ザ・グレート・展開予測ショー

横島忠夫・修行の日々 5


投稿者名:純米酒
投稿日時:(04/ 6/29)

屋外運動場の一画に土角結界に固められた横島が居た

「あ、あの〜・・・これはいったいどういうことでせう?」
自分の待遇に理解できない横島が、他のチームに激しい口調で指示をとばすワルキューレに恐る恐るたずねる

「ん・・・お前に囮になってもらおうと思ってな。・・・いいか、侵入者を屋外に誘導しろ
 その後は屋外運動場を包囲して威嚇射撃で足止めしろ!全員ライフルの残弾数を確認して目標を振り分けろ!
 以後、十時の方向からの侵入者をT1(ターゲットワン)四時方向からの侵入者をT2(ターゲットツー)とする」

「囮ってなんじゃい、ワルキューレ!小竜姫とパピリオが来るなら俺が説得すれば済む話じゃねーか!」
思わず地の言葉で言い返してしまい

「バカモノ!作戦行動中は大尉と呼べと何度言ったらわかるんだ!」
と、ワルキューレに注意されてしまう

「申し訳ありませんでした大尉。で・・・T1とT2は拘束ですか?まさか・・・」
横島の脳裏に浮かぶ不安はベスパによって打ち消された

「その心配の必要は無いよ義兄さん、殺っちまったらそれこそ最終戦争に一直線さ、
 それだけは魔界側からも願い下げだ。捕まえておけば交渉できる余地はあるからね
 もっとも、先に手ぇ出したのは向こうだからな。神界側が不利になる話だろうけど・・・それは仕方ないね」

己の手のひらに拳を打ちつけ、軽く気合をいれると
横島にウィンクする

「包囲網は完成した、あとはT1、T2が誘導されるのを待つだけだ・・・」


 


一方、基地の奥深い場所で部屋と言う部屋を片っ端から調べていた小竜姫は、自分の周りを飛び交う蝶の眷属に
顔をほころばせる
「忠夫さんの居場所がわかったのですね!今行きます!私の愛しい旦那様!!!」
霊力を使いすぎたのか、超加速を使わないものの全速力で蝶の後を追う

蝶の案内した場所は、普段横島の生活している部屋だった

「?・・・ここはさっき調べたはずですが・・・」
小竜姫が疑問に思っていると寝具の一つがゴソゴソと動いていた

(忠夫さん・・・布団の中に隠れていたのかしら?それってもしかして私、チャンス?
 久しぶりの添い寝だわ!腕枕だわ!小竜姫感激〜〜〜〜)

勢いよくベットに跳び込むが、現実は残酷だった

「お、重いでちゅ!!何するでちゅか!!!」

ベットに居たのは横島ではなくパピリオだった

「な!?パ、パピリオ。貴女こんな所で何をやってるんですか!!」
そういいつつも布団の中に潜り込むのを辞めない小竜姫
しかも布団に顔を寄せ、残り香を堪能しようとしている

「小竜姫こそなにやってるんでちゅか!?それよりもあそこを見るでちゅ!」
片手で枕を抱きしめて毛布にくるまっているパピリオは、部屋の窓を指差す
小竜姫が布団をかぶったまま窓に近づくと、衝撃的な光景が目に飛び込んできた

「あぁっ、あんな所にぃっ!!!忠夫さん、今行きます!!!」
「ちょっと待つでちゅ!あれは明らかに罠でちゅよ!」

今にも飛び出しそうな小竜姫を説得しようとするパピリオ

「たとえ罠であろうともかまいません、それともパピリオ、貴女はココで何もしないで待っていますか?」

そういうとすでに窓をぶち破って飛び出していた

「あ゛ーーーーーーーーー!待つでちゅーーーーーーーーーーーー!」

小竜姫に触発されパピリオも飛び出した



それぞれ布団と毛布、枕は手放さなかった・・・





「よし!!T1、T2の誘導に成こ・・・」
ワルキューレは目を疑った
布団と毛布と枕が勢い良くこちらに向ってくるのだ

包囲していた他チームのメンバーも高速で動く寝具に面食らっていた

誰もが行動出来ず、布団と毛布と枕・・・いや小竜姫とパピリオは横島の目の前にたどり着いてしまった


横島、ワルキューレ、ベスパの目の前に立つ、ちょっと・・・いや、かなり危険な二人の侵入者                                              
二人が大事そうに抱える寝具に面食らったものの、ワルキューレが小竜姫とパピリオに向って怒声を発する

