ザ・グレート・展開予測ショー

ナンバー329843 その4 前編


投稿者名:青い猫又
投稿日時:(04/ 6/17)









「あ、あ、そこは駄目・・・・」

横島はその言葉に耳を貸さずに、手を動かす。

「あ、くす、くすぐったい・・」

パピリオの視線が痛いほど突き刺さる。
振り返らなくたって分かる、興味津々とばかりにこちらを見つめているはずだ。

「そんな、そ、そこは〜」

・・・・・・プチッ

頭のどこかで何かが切れる音がする。

「うるせ〜黙りやがれ!」

ドカッ

いい加減我慢の限界に来た横島は、持っていたデッキブラシで鬼門の頭を叩いた。

「あいた、こら、なにをするのじゃ。」

「デッキブラシで門を洗ってるだけで、変な声をだすんじゃねえ。」

デッキブラシを片手に、仁王立ちの横島が左の鬼門に文句を言う。

「いや、しかしそこら辺は敏感なのでな、こすられるとくすぐったいのじゃ。」

「くっそ、なんで俺がこんな事を。」


おキヌに散々怒られた横島たちは、庭の掃除を終わらせて、鬼門たちが居る正門の掃除に来ていた。
庭の落ち葉を集めた時点で、横島たちは焼き芋の提案をしたのだが、正門の掃除を終わらせるまでは駄目と、
おキヌのお叱りを受けてしまう。
先ほど怒られたばかりの横島たちには、大人しくはいと言う以外の選択肢は、
残念ながら用意されていなかったのである。

「大体パピリオ、お前も手伝えよ。」

門の内側から、ジッとこっちを見ているパピリオに声を掛ける。
横島の言葉にちょっと困ったような顔をしたパピリオは、少し残念そうに答えを返す。

「手伝いたいのはやまやまでちゅが、この敷居から外に出ると怒られるでちゅよ。
だから外に出て手伝う事はできないでちゅ。」

その言葉で横島は思い出してしまった。どんなに妙神山で好き勝手に遊んでいるように見えても、
パピリオは様子見と言う名の謹慎中なのだ。
勝手に妙神山から出て行く事は出来ない。
パピリオが自由に振舞える場所は限りなく狭い、妙神山と言う箱庭の中だけだ。

「・・・すまん。」

「あ、いいでちゅよ。気にしないで続けてほしいでちゅ。」

俺は馬鹿だ。パピリオに気を使わせるなんて、守ってやるって決めたのにな。

・・・・
・・・
・・
ん?

少しの間沈黙した後、ふと気がついた事をパピリオに聞いてみる。

「なあ、パピリオ。前回俺が着いた時に鬼門たちを吹き飛ばして抱きついた時や、
今回着いた時に門の外で待っていたような気がしたんだが、俺の気のせいだったかな。」

横島が視線をパピリオに移すと、パピリオの目は横島のほうを向いておらず、あさっての方を見ている。
鬼門を見ると、なんと言うべきかと迷っている顔をしている。
再びパピリオに視線を戻すと、相変わらず視線を合わせないで、困ったように喋りだした。

「そ、そうだったでちゅかね〜、そんな昔の事は余り覚えてないでちゅね。」

「あ〜、妙神山を出てはいけないのは本当じゃが、なにも敷居を一歩も出てはいけないほど厳しくはないわ、
我々や、小竜姫さまたちが居ればある程度は修業場の周りをうろつく事は許されておる。」

