ザ・グレート・展開予測ショー

フォールン  ― 04 ―


投稿者名:フル・サークル
投稿日時:(04/ 6/26)



プルルルルル・・・ガチャッ。

「はい、こちら美神除霊事務所。・・・所長の美神はただいま電話に出れません。便所です・・・ウンコです。ベンピです。そしてゲリです。一時間後も明日も明後日も百年後も電話は無理ですっ!」

「―――誰がじゃいっ!!」 どがしいっ!!

「おとといお掛け直ぶべらっ!・・・(だくだくぴくぴく)」

 血の海に沈んだ横島を足で除け、美神は受話器を取り上げた。

「お電話代りました・・・あら、神内さん。先日はどうもありがとうございます。ええ、楽しかったです。」

 電話の向こうからは神内の笑い声が聞こえて来る。

『・・・愉快な雰囲気の職場ですね。』

「いいえ、ご迷惑お掛けしました・・・ちょっと、霊障で脳にカビの生えてしまった者がおりまして・・・。」

『それは大変ですね。うちの商品でそんなケースに対応した霊薬があったかもしれません・・・探してみましょうか?』

「まあ、お構いなく・・・バカは死んでも治りませんから。」 べきっ!

 いつの間にか復活していた横島が、美神の後ろで電話に耳をそば立てていた。談笑しながらも彼の顔面に裏拳をヒットさせる美神。

「あら、またお食事に誘って頂けるんですか?嬉しいですわ。」 ぐしゃっ!

「そうですね、その日の夜でしたら・・・」 めりょっ!

「ええ、ありがとうございます。フフッ、楽しみにしてますわ・・・。」 ―――どすっ!!

 ―――最後のは足の爪先を鳩尾にめり込ませた音だったらしい・・・。美神が電話を切った後もしばらく腹を抱えて悶絶していた横島だったが、起き上がり激しく彼女に詰め寄った。

「またあの野郎っすか!?高級レストランとドライブでデートっすかあ!?」

「何よ?文句あんの・・・!?」

「あります!大いにあります!・・・あーゆー顔が良くて金も持ってる野郎がいつまでもそのコースだけの筈がないっ!次か、次の次あたりにこー言うんだ!“・・・ここのホテルのバーが今結構ウケてるんですよ・・・寄ってみませんか?”そして、程よく酔いが回った所で“もう終電なくなっちゃったね。僕も車出せないし・・・でも大丈夫。この上に部屋を取ってあるんだ。”とか言って・・・そして、そしてえええっ!!許せねええええっ!!」

「何でも自分の尺度で測ってるんじゃないっ!!」

「いやだーいやだー行っちゃやだあっ!このちちとしりと太ももは俺んじゃあーーっ!!」 ばたばたばたばた・・・

 床に転がって両手足を振り回しだす横島。

「デパートでゴネる子供かお前はっ!?」

 階段からシロとタマモの二人が降りて来た。二人に気付いた美神が声を掛ける。

「あらシロ、タマモ、おはよう。」

「・・・・・・おはよう。」

「・・・おはよーでござる・・・。」

 二人の返事は冷ややかと言うか活気のないものだった。互いに言葉を交わしたり顔を見たりする事もない・・・一昨日帰って来てからずっとこの調子だ。タマモが床でダダをこねてる姿勢の横島を一瞥して言った。

「・・・いつまでも白々しい事してんじゃないわよ。」

 シロが素早く横島とタマモの間に立ち塞がり、彼女を鋭く睨み付ける。タマモは表情も変えぬまま「フンッ」と鼻で笑い、居間へと向かった。

「白々しい?・・・何の事かしら?」

 二人が何故こうなったのかも分からないが、今のタマモの言葉も意味を掴みかねる。彼女の後ろ姿を見送った美神が振り返ると、横島は既に立ち上がっていてシロに言葉を掛けていた。

「何だよ、今日は散歩もなしで随分寝ぼすけだなあ・・・まっ、たまにはいーか。今日からの仕事は神経使うみたいだからな。お前もGメンとして来るんだろ?ヨロシクな・・・ん?どした?」

