ザ・グレート・展開予測ショー

〜 『キツネと羽根と混沌と』 第4話 〜


投稿者名:かぜあめ
投稿日時:(04/ 6/26)



かこーん・・・かこーん・・・・

添水の音が鳴り響く。
畳みが敷きつめられた床と、陽光を透かす薄い障子。まさに純和風といった、たたずまいのその部屋に、男女が6人腰かけている。

「・・・・。」 「・・・・・。」

一体、どう声をかけていいものやら・・・・
そんなことを考えながら、互いに終始無言の、ポニーテールの少女と紅髪の少女。

「・・・・。」
そして、その2人をけん制する形で・・やはり無言の机を負った少女。
そして、そして・・・・・・

「いやあ〜!!やっぱ和室は落ち着くな〜ただでお茶もご馳走してもらえるし・・茶道部さまさまだぜ、なぁお前ら?」

「ほんとじゃノー。まるで心が洗われるようじゃ・・」

・・いや、洗っている場合でもないと思うが・・
そんな気まずい静寂の中、まったく周りの空気なんざ読んじゃいねえ2人の男が口々にそう感想をもらし・・・
・・。

(な・・なんだこの雰囲気は・・?もしかして居心地が悪いのは僕だけ・・?ぼ・・僕が異常なのか?)
男性陣の中、唯一、正常な思考を働かせるピートが一人、嫌な汗を流していたりする。

場所は・・説明するまでもなく横島の高校の茶道部室。
先ほど、廊下でばったり神薙と出くわし・・5人全員が彼女に促されるままこの部屋へと移動した・・。
そこまでは良かったのだが・・・

「「「・・・・・。」」」

入室から数分。今に至るまで、そろって女性陣はこんな調子である。気まずい・・。遠巻きに見ているだけで胃が痛くなりそうだ。

・・・。

「あ・・あの〜先輩、できれば、そろそろ依頼の詳細をお聞きしたいんですけど・・」
おそるおそる、といった調子で切り出すピートに・・・

「・・え?い・・依頼?」
横島とタマモの方をチラチラ窺っていた神薙は、一瞬、意味がわからないとばかりにキョトンとして・・

「あ・・ああ!そ・・そうです、依頼でしたね。す・・すぐにお話します。」
しかし、自分へと向けられる当惑の視線に気づくと、すぐにあたふたと話を始める。
動揺を隠すように、コホンと一つ咳払いをして・・・

・・・。

「横島くんから、既にある程度はお聞きになっていると思いますが・・ここ数週間ほど、茶道部は奇妙な部室荒らしの被害に遭っているんです。」

「・・・奇妙?」

怪訝そうな顔をする横島に、神薙は一つ頷いて・・・・

「単純な話なのですが・・ご覧のとおり、茶道部にあてがわれた部室はこの部屋一つしかありません。
 着替えから雑用、部活にいたるまで、活動らしい活動は全てここで行い・・それが終われば各々が荷物を持って下校する・・
 一日のうち一秒たりとも、この部屋が密室になることはあり得ないはず・・。」


つまり・・

そう続けようとする神薙の言葉をタマモが引き継ぐ。

「・・つまり、そんな茶道部で盗難を働くには・・白昼、大勢いる部員の目を盗んで部屋に侵入して・・
 なおかつ、誰にも気づかれずに脱出しなければならない・・?」

「・・はい。」

2人とも色恋沙汰よりこちらの方が得意分野なのかもしれない。さっきまでの慌てた様子はそっちのけで突然、雄弁に語り出している。

「霊障じゃなくて部員の中に犯人がいるって可能性は?」

「それは・・ありません。私が霊視した結果、反応が出ましたし・・。
 それに茶道部の部員は皆、女子生徒ですから・・。それはちょっと考えにくいかと・・・」

「?」

尋ねられた瞬間、何故か神薙が口ごもり・・・一同が首をかしげて彼女を見つめる。
気まずい沈黙。やがて・・彼女はあきらめたようにため息をつくと・・・・

「・・下着・・なんです。」

そう、一言つぶやいた。

「は?」

「私自身もすでに2度ほど被害に遭っているのですが・・。
 他の部員が金品を奪われるのとは違い、何故か私だけ・・2度とも下着を盗まれているんです。」

・・・。

だからこそ、最初は自分一人で事件を解決しようと考えていたのだ。
下着が盗まれただけでも顔から火が出る思いだというのに・・
さらにたちが悪いのは、自分がその時、盗みの現場に居合わせなかったこと。
まさか同じクラスの遠藤さんと佐々木さんに誘われて、部活を抜け出し甘味どころで餡蜜をつついていたなどと・・
そんなことが・・・