「お前たちは包囲されている!無駄な抵抗は辞めるんだ!」
そういって片手で合図を出すと、隠れていた狙撃手が銃を構えたまま姿を現す

「いいえ、忠夫さんは連れて帰ります!あなた達こそ忠夫さんの戒めを解きなさい!」
「そーでちゅ!!」
二人とも布団をかぶりながら、毛布に包まりつつ枕を抱きしめるという格好からいまひとつ締まりがない
だが、その目つきは真剣で(危ないとも言う)表情は鬼気迫るものがある(切羽詰った表情が正解?)

二人を見ていたベスパはこめかみに手を当て、渋い顔をしている

「なぁ・・・蛍ちゃんが妙神山で良〜い子にお留守番してるのに
 な・ん・で、アンタ達二人はお利口に出来ないんだい?」
怒りを通り越して呆れていたベスパだが

「蛍は蛍!私は私です!!」

という小竜姫の力強い一言に、呆れるのを通り越してやるせない気持ちがこみ上げてくる

(蛍ちゃんがまともでよかった、ほんっっっとうによかった・・・)

(娘と比較して恥ずかしくないのか小竜姫は・・・)
ワルキューレも変わり果てた友人の言葉に、疲れた表情を浮かべる


「とにかく!忠夫さんは連れて帰ります!!応じないなら、腕ずくで連れて帰るまで!!!」
布団を投げ捨て、神剣を抜き青眼に構える小竜姫
小竜姫に倣い、毛布をなげ枕を放り捨てるパピリオ
いつの間にか召喚した蝶の眷属を従えワルキューレとベスパを睨みつける


「やるつもりかい?容赦はしないよパピリオ・・・躾けのなってない妹は、姉として一発ブン殴ってやらないとね」
自らも妖蜂の眷属を従え、胸の前で交差させた両手には、いつでも霊波砲を撃てるように霊力が練られている

「やれる物ならやってみろ!魔界軍の仕官をなめるなぁっ!!!」
ワルキューレが吼え、身構える


「わーーーーーーーーー!!俺の為に争うのはヤメテーーーーーーー!!!
 美人はみんな仲良くーーーーーーーーーーーーーー!!!」
噴き出した涙と共に、腹のそこから絞り出した絶叫は、四人には届かなかった


「「「「覚悟!!!!(するでちゅ!!!)」」」」





四人が同時に飛び出そうとしたその時


「気を付けーーーー!!(アッテンション!!)」
「落ち着かんか、このバカ親ーーーーーー!!」

二人の怒声が基地全体に響き渡る

運動場を包囲していた隊員は、武装を解除し素早く隊列を組む
そして今にも小規模最終戦争に突入しようかと言う四人は、声の聞こえてきた方向に顔を向ける

「「隊長・・・」」
「「な、何で蛍がここに居るの?(居るんでちゅか?)」」

意外な人物の登場に、思考も殺気も一時停止してしまう



「演習は終わりだ!二人とも武装を解除しろ」

隊長の一言に、信じられないとばかりにワルキューレが食って掛かる

「な、何を言っているのですか隊長!!この騒動が演習とはどういうことです!!?」

「それについては今から説明する・・・ヨコシマ訓練生の戒めを解き、整列したまえ」
カーリーの言葉に我に帰ったベスパが、横島の自由を奪っていた土角結界を解除する

自由になったものの、今ひとつ状況を理解できない横島は目を丸くし、機械的に整列していた




普段の朝礼と同じように一人壇上に立ったカーリーが、整列する隊員を見渡しながら演説をはじめる

「今回の演習について説明する前に、協力してくれた人物を紹介しよう
 妙神山の管理人小竜姫君と修行者のパピリオ君、そして小竜姫の娘さんの蛍君だ」

いきなり呼ばれて慌てる二人だが、蛍に引きずられて壇上へと向っていく

「(ちょっと蛍!これはいったいどういうことですか?演習とか協力とか・・・)」
「(ちゃんと説明するでちゅ!何で蛍ちゃんがここに来てるんでちゅか?)」

「(いーから二人とも黙ってて!!さもないと、一生パパと会えなくなるわよ)」
蛍の殺し文句に二人は沈黙を強制される事になった

壇上に上がった小竜姫、パピリオの二人は落ち着かない様子でそわそわしているが
そんな二人を無視して、蛍が雄弁に語りだす

「ご紹介ありがとうございます。蛍と申します今回の演習について、詳しい説明をさせていただきます
 しばしご静聴を願います。
 今回の演習にあたって、『第9特殊部隊』からあった要請は、『少数で強襲が可能な人物』と言う事でした
 そこで、斉天大聖老師の協力の下、我々三人が派遣された次第であります」

