ザ・グレート・展開予測ショー

〜 『キツネと羽根と混沌と』 第3話 〜


投稿者名:かぜあめ
投稿日時:(04/ 6/21)




〜appendix.3 『フォックス IN THE スクール』




「絶っっっ・・・対ぇ無理だって!!いいからお前は事務所に戻って大人しくしてろっつーの!」



・・声が上がったのは、商店街のド真ん中。

大半の店が、まだシャッターを閉めきっている・・そんな朝早い時間の出来事だった。

閑散としたショッピングモールにユラユラと・・金色のポニーテールが揺れている。
先ほどから、やたらと突っかかってくる相方に、彼女は軽く肩をすくめて・・・

「・・失礼ね。これでも演技には結構自身あるんだけど?」

今、自分が身にまとっている、とある高校指定の制服をつまみながら・・かすかに笑う。

それは『ふわり』とか『クスリ』とか・・そういった可愛げのある笑みではなく・・
逆に、『ふふん』とか『ニヤリ』といった風の・・どこかこちらを小馬鹿にしたような属性の笑顔だったりして・・

「それと付け加えるなら・・
 私にはこんな朝から大声を出して騒いでる方が、色々な意味で問題ありだと思うけど?どう?」

「ぐ・・こ・・こいつ・・・」

・・あー言えば、こー言う。
観念しなさい、とばかりに涼しげな視線を向けてくる目の前の少女に・・『彼』は思いっきり言葉につまって・・

「ま・・まあまあ、横島さんもタマモちゃんもそれぐらいにして。
 ・・いいじゃないですか横島さん。僕たちがフォローすればきっとなんとかなりますよ。」

険悪になりかけた空気を敏感に察知して、ピートがすかさず2人の間に割って入る。
気をつかって少し後ろを歩いていたが・・さすがにこの辺りが限界だった。
助け舟を求めて・・チラリと背後の友人を振り返ってみるが・・・

「ふ・・ふふっ・・これからしばらくは学校が物語の舞台・・。ということは・・わしにも・・わしにもようやく出番が・・」

・・どうにも援護は期待できそうになかった。
ピートが一瞬、躊躇している間に、口論はさらにエスカレートして・・・


「・・あのなあ!!お前、自分のスタイル見てからもの言えよ。なんだ?そのちんちくりんな胸のサイズは・・
 それで高校生のフリをする?オレらに紛れて事件を調べる!?チャンチャラ可笑しくてヘソがお茶を湧かしちまうぜ。」

「な・・ち・・ちんちく・・!?ゆ・・指差さないでよ、恥ずかしい・・。大体・・私だってもう少しすれば・・」

「どうかな〜九尾の狐が『絶世の美女』だったっての確かみたいだけど・・
 『スタイルがいい』なんて記述はどこにも残ってないぜ?案外、一生そのままかもよ?」


「!!!」


瞬間、タマモは本気でショックを受けたような顔で目を見開いて・・・
雷にでも撃たれたかのように、体をビクリと硬直させた後、そのまま動かなくなってしまう。

「・・・・・。」

「フッ・・勝ったな・・。」

「か・・勝ったなって・・タマモちゃん、本気で落ち込んでますよ?あ・・拗ねてキツネに戻ってる・・」

黙り込むタマモに、勝ち誇ったかのように横島がほくそ笑み・・・。すでに彼らは何の口論をしていたのかも忘れていたりして・・

・・。

(・・どうしてこんなことになっちゃったんだろうなぁ・・)

数秒後、目の前を飛び交う狐火を見つめ、ピートが一つ、ため息をついた。
人の良さゆえ、日々消えることのない悩みの種。
それらを、まるで持て余すかのように頭を抱え、2人を再度なだめるべく・・・彼は重たい足をゆっくりと前へ向けたのだった。



〜『キツネと羽根と混沌と 第3話』 〜



                           

事の発端は2日前の午後にさかのぼる。




         ◇                    




「・・横島くん?」


それは、ひどく優しげな声だった。
放課後の・・誰も居ない教室に響く、高く澄んだ声音。

机の上につっ伏したまま・・・呼んでもまるで起きようとしない彼に向かって、少女はもう一度、同じ言葉を繰り返す。

「横島くん?もう放課後ですよ?起きてください・・」

可笑しそうに・・だけど少しだけ困ったように・・・彼女は、抱えた鞄を床へと下ろして・・
・・・・。
時計の短針が、数字の6へと差しかかるような・・そんな時間。校門前に見かける生徒たちの影も・・すでにまばらになり始めている。

