〜 『キツネと羽根と混沌と』 第5話前編 〜
投稿者名:かぜあめ
投稿日時:(04/ 7/ 6)
「ぐっ・・こんなヒマな日に限って依頼が一件も入ってないなんて・・」
美神がうめく。
事務所のデスクに頬杖をつきながら・・・
深夜のコンビニ店員でももう少し愛想があるんじゃないか?・・とそんな疑問すら浮かぶような仏頂面で、気だるげにTVのリモコンへと手を伸ばす。
時刻はすでに正午過ぎ。すぐに戻ると・・そう言っておキヌ出て行ってから、3時間以上が経過したころ。
「大体・・(元)主人公に対するこの不当な扱いは何!?私の出番がタ○イガーより少ないってのは一体、どういう了見よ!」
・・なんて、全く意味のない伏字表現を使いながら激昂する美神に、
「い・・いくらなんでもそれはタイ○ー殿に失礼じゃ・・。○イガー殿も色々努力してるようでござるし・・」
シロはシロで、引きつった顔のまま同様に意味のない伏字表現を連発して・・・
果たしてタイガ○に日の目が当たる日は来るのだろうか?
・・・とまぁ、そんな話はさておき・・(笑)
「でも・・それにしたってちょっと遅すぎるわね。何かあったのかしら?」
「迎えに行った方がいいでござろうか?」
退屈を持て余し、そんなことを提案してくるシロに対して・・
「う〜ん・・今から出たんじゃ行き違いになっちゃうんじゃない?スズノも居ることだし・・万が一ってことも無いでしょ。」
美神は軽く肩をすくめると、部屋の隅・・今さっき、電源を入れたばかりのテレビの画面を凝視する。
特に見たい番組があるわけでもない。ただ適当に・・気の向くままに、ポチポチとチャンネルを回し続け・・・
「・・ん?」
しかし、不意に・・・
ただリモコンを操作するだけだった彼女の指先が、ピタリと止まる。
・・・。
ブラウン管ごしに映る、ニュースの見出し。
普段なら、何気なく見過ごすはずのその映像が何故か・・・・・
(・・・・。)
何故か、今日に限って・・彼女の意識を捉え、放そうとせず・・・・・
「・・・何?物騒ね」
心の何処かで・・『何か』が引っかかる・・・そんな感覚を覚えながら、美神は静かに声をもらしたのだった。
〜『キツネと羽根と混沌と 第5話』 〜
「これなんてどうでちか?サイズもピッタリで似合うと思うでちよ?」
「・・・・うん・・・。」
「これもいいんじゃないでちかね?肩が出るデザインだから涼しそうでち。」
「・・・・・うん・・・・。」
「じゃあこれ!これで決まりでち!試しに着てみるでち。」
「・・・・・・・うん・・・。」
・・・・。
「・・・・。」
「?どーしたんだ?パピリオ。」
パコン!!
・・とそんな音がする。
傍にいた店員が止める間もなく、パピリオのチョップがスズノの額へと直撃し・・・
ショッピング街の服屋の店内。さらにその奥にある試着室。
数秒前までぼへ〜っと、鏡の前で立ち尽くしていたスズノが・・何故か今は、涙目で頭を押さえている。
「い・・・いたい・・・。」
「さっきから何なんでちか、スズノは!何を聞いても『うん』『うん』『問題ない』の一点張りじゃないでちか!少しは自分で選ぶでち!」
なんてことを言いながら、凄い剣幕で詰め寄ってくるパピリオに、スズノはおろおろと途方に暮れて・・・
「・・え・・ええと・・」
そのまま、キョロキョロと辺りを見渡した。
・・・絶望的な光景が広がる。
自分で選べ、とそう言われても・・・全部同じ『布地』に見えるのだから、趣向など生まれるはずがない。
右から見てみる。左から見てみる。
色や形は多少違えど(つっこみ拒否)やっぱり『布地』だ。違いがあるようにはとても思えない。
(・・どうしよう・・)
そもそも、防寒のために存在する衣服一つに・・なぜパピリオは、これ程までのこだわりを見せるのか?
自分用の私服が白いワンピース(と呼ぶらしい)一着だけだというのが、そんなにまずいことなのだろうか?