「・・・せんせえ・・・。」

 シロは不安げな、様々な感情の入り混じった目で横島を見つめ、何かを言いかける。だが、横島はさっきまでやっていた装備の点検に戻ってしまった。今日の作業は除霊ではなく、調査だ。測定器や記録装置など、普段使わない上に精度を要求される機材なので入念な点検が必要になる。彼が集中するのは当然だ。しかし・・・。
 シロの様子、タマモの様子、横島の様子。美神は息をついて眉根を寄せた。・・・・・・何かが、おかしい。



   ― ・ ― ・ ― ・ ― ・ ― ・ ―



 美神・横島・シロの三名が現場に着いたのは、昼前―事務所を出てから2時間程後だった。

「こ、これは・・・っ!」

 建物を見て美神は思わず声を上げる。彼女の驚愕は建物内部に感じ取れる濃密な気配と莫大な霊圧によるものだった。

「飽和状態だわ・・・いつ大爆発してもおかしくない!」

「・・・ぎゅうぎゅうに、詰め込まれてるっすね・・・。」

 横島の言葉に美神はうなずく。

「そうね横島クン・・・“詰め込まれてる”のよ。自然にこうなるなんて・・・あり得ないわ!」

 キッと何かの影がちらほら映る窓を見上げて睨む美神。横島も何かを思う様にホテルを眺めている。しかしシロは・・・顔を上げず、二人の背後から真っ直ぐ横島を見ていた。今朝と同じ、何かを言いたげな表情で。

「今日は大雑把に状態を見るだけだけど、測定なんかはしなくちゃならないから、横島クン機材の方お願いね。シロは今回私達の手伝いではなくGメンの仕事だけど、状況に応じて・・・特に横島クンのサポートをお願いするわ。」



   ― ・ ― ・ ― ・ ― ・ ― ・ ―



 人の背丈程の雑草に覆われた庭園跡。測定器を担いだ横島とシロがその中に分け入って10分あまり、美神が呼び掛けると横島の声が返って来た。

「全然っす。どこ測っても霊波は平常値です。」

 その茂みだけではなく、建物の外は全て同様で、霊の姿もない・・・すぐ傍の窓からは亡霊達が満員電車のようにひしめくのが見えると言うのに。
 横島とシロが茂みを出て、三人は揃って正面入口前まで移動した。美神はシロに霊波刀を出しておく様指示し、自らも神通棍を構える。

「ここから先は、外みたいに平和には回れないわよ・・・?」



   ― ・ ― ・ ― ・ ― ・ ― ・ ―



 ガラスの割り尽くされた入口をくぐる時、何か電流の様なものを感じた。中の霊を閉じ込めておく仕掛けと関係あるのだろう・・・人狼の里や南極のアシュタロス基地と感じが似ている・・・強固だが、何もかも塞ぐ「壁」ではない。
 それでも建物の中と外とを大きく隔てていた。霊の飛び交う中、慎重にロビーを測定して回る横島が美神に報告する。

「今度はどこを測ってもレッドゾーンっすよ。普通の人間が入り込んでも無事じゃ済まないでしょーね。」

 それはGSにとっても同じ・・・三人は全身数ヶ所に精霊石を装備していたが、それで接近を防げる低級霊ばかりが相手とは限らない。足元を恨めしい目つきで転がる生首を蹴っ飛ばして、美神も調査を始める。スプレーの落書きだらけの壁に沿って歩く彼女は急に立ち止まり、横島とシロを呼んだ。

「ここ、測ってみて。」

 美神が足で描いた円・更にそこから爪先を走らせた線を横島がセンサーでなぞる。美神からも正常値を示すメーターが見えた。今度はその線を歩いて行く美神、再び廊下入口で立ち止まり横島を呼ぶ・・・その一帯でも異常な霊圧は感知されない。横島が怪訝な表情を浮かべ美神を見る。

「・・・どーゆー事っすかね・・・?」

「霊力の空白地帯よ。・・・作られ、線で結ばれている・・・通り道だわ。」

「通り道?・・・・・・何の?」

「ここで何かしようとしてる奴のよ・・・多分ね。今日中に全部辿るのも面倒だわ・・・後回しにして、先行くわよ。」



   ― ・ ― ・ ― ・ ― ・ ― ・ ―



 奥に伸びる廊下もその両脇の部屋・・・厨房や物置・・・もロビーと似た状況だった。クリーニングルームの中では霊物質の糸が張り巡らされ、雑霊が何体も引っ掛かりもがいていた。その奥で揺れる異形の影・・・後でそれらを喰うつもりなのだろう。
 階段の入口へ来た時、シロが低く唸りながら霊波刀を構えた。首筋が粟立つ感触、美神と横島も同じものを感じて階段に視線を向けた。