(そ・・そんなことがメドーサにでもバレでもしたら私は・・・)

・・はっきり言って破滅だった。
顔面を蒼白にしながら・・フルフルと神薙が震えだして・・
・・その次の瞬間。


ガタッ。


「な・・何?急にどうしたのよ、横島。」

何の前触れもなく、突然、横島が立ち上がったかと思うと・・・

「なるほど・・じゃあ、早速、捜査を始めないとまずいですね。」
なんてことを胡散臭いほど晴れやかな笑みで言い出して・・・・。いや、どこら辺がまずいのかは知らないが・・・・

「え?あ・・あの・・今日は依頼の詳細を聞くだけだったのでは・・・」

「いや〜事件解決は早め早めがいいですから・・。っつーわけでいくぞ、タマモ。」

「・・は?ちょ・・ちょっと!引っ張らないでよ。」
ずるずるとタマモの腕を引きながら・・・2人で部室を出ていってしまう。

・・・。

「・・・・?」
部屋には・・不思議そうに目をぱちくりさせる神薙と・・・

「「「・・・・・・。」」」
横島の考えが手に取るように分かり、半眼で頭を抱え込む・・・・理解の深い友人たちだけが残された。


――――――・・。


「あんた・・他のメンバーより先に犯人を見つけて、下着を横取りするつもしでしょ?」
廊下へ出るなりそんなことを言ってくるタマモに、横島は・・

「横島の横は横取りの横と・・・・」

「書くわけないでしょーがっ!!!」

いや、先祖から頂いた苗字をここまでコケにできるのもそれはそれですごいと思うが・・・
そんなバチ当たり指数120%的な発言を口にする相方へと、タマモは呆れたように肩をすくめ・・・

「大体、そんな犯罪まがいの行為に私が手を貸すとでも・・」

「・・報酬としてキツネうどん3杯。」

「・・・・・・。」

「あ・・今、ちょっと揺らいだだろ?」

「う・・うるさいわね。誰がそんな・・・・・」

なんて、いつも通りの不毛な会話を交わしつつ・・
とにもかくにも、横島とタマモの茶道部不可能窃盗事件(後に命名)調査が幕を開けたのだった。


                            ◇

そのころ、場所は変わって・・・

「にんじん・・じゃがいも・・玉ネギ・・ハチミツ・・」

商店街の一角・・今朝、横島たちが通りがかったその道を、おキヌとスズノが歩いていた。
小さなメモ用紙に記された材料の一覧。それを淡々と読み上げた後、スズノは少しだけ考えるようなそぶりを見せて・・

「・・・・。・・カレー?」

たっぷり10秒以上黙考してから、目線が上のおキヌを見上げる。

「うん。やっぱり料理を始めるなら、簡単なものから取り掛かった方がいいと思って・・。カレーが嫌いな人って意外に少ないみたいだし・・」
食材のつまった袋を抱えながら、なんとなくはしゃいだ様子のおキヌに対して・・

「・・おキヌのカレーは・・美味しいから好き・・・」
スズノはやはり淡々とした様子でつぶやいて・・・

「しかし・・今や時代は・・牛に乗る時代から食べる時代へと移ったのだな・・・」
「う〜ん・・私が昔、暮らしてた村には・・牛車は走ってなかったかな。」

・・。
・・・・・・。

のほほんとしたそんな会話。
なんだか微妙にやりとりが噛み合っていないような気もするが・・(というか噛み合ってないが)
うららかな太陽の光が差し込む中、2人は話を弾ませながら大通りの交差点まで差し掛かり・・・・

・・・・と。

「?」

信号が青へと変わったその時、不意に足を止めたスズノが・・・戸惑うように後方を振り向いた。

「どうかしたの?スズノちゃん。」
いぶかしむおキヌに彼女は右手で視線の先を指差して・・・・

「・・あれ。」

どこか困ったような口調で、そちらへと目を移すように促した。


―――――――・・。

「い〜え!絶対に右です。以前、鬼門たちと訪れた時は絶対右を通りました!」

「左でち!100%左でち!!ウソだと思うなら試しに進んでみればいいでち!」

「も・・もう騙されません・・。その口車に乗せられて・・
 昨日私はいかがわしいネオンサインの輝くお店に連れ込まれそうになったんですよ!?右です、誰が何と言おうと右です!」

