を見せるんだ。
流れ込んでくる。俺と一体になってゆく・・・
・・・!!成功だ!凄い!
自分でもわかる。霊力が跳ね上がった。それもケタ外れに!これなら、中級神魔にでも充分対抗できる。
「やった!やりましたよっ!小竜姫様っ!パピリオっ!!」
よもや感激を抑えられない。目を見開いて叫んだ。

変だ・・・・・俺を捕らえたのは違和感。

美神さんとの『同期』では、二人の力の合算を遥かに超える霊力は、その影響を外見にまで及ぼした。
今回は3名、まして神魔とのソレ。なのに・・・
立ち尽くす俺は、Tシャツとジーンズの何の変哲も無い、いつもの姿。
それに・・・・・!
「パピリオっ!小竜姫様っ!!何処にっ!!!」
叫んだ!何故、ふたりの意識が感じられないんだっ!!!!

「『同』『期』ではなく、『溶』『融』じゃ」
氷の柱を呑み込んだかの様に硬直する俺の背中に投げかけられる、低い声。その意味を図りかねる。
「溶融・・・って、何です?それに・・・」
肺に残った、わずかな空気を絞り出しながら尋ねる。

「神・魔・人・最高指導者を含めても、お主だけが出来うる、束ねる力の究極の型じゃ!」
「そうじゃなくって・・・老師・・・」
「菅原道真公は『雷』の文珠しか生成できぬ。その時点で霊力に方向性があるのじゃ。例え、後から文字を変換出来てもな」
「・・・斉天大聖様・・・俺が聞きたいのは・・・」
「無文字の文珠を生み出せるお主こそ、このハルマゲドンを収拾出来る唯一の存在なのじゃ」
「小竜姫様とパピリオは!どうなったんだよっ!!」

中級以上の神魔は、滅ぼされてもやがて復活する。アシュタロスが言った、魂の牢獄。
聖書級崩壊の真の恐ろしさ。それは、永遠に戦乱が続くこと。何度死んでも、また何度も復活し、無限に争いを続ける神魔たちによって。
そんな連中の霊力だけを取り入れ、魂を連鎖から解放・・・消滅させる。溶融とはその手段。束ねる本質を究めた俺だけが使える技。
「小僧!お主しかおらぬのじゃ!」
そんなものを押し付けられたのか?!
「慣れれば、文珠無しでもすぐ成せるじゃろう」
そんな俺に吸収され、パピリオと小竜姫様は、力だけを残して滅してしまったのか?!!

怒り?悲しみ?憤り?この感情を、どう表現すればいい?ワナワナと震える体を抑える事など出来ない。
「じゃがな!今のお主がワシさえ倒せないようならば、この修行は失敗じゃ」
よもや、老師の言葉は耳に入っていなかった。

「うおおおおおおお〜〜!!!!!」
圧搾された可燃混合気が噴き出し先を求めていたかの様に、俺の口から咆哮が湧き出る。そして爆発する。
刹那、右手には剣があった。
小竜姫様がいつも腰に携えていた竜剣。原型の彼女の、生え変わり抜け落ちた牙を鍛えて造られた剣。小竜姫様だけのためにある武具。
それが俺の手にあった。さも、当たり前の様に。
飛び掛り、振り下ろす。それが果たして正しいのかどうかなど一切考えられずに、刃を斉天大聖老師の眉間に向けて。
ガキッ!
夥しい火花が飛ぶ。

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