「来るわね・・・それも、上から。」

 彼女達もこれから上の階を回る予定だった。美神の言葉にシロはうなずく。

「準備はいい?三人同時で行くわよ・・・横島クンも機材は一旦置いて“栄光の手”を・・・」

 三人は一気に階段を駆け登った。上からも近付いて来る気配――人間の霊魂ではなく、妖怪。三人へ強い敵意を向けている。


「たぁーーーーーっっ!!」
「成敗っっっっっ!!」
「だありゃああああああっ!!」 ――ズザアッ!!


 姿が目に入るや否や、三人同時に飛び降りながら斬りかかり、数体いた敵を一瞬で全滅させる。

「―――!?・・・今の奴は・・・っ!?」

 斬り捨てる間際、美神は驚きの声と共に振り返ったが、後ろでは霊波の四散する中に断末魔の悲鳴が響くばかりだった。



   ― ・ ― ・ ― ・ ― ・ ― ・ ―



―――ピリピリッ! 「!!」

 死霊とザコ妖怪とでごった返す廊下。連中を刺激しない様に通り、到り着いたステージホール。かつてはホテルの客を集めてショーやコンサートを催していたのだろう。そこに足を一歩踏み入れた美神は、ホテルに入った時と同じ――それよりも明確で複雑な流れの――霊波を感じ取った。
 軽い痺れをこらえながら客席中央まで進み、慎重に見回した。濃密な霊気にも関わらず霊の姿がない・・・いや、出入口や壁際にはいたが、椅子の置かれている付近から近寄ろうとしない。

「ここね。・・・やっぱり、何かあるんだわ。」

「何かあったんですか?」

「分からない・・・でも、何かがあるのよ。魔法陣や方陣の様なものが。」

 美神の言葉に横島もキョロキョロと見回してみた。

「でも、何もないっすよ?床や壁に書かれているのは落書きぐらいで、転がってるのはゴミだけ・・・。」

「すぐ見える様に作られてるとは限らないのよ?むしろ丸出しにしてたらおかしいくらいだわ。・・・霊視ゴーグルで見えるかしら・・・相手が本気でカモフラージュするつもりだったらムダでしょうけど。」

 ゴーグルごしにも何も見えなかった。美神はしばらく立ち尽くしていたが、急に美智恵から貰っていた建物内見取り図を広げる。

「この下、一階から二階は吹き抜けの中庭広場だったわね・・・地下一階は?・・・・・・大浴場・・・やっぱり。この上は・・・パーティースペース・・・大宴会場・・・イベントスペース・・・屋上。そうなのね!全部、広場だわ!」

「どうしたんすか?」

 美神は興奮気味に顔を上げた。尋ねて来た横島が口調と裏腹に妙に平坦な表情をしている事にも気付かない。

「感じたのよ。・・・下から上への大きな流れを。あった筈なんだわ、他の階にもここと似た様な見えない仕掛けが・・・全部、繋がってるのよ!この上下に、ホテルの状態の制御装置が・・・ここから先は憶測だけど、これを作った奴の目的は屋上にあるわね。・・・そこに単なる維持の為ではない、利用の為の仕掛けがある筈。」

「さすが、美神さんっすね・・・・・・もう、そこまで見通すなんて。」

「当り前じゃない!そこらのGSが一を聞いてる間に私は十を知るのよっ!でも、大発見だったわ。行くわよ、シロ、横島クン。この位置を重点的に、下の階から測定し直すわ。」

 新しい発見の事で頭が一杯になっていた美神は、横島の言葉に含まれていたものにも気付く事なく、意気揚々とホールの出口へ足を進めていた。



   ― ・ ― ・ ― ・ ― ・ ― ・ ―



 一〜二階、中庭広場。外庭同様雑草が生い茂っている。強烈な霊力のせいか草の生え方も変だった。傾き捩じれて伸び、上から見ると奇妙な渦模様を作っている。美神一人がその場に残り、横島とシロは二階通路での測定に取り掛かった。

