ザ・グレート・展開予測ショー

〜 『キツネと羽根と混沌と』 第5話後編 〜


投稿者名:かぜあめ
投稿日時:(04/ 7/ 6)



〜appendix.5 『闇翼の微笑』


「・・横島くん?タマモさん?」

誰も居ない教室。

止める間もなく飛び出した、横島とタマモを探すため、神薙が一人校舎を歩いていた。
2人の姿が見えないことを確かめた後、一休みの意味もこめ、彼女は教卓へと寄りかかる。

キシリ・・。

木造の脚のきしむ音が・・無人の部屋に響き渡った。

「・・・・。」

何故か、ため息がついて出る。
朝方、タマモと再会してから・・・横島が彼女と出て行ってから・・・
今の自分は・・・少しおかしい。少なくとも、思考が正常に働いているとは言いがたかった。

「・・・変・・ですね。最近の私は・・・・」

横島のことになると・・・簡単に冷静さを失ってしまう自分がいる。
今だって・・自分が何を考えてこんなことをしているのか・・・うまく把握することが出来ていない。
2人に会って、その後何をしようというのだろう?


(・・よく・・ありませんね・・これは・・)

そう、これは・・・・『よくない』傾向だ。
歓迎すべきでない内面の変化。自分の知らない・・触れたことのない感情の発露。

「・・・はぁ。」

窓ガラスに映る自分の姿を見つめ、今度こそ本当にためいきをつく。
無意識のうちに紅潮する頬。今の自分は・・・外見どおり未熟な・・ただの10代の少女にしか見えなかった。



「・・・違う・・・」


低く、つぶやく。

本当の自分は・・こうではないはずだ。感情にあまり左右されるな。

彼女は大きく深呼吸をすると、静かに・・・きつく目を閉じる。
不安を覆い隠すように・・・きつく・・きつく目を閉じて・・・・・・

・・・・。


――――ドアに手をかけ、廊下へ戻ったその時には・・・・神薙は、いつもの自分の表情を、・・取り戻していた。




―――――――・・。

                           


「・・・?」

教室を出るなり聞こえてきた・・・パタパタと誰かが走る音。
こちらへ向かって駆けてくる・・。初めこそ不思議に思った神薙も、見知った声に、安心したように振り向いて・・

「美冬〜〜?」

「あ!こんなところにいたの?探したんだから!」

少し怒ったような声音でそう言うのは、彼女のクラスメート・・・・の中でも神薙が最も親しくしている2人組みだった。
両者ともなかなか社交的な性格らしく、転校初日、真っ先に話しかけれれて以来・・・

「うわ〜〜美冬ってば今日も美人〜・・」

「ほほぅ・・今日も制服の着こなしはバッチリですねぇ・・ふゆふゆさん・・」

「は・・はぁ・・。それはその・・どうも。」

いつの間にかこんな風に3人で話すことが日課になってしまった。
実は下着盗難の件にしても、自分が彼女たちと部活を抜け出したことが一要因だったりするのだが・・・

「・・?なに?急にしぶい顔して。」

「いえ・・悪いこと出来ないものだ、と思っただけです・・。・・それで、どうしたのですか?2人ともまだ部活の途中のはずでは・・」

怪訝そうに神薙が問いかけると、向かって右側の少女(←佐々木さん)がちょっと驚いたように目を丸くして・・

「えっ・・今日は早上がりだよ?先生が、危ないから部活は2時までだって言ってたじゃない。」

左側の少女(←遠藤さん)の方を振り向きながら、そんなことを言ってくる。

「・・危ない?」

「も〜・・美冬はいっつもぼ〜っとして・・ニュースでもやってたし、号外も配られてたよ?」

・・・それは、ぼ〜っとしているのではなく、考え事をしているんです・・という弁解はあえてしなかった。
それよりも気になった・・号外のチラシを遠藤から受け取ると、神薙は薄く目を細める。

材質があまり良いとは言えない用紙に印刷された・・・事件を誇張した見出しと、黒煙を上げながら全壊するビルの写真。
それらを横目で窺いながら・・彼女はさらに文面へと目を落とし・・・


「・・爆弾魔・・ですか?」


見出しの一部・・・もっとも目を引かれた単語を読み上げる。

「うん・・昨日、ビルがいきなり炎上・・っていっても、隣の隣の・・そのまた隣町らしいんだけど、ひどかったみたいだよ。
 多分、月曜になったらみんなこの話題で持ちきりなんじゃないかな。」

少し俯く2人にうなづきながら・・・神薙は素早く記事へと目を走らせた。
必要な情報を選別し、余計だと感じた箇所・信憑性が薄いものを一瞬で視界から排除して・・・・

(重軽傷者多数・・死者は奇跡的に無し・・・・・オカルト方面とのつながりも・・・)


「・・・・オカルト?」

険しい視線のまま、そうつぶやくと・・・それに、目の前の少女がピクリと反応した。

「そうそう!そうみたいなのよ。
 もしかしたら、また美冬の出番なんじゃない?この間もGメンと協力して何か事件を片付けたんでしょ?」

キラキラと・・何故か、憧れにも近い眼差しを向けてくる友人に、神薙はわずかに苦笑する。
『あの事件』は・・なにも打算があって関わったわけではなく、たまたま巻き込まれただけなのだが・・・