「左でち!」

「右です!」

―――――――・・。

耳に入ってきたのは恐ろしく聞き覚えのある2つの声。
目に入ってきたのは恐ろしく見覚えのある珍妙な2つの服装。

しばらくそれを見つめていたおキヌが・・・

「・・・・・。」

無言のまま冷や汗を流す。
目の前にいる人物。今にも取っ組み合いを始めんばかりに憤っている2人組みが・・・
どちらとも、本当に彼女のよく知る友人たちだったから・・。
そして・・もしもこの2人が本気でケンカなど始めようものなら、商店街一帯が大惨事に見舞われると・・・
瞬間的に頭の中で理解してしまったから。

「・・・・。」

どうしたものかと固まるおキヌへ、その隣から、スズノがかすかに小首をかしげ・・・・

「もしかして・・知り合いなのか?」

「う・・うん。」

ひきつった声でそう答えると、またまたスズノが小首をかしげ・・・

「・・とめたほうが・・いいか?」

「う・・うん。え〜とその、お手柔らかに・・」

「ん。わかった・・・行ってくるから。」

おキヌの言葉に、コクンとスズノが頷いた・・・・その刹那。
驚く間もなく、突然、少女の姿が残像を残し消失する。いや、消えたように見えるほど・・・・それほどまでに彼女は速く動いたのだ。
スズノの姿は子どものまま・・。未だ本領とは程遠い状態だというのにもかかわらず・・
その速さは横島の超加速すら遥かに凌駕するような代物で・・・


「?何でちか?今取り込んで・・・って――――――!!!!!!!!!!!!?」

「な・・!?は・・速い・・・動きを目で追いきれな・・・・・きゃあああああああっ!?」

閃光と轟音。
口が裂けても「お手柔らか」とは言えない勢いで展開される目の前の状況。
コンマ数秒ですでに捕縛されかかっている小竜姫とパピリオの姿を見つめながら・・・

「ど・・・どうしよう・・」

今度こそ途方に暮れたように、おキヌが漏らしたその声も・・・・・・

ドゴァシャアアアアアアアア!!!!!!!!

・・・やっぱり轟音にかき消されたのだった。



――――・・。

「ご・・ごめんなさい。スズノちゃんは悪くないんです・・私が止めるように頼んだばっかりに・・」
「・・い・・いいんですよ。私も・・少し大人気なかった気がしますし・・それに、どこもケガしていませんから。」

喫茶店。オープンカフェになっているテラスの一端。
ラウンジで紅茶を片手に・・・ぺこぺこと謝るおキヌへと、小竜姫が申し訳無さそうに首を振り・・・

・・・少し離れた場所では、スズノとパピリオが何やら楽しげに会話をしている。
互いに同年代(外見年齢)の魔族を見るのは久しぶりなのだろう。にぎやかにしゃべり続けるパピリオにスズノが小さく相槌をうち・・・

・・・・。

「・・これは・・なんだ?」

手渡された金属筒を目にしながら、スズノが怪訝そうに声をもらす。
試しに頬へ当ててみると・・・冷たい。何か入っているのかもしれない。

「?ジュースも知らないんでちか?ほら、ここをこうして・・こうやると中身が飲めるでち。」

プシッ!
心地よい音ともにプルタブが開き、同時に缶の中からシューシューと何かの弾ける音がする。

「・・・・これを飲むのか?」

「そうでち。間を置かず一気に飲むのがポイントでち。」

「・・・・そーなのか・・」

何の疑いも持たず、どこか尊敬するような視線をパピリオへと向けた後・・。
言われた通り、一気に缶ジュースに口をつけ・・・・

「・・ま・・待って!スズノちゃん・・・それ炭酸・・・!」

・・コクッ・・コクッ・・コクッ・・・・

静止の言葉も間に合わず、スズノは缶を両手で持って・・・本当に一息もつかず炭酸飲料を飲み干そうとする。


・・数秒後。


「・・・・・。」

「・・・・・・。」(←喉がヒリヒリすることに気づき始めた)

「・・・・・・・・・・。」(←困っている)

「・・・・・・・・・・・・・・・。」(←とても困っている)

「・・・・・・・・・・・・・・・・〜〜〜」(←すごく困っている)

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」


声にならない悲鳴とともに、スズノが地面をのたうち回ったりして・・・・

「こ・・こいつ最高でち。こんなに面白い奴を見たのは初めてでち・・。」
それを尻目に本気で腹を抱えてうずくまっているパピリオ・・。・・・もう、典型的ないじめっ子といじめられっ子の図だった。

