ザ・グレート・展開予測ショー

フォールン  ― 03 ―


投稿者名:フル・サークル
投稿日時:(04/ 6/10)



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 時々、自分が息をしている事を思い出さなくちゃならなくなる。
 どこかに置き去りにしてしまいたくなるんだ・・・自分自身を

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 深夜。山の中の一本道を廃虚のホテルへと乗りつけた二台のハイエース。10ヶ近くの人影が車から降り、数分もしない内に辺りはライトで照らし出される。
 光の中心には業務用ビデオカメラを担いだ男と50歳前後のバラエティ番組司会で有名な男性タレント、そして芸能人ではないが最近TVでよく見かける紫色のスーツを着た厚化粧の中年女性の姿があった。

「―――霊視者・北枕通夜子の心霊特捜ファイル。今回我々は視聴者から寄せられた情報を元に、ここN県山中のとある建物へやって来ました・・・!」

「はい、OK。じゃあホテルの外観何パターンか撮ってから、北枕先生のカット行こうか。先生、その間に霊視の方、お願いします。」

 カメラが歩きながら喋るタレントとその隣の霊視者とを撮り終えると、彼らを重点的に照らしていたライトが今度は建物全体に向けられた。
 番組のオンエア時には今のカットと次のカットとの間に、視聴者からの手紙の文面や付近住民の証言、そして建物外観の画に合わせて、このホテルの奇怪な噂を解説するナレーションが入る予定だった。
 好評を得ているシリーズ番組。予定はいつもギリギリに詰まっているが、まずまずの状況。
 スケジュール表とドリンク入りクーラーボックスを用意しながらホテルに視線を向けていたADがディレクターに駆け寄り、小声で訴えた。

「やっぱり、何かヤバいですよココ・・・やめにしましょうよ?」

 ディレクターは素早く彼の太腿を蹴り、やはり声をひそめて凄んだ。

「てめえ、何ビビって勝手な事言ってんだぁ!?」

「ビビってるとかじゃないですよ。ヤバい時にヤバいって感じられる事がこの手の番組やる上で一番重要だって・・・クボさんが言ったんじゃないですか!クボさんだって気付いてるんでしょ?・・・そこから湧いて来るヤな感じを。」

 痛みに顔をしかめながらもADは言い返す。ディレクターはちらっとホテルを見てから、彼をそのままに北枕の所へ歩いて行く。彼女は建物の周辺と正面入口付近を「視て」いる所だった。

「先生、どうです・・・何か見えますか?」

「ええ。あちこちの窓に浮かんでますね、人の顔が・・・数までは分かりませんが。それと、入口のロビーでも何体か歩き回っています・・・ただ、建物から出ては来ない様です。ホテルの外には一体も見当たりません。」

「なるほど、それで・・・中に入っても大丈夫ですかね?」

「まだ何とも言えません。もっと近くに行ってみないと・・・。」

「そうですか。では、次のカットではそのコメントお願いします。」

 ディレクターはADの所へ戻り、てめえ何ボーッと突っ立ってんだよと怒鳴りながら脇腹をパンチして掴み寄せ、再び小声で話す。

「あのな、俺だって分かってんだよ。何かあのホテル普通じゃねえ・・・今まで見た心霊スポットと訳が違うって。でも、現場でお前がやめようとか言ってんじゃねえ。それにここには専門家もいるんだ・・・。」


――――「霊視のおばはんは、専門家とは言えないっすよ?」


「・・・何だと、こら!?」

「今言ったの、俺じゃないです!」

 二人は顔を上げ、声の主を探す。その時、現場の人間が皆――撮影スタッフも、タレントも、北枕も――同じ方向を注目しているのに気付いた。
 それらの視線の先、光と闇の境目に若い男が立っていた。・・・現場の人間ではない。
 男はこちらへ歩いて来る――どこから来たのだろう、どう考えても普通じゃない・・・例え最も現実的に、ホテルの横の暗がりを歩いて来たと考えてもだ――。