(仕方ありませんね・・)

少し苦笑しながらため息をつくと、彼女は掌を握り締めた。
薄く輝くアクアブルーの燐光。
腕から放たれる、その光を中心にして・・・やがて、小石大のツブテが幾つも創り出されていき・・・
次の瞬間、彼女の手の内に浮かんだのは・・透明で丸い氷の結晶。

・・・ごめんなさい・・。

心の中でそうつぶやいた彼女の顔は・・イタズラでも思いついたかのように楽しげで・・・
ニコニコしながら・・・ざらざらと氷の飛礫を彼の服へと流し込んでいく・・。

・・・・・。

・・・・・・・・。

ピクッ!

長らく、死体のように全ての運動を停止していた『それ』が・・突然、かすかに身じろぎして・・・

「・・・・ぐ」

「・・『ぐ』?」


「っ・・・あああああああああああああああ!!!!」

数秒後。
横島が見苦しい絶叫を上げ、元気よくイスの上から飛び上がった。
恐ろしく冷える首筋と背中を手で押さえ・・彼はうめくように(実際うめいているのかもしれないが)そこらかしこを跳ね回る。

「つ・・冷てえっ!!誰だ!!こんな悪質なイタズラしやがったのは!?
 そりゃ昼休みが終わったら起こせとは言ったけどな・・もう少しやり方ってモンを考え・・・・・・・・」


・・・と。
我に返ってそこまで言いかけたところで・・・・・・

「・・・・。」

彼の目の前に、キョトンとした顔の紅髪の少女と・・
人気といったものがまるで感じられない、寂れまくった教室の景色が飛び込んできて・・・

「・・・・あれ?」

間の抜けた声を上げる横島へ、少女はどこか慌てたように口を開いた。

「す・・すいません・・。メドー・・いえ、寝起きの悪い友人を起こすのにいつもこのやり方を使っているもので・・
 その・・・まさかこんなに驚くなんて・・」

「・・。え〜と・・。・・まぁ、それはいいんですけど・・。とりあえず、おはようございます。神薙先輩。」


神薙 美冬。

それがこの少女の名前だった。
紅みがかったロングヘアーに黒い大きな瞳。制服から覗く白磁の肌と息を飲むほどに整った、美しい顔立ち。
神懸かる、どころか・・・・本当の女神がいたとしてもその美貌の前では簡単に霞んでしまうのではないか?
一目見ればそんな感想を抱いてしまうような・・とにかく、彼女はとんでもない程の美少女で・・・

「はい。おはようございます、横島くん。」

折り目正しく、満面の笑みでそんなことを言われると、ついつい本題を忘れがちになってしまう。

「・・・って忘れんなよ。」

「?誰としゃべっているんです?」

「天の声です。」

「・・?」

・・よく考えると少し状況がおかしかった。どうして学年が一つ上であるはずの先輩が、この教室にいるのだろう?
そもそも、確か自分は・・昼休み終了と同時に昼寝も終える予定ではなかったか?

「あの〜つかぬ事をお聞きするんですけど。今、大体何時くらい・・・・」

「5時38分・・ですね。丁度、文化部が活動を終えるころです。」

「・・・あ・・あいつら・・」

わなわなと肩を震わす横島に、神薙はやはり笑顔のままで・・・・・
・・・・・。

「?」

しかし不意に・・心配そうに眉根をよせると、彼女は横島のすぐそばへ顔を近づけてくる。
髪がかかるほどすぐ近く・・・・。朴念仁である横島も、さすがにこれにはギョッとした。

「ど・・どうかしたんすか?」

「・・いえ。今日は少し元気がないように見えたので・・何か悩み事でもお有りですか?」

胸に手を当て、こちらを覗き込む。
そんな彼女の動作に、横島は思いっきり言葉をつまらせて・・・・

「いや、オレに悩みなんてそんな大層なもんは・・・・」

「私には・・話せないことですか?」

「うぅ・・」

深刻な表情でそう尋ねられると・・どう切り返していいか分からなくなる。

悩みは・・確かにあった。
3日前、廃屋での仕事をこなして以来、あの少女の声が頭から離れない。
ユミールと名乗った・・灰色の少女。そして、彼女が自分に向けて口にした・・あの言葉。
忘れろという方が無理な話だ。