(しかし、そう教えたところ、問答無用で服屋に連行されたのだから、実は結構深刻なのかもしれない)
「・・・・。」
色々と思惑を巡らしつつ・・手前のから順に、次々と棚へ目を移していく。
だんだん見るものが無くなって・・・不安に駆られながらスミの棚を覗き込んだ・・・・・・その刹那。
「・・・・!」
スズノの瞳が大きく見開かれた。
『これだ!!』彼女の目の輝きは、あたかもそう言っているかのようで・・・
背伸びをして一枚のTシャツを手に取ると、スズノがパピリオの元へと戻ってくる。
珍しく顔をほころばせ、差し出したシャツの中央に印刷されていたのは・・・・・
「・・・・。」
油揚げのプリントだったりして・・・・
「うん。見れば見るほど・・このデザインには好感が持てる。」
油揚げのプリントだったりして・・・・・・・
「・・・そういうことを言ってるんじゃなーーーーーーい!!!!!」
「う・・うぅ・・パ・・パピリオ、首が・・首が絞まる・・・」
・・そんな不毛なやりとりがしばらく続いた。
◇
不思議な話ではあるが・・古今東西、どのような学校にも、たいてい「あかずの間」というものは存在する。
あかずの間・・文字通り開かない部屋、もしくは、開けては『いけない』部屋。
その実態は何のことは無い・・・単なる改修前の空き教室であったり、そうじ用具入れであったり・・・
そんなオカルトとは全く関係の無いケースがほとんどなのだが・・・・
うわさ好きの生徒たちのニーズに合わせ、いつまでも・・・
・・例え時代が移り変わっても、怪談系の話題の中心から消え去ることがない。それがあかずの間なのである。
――――・・。
「いや・・もう、いちいちつっこむのも疲れるんだけどさ〜・・」
げんなりと一つ、ため息をつく。
窃盗事件の調査のために訪れた、同校舎のクラブ棟。
文化部関連の部室が乱立する中、唯一人気のない・・いわゆる『出る』雰囲気ただよう小さな建物。
まずは怪しいところから、ということで・・・
現在、横島とタマモは、ご多分に漏れずこの学校にも存在していたあかずの間・・・
・・校舎改築以来、全く使われることのなくなった、旧・用務員準備室の正面にいる。
・・・いや、彼らにしてみても、それほど過度の期待を寄せて、こんな部屋を調べ始めたわけでは決してないのだ。
あくまでも一応。
ここまであからさまだと、逆に事件との関連性は薄いだろう。
そう考え、念のため立ち寄って確認しようとしただけなのだが・・・・・・・
「「・・・・。」」
半開きのドア向こうに広がる、異様な光景。
部屋の手前から奥までを・・・埋め尽くすように積み重ねられた、金品・宝石・貴金属類・etc..etc..etc..
しかもそれだけでは終わらない。
無数に散乱する高級志向の品々の間から、チラホラと顔を出しているのは・・・
「ふ・・ふけつ・・」
割と免疫の強いタマモでさえ、思わずおキヌちゃんみたいなことを言っちゃうような・・・とんでもない量の下着の山。
・・決定的だった。
捜査もクソもない、間違いなく犯人は・・この場所のどこかに潜んでいる。
「ってか・・今まで誰も気づかなかったことの方がオレには不思議なんだけど・・・」
呆れたようにつぶやく横島に、つっこむ者は誰もいない。タマモは、といえば・・
「・・・・。」
無言のままその場にしゃがみこみ・・下着の一つをつまみ上げている。
「やけにサイズがデカイ下着だな。お前の数百倍はあるんじゃないか?」
・・・・黙殺。
「・・ねぇ。これ、美神さんの下着じゃないの?一ヶ月前なくなって・・濡れ衣着せられた横島がボコボコにされた・・」
「無視なわけね。・・あぁ・・あの時の・・。あれは痛かったなぁ・・って、は?」
感慨深げに(?)遠くを見つめる横島の顔色が・・・突如として変わる。
タマモの掌中にある下着と、次いで足元に転がる数着の下着を見つめながら・・・・
「・・ただの下着ってわけでもなさそうだな・・こいつは」
そんなことを言う。
「・・・・。」
「な・・なんだ!?その汚物を見るような目は!?そういう意味で言ったんじゃ・・ってか、今回、ちょっぴり反応が冷たいぞ?お前。」
あくまで冷ややかな対応をとるタマモに、横島は少し気圧されたようにたじろいだりして・・・
・・まぁ、それはともかく。
「う〜ん。お前にも分かると思うんだけどな・・ホレ。」
「え?」
妙に手馴れた動作で大量の下着をわし掴むと・・横島はそれを、彼女に向かって投げてよこし・・
・・・。
・・そこでタマモが眉をひそめる。受け取った瞬間、少し驚いたような表情で・・・一言。
「・・霊波?」
「ん。だな・・ここにある下着ってば全部、霊能者の・・・少なくとも強い霊感を持ってる奴らの元・所持品みたいだ。
だから微弱だけど力が感じ取れる。」
言いながら嫌なムードが漂ってくる。いや、分かっていはいるのだ・・。
ここ2・3話というもの作者は、明らかに息抜き的な・・
言ってしまえば、作者にとってかなり適正外な話を必死に書き続けようと努力している。
そんな状況でシリアスな展開を求めることがどんなに酷か・・・それは十分に理解しているのだが・・・
「ふ・・ん。つまり、下手人は学校を拠点にしてるだけで、実質、街全体から盗品をかき集めてるわけね・・。?どうしたの?」
「・・なんかさ・・お前は気にならないのか?これだけの数の霊能者が、いっぺんに下着を盗まれてんだぞ?」
半眼で口にする横島に、タマモはフム、と軽く唸って・・・
「たまたま・・・なんてこと、あるわけないか・・・」
「だろ?偶然にしちゃ出来すぎてる・・ってことは、敵がターゲットをしぼって、下着をかすめとってるって考える方が自然なわけだ。」
「・・・。」
もっともな話だった。その考察に関しては、タマモも何ら、疑問をはさむ余地がない。
それで?と続きを促すと・・いきなり前触れもなく横島が・・・
「お前・・吸血鬼って知ってるよな?」
なんて、事件とはあまり関連の無さそうな言葉を口にし出して・・・
「?急に何?」
「いいから聞けよ。吸血鬼ってのはアレだろ?