「ここの・・・関係者の、方ですか・・・?」

 ディレクターは男の素性について、あり得そうな答を探しながら尋ねてみる。
 ・・・形ばかりでもここを管理している不動産会社がロケを監視する為に社員を送り込んで来た・・・これなら十分あり得そうだ。

「あれのロケっすよね・・・北枕センセーの心霊特捜の。ちょうど晩メシの時にやってるから、俺もよく見てたっすよ。」

 男が口を開いた。その話しぶりから、どうやら生きてる人間ではある様だ。

「予定とか、テレビさんの事情もあるんだろーけど・・・やっぱ俺もそう思うっすよ――今すぐ撮影を中止して、引き上げた方が身のためだってね。」

「だから・・・アンタ、どこの人?」

 ディレクターの前に立ち、男は名刺を差し出す。彼はそれを受け取り、読み上げた。

「GS美神令子除霊事務所、ファーストスタッフ・横島忠夫・・・アンタ、GSかよ?それも・・・」

 美神の名前はディレクターも知っていた。この番組が企画段階だった頃、彼女をレギュラーゲストに呼ぶ案もあり、その件でプロデューサーが何度も口にしていたからだ・・・あらん限りの罵声と共に。
 彼の表情を読んだのか、目の前の男―横島は苦笑する。

「うちの所長にも話来たみたいっすけどねえ・・・ほら、あの人がめついから・・・ハリウッド級のギャラ吹っ掛けて来たんじゃないっすか?」

 その通りだった。ディレクターも怒り狂ったプロデューサーから聞いている。
 ディレクターは冷淡な口調で横島に問い掛けた。

「・・・で、その美神さんとこのGSさんが今更何の用?知っての通り、この番組はもう彼女・・・北枕先生で順調に回ってるんですよ。いくら一流のプロだろーと、今から出演の再交渉したいってのなら遅過ぎ・・・」

「でも、そのおばはん、“見えるだけ”じゃないっすか・・・・・・ねえ?」

 最後の呼び掛けは、振り返って北枕に向けられていた。
 当の彼女はその時フラフラとホテルに向かっていた――まるで“呼ばれた”かの様に。横島の声も届いていない。

「先生っ!―――北枕先生!!」

 北枕はホテル入口7〜8m手前で立ち止まっていた。横島と現場の人間達が近付いてみると、彼女は入口の奥のロビーを凝視し、全身を硬直させている。
 かちかちかちと歯の鳴る音が聞こえる。ADは彼女の視線に沿ってロビーを覗き込み、見る間に顔色を失くして行った。白い顔のままロビーとその近くの窓とを交互に見回して、やがてひいぃっと甲高い悲鳴を歯の隙間から絞り出す。
 衝撃音と共に建物が軋んだ――気がした。
 ディレクターにも今やハッキリと感じ取れている。建物内の暗闇でひしめいている無数の気配を・・・入口から、窓から・・・壁の裏側から。

「・・・・・・キツいっすよねえ?」

 横島が北枕達の前に回り込みながら、妙に優しい口調で語り掛けて来た。

「俺は忠告しに来ただけですよ。ここは見えるってだけの奴がどうにか出来る様な場所じゃない。見えてるなら分かるでしょ?・・・ほら。」

 ―――彼らは見た。薄笑いを浮かべて立つ横島の背後・・・入口からも窓からも無数の顔が――かつて人間だった、あるいは初めからそうでなかった者達の顔と目玉が――一斉にこちらを向くのを。
 再び衝撃音。中にいる“何か”が鳴らしているのだ。


 来た時以上のスピードで現場を撤収させ、我先にとロケメンバーの乗り込んだハイエースが走り去ると、辺りは再び静寂と闇に包まれる。
 一本道の果て、小さくなるテールランプをしばらく見送っていた横島は踵を返し、廃虚の中へと消えて行った。



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「う〜〜〜〜ん、飲みが足りないぞ西条・・・私の話を聞けぇ・・・」