蛍の言葉を引き継ぎ、カーリーが語りだす

「そう、我ら『第9特殊部隊』は護衛、陽動、強襲と危険度の高い任務が主な物である
 しかし、デタントの進む中で任務が激減している最中、隊員の意識を高める為にも
 隊員全員に今回の演習が有る事を知らせていなかった、これは私と斉天大聖老師の間で話し合った結果だ」
そう言って隊員を見回した後、小竜姫とパピリオに向って意味ありげな視線を向ける

「(どういうこと、蛍?魔界軍からの要請が有ったなんて・・・私は聞いてないわ?)」
「(当ったり前でしょ!ママがおじさんとパピちゃん連れて居なくなった後、大事になったら大変だって
  老師が手配したことなんだから!!)」

つまりはこういうことだった

二人の暴走を予見した斉天大聖老師が、横島の訓練先の部隊に連絡を取って
『軍からの要請で演習の敵役二人を派遣した』という事にし
そして蛍で暴走した二人をなんとかしようとしたのだ

カーリーも隊員の意識改革にもってこいとばかりに、二つ返事でこの裏工作に乗ったのである

こうしてデタント崩壊の危機は二人の機転によって回避されたのである
 
「さて・・・演習の結果を見る限り・・・最初の迎撃に失敗したものの、途中から囮を使った誘導に成功
 包囲網を利用し膠着状態に持ち込んだ・・・と。
 侵入者の正体に気づいてそれに対する有効な罠を用意できたのは良いが
 戦闘に関して言えば、完璧に後れを取ったな・・・明日からの戦闘訓練は厳しくなるぞ、覚悟しておけ!
 以上、解散!!」

カーリーの掛け声と共に、整列していた隊員は基地に向って行進を始める
今ひとつ釈然としない、横島、ワルキューレ、ベスパの三人が事の顛末を詳しく知ったのはその日の夕食の後だった




「ふーん・・・流石というか抜け目のないというか・・・でもまぁ老師のおかげでデタント崩壊は免れた訳か」
後からパピリオに抱きつかれ、両腕を小竜姫、蛍にしっかりと抱えられている横島が、蛍の説明に納得する

「余計な苦労を掛けたようだね、蛍ちゃん。はぁ・・・パピリオもちょっとは成長したと思ってたんだけどねぇ」
義兄の後ろに、隠れるようにしてこちらの様子を伺っている妹を一睨みするベスパ
パピリオはしれっとした態度で横島の背に頬擦りしている

「それで・・・この後どうしましょう?パパがこのまま残ると、ママがまた暴走しそうで・・・」
腕を抱きかかえる力を更に強めながら、蛍は心配そうに横島を上目遣いに覗き込む

「そうだな・・・横島の訓練は一通り終わっている。今の段階で訓練を終了しても問題は無い」
蛍の問いかけにワルキューレが答える

「じゃぁ、一緒に帰ってもいいんですね!!これで寂しい一人寝の夜とは無縁の生活に戻れるんですね!!!」
ワルキューレの言葉に敏感に反応した小竜姫だが「老師からおしおきがありますよ〜」と蛍から言われると
顔を青ざめる

「どうするの?訓練続けるか、それとも帰るか。決めるのは義兄さんだよ」
ベスパが横島に決断を預ける

しばらくの逡巡のあと、横島は皆を見回して結論を出す
「そうだな・・・もう蛍に迷惑掛けられないし、何よりワルキューレからお墨付きを貰ったんだ
 このままここに居ると・・・また小竜姫たちが何するかわからないしなぁ・・・」