「・・・と言っても、あの人が葉っぱまみれで草を掻き分けたりとかはしないだろーなー。どーすんだろ・・・?おっ、どこか行ったぞ・・・車か。・・・ガソリン持って来て、撒いて、火を・・・うわあっ、相変わらずやる事ムチャやなー。」

 測定しながら横島は苦笑いを浮かべるが、どこか楽しそうでもあった。そのまま階下での美神の苦闘ぶりを眺める。

「ゲホゲホ・・・こっちまで煙が・・・火事になったらどないするっちゅーねん。・・・・・・でもまあ、何が起きたって、美神さんがいればどーにかなっちゃうもんだよな・・・。」

 横島はそこで言葉を切り、少し長い沈黙の後、小声で「大抵の事は」と付け加えた。再び長い沈黙、その目線は遠い。

「これからもこの調子でバリバリ進んでもらいたいな、この人には。なあ、そー思わねーか?」


「――――夕陽でござるな。」


 シロは横島の言葉には答えず、彼の見ていたものを口にした。反対側のそこだけ外に面していた大窓から、遠くの山に沈み行く太陽の光が赤く中庭に差し込んでいる。
 夕陽は立ち昇る煙も照らし、赤い光の蛍みたいに・・・。

「・・・・・・ピートどのから、聞いたでござる。」

 彼女の言葉は、それを告げる事を逡巡しつつも決意と潔さとが滲み出ている。横島も「何を?」と彼女に聞き返したりはしなかった。

「・・・そっか。アイツ、喋っちゃったか・・・まあ、しゃーないな。アイツ、最初っからいい顔してないっつーか反対だったみたいだし・・・。」

「・・・拙者だっていい顔は出来ないで、ござるよ・・・。」

 横島が振り返ると悲しさや複雑な感情の入り混じった、それでいて険しい表情を浮かべているシロが真っ直ぐに彼を見据えていた。彼は再び苦笑する。

「何だよ、お前も師匠のする事に反対か?・・・いい顔できないからって、そんな顔するこたないだろ。」

 不意に、横島の顔から笑いが消えた。その視線にシロはビクっと身を震わせる。彼は彼女から視線を外し、測定作業に向き直った。センサーで床の霊圧を測りながら一言、訊いて来る。

「美神さんや・・・Gメンに報告、するか?・・・まあ、それがお前の義務な訳だろーが。」

 横島の上げた目線――やはり昏く底冷えのするものだった。圧倒され無意識に一歩下がるシロ。視線は今度は外される事なく、静かに彼女を追って来る。
 シロはキッと横島の目を睨み返し、そして首を横に振った。

「報告は、しないでござる。」

「じゃあ、見逃してくれるって事か。」

 再び彼女は首を横に振った。確かめる言葉の時も、シロの反応にも横島の表情は変わらない。

「見過ごすつもりもない・・・拙者は最後まで見届けるでござるよ。そして、もし、先生が道を外れるなら全霊かけて拙者の手で止めるのでござる。」

 横島の表情が緩んだ。軽く息をついてから言葉を返す。

「“アイツら”と同じ立場を取るのか。」

「・・・・・・拙者も拙者なりに愚考したでござる。仲間として取る最善の道を・・・まして、拙者は横島先生の一番弟子でござる。先生が間違えぬ様、見届ける上でも・・・先生が幸せを掴み取る事を願う気持ちも、他の誰にも負けるつもりはござらん。」

「そっか・・・。」

 横島は穏やかな笑顔を見せ、シロの頭をくしゃくしゃっと撫でてやる。シロは擽ったそうな心地よい顔でしっぽをぱたぱたと振ったが、やがてその表情に悲しげな色が濃く浮かび、しっぽの元気も失せて行った。

「でも・・・でも・・・仲間で・・・弟子でしかない・・・のが・・・上手く言えぬが、何だか・・・とても苦しいのでござる・・・・・・。」

「俺にとって、最高の弟子だよ。シロは。」

「・・・女狐の言う通り、拙者がいけなかったんでござろうか・・・。」

「何言ってんだよ。お前は何も悪くないだろ?・・・最初から全て俺の問題で、その答えは一つだったんだ。」

 いや、答えは一つじゃなかった筈だ。シロは心の中で反論したが言葉には出なかった。彼にとって過去の痛みが一人で乗り越えるものでなかったならば、“それ以外の答え”があった筈だと。