「こ・・こら!パピリオ!」

慌てたように立ち上がる小竜姫に・・・

「わっ!!小竜姫が怒ったでち!スズノも逃げるでち!」
言うが早いか、パピリオが弾丸のように街へと飛び出し・・・・・

「・・・・うん。」
スズノはスズノで、無表情ながら、やはりどこか楽しげに彼女の後を追う。
小竜姫の前で軽く会釈してから、そのまま、すぐに店を出て行ってしまい・・・・

――――――・・。

「まだ小さいのに礼儀正しいんですね・・。パピリオにも見習わせないと・・」
感慨深げに小竜姫がつぶやいた。

「は・・はぁ・・。でも、よかったんですか?何か美神さんにお話があるって・・それならすぐに事務所へ向かった方が・・」
遠慮がちなおキヌの声へ彼女は肩を竦めて苦笑すると・・・・

「いえ。最近少し張り詰め通しでしたから・・。追っ手も来ていないようですし、しばらく遊ばせてあげましょう。」
優しく緩んだ声。ラウンジから妙神山の方角を眺めながら、・・小竜姫は大きく息を吐き出した。


                          ◇

「茶道部員が白ってことは・・やっぱり同じクラブ棟の文化部室あたりが怪しいと思うんだけど・・どう思う?」

そんな声が聞こえて・・
物珍しげに、そこらかしこに見入っていたタマモが、ビクリと肩を震わせた。

「え?な・・何か言った?」

「いや・・だから・・・」

滅多にないほどぼ〜っとしている彼女に様子に・・横島は呆れ顔で口を開き・・・しかし・・・すぐさまその言葉を飲み込んだ。
考えてみればタマモがこの場所を訪れるのは初めてなのだ。
普段、事務所と商店街しか出入り者から見れば・・確かに学校という空間は異様に映るものなのかもしれない。

「・・興味津々って感じだな。」
文句のかわりに、からかうような口調でそう言ってみる。

「別に・・どうでも・・」

「あれまっ。相変わらず素直じゃないね、お前も。まぁ、今は仕事中だし、案内してやるヒマもないか・・。
 冗談抜きで神薙先輩の下着は取り返さないといけないし・・・」

急に真面目な表情で腕を組みだす横島。それにタマモは・・少し寂しそうに・・怒ったように視線を逸らし・・

「・・何よ・・。さっきから神薙先輩、神薙先輩って・・」

「は?何か言ったか?」

「・・・・・。」

尋ねてみても反応なし。スズノばりに無口になっているタマモに対して、さすがの横島もわずかばかり首をひねる。
・・今日のタマモは少し変だった。
いや、普通に生活していても時たま、様子がおかしいときはあるのだが・・・それにしても今回は極めつけとしか言いようがない。

(もしかして・・学校を案内しないって言ったのが勘にさわった・・とか?)

『・・ちげーよっ!!!!!?』・・という作者と読者のつっこみを無視しつつ、横島がタマモの顔を覗き込み・・・
だが、これが意外にも功を奏した。


「・・・・・何?」

「ん。もしアレだったら・・そのうち案内してやろうか?学校。もうすぐ学祭も近いし・・その時にでも顔出せば・・」

・・。

そう言った瞬間、タマモの瞳が信じられないと言わんばかりに見開かれ・・・・
そして、少し焦ったように後ずさると・・

「え?そ・・それって・・その・・・」

「まぁ、周りの奴らには他言無用な?大勢より2人の方が色々回れるだろ?」
さらっとそんなことを言ってくる横島に・・タマモの頬が今度こそ赤く染まり・・・
何というか、見事な肌色と朱色のコントラストが並んでいるが・・・それはとりあえずどうでもいい。


(ほんと・・・変なやつ・・・)

機嫌が直る、どころか・・・
180°反転して、上機嫌な様子で歩き出すタマモの姿に・・横島は軽く眉を上げ・・・

そしてタマモは・・・・

「ふふっ」

無表情を装いながら、何故か、どこか嬉しげに微笑んだのだった。


〜続きます〜

『あとがき』

読者さま全員が忘れていたであろう、小竜姫&パピリオが再登場ですね(笑
まぁ、その・・・今回は『タマモとスズノとドゥルジとおキヌちゃんを可愛く書く』という・・
ただそれだけのコンセプトで書いたお話なので・・・ええと・・
うあああ!!もしもつまらなかったり申し訳ありません。許してください・・(泣

さて・・次回は久しぶりにカッコいいドゥルジさまが見られます。
スズノとパピリオは書いてて楽しいので次もこんな調子で・・・(爆

それでは〜ここまで読んでくださってありがとうございました。またお会いしましょう。

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