ザ・グレート・展開予測ショー

ナンバー329843 その4 後編


投稿者名:青い猫又
投稿日時:(04/ 6/17)










新兵として入隊したワルキューレは、厳しい基礎訓練の期間をトップの成績で通り抜けた。
もちろん、それだけで自分の実力を示せたとは思っていないし、
これから決まる部隊の中には上には上が居る事も分かっていたが、
ワルキューレにとってそれは、ささやかな自信の一つだった。

それだけに、自分の生まれのせいで403部隊に配属されると分かった時、
少しだけあった自信は粉々に打ち砕かれた気分だった。

ワルキューレは、確かに迫害される前は神の地位に居たが、生まれもっての戦闘神だ。
戦女神と言われて恐れられたワルキューレは、下手な神族なんかに負けない自信はあった。

当然、ワルキューレが希望したのは前線で活躍する部隊であって、
戦闘に向かないと判断された者が集まる部隊では無い。

自分を担当した教官に何度も、部隊の変更を申請したが結局変更は無かった。

悔しかった、せめて戦闘部隊なら我慢も出来るが403部隊は強行偵察部隊だ。
しかも聞けば聞くほど、良い噂は聞こえてこない。

ごみ集団の集まりだとか、入隊して生きて転属出来た者は一人も居ないだとか、
洗脳されておかしくされてしまうだとか、部隊長が魔性の存在で部下が突然居なくなるのは、
獲物にしてるからだとか、ばかばかしい噂ばかりだ。
もし本当に部下が居なくなったら問題になるどころではない。

しかし、決まってしまったものはワルキューレにはどうする事も出来なかった。
いま自分に出来る事は一刻も早く手柄を立てて、転属を申し出る事だ。

そう心に決めて403部隊の宿舎の前に立っていた。

門の前に立っているのだが、おかしな点に気がついた。
通常、部隊の敷地と言うのは確かに塀で覆われている。だがそれは外からの侵入者を阻むものであって、
内側を威圧するためではない。なのになぜこの部隊の塀は、内側を威圧してあるのだろうか・・・

気にしても仕方が無いので門を開けて中に入る。受付に行くまでは誰も居ないだろうと思っていたが、
門に一歩入った瞬間声を掛けられた。

「ちょっとまちな、ここは403部隊の宿舎だ。分かって入ってきてるんだろうね。」

若い女性の魔族だ、赤い髪を肩ぐらいで無造作に切っているのが特徴で、
薄い生地の服を身にまとってるだけの、どう見ても待機中の兵とは思えない格好だ。
だが彼女は入り口が見える場所でジッと隠れていたようで、
ワルキューレが入って来るのをずっと見ていたらしい。

監視してるのか、思ったより警備は厳しいらしいな。

「はっ、自分は基礎訓練を終了して403部隊に入隊をする、ワルキューレであります。
入隊手続きをしたいのですが、こちらでよろしいでしょうか。」

いくら訓練期間がトップだろうと、部隊に配属されれば一番の新入りだ。
相手が誰であれ口の利き方には気をつけないといけない。

「ああ、そう言えば隊長が入るって言ってた新入りか、すまんすまん驚かせちまったな。」

そう言うと笑いながらワルキューレの肩を、バンバンと叩く。

「私の名前はっと、そだね。取り敢えず部隊で使うコールサインを最初に覚えてもらおうか、
私はブルーアイズ07だ、新入りはおそらく同じブルーアイズチームに入るだろうから、
07と呼んでくれれば良い。」

「07ですか。」

コールサインについては説明は受けているが、各部隊でかなりアレンジをしている場合が多いので、
行ってから覚えろと教えられていた。

「ああ、説明不足だったね。我が403部隊にはブルーアイズチームを大元とする、レッドバッド、
スカイキャット、イエローベアー、スカルフィッシュ、ブラックジャガー、
パープルフォックスの7チームが存在する。んで、それぞれ各チームの中でランダムに番号が割り振られる。
それが各自のコールサインだ。他のチームの番号を呼ぶときにはチーム名番号となるが、
同じチームの場合は番号のみだ。どだ、分かりやすいだろう。」