「せ・・・ん・・・せえ・・・。」

「お前みたいな仲間が傍にいてくれる。それだけで充分だろ、俺は・・・?それ以上の事は自分でカタを付けなくちゃな。」

 違う、違う、違う――本来、彼の求めているものは彼一人で解決できる問題ではなかった。彼は一つの答えへ追い込まれてしまったのだ。再び頭を撫でられながらも、シロの中で言葉にならない、整理されない想いは膨らんで行く。



   ― ・ ― ・ ― ・ ― ・ ― ・ ―



「―――てな感じだった訳さ。」

「ふーーん、さすが大将だな。この分だとバレんの予想したより早いんじゃねーか?」

「かもな。・・・だから、急がねば、だ。」

「分かるけどよ、もうそれは十分だろ・・・全体が軋んでる。限界なんだよ。美神令子の言った通り、爆発しちまうぞ・・・今日で終わりにしとけ。」

 真夜中のホテル内、術者用通路の行き止り――先日、シロと回った二階で雪之丞の忠告を聞く横島は手元の使用済み札を次々と破り捨てながら呪文―西洋魔術に類するらしい―を唱えていた。放たれる悪霊を結界内に縛り付ける呪文らしく、札から飛び出した霊体には呪縛の刻印が施されて行く。

「記号・・・また、失敗だったよ。」

 呪文を一旦切って横島が呟いた。

「またか。」

「ああ。・・・魔道書にも乗ってない記号をカオスに予想させるってのは無理があったな・・・。」

「エミの言葉は正しかったな・・・“魔族の記号は教わるもので、知らないからって割り出すなんて人間の出来る事じゃない”って・・・あのカオスでも駄目だったか。」

「ボケてるってのもあるしな。」

「ああ、ボケてるし・・・やっぱり、こればっかりは妙神山に行って聞いて来るのが確実だろーぜ。その土偶羅ってのだったら絶対知ってんだろう?ヒャクメかジークのつてで聞けるさ・・・いや、あのクソチビだっているんだ・・・奴も知ってるかも。」

「妙神山、か・・・すると、やはりパピリオ頼みだ。ヒャクメもジークも相談できない・・・まして、小竜姫様には絶対感付かれない様に接触取らんと。」

「ふん、お前の言ってるアレな、考え過ぎだと思うぜ?確かに固い連中だけど、それなりに甘ちゃんだろう?でもまあ、人間界に足が付かない様にするって意味じゃ正解だ。お前のやってる事はGS協会の違反項目3桁クリアーしてるからな。除名処分じゃ済まない。美神は身内の不祥事を全力で潰しに来る。」

「その辺は西条が何とか上手くやってくれるだろう。・・・それに、これが成功するなら除名処分や指名手配なんか安いもんだ。」

「横島・・・てめえ、やっぱり・・・!」

 雪之丞の眉間が寄った。横島は慌てて振り返り、今の言葉を取り消す。

「冗談だ、ジョーダンっ!無茶はしねえっ、迷惑もかけねえっ、これは守る!」

「ピート程気を揉んだり、神様やお上のルールなんざ気にしちゃいねえけどな、俺だって、他人を犠牲にしない・自分自身を犠牲にしようとも考えない、この条件だから協力してやってんだ・・・これが守れねえんだったら今すぐ両手足ヘシ折ってでも止めさせるからな。」

「わ、分かってるよ・・・。」

 横島は最後の一枚を破った。美神事務所の使用済み札を少しずつ抜き取り、カオスやエミの協力でこの廃ホテルに作った魔術主体の結界へ放ち続けて2年。限界まで負の霊的なエネルギーを蓄積させて来た。重く響く唸りと渦巻く霊の群れを見つめ横島は呟いた――祈りを唱える様に、語り掛ける様に。

「もうすぐだ・・・・・・もうすぐだぞ。」



 ここにはない夕陽を見る時の顔で。








   ― ・ ― 次回に続く ― ・ ―




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