「じゃぁ一緒に帰るんでちゅね!!みんなで帰れるんでちゅね!」
横島の言葉を受けて、はしゃぎだす

「ちょっと落ち着きなさい、パピリオ!・・・で、ジークのおじさんはどこに居るの?
 おじさんにも連絡しておかないと・・・」

「「あ・・・・・・・・・・・・・」」
蛍に言われて思い出したようだ


そのころ魔界の森の中

「老師に連絡するべきか・・・いやそれよりも先に『第9特殊部隊』に知らせるべきか・・・
 あぁ・・・どうすればいいんだぁぁーーーーーーー!!」
ジークは未だに一人で頭を抱えて悩んでいた






明けて翌日

朝礼の後、横島は隊長室に出頭していた

「ふむ・・・もう行ってしまうのか、寂しくなるな」
葉巻をくわえたカーリーが、まんざらでもない様子で横島をみる

「いえ・・・今回の一件では隊長に随分と迷惑を掛けてしまったようで、申し訳ないです」
横島が頭をさげる

「ふふ、気にするな。私にとってもメリットのある話だったのでな・・・
 しかし、随分と情熱的な奥方だな『愛の前にはデタントもなんのその』か・・・
 そこまで愛されているとはな、羨ましい限りだ」
口から立ち上る紫煙に視線を移すと、何やら考え事をしているような表情になる
ほんの少しばかり悩んだ後、一枚のカードと拳銃を取り出す

「この二つは私からの贈り物だ、このカードがあればいつでもこの基地に来られる
 いやなに、君はまだまだ成長すると思うのでな、いつでも好きなときに訓練に来たまえ
 そしてこの拳銃は君がココで訓練した証だ。余り使う機会は無いだろうが、どうか受け取ってくれ」

カーリーの心遣いが嬉しくなり、思わず目頭が熱くなる

「ありがとうございます、隊長。お世話になりました」

カードと拳銃を片手に敬礼し、軍人らしい動作で部屋を後にする横島を見送る
カーリーは横島の姿が見えなくなるまで敬礼を続けていた




横島の見送りはワルキューレとベスパだけだった

他の隊員は、隊長の命令で厳しくなった戦闘訓練のメニューを消化しているのだ

「横島、私はお前と訓練できた事を誇りに思うぞ!」
「いつでも来てくれよ、義兄さん」

見送る二人に笑顔を返す横島

別れ際になり感傷にひたる横島をよそに
帰宅後の『おしおき』を想像して恐怖に震える小竜姫とパピリオ
自分ひとりでアレコレなやんでいる間に全てが片付いていた事を知り、自己嫌悪に陥るジーク
三人とも、何やらぶつぶつと独り言を呟いていて、眼には光が感じられない
そんな三人の引率と化してしまい、呆れ顔の蛍
横島以外の者は別れの挨拶をする余裕は無かった


「あぁ、世話になったな二人とも。そっちこそ、休暇でも取れたら妙神山に来てくれ」
軍隊で過ごしてきた所為か、敬礼など所々に軍人らしさがにじみ出てくる横島
敬礼のあと、綺麗に回れ右をした後、家族を連れて転移の文珠を発動させる

チームメイトを見送る二人は、あふれる寂しさを堪えていた
敬礼ではなく手を振って見送る二人の姿は軍人ではなく、親しい友との別れを惜しむ者のそれだった

「義兄さんとの訓練、楽しかったなぁ・・・」
「・・・そうだな。厄介ごともあったが、あいつがいると何故か皆が明るくなった・・・」

三人での訓練期間を思い返す

そこには確かに笑顔の彼がいた

「さぁ今日の訓練に行くぞ、このままでは横島に置いて行かれるからな!」
「そうだね、いつか義兄さんの隣に立ってみたいしね」








〜おわり〜












妙神山に帰った小竜姫とパピリオと何故かジークが
首から『只今反省中』の札を下げ、妙神山全体の大掃除をしていた(全てを終えるのに推定6ヶ月近くかかるらしい)
大掃除が終わるまで小竜姫は横島とのスキンシップが、
パピリオは横島とのスキンシップに加え、TVゲームが禁止されていた

「え〜ん、終わんないでちゅ〜」
「うぅ・・・コレが終わらないと忠夫さんと一緒にお風呂が、添い寝が・・・」

「なぜ僕まで・・・いや、二人を止められなかったから仕方が無いか・・・」
ジークは特に禁止されている事はなかったが、新たな日課として大掃除が割り当てられていた

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