「あ、こら。言っちゃ駄目でちゅ。」

パピリオが誤魔化そうとしている最中に、掃除されていた左の鬼門が横島に喋ってしまう。
慌ててパピリオが止めようとするが、もうすでに遅かった。

「ほ、ほう。パピリオちょっとこっちこいや。」

横島はパピリオの首根っこを捕まえると外に引きずり出す。

「あ、ヨコシマなんか顔が怖いでちゅよ。冗談、ほんの冗談でちゅよ。」

「うるさい、言って良い冗談と悪い冗談があるのだ。
心配したんだぞ、めちゃくちゃこき使ってやるから覚悟しろ。」

早速パピリオをこき使いながら掃除を始める。
だがこき使われているはずのパピリオは、横島の顔を見ながらずっとニコニコ笑っていた。

「ヨコシマ、心配してくれてありがとうでちゅ。」

掃除しながらふと、パピリオがそう漏らすと、横島は照れくさいのか顔を背ける。
それを見てパピリオも、なぜが嬉しそうに笑う。

「俺に出来る範囲なら、相談に乗ってやるから・・・出来なくても相談ぐらいなら聴いてやるから、
なんでも言えよ。」

「・・・はいでちゅ。」

少し言葉に詰まったパピリオが、嬉しそうに微笑みながらゆっくりと横島に返事をした。





「ちょっと〜〜〜、なに遊んでるのよ!!
そっちは進んでるの。」

横で右の鬼門の掃除をしているシロとタマモが、手の止まっている横島たちに文句を言ってくる。

「さっさと終わらせて焼き芋をするでござる。拙者楽しみでござるよ。」

すでに片付けに入っているシロも、横島を急かした。

「おう、悪い悪い。さっさと終わらせるからちょっと待ってろ。パピリオさっさとやるぞ。」

「了解でちゅ!」

パピリオは返事をすると、早速鬼門の体の方を押し倒した。
足で押さえつけながらデッキブラシで洗い出すと、左の鬼門が悲鳴を上げる。

「わ、こらなにをするのじゃ。そのくらい自分で出来るわ。あっ、そ、そこは駄目じゃ、
あ〜そんな物で擦ってはいかん!」

しばらくした後、満足そうな顔のパピリオがデッキブラシ片手に佇む姿と、
横で顔の方が涙を流しながら倒れている、左の鬼門の体があった。

「大丈夫か左の・・・・」

「うっうっ、もうお婿に行けない体にされてしまった・・・」

右の鬼門が心配そうに左に声を掛けるが、左の鬼門を慰める事は出来そうになかった。

「ペットのシャンプーは得意だったでちゅよ。」

パピリオが嬉しそうに横島たちに言ってくる。

「哀れね。」

「哀れでござるな。」

「同じ男として同情するな。」

それぞれが、感想を呟く。

だが、まあ左の鬼門には可哀そうだが、これで正門の掃除が終わったのも確かである。
周りを片付けておキヌに報告すれば終了である。

そう思っているとおキヌの方から現れた。

「横島さん、こっちは終わりましたか?」

巫女服姿のおキヌが、門の中から顔を出してきた。
泣いている左の鬼門を見て不思議そうにするが、とくに質問はしてこない。

「ああ、丁度終わった所。周り片付けるからちょっと待って。」

「はい、こっちも終わって焼き芋の用意も出来ました。休憩にしましょう。」

横島の返事を聞くと、門の外に出てきながらおキヌは答える。

「やったでござる〜〜〜〜んっ?」

嬉しそうに叫んだシロが突然空を向く、一瞬遅れてタマモもシロが向いた方向に視線を向けた。

「ん?。どうしたシロ、タマモ?」

「何かが落ちてくるでござるよ。」

シロは視線を空に向けたまま、横島の質問に答える。

「人かしら、まだ小さくて分からないわ。」

「お、おい、人ってなんだよ!」

タマモがいきなり物騒な事を言うので、横島も慌ててしまう。

「あ、落ちるでござる。」

その頃には横島やおキヌにも落ちてくるものが何とか見え始めていた。
さすがに、人とかは判別は出来なかったが、流れ星のように落ちてくる物体が隣の山に激突した。

・・・・

「どうするよ。」

みんなの気持ちを代表して横島が言葉にする。

「見た目は人だったでござるな。もし人間なら生きてはいないと思うでござるが・・・」

・・・・・・・

沈黙が重い、いきなりヘビーな展開に誰もついて行けない。
だが、その雰囲気をパピリオが砕く。

「あれ、魔族だったでちゅよ。あの程度では死ぬはず無いでちゅ、横島見に行くでちゅよ。」

その言葉にみんなはちょっとだけホッとする。

「先生が行くなら、拙者も行くでござるよ。先生を魔族からお守りするでござる。」

早速シロが名乗りを上げる。

「私も行くわ。」

続いてタマモ。

「美神さんに相談した方が良いと思いますけど、・・・・行くなら私も行きます。」

ついでにおキヌと、これで全員が名乗りを上げたことになる。
さすがの横島も少し考える。

どうするか、順当に行くなら美神さんに相談した方が良いんだが、奥に引っ込んだまま戻ってきてないしな。
邪魔するなって言ってたから、大事な用件のはずだ。
様子だけでも確認しに行くべきか・・・