「なるほど、理解しました。」

確かにそれほど複雑ではないので、簡単に理解する事が出来た。
07は案内すると言って先に歩き出してしまった、ワルキューレは荷物を持ち直すと急いでついて行く。

「新入り、ワルキューレって名前だと、昔迫害された神の一人か。」

「昔の事です。今の自分には関係ありません。」

ちょっとむっとなりながら、07に言い返した。

「まあ、そう怒るな。私なんていまだに女神様だぞ。笑っちまうよな実際。」

403部隊は魔族として不適切と判断された者たちが集まる所だ、
実際いろいろな素性の者が集まっているだろう。
その中ではワルキューレですら、取るに足らない身の上なのかも知れない。
一つのドアの前で07が立ち止まる。

「ここだここ。」

目の前のドアのプレートを確認すると、隊長室と書かれていた。07はワルキューレに待ってろと言うと、
ノックをして中に入って行く。

「ふぅ」

ため息が漏れてしまう。
さすがのワルキューレも、これから部隊長に挨拶となると緊張を隠し切れない。
ふと、背中に気配を感じて振り返る。

ドサドサドサ

余りのショックに持っている荷物を全て落としてしまう。
目の前には、まるで合わせ鏡で映したようにそっくりの二人が、
上半身むき出しのまま、筋肉ムキムキの体を見せびらかす様にポージングをしていた。

「「お主、良い筋肉をしているな。」」

・・・・・

なんと返して良いか分からないワルキューレは、言葉が出てこなかった。
しかも事ある毎に、二人ともまったく乱れずにポージングを変えていくので、
見ているワルキューレとしては、冷や汗が出まくりだ。

「「どうだ、我らと共に筋肉を極めようではないか。」」

「え、遠慮しておきます。」

何とか振り絞ってそれだけを告げる。
ワルキューレの返事に、二人は気を悪くした様子は無く、にこやかに笑う。
正直、ちょっとだけ気持ち悪い・・・

「「誰でも最初は迷うものだ、気が変わったら何時でも言ってくれ。
我々は、イエローベアーチーム。」」

「06」

「11」

二人は番号の部分だけはそれぞれ口にするが、ワルキューレにはどこで見分けをつけるのか、
正直分からなかった。

「ぎゃははははは。」

突然二人の後ろから馬鹿笑いが聞こえてくる。
今まで気配をまったく感じなかったので、ワルキューレはびっくりしてしまった。

「よし、お前らこれで新入りのハートは俺たちが鷲づかみだ。いくら他の奴らでも、
これ以上インパクトのある挨拶は出来まい。賞金は俺たちの物だ!」

女性?・・いや男か。

後ろから出てきたのは、女と見間違えるほどの顔立ちをもった男で、金髪の髪をポニーテールで縛っていた。
イエローベアー06、11と名のった二人の肩を叩きながら、にこにこと嬉しそうに笑っている。

「甘い、甘いですよ。ブルーアイズ05!
喜ぶのは私が終わってからにしてもらいたい。」

先ほどと同じように、まったく気配を感じなかった方向から声が聞こえる。

「その声は、レッドバッド03!」

ブルーアイズ05と呼ばれた男が、声の方を見ながら叫ぶ。
突然、ワルキューレたちを照らすようにライトが光った。まぶしいのを我慢しながら見ると、
そのライトを背にこちらに向かってくる人影がある。体が大きく見えるのはマントだろうか・・