 ブラインドの隙間から陽光が射し込むベッドの上、美神は大きく寝返りを打った。
 やがて顔をしかめながらゆっくりと半眼を開き、呟く様に言う。

「頭、痛い・・・横島クン、水・・・。」

「オーナー、今の時間、館内には誰もいません。」

 人工幽霊壱号のテレパシーだけが返って来た。美神は更に眉根を寄せる。

「頭痛いって言ってんでしょ・・・そんな大きな念話で、がんがん響くじゃない。」

「・・・失礼いたしました。」

「・・・・・・何で、横島クンだったのかしら。こーゆー時に呼ぶなら、普通おキヌちゃんよね・・・。」

 でも何故か、目覚めて激しい頭痛に意識が揺さぶられていた時、横島がすぐ傍で「美神さん、大丈夫っすか。」と心配そうに見ている様な気がしたのだ。

「本当にそこにいたら、シバき倒してる所だけどね・・・。」

 そんな独り言の後に続くのは苦笑い。本当にいたら殴るって言うのに、それでも「いる」と自然に思ってしまう・・・彼が自分の事を気に掛け、求めて来るのを当り前の様に。
 ―――一体、どーゆー位置付けなんだろう。

 神内の事は何となくいい人だと思い始めている反面、いい所しか見せていない様な気もしていた。だがそれは自分も同じだ・・・彼の前で「仕事が好き」と言った事はあっても「お金が好き」と言った事は一度もないし、昨晩の様な飲みっぷりも見せていない・・・。
 そして、西条・・・酒に弱い(彼女と比べて、だが)し女たらしだし正論吐く割にやる事が結構セコかったりもするが、彼女のいい所“以外”も知った上で、まめに付き合ってくれる。それに何より、幼い頃からの憧れの人でもあった。
 心のどこかで神内と西条を天秤に掛けている自覚はあった・・・そして、その天秤に横島は載せていない事も。
 美智恵の指摘を待つまでもなく、横島が美神にとって「ただの丁稚」じゃなくなっている事は彼女自身が良く分かっていた。

 だけど、彼らと横島とが並べられるイメージもやはり、彼女の中にはなかった。
 いや、「それはちょっと違う」と言う思いが強く存在していた。



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―――ずきずきずきっ!!

「くっ・・・くぅーーーーーっ!」

 ICPOオカルトGメン日本支部の一室、ここにもまた二日酔いに苦しむ者が一人。

「西条どのっ、大丈夫でござるかっ?」

「あ、ああ・・・すまない。」

 シロが持って来たコップから水を一気に飲み干すと、西条は手元のファイルに視線を戻した。

「美神どのとの“でえと”はなかなか大変なのでござるな。拙者の里ではああ言った大酒飲みの事を“うわばみ”と蛇の様に呼んでいたでござるが・・・。」

「・・・人間界でもそう呼ぶよ・・・それよりシロ、今度はこの書類の入力を頼む。」

「任せるでござるよ・・・おや?これは・・・。」

 西条から渡された書類が彼女の興味を惹いた。何か調べ物中の彼に遠慮なく尋ねる。

「これは美神どのにお願いしている例の化け物宿屋の件では・・・?」

「んっ?ああ、そうだな・・・分りづらいからホテルと呼んでくれたまえ・・・まだ彼女が引き受けるかどうかは分からんのだが、いずれにしても調査が始まったら、GSのサポートと言う形で君にも行ってもらう事になると思う。」

「ならば、やはり美神どのに引き受けて欲しいでござるな。同じサポートするなら美神どのと一緒が良いでござる。」

「・・・・・・“彼女と”じゃないだろ?」

 痛むこめかみを押えながらも、西条は含みのある笑顔をシロに向けた。言葉と笑いの意味を察したシロの頬が瞬時に赤らむ。

「あ・・・その・・・いやぁ・・・エヘヘ・・・」

「同じ仕事なら君の先生と一緒が良い。出来ればいつも一緒が良い・・・そーだろ?」

「エヘヘヘヘ・・・そんなハッキリ言われると照れるでござるよ・・・」 ぱたぱたぱた・・・

 しっぽを振りながらくうーんと喉を鳴らすシロに、西条は真顔に戻って言った。

「僕としても彼には令子ちゃん以外の女性とずうっとくっ付いてて貰いたいからね。君の事も応援するが、早くGSの資格も取って女っぷりも上げて彼に認められる様にならないとだな。いつまでもデレデレされてると困る・・・この仕事も気を引き締めて掛からないと危ないんだ・・・。」