「よし、パピリオ、シロ、おキヌちゃんはここに残っててくれ、
もし俺たちが1時間して戻らなかったら美神さんに連絡を頼む。
タマモは俺と来い。タマモは自分で飛べるとして、一緒に向こうまで俺を連れて行けるか?」

「まあ、横島だけなら何とかなると思うけど、スピードは出ないわよ。」

「先生、拙者もつれてってくだされ。」

置いて行くと言われたシロが、納得いかんとばかりに声を上げる。

「駄目だ、お前はここに残っておキヌちゃんを守るんだ。前衛は俺とシロしか居ないんだから、
二人とも行くわけにはいかないだろ。我慢してくれシロ。」

「分かったでござるよ・・・」

まだ少し納得できない顔をしていたが、おとなしく従う。

「タマモ行くぞ。」

「了解。」




だが行く時になって問題が発覚する。

「んで、どこを掴めば良いんだ?」

両手を翼に変えてしまったタマモを前に、横島が質問する。

「落ちないように背中にしがみついていて。」

「おう。」

そう言ってタマモの後ろに回りこみ、後ろから抱き付く。

「なんか恥ずかしいなこれ。」

横島がそう言うと、タマモの顔は瞬間湯沸かし器のように真っ赤になった。

「ちょ、ちょっと変な事言わないでよ。」

言われてみれば、状況的には横島に後ろから抱かれているのと一緒だ。
横島の一言でタマモも意識してしまったようで、ギクシャクして動きが硬い。

「横島さん、なにやってるんですか。」

振り返ってみると三人の目がとっても鋭く尖っていて、視線が痛い。

「さ、さ〜タマモさっさと行くぞ〜」

「う、うん」

相変わらずタマモは顔を真っ赤にしているのだが、ここに居ると命がやばくなりそうなので、
さっさと行く事にする。

「い、行くわよ。」

「お、おう。」

タマモが助走に入ると、当然動きが激しくなる。
すると横島は振り落とされないように、抱き付く力を強めるのだが・・・

ぎゅっ

ボッ、元々赤いタマモの顔がこれ以上無理と言うほど真っ赤になる。

「あ、きゃっ」

ビタン

タマモは足がもたついてこけてしまった。
すぐに立ち直った横島がタマモを抱き起こす。タマモは鼻の頭を打ったようで少し赤くしていたが、
とくに怪我は無いようだった。

「おい、タマモしっかりしろ。」

「よ・こ・し・ま・さ〜ん。」

タマモの心配をしている後ろから、地の底から響いてくるような恐ろしい声が聞こえてくる。
振り返るのは怖かったが、振り返らなかった場合の方がもっと怖いので、恐る恐る振り返る。

