ザ・グレート・展開予測ショー

祭り道


投稿者名:青い猫又
投稿日時:(04/ 6/ 9)

ピィピィピィヒョロロン、トコトントコトントコトン、チンチン

笛、太鼓、鉦が煩いぐらいに鳴り響く、そんな賑やかな通りを歩いている。

いや楽器の音だけじゃない。家族連れや、肩を寄り添って歩く恋人たちの話し声、
小学生ぐらいと思われる子供たちの一団が、人の多い通りを駆け抜けるざわめき。

カランコロン、履いている下駄を響かせながら、店のガラスに映った自分の姿を思わず眺める。

うん、変じゃないわね。

雇い主の気まぐれで買ってもらった浴衣を着ているのだが、ピンクの生地に花柄の模様は、
ちょっと子供っぽい気がしてどうしても気になっていた。

着付けてくれた時に、とっても似合うよと言ってくれたが、どう見ても言ってくれた本人の方が、
浴衣にしろ着物にしろとっても似合うので、素直に喜べないのが本音だ。
しかもなぜか馬鹿犬のほうが、大人っぽい浴衣だったのは納得がいかない。

「むむむむむ。」

ガラスに映る自分の姿を、いろいろポーズを変えて確認する。

あいつは気に入るかな〜

ふぅ〜とため息をついてガラスに額を当てると、反射して鏡になっていた店の中が見える。

クスクスクス、店の中の若いお姉ちゃんが、こちらを見て笑いながら微笑んでいた。

ボッ、顔から湯気が出来るんじゃないかと思うぐらいに恥ずかしくなり、
真っ赤な自分の顔を意識しながら通りへと逃げ出す。

恥ずかしくて、しばらくあの店には近寄れそうにも無い。

しばらく通りを歩いて火照った顔を鎮めると、何気に空を見上げる。
日は大分落ちてしまったが、周りの屋台たちが裸電球の光を、
発電機の音と共に輝かせているので、正直明るすぎるぐらいだ。