「美智恵どのも瘴気とか負の力とか言っておられたが・・・良く分からんでござるな。ただそこらの悪霊や妖怪が一杯集まってると言うだけでござろう?そんなに危ない様には・・・」

 首を傾げるシロ。西条は呆れた様に説明を続ける。

「本当に何も分かってないな君は・・・いいか?瘴気が蓄積しているって事は、喩えるならあのホテルは人の血を十分に吸った“八房”なんだよ。」

 この喩は呑み込めたらしく、シロの顔に緊張が走った。妖刀八房――血に飢えた、人狼族の霊剣。
 人を斬る事で妖気を蓄え、人を斬るだけの刀ではなくなった。刀の使い手を人狼の忌むべき祖先「フェンリル」へと変えた――彼女の父の仇、犬飼ポチを。

「では・・・この化け物宿・・・“ほてる”に悪霊が一杯いると・・・何に化けると言うのでござるか?」

「様々な可能性が考えられるな・・・これが自然になったものなら、異界や魔界への小さな穴となるかもしれない。人為的に作られたものなら他に、強大な魔族を発生もしくは召喚する事も・・・おっと。」

 西条は何故か途中で口を噤んだが、シロには気付かれなかった。彼女の注意は「人為的」の言葉に向けられていたからだ。

「つまり・・・この場所がこうなったのは何者かの仕業である、と言う事なのでござるか?」

「ん・・・“かもしれない”と言う事だ。とにかく、油断大敵であると僕は言いたいのだ。心したまえ。」

「承知したでござるっ。」

 書類を手にシロが元気良く退室すると、西条は机上のファイルの一冊に眼を向け、慌ててそれを閉じた。
 そこにあったのは数年前に作成された件のホテルに関する報告書だった。
 ―――十体以上の浮遊霊・地縛霊が確認出来るが、人間界との接点も薄く実害及び苦情もなし―――。
 そう記された低レベル案件用の書面の片隅に書き込まれた日付や時刻、電話番号のメモ・・・見られている筈もなかったが何となく気になった・・・。
 後で上手く処分しよう、そんな事を考えながら西条はファイルの何冊かを引き出しに放り込み、先程からの調べ物を再開した。



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「イラつくのよ、このバカ犬・・・!」

「女狐、言い残す事はそれだけでござるか・・・?」

 怯えた事務職員に呼ばれてピートが駆け付けてみると、共用マシンの前で殺気立ったシロとタマモが、それぞれの手に霊波刀と狐火を構え睨み合っていた。

「何をしてるんだ二人とも!?やめろ、やめるんだ!」

「武士の情けでござる。止めないで下されピートどの。」

「アンタだってイラつくでしょ!?ここの空気。こーゆー不快なバカを排除でもしなくちゃやってけないわよ・・・!」

「一体何を言ってるんだ・・・とにかく落ち着いてくれ!何があったのか説明してくれ!」


―――その数分前―――


 西条から預かった書類を手にしたシロは、その入力の為に職員共用マシンの前にいた――そこには先客がいた。

「ええと・・・3・が・つ・ど・の・ほ・っか・い・ど・う・え・り・あ・・・」

「タマモ・・・未だに一本指で打ってるのでござるか・・・不器用な女狐でござる。」

「うるさいわねえ・・・。」

 最近のタマモは外での捜査以外はいつも共用マシンの前にいる。驚異的な入力作業の遅さがその理由だが、それだけではないであろう。
 日本にあまり伝承の残らない人狼族と違い、金毛九尾の狐を人間に害を為す存在ではないと見る事は人間にとって――ここオカルトGメン職員の間でさえも――強い抵抗があった。
 配属された部署でも必要最小限の連絡しか同僚とのコミュニケーションはない・・・何よりも、彼女が出社して来ると明らかにその直前と空気の張り詰め方が違う。
 仕事の緊張感ではない・・・何か危険な異物が侵入して来た時の緊張感だ。
 それは、伝承どころか今実際に人間に有害な妖怪として認識されている吸血鬼の血を引くピートなら尚更な事でもあったが、彼の場合西条直属なのであまり軋轢を受ける機会はない・・・それでも、拒絶される者独特の空気を感じる事は少なくなかったが。