「・・・。」

目線を合わせ、決して逸らそうとしない神薙の瞳が・・やがて、根負けしたかのように細められ・・

「・・わかりました。」
ポソリとつぶやく。

「?わかったって・・・・」

「とりあえず、今ここで聞き出そうとするのは諦めます。ただ、気が変わった時は遠慮せず、私に相談してくださいね?」

・・これでも、一応は貴方の先輩なんですから。

床に置かれた鞄を拾い、彼女は最後にそう付け加える。頬が少しだけ赤く染まって見えるのは・・きっと気のせいだろう。

「・・すんません。」

「いえいえ。ですが、それはそれとして・・今の横島くんには少し気分転換が必要なようですね。」

頭を下げる横島に向かい、彼女はゆっくりと腕を組む。そのまま・・少し考えるような素振りを見せて・・・

「はぁ・・気分転換・・ですか?」

「・・・ふむ。そうですね。本当は私一人で処理するつもりだったのですが・・そういうことなら・・」


一人つぶやく神薙を尻目に、横島は怪訝そうに顔をしかめ・・・
・・・と。突然、彼女が何かを思いついたかのように手を叩いた。

「・・横島くん。」

「はい?何でしょう?」

「茶道部一同を代表して・・私から除霊委員に依頼をお願いしたいのですが・・よろしいですか?」

先ほどから戸惑いっぱなしの横島とは対照的に、神薙の顔はやはり楽しそうに輝いて見えて・・・

・・・・。

だから・・思わずその姿に見とれて、反射的に首を縦に振ってしまったとしても・・・
それはまあ・・男としては当然な反応なわけで・・・・

                 
                            
                          ◇


「なるほど・・・そんないきさつを聞かされたら、不機嫌になるのも無理ないか・・。」

登校口の下駄箱前。

校門で4人と合流した愛子が、上履きを取り出しながら微笑する。
そう言いつつ、彼女自身がしっかり額に青筋を浮かべているのはなんだか恐いが・・・それは、ひとまず置いておいて・・・

そんな愛子のとなりには・・

「・・別に。あんな奴・・誰と仲良くしてたってどうでもいいから・・・」

この期に及んで、他人の前ではまだこんな心にもないことを口にする、タマモがいたりして・・・
台詞に反して、少し離れた場所でピートたちと話す横島を、チラチラ横目でうかがっている。


「でも・・その神薙先輩なんだけど・・実際のところ、今、横島くんと噂になってるのは本当だったりするから・・。」

「・・・・!」

ボソリとつぶやく愛子の声に、タマモが弾かれたように振り向いて・・・

・・・・。

『神薙 美冬』・・・この名前を聞いて何の連想もわかない人間は、今やこの学校には存在しない。
(横島・ピートなどの鈍感組は除く(笑))

半年前、何の前触れもなく3年のクラスに編入してきた転校生。
成績優秀・スポーツ万能。その温和な人柄から、男女問わず人気があり、転校一週間を待たずしてあっという間にクラスの中に溶け込んでしまった。

少し遠い場所から通学しているらしく、休み時間にうたた寝をすることが日課である。
(時たま「違います・・メドーサ・・。それは誤解です・・」という謎の単語を口にしながらうなされている。)

ちなみにニックネームは『ふゆふゆ』だったりするが・・最後の方はどうでもいい。
それに加えて、常軌を逸したあの美貌である。すでに彼女は隣町にまで知れわたるほどの有名人になっている。


「それでも・・神薙先輩って『誰と付き合ってる』とか『誰のことが好き』とか・・
 そういう浮ついた噂だけは立ったことがなかったんだけど・・」

「だ・・だけど?」

知らぬ間に顔を見合わせ、タマモと愛子が隅の方でコソコソと話し始め・・

「・・最近、横島君とよく一緒に下校してるって噂が・・・」

「・・・!」

「たまに喫茶店で一緒に仲良く話してるって噂も・・・」

「・・・・・!!」

「しかも、その目撃者が全部私だったり・・・・」

「・・ってそれは噂じゃなくて決定打じゃない!」

そこまで話しこんだ後・・2人はそろってその場にへたり込んでしまい・・
タマモに至っては何故か目に涙までためている。

――――・・。


「――――・・あの・・どうかしました?具合が悪いなら保健室までご案内しますけど・・」

「「??」」


瞬間だった。

背後から声をかけられ、同時に顔を上げたタマモと愛子が見たのは・・・紅い髪。黒い瞳。
それを・・金色の髪と深緑の瞳が見つめ返して・・・


「あ・・・え?貴方は・・横島くんの事務所にいた・・・・」

「こ・・・この間会った・・・」

不意の再会を果たしたタマモと美冬は・・・互いに言葉を失い、置物のようにその場に固まったのだった。


 ◇ 


〜appendix.4 『スズノとおキヌの大冒険<ぷろろ〜ぐ>』(ウソです、ごめんなさい(泣))