処女の血やらなんやらを魔力の源にしてて、夜な夜な街から美女をさらって行ったりするわけじゃん。」
「・・そうね。それが一体、どうしたの?」
「・・でさ、これは経験から言えることなんだけど・・そういうタイプの魔物って結構、数や種類がいたりするんだよ。
まぁ、全部が全部人間の血を獲物にするってわけじゃなくて・・直接、生気を吸収したり、髪の毛を刈り取っていく奴もいるんだけど・・」
・・・・・。
「つまり、何が言いたいの?」
「いや、つまりさ・・ちょっと思ったんだけど、もしかしたら居てもおかしくないんじゃないかな〜と思うわけだよ。」
「だ・・・だから、な・・何が・・?」
「う〜んと、血とか髪の毛とかじゃなくて・・何つーか・・」
「・・・・。」
・・・と、横島がそこまで言いかけたところで・・・・
「下・・・」
「い・・いい!それ以上聞きたくない。」
タマモがわなわなと肩を震わせて・・・
「いや、真実からは目を背けない方がいいと思うぞ?」
「で・・でもいい。そ・・そんなふざけた魔族がこの世に存在するはず・・・」
ないじゃない・・・と、さらに言いかけた・・・・・・しかし、その瞬間。
「hahahahaha!!!!さすがと言ったところだなぁ!!ゴーストスイーパー!!!!!」
「「・・・・・。」」
絶叫が轟く。
・・・お約束だった。お約束すぎてまるで、悪夢のアナザワールドに迷い込んだかのようだ。
視線を上げたその先で、横島たちを待っていたのは・・・
「いかにも。私は女性の下着から霊気を吸引し、(吸引方法不明(笑))糧としている。
まずはお互い名を・・・」
「・・別に名乗らなくていいから。
ってか、カッコつける前に、その額と腰に巻きつけた大量の下着をじょじょに外してくれると・・
・・オレ的には非常に嬉しいかな、なんて思ったりするんだけど・・」
・・変態だった。
魔族とか人間とか・・そんなくくりを軽く取り払ってもまだ余りあるような・・・
ピンク色にハート模様のスーツを着込んだ・・変態がそこに立っていた。
「ただの窃盗犯に見せかけるため、色々と余計なものを盗んでしまったが・・・この方法は意外にも効率が悪い。
先日、茶道部に忍び込んだ時も、結局、目ぼしいものは一つしか見つからなかった。」
やれやれと・・肩をすくめながら、恐ろしく身勝手なことをしゃべり続ける。
「・・全てのつっこみどころを脇に置いといて・・一つ質問なんだけど、
お前の話からすると・・ここに放置されてる金銀財宝の山は、全部オレらの目をあざむくためのブラフだったと・・」
「そういうことになる。」
「・・愚か以外の何者でもないわね」
・・・さんざんな言われようだった。
流石に気を悪くしたのか・・妖魔はいきり立ってタマモを睨みつけて・・・
「ひどいことを言うお嬢さんだ。私はショックだよぉ・・」
「・・っ!?」
・・前言撤回。
微妙にいやらしい目つきで、こちらの体をジロジロと見つめてきた。
上から下へと嘗め回すような視線に、貞操の危機を感じながら・・タマモはコソコソと横島の背中に隠れたりして・・・
何より彼女の身を縮こませたのは・・耳元に届いた、敵の「う〜ん、小ぶりだがなかなか・・」という台詞だったりする。
(何が小ぶりかは不明(笑))
「うわあ・・タマモちゃん大ぴ〜んち・・」
「ふ・・ふざけてる場合じゃ・・。どうするの?私あんなの相手にするの初めてなんだけど・・」
「オレも初めてだって・・。ま、とりあえず、今回は前衛に出るのはやめとけ。後ろで援護してくれればそれでいいから。」
腕を回しながら、横島が気だるげに文珠を取り出して・・・
次の瞬間。
「んん〜〜男はノーサンクスっ!!!!」
「オレもノーサンクスだよっ!!!?」
軽口を叩きながら・・部屋に強烈な殺気が充満していく。
(・・へぇ・・この野郎・・ただの変態かと思ったら、相当・・・)
妖魔の予想外の高出力に、横島は小さく目を見開いた。
秒殺どころか瞬殺できるレベルの相手だとばかり思っていたが・・・これは下手をすると・・・
「さぁっ!!お嬢さん、そんな男は放っておいて、僕と二人きりで楽しみましょう!!」
「・・ったく。簡単に勝たせちゃくれないわけね・・。タマモ、マジで援護頼むぞ?」
「う・・・うぅ・・気が進まない。」
何はともあれ、闘いの火蓋は切って落とされたのだった。
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