近寄ってくる人影がはっきり見えた時、思わずワルキューレは壁に手をついてしまった。

近寄ってきた男は、ビキニパンツだけを体につけ、その上にマントと首に蝶ネクタイ、
極めつけはシルクハットに丸サングラスで身をかためていた。

どう見ても変態だった。

さすがの三人も、これには驚いたらしく唖然としている。

「くっそ、その手があったか。」

「驚くのはそっちですか!!」

ブルーアイズ05の言葉に、ついワルキューレは反応してしまい、思わず口を押さえる。

しまったこんな事に反応してしまうとは、普段から冷静沈着を心がけているワルキューレには、
屈辱以外のなにものでもない。

それを見たブルーアイズ05とレッドバッド03は、にやりと笑うと近寄って硬い握手を交わした。

「「よし」」

「よしじゃな〜〜〜い」

突然二人は吹き飛ぶ。
隊長室から戻ってきた07が、跳び蹴りで二人を吹き飛ばした。
そして壁に激突して伸びた二人を、引きずるようにして隊長室に戻る。

「こら〜イエローベアー06.11逃げるんじゃない!
お前らも一緒に隊長室に入れ!」

ワルキューレの後ろで、こそこそと逃げようとしていたムキムキのマッチョコンビは、
隊長室に戻ろうとした07に見つかって連行される。

「新入り、お前も入れ。隊長がお待ちだ。」

展開についていけず、放心状態だったワルキューレはその言葉で我に返る。
急いで自分の荷物をまとめると、07の後を追って隊長室に入った。

「気をつけ〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

突然の声にびっくりして、持っていた荷物を再び下に落としてしまう。
だが、それでも姿勢を正せたのは日ごろの訓練の賜物だろう。

「ワルキューレ二等兵、只今の時刻を持って403強行偵察部隊への配属を許可する!!
ここはきさまが今まで居た基礎訓練の過程と違い、実力が無ければ生きる資格の無い場所だ!!
私の訓練を今までと同じだなどと思うな、死ぬ気で食らいついて来い!!」

「サーイエッサー」

ワルキューレはやっと軍隊に来たと実感できた気分だった。
よかった隊長はまともだ、何故かホッとする自分を感じる。

そこでやっと隊長をじっくり見る事が出来た。
やはり魔族特有の姿をしているのだが、整った顔立ち、スタイルの良さなどは、
それだけで芸術品になるぐらいだ。
腰ぐらいまでの髪を、後ろでゆったり縛っている。ワルキューレは珍しいなと思う。
軍に入っている者は、短い髪の者が多いので、長い髪を持っている者はまれだった。

「隊長、その厳しいお言葉。この05痺れるほどの快感を感じます。
ですが、せっかくの新兵歓迎会なので楽しく行きましょう。」

そう言うと、05は隊長の髪に手を伸ばして、髪を縛っている紐を引っ張る。

「あ、05やめろ!」

07が止めようとするがすでに遅かった。
隊長の髪を縛っていた紐は解けて、長い髪はストレートになってしまう。

「あ〜〜〜、05さんなんて事するんですか!
せっかく隊長の威厳を出そうと思って気合入れてたのに〜〜〜」

別人のように喋り方が変わった隊長が、05の胸を全然力が入っていない手でぽかぽかと殴り始める。
目をうるうるさせた05が、もうしんぼーたまらんとばかりに隊長を抱き締める。

「あ〜もう隊長かわいいな〜〜。LOVEですよ!!」

余りの事にワルキューレは言葉が出ない。今日ここに来て、何度驚いているか数え切れないが、
これは致命的だ。

一生懸命隊長から05を引き剥がそうとしている07に顔を向け、震える手で隊長を指差す。
今のワルキューレにはこれ以上は出来なかった。

「ああ、新入りお前の言いたい事はよ〜〜〜〜〜〜〜〜く分かるぞ。
実はな、実に残念だがあれが本当の隊長なんだ・・・・
隊長を教えた軍の教官がな、それは厳しい人で、髪を縛ると戦闘的な性格になるようになってしまったんだ。」