「部室荒らし?横島くんたちの学校で?」

「らしいんですよ。なんでも少し幻術が絡んでるそうで・・それでタマモちゃんが張り切っちゃって・・」

事務所のリビング。パーカーに腕を通しながら、おキヌが小さく口を開いた。
すでに習慣となっている、朝食の仕度を手早く整え・・すでに土壇場となりつつあるキッチンを後にする。

時刻はAM 7:15。普段ならそろそろ事務所を出て、学校へ向かわねばならない時間だった。

「うぅ・・だから先生は休日なのに学校へ出かけたでござるか・・。せっかく久しぶりに散歩に行けると思ったのに・・」

しゅんとして、肩を落とすシロに、おキヌはかすかに苦笑して・・

「今日は依頼の詳細を聞くだけだって言ってたから・・すぐ戻ってこれるんじゃないかな?」

彼女の頭を撫でながら、そんなことを言う。
いずれにしろ、戦闘になったところで横島とタマモが直接、現場に出向くのだ。
よほどの相手でもない限り、手に負えなくなるという状況は考えにくい。

「昼食の材料は6人分買ってきた方がいいかな・・。それじゃあ、美神さん、行ってきますね?」

「?あら?珍しいわね・・スズノと2人で出かけるの?」

玄関で靴のかかとを叩くおキヌ・・・・・と、その横に、ちょこんと立っているスズノの姿を確認し・・
美神が不思議そうに眉を上げた。

一体、何しに・・?そう尋ねようとして口を開くが・・・

「だめですよ、2人だけの秘密なんですから。ね〜?スズノちゃん」

「うん・・・・内緒・・。」

そんなことを言って・・
2人は示しをあわせるかのように・・そそくさとドアの外へと出ていってしまう。

「「??」」

美神とシロは・・目を白黒させながら、閉められた扉を見つめ続けた。


――――・・。


「ふふっ。でも驚いちゃった・・。スズノちゃん、どうして急にお料理を作りたいなんて思ったの?」

「・・料理を作れるようになったら・・きっと喜んでくると思ったから。」

「・・そうなんだ・・。料理・・誰に作ってあげるの?スズノちゃんのことを助けてくれたっていう蒼い髪の男の子?
 それとも、横島さん?」

からかい半分にそう聞いてみると、スズノはじーーっとおキヌの顔を見上げてきて・・

「??スズノちゃん?」

「おキヌ・・いつも一人で大変そうだから・・。私が分担すれば少しは楽になるんじゃないかと思って・・」

「・・・・・。」

・・・。
・・・・・・。



・・・・・・・・・・・ガバッ!!!

「!?わっ!ど・・どーしたのだ、おキヌ?どーして涙目で抱きついてくるんだ?そんなに今まで大変だったのか?」

そんなこんなで・・更に心の絆が深まる2人だった(笑


『あとがき』

いやはや、ワイド版の表紙がタマモでしたね〜(挨拶)タマモのポーズがなかなか自分的にはツボでした。
(すいません林原さん、詳細を語ろうと思ったんですけどやっぱり恥ずかしいので勘弁してください(笑))

読んでくださった皆さん、ありがとうございました〜微妙にお待たせして申し訳ありませんでした(泣
appendix.4はムダ話と見せかけて今後の展開に密接に関わってきます。要注目?です。

というわけで、タマモVS.ドゥルジさま 横島争奪戦開始と相成りました。まずはドゥルジさまが先制パンチということで(笑
次回は修羅場・・・なのでしょうか?2人とも遠慮してるんでそんなに大変なことにはならないと思いますが・・
ユミールが復活するまでしばらくラブコメのノリが続きます。後半はやっぱりハードなバトルの連続ですね〜・・(汗
それでは、また次回お会いしましょう。

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