「・・そう・・ですね。もしかしたら、今夜あたり西条さんから連絡が入るかもしれません。」

その場に居合わせ妖魔を捕縛したことで・・何にしろ、自分はGメンから絶大な信頼を受けるることになった。
あらかじめ経歴に明記しておいた、GSライセンス取得という項目も、うまく作用していることは間違いない。
今回の事件も、協力の要請が来ることは・・ほぼ決定的だろう。

「え?ほ・・本当に捜査とかしちゃったりするの?それって危ないんじゃ・・・」

冗談のつもりが真顔で返され、2人が少し困惑気味なそぶりを見せて・・
心配げにのぞきこんでくるクラスメートに・・神薙は微笑みながら首を振った。

「・・どうでしょうね・・まだ分かりません。ただ・・・」

「「ただ?」」

「・・今日は早めに帰りましょう。除霊委員の皆さんにもお願いして・・全員で・・・」

・・・・2人に言い聞かせるように・・・そのまま、そう口にしようとして・・・・



「―――――・・。」



突然、神薙の顔から笑みが消える。次の瞬間、代わりに彼女の表情に浮かび上がったのは・・・・

「み・・・美冬・・?」

冷たい・・まるで感情そのものを凍てつかせたかのような・・畏怖すらも呼び起こす鋭利な瞳で・・・

・・・。

「・・遠藤さん、佐々木さん。私が合図をしたら、何も考えずに真っ直ぐ走ってください。・・絶対に振り返ってはだめ・・。」

神薙美冬としてではない・・魔族の頂点に座する魔神の一柱として・・彼女は、鋭く言い放つ。

「え・・その・・どういう・・・」

「私のことを信じてくださるのなら・・お願いします。」

・・・・。

悲しそうにつぶやく神薙に・・2人は、何も言わなかった。ただ、しっかりと彼女の横顔を見つめてうなづくと・・・

「・・わかった。でも美冬・・よく分かんないけど、無理だけはしちゃダメだからね?」

「ふゆふゆ・・また明日学校で・・ね?」

はっきりそう告げて、言われたとおり数秒後・・・廊下を全力で駆け出していた。
戸惑いは隠せなかったが・・それでも、美冬が言ったことだ。信じていいと・・・そう思えた。

となりの校舎へと向かう2人が最後に聞いたのは・・・

「はい。」

・・と、いつも通り優しい口調でそう返してくるクラスメートの声と・・・・


・・・・・・・・・・。

部屋を突き抜け、校舎全体をつんざくような・・・・巨大な閃光と、爆音だった。




                         ◇





「あらら・・逃がしちゃった・・。せっかうHowringまで使ったのに・・あっさり防いじゃうんだもんなぁ〜・・」


つまらなそうな声が響く。

廊下に舞い落ちる灰色の羽根。もう遠くにしか見えない、2つの獲物を口惜しげに見つめた後、『彼女』は神薙を一瞥する。

「・・久しぶりだね、ドゥルジお姉ちゃん。相変わらず強い、強い♪」

「・・・・・ユミール・・・。」

満面の笑顔で降り立つと、灰の少女は楽しげにドゥルジへと近づいていく。
その途中、床へと散らばる号外のチラシへと目を向けて・・・

「ふ〜ん・・お姉ちゃんも興味あるんだ、この事件。
 うん・・確かに3流妖魔の単独犯にしては・・なかなか良くやってる方だと私も思うよ?」

うん、うん、と首を振りながら・・・ユミールは堪えきれずに笑い出した。
まるで神薙など気にも留めず・・・焦点の合わない瞳で虚空を見つめて・・・・

・・・。

「そっか・・ドゥルジお姉ちゃんが一枚噛むなら・・・少しは面白くなりそうだね・・」

彼女は嗤う、恍惚に身を躍らせ・・そして、振り向く。

「・・パーティーはもうすぐなんだけど・・その前にここで・・前夜祭でも始めようか?お姉ちゃん・・」

感情を消した神薙へとそう言って・・・・ユミールはもう一度、妖艶な微笑みも浮かべたのだ。


〜続きます〜

『あとがき』

ユミールとドゥルジに血の繋がりはありません(汗)彼女は年上なら誰でも、兄ちゃん姉ちゃん扱いするみたいですね(笑
ここまで読んでくださった方、本当にいつもありがとございます〜

横タマのお馬鹿バトルとは対照的に、ドゥルジさまサイドは凄いことに・・・次回、初のオリキャラバトルですね・・(汗
ユミールはユミールで、爆弾魔を利用して何かを企み気味ですし・・次は、スズノとパピリオも事件に巻き込まれます。
西条たちにとっては因縁のとあるキャラクターそろそろ出番が近づいてきたりと・・色々大忙しの今日この頃ですね。

それではまた次回お会いしましょう。

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