「ま、魔族軍とはすごい所ですね。」

後でその教官の名前を教えてもらって、弟を放り込むかと考える。
魔族の本質を持ってない弟だが、少しはましになるかもしれない。

「隊長〜こっちきて一緒にお菓子食べましょう。」

「は〜い」

05の声がするので振り返ると、いつの間にか05、レッドバッド03、
イエローベアー06、11の四人は、お茶とお菓子を用意してくつろいでいた。

「新入り〜、お前も来てお茶飲めよ。」

「こら〜05!、まだ隊長のお話が済んでないだろ!!」

バ〜ン

07が思いっきり机を叩く。その衝撃で、天井の一部から羽を持った魔族が降ってきた。

「あいた。あ、やば。」

急いで逃げようとする魔族の襟首を07が捕まえる。

「スカイキャット04、きさまなにしてる。」

「いや、新入りでも見よっかって皆で・・・・」

「皆だ〜〜」

スカイキャット04は目をそらして誤魔化すが、すでに遅かった。

「隠れている奴全員出て来い!!」

ガチャ、ガチャ

「よっこらせっと。」

07が叫ぶと部屋のあちらこちらから、次々に現れる。
机の下から、戸棚の中から、天井から、ワルキューレには一つの気配も感じ取れていなかったのに、
これだけの人数が隠れていたとは思っても見なかった。

あっと言う間に部屋が埋まる。

「ブルーアイズ07は横暴だ〜」

「04の馬鹿!、見つかっちゃったじゃない。」

「すまんすまん。」

「新入りって美人だすな〜」

「隊長〜LOVEぉ〜LOVEぉ〜LOVEぉ〜」

「ちょっとそっちもっとつめてよ〜」

それぞれが好き勝手に喋りだしているので、部屋中は大混乱になってきた。

「そういや〜ここに来なかった奴ってどこに居るんだ?」

「昨日の夜から新兵歓迎会と言う大宴会が、第6作戦室でやってるじゃないか。まだそこだろ。」

「スカルフィッシュ09とパープルフォックス01、お前たち隠れるの下手だな。居たの気がついてたぞ。」

「あら、さすがブルーアイズ05。」

「私、ブラックジャガー10とスカルフィッシュ03も気がついてたよ〜〜」

「あ〜もう、さすが隊長!」

場はどんどんと混乱を増していく。

「お前たちがそんなだから、私が一生懸命に努力して隠してるのが分からないのか〜
わざわざ、門の前で見張ってなきゃいけないのは、ばれたくないからなんだぞ〜」

「まあまあ、ブルーアイズ07。落ち着いて一杯飲めよ。」




「はぁ、何時になったら書類渡せるのだ。」

入隊書類を片手に、深いため息をつくワルキューレだった。














「すごい部隊だったんだね・・・」

魔界の空を高速で飛びながら、ベスパは驚きと言うかあきれると言うか、複雑な顔をする。

「ああ、私も長く魔族軍にいるが、あそこまでの部隊はいまだにお目にかかってない。」

「しかし、あのナンバー329843がそんな性格だったとはね。」

前回戦った時の事を思い出しながら、想像をしてみるのだが、どうしても話の中の隊長とは一致しない。

「一度髪を縛ると、ナンバー329843はまったくの別人のようになるからな、
冷静で、決断が早くて、そして強かったよ。でも前回の強さは異常だ。
確かに強い人だったがあそこまでは無かったはずなんだ。」

「まあ、その辺はこれからじっくり聞く事にしようか。」

そう言うと、目の前に二人の目的地が見え始めてきた。

ワルキューレは目的地を目の前に、再び昔の事を思い出す。
403部隊は、中のちゃらんぽらんさに反比例して優秀だった。
軍も目の上のたんこぶのように考えていたようだが、
隊長の出す実績のためどうしても取り潰す事が出来ないでいた。

だから、だからなのだろうか、あの時最後の最後で捨て駒のように使われたのは・・・・・



続く


あとがき
どもども、青い猫又です。

今回はワルキューレの回想、前編と言った感じです。本当は403部隊はそれほど
書き込む気は無かったのですが、つい調子にのっちゃいました。

気に入ってくれたら幸いです。ではまた次回に!

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