ガガガガガガ〜、発電機の音は普段なら気になるぐらい煩いはずなのに、
今はまあ良いかななんて考えてしまう。

「まあ、今日ぐらいはね。」

歩いている通りには、吹き流しや折鶴、紙衣が所狭しと飾られていた。

それぞれが、電球などで鮮やかに浮かび上がるよう飾られているので、
普段見ることの出来ない幻想的な光景を見せてくれる。

ここは本当にいつも歩いている道なんだろうか、もしかしたら何かに化かされて居るのかも知れない。
そこまで考えて思わず笑いそうになる。

馬鹿だな、化かすのは自分のほうだ。
狐が化かされたら笑い話にもならない。

「そこの嬢ちゃん、りんご飴買ってきなよ。可愛いからサービスしちゃうよ。」

突然横から声を掛けられたので振り返ると、金髪に染めた髪をつんつんと立て、
ぺけぺけ商店街と書かれた半被を着た屋台の兄ちゃんが、こちらにりんご飴を差し出していた。

「ん〜ざんねん。奢らせる相手はこれから会うから、まだお金ないのよね。」

カランコロン、下駄を鳴らしなら近寄り、笑いながら誘いを断る。

「あら、ざんねん。彼氏もちか。」

何気ない一言に、火照る顔を感じる。

「か、彼氏じゃないわよ。財布よ財布!」

はははと、笑いながら少し形の崩れたりんご飴を差し出してきた。

「本当はいけないんだけどな、嬢ちゃん可愛いからサービスだ。
やるよ、次会った時はぜひ買ってくれよな。」

両手で屋台の兄ちゃんが差し出してくれたりんご飴を受け取る。

そして誰もが魅了されるような微笑を浮かべながら、力いっぱいお礼を言う。

「ありがとう。任せといて、次会ったら絶対あいつに山ほど買わせるわ。」

おうと言う屋台の兄ちゃんに手を振りながら別れて、再び通りに戻る。

通りの時計を眺めると、約束よりまだしばらく時間があった。
そこでちょっと裏路地に入ってみる事にする。

屋台とか飾りつけの大半はメイン通りにあったが、裏路地は裏路地で個人の家が飾っている吹き流しや、
折鶴、笹に付けられた短冊、紙衣がそれぞれの家に飾られていた。

また屋台も決して無い訳じゃなく、ちょっとした店や個人で出している売り物が並んでいる。

「これはこれで良いわね。」






ピィピィピィヒョロロン、トコトントコトントコトン、チンチン

笛、太鼓、鉦の音がどこからとも無く鳴り響く、すぐ近いようでもあり遠くで鳴っているような気もする。

きゃははは、わ〜い、わ〜い。

後ろの路地から現れて、違う路地に入っていく子供たちの気配と声。

でも振り返ると誰も居ない。

周りを見渡して思う、自分の住んでいる町はいつの間に、
トタンの屋根と安物の壁で作られた木造の家ばかりになったのだろうか。

チリ〜ン、チリ〜ン。

風鈴の音で振り返ると、路地の一つから沢山の風鈴を吊るした屋台が現れた。
荷台に乗せているらしく、年老いたお爺ちゃんがそれを牽いている。

チリ〜ン、チリ〜ン、いつの間にか祭囃子の音はどこかに消えて、ただ風鈴の音だけが聞こえる。

ここはいったいどこなんだろうか・・・・・・



「どすこ〜〜〜い」

ドゴォ〜〜ン

突然空から人が振ってくる。

へぇ?

自分の目の前に落ちてきたのだが、余りのでかさに目の前を覆われてよく分からない。

巨大な物体があたりを見渡し始める。

「男、男はどこじゃ」

「まて〜〜毎年毎年いい加減にするんだ。」

同じように空から降ってくる人影に、目の前の物体が舌打ちをする。

「ちっ、しつこい。」

そう言うと路地の一つに、ドスドスいいながら逃げて行く。

そして空から古めかしい服を着た男が降り立った。

あ、確か見たことある。ふとそう思ってしまう。

「今日しか会えないと言うのにどこ行ったんだ〜〜」

きょろきょろと辺りを見渡している男と目が合う。

「君、ここに落ちた女性がどっちに行ったか知らないかい。・・んっ
君は確か前にあったことあるよね。」

事態についていけず、こくこくとただ首を縦に振ってしまう。

「どうやってここに迷い込んだか知らないけど、余り来ないほうが良い。
ほら、あの路地を行けば表に出られるから、もう帰りなさい。
それとどっちに逃げたが教えてくれると嬉しいんだが。」

やはり声に出さないで指で逃げた路地を指す。

「ありがとう、待って、待ってくれよ〜〜〜」

礼を言った後、男は半泣きになりながら逃げた路地に飛び込んで行った。

しばらくぽかんと眺めていたが、そろそろ約束の時間になると気がついて、教えられた道へと歩き出した。







あんたがったど〜こさ〜

路地を進んでいると、だんだんと女の子の声で唄が聞こえてきた。

声に惹かれるように進んで行くと、二つに分かれた道の真ん中で、女の子が鞠をつきながら歌っていた。

ふと唄が止まるとこちらに駆け寄ってくる。

「お姉ちゃん浴衣きれい。」

そう言ってこちらを見上げてくる。

「あ、ありがとう」

他に返す言葉も見つからず、つい礼を言ってしまう。

「ねえねえ、お姉ちゃん一緒に遊ぼう。」

女の子が手を引きながら誘ってくる。
だが、約束の時間が迫ってる身としては、残念ながら遊んでる時間は無かった。
しゃがみ込んで女の子と同じ目線になると、遊べない事を告げる。

「ごめん、大事な人が私を待ってるから行かなくちゃ。ごめんね。」

そう言うと女の子は、嬉しそうに微笑む。

「そっか、お姉ちゃんの好きな人に会いに行くんだね。」

その言葉には顔を真っ赤にして慌ててしまう。

「ち、ちがうわよ。そう言うんじゃないってば。」

手をばたばたさせながら一生懸命に否定をするが、女の子は笑っているばかりだった。

「あっ」

突然女の子がそう言って、こちらの一点を見つめてくる。
気になって自分も見てみると、先ほど貰ったりんご飴をジッと見つめていた。

「貰い物だけど、いる?」

りんご飴を前に出して女の子に聞いてみる。
途端に女の子は目をきらきらさせる。

「良いの?」

「うん」

女の子はりんご飴を受け取ると、嬉しそうに街灯の光に透かしている。

「ありがとうお姉ちゃん、お礼にこれあげるね。」

そう言って紙風船を手渡してくる。

「ありがとう。」

お礼を言うと女の子は嬉しそうに微笑んだ。

「あとお姉ちゃんが行きたい道も教えてあげる。右に進めばお姉ちゃんの会いたい人に会えるよ。」

そう言うと女の子は、バイバイと言いながら左の道に消えて行った。

少し悩んでから女の子が言った方に進んでみる事にした。






するとだんだんと祭囃子の音が聞こえだした。

ピィピィピィヒョロロン、トコトントコトントコトン、チンチン

笛、太鼓、鉦が再び鳴り響く、
それだけじゃない、屋台の音、子供たちや恋人たちのざわめきも聞こえ出した