「私の事不器用って言うけど、アンタはどうなのよ・・・?」

「拙者でござるか?拙者は狼のカンと侍の修練によってぶらいんどたっちまで習得したでござるよ。」

「そうじゃなくって・・・横島よ。」

「ふぇ?せんせえ?せんせえがどうかしたでござるか?」

 タマモは溜め息をついた。昨日の横島の、どこを見ているか・・・目に映るどこも見ていない、何か諦め切った様な笑顔。
 一区切り文章を打ち込んでから、再び口を開く。

「アンタ、いつまでアイツと一緒にいられると思ってる?・・・今のままの関係でずっといられるとでも?」

「大丈夫でござるよ。せんせえは優しいから、嫌な顔する時もあるけど大抵は拙者を散歩に連れてってくれるのでござる。だから多分、せんせえとはずっと一緒にいられるのでござる・・・タマモ、お主も二日酔いでござるか?」

 眉間を寄せてこめかみを抑えたタマモ。呑気に尋ねてくるシロに対し、ますます目尻が吊り上る気がした。
 喧嘩を売りたくもなかったが、ただでさえ職場内での不遇で苛立っているタマモの口調には荒れが見えて来た。

「分かった・・・バカ犬にそんな聞き方した私もバカだったわ・・・質問を変える。そのアイツの優しさが、何でずっと続くと思えるの?アンタ達の関係は、アイツの優しさだけで成り立ってるの?・・・アンタは何もしないの?」

「それは心外でござる。拙者だって、微力ながらせんせえの事を守りたいでござる。そして・・・拙者がせんせえを優しいと思った分だけ、いやそれ以上に優しくしたいし、せんせえに幸せに笑ってもらえる様にしたいし、それに・・・もっと近くになりたいと・・・うまく言えぬでござるが・・・ほら、拙者も女子でござるし・・・」

「その為に何かしてるのかって、聞いてるのよ!」

 タマモ自身、こんなに声を張り上げたのは久し振りな気がしていた。気分は晴れるどころか一層重くなっていたが。
 横島の微笑み、同僚達の貼りついた笑顔、シロの間抜けな程に無邪気な笑顔、それらが頭の中でぐるぐる回りながら彼女に更に剣呑な言葉を選ばせる。

「ハッキリ言うわ・・・それ、無理ね。横島はいつかアンタから離れる・・・そしてアンタの事なんか殆どきれーさっぱり忘れる。バカなアンタは、何も出来ないまま。」

 タマモの怒鳴り声にきょとんとしていたシロもさすがにこの言葉には気色ばんだ。

「――! そんな言い方ないでござろう?何でお主がせんせえの事そんな風に言えるのでござるか・・・?」

「何で?・・・簡単じゃない、今の時点でそうなりかけてるからよ。」

「だから何で、そう言えるのでござるか・・・っ!?」

「見れば分かるでしょ?近くにいてもそんな事が分からないからアンタはバカ犬だってゆーのよ。」

 怒らせ、傷付けるつもりなど最初はなかった・・・色々教え、アドバイスしてやるつもりだった。
 だが他ならぬ自分自身が無性に腹が立っていた・・・口に出たのは嘲笑う声。

「横島先生と拙者を侮辱する気でござるか!?ならば容赦しないでござるぞ女狐!」

 シロが書類を後ろに放り投げ霊波刀を出した。タマモもマシン前の席から立ち上がる。

「やる気なら相手になるわよ!私は見てるだけで不愉快なバカ犬に優しく出来ないからね!」

 タマモが狐火を出した時、順番待ちの列も他の席のマシンを利用していた職員も一斉に逃げ出していた。







   ― ・ ― 次回に続く ― ・ ―



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