おキヌ、シロ、パピリオの刺すような視線が、容赦なく横島に突き刺さる。

「な・に・を、してらっしゃるんですか!!」

「え、俺、俺が悪いんですか。ごめんなさい、ごめんなさい。」

理由は分からないが、とにかく謝り倒そうと横島は謝る。

「横島、逃げるわよ。つかまって。」

いつの間にか復活したタマモが、そう横島の耳元で囁く。
その言葉に、つい横島もタマモにしがみ付いてしまう。すると今度こそ空へと飛び立つ事が出来たのだった。

「あ、横島さん。逃げるんですか!!
帰ってきたらただじゃ済みませんからね〜」

下から、とっても怖い捨て台詞が聞こえてくるが、もう遅いので諦める事にした。

「なあ、タマモ。おキヌちゃんなんであんなに怒ってるのかな。」

風の音がうるさいのでタマモの耳元で叫ぶと、その声にびっくりしたのかタマモのバランスが崩れる。

「み、耳元で喋らないでよ、息が掛かるじゃない。」

急いで体勢を立て直したタマモが、横島に抗議の声を上げる。

「悪い、それよりもタマモ、ちょっと動くぞ。」

「えっ!?」

とっさにしがみ付いた横島は、かなり厳しい体制でつかまっていた、
だから落ち着ける場所を求めてタマモの体を這い回り始める。

ぺたぺたぺた、にぎにぎにぎ、ずるずるずる

「ちょ、ちょっと横島〜〜」





謎の物体が墜落した付近に、今度は横島たちが墜落した・・・・


「すまん、タマモ・・・・」

「あんたが私の事どう思ってるか、よ〜〜〜〜〜〜く分かったわ!」

着地事態は横島の文殊で衝撃を無くしたとは言え、乱れた服や髪の毛は無残な姿を見せている。

「ちなみにタマモ、パンツ見えてるぞ。」

ドカッ

タマモの蹴りが横島の顔面に直撃する。

「ふん」

崩れ落ちる横島を見届けた後、タマモは起き上がって身支度を済ませる。
それが終わる頃には、横島は復活して起き上がるところだった。

「あててて、タマモ悪かったって、機嫌直せよ。」

「駅前のうどん屋で、きつねうどん10杯!!
横島に今更なに言っても無駄なのは分かってるけど、これは譲らないわよ。」

横島は、ふうと息をつくと頭を掻きながら答える。

「まあ、しょうがねえか。それで手を打とう。」

「毎回1杯で良いから、ちゃんと連れて行くのよ。」

「了解。」

やっと機嫌の直ったタマモに満足しながら、横島は安堵のため息をつく。

「さて、じゃ調べる事調べて帰るか。」

「そうね。」




謎の物体の墜落現場だと思われる場所に着くと、軽いクレーターのようになっていた。
中心部分は横島たちがいる地面より、下にさがっているので覗きこむ形になる。

「タマモ、気をつけろよ。凶悪な魔族かもしれない。もしもの時は俺を置いてでも逃げるんだ。」

「はい、はい。」

横島の心配を他所に、タマモはクレーターを覗き込んだ。

「わ、すごくきれい。」

タマモの声につられて横島も覗き込む。タマモがきれいだと言うのも頷ける。
恐ろしく整った顔立ち、スタイルにしても、出るところは出て引っ込む所は引っ込んでいる、
およそ女性の理想を追求したようなプロポーションだった。
唯一つ難点と言えば、少しばかり胸のボリュームが足りない。いや出ていないわけじゃない、
だがもうちょっとあると良いな〜と横島は思う。
そして今何より目立つのは髪だった、恐ろしく長い髪が本人を中心に広がっていて、
まるで花のように開いていた。

「き、きれいなお姉さんは大好きで〜〜す。」

横島はいつもの調子で下に飛び降りようとするのだが、タマモの一言で止まってしまう。

「横島、怪我してるよ。」

言われて見れば、彼女のわき腹付近から血がにじんでいる。
それがまた、いっそう鮮やかさを演出しているのは少しばかり皮肉だった。
色は紫だったけど・・・・

相手は魔族、相手は魔族、相手は魔族。

それで頭の醒めた横島は、頭を振ると少しばかり冷静になる。

「タマモ、俺降りるからそこから見ててくれ。」

「うん。」

横島は用心しながらクレーターの下に降りる。
下についた後は、周りに広がっている髪を踏まないように気をつけながら、ゆっくり近寄った。

いつでも相手に反応して文殊を使えるように、構えながらそばによると軽く揺さぶってみる。

「おい、おい、しっかりしろ。生きてるのか。」

「う、うぅ。」

口が動いて横島の声に反応する。

がしっ、魔族の手が横島の腕をつかんでくる。横島とタマモに緊迫した雰囲気が流れるのだが、
すでに振り払えないほど力を込めてつかまれているので、どうする事も出来ない。

文殊を使うか横島が一瞬迷ってる間に、魔族の目がゆっくり開きだした。

「おい、大丈夫か?」

半分ほど目を開いた魔族が、横島をつかんだ手と反対の方を自分の傷口に当てると、
目に思いっきり涙を溜める。

「い、痛いの〜〜〜〜」

「はっ?」


目にいっぱいの涙を、ぽろぽろ流しながら泣きついてくる魔族に、どうして良いのか分からない横島は、
大人しくすがりつかれるままで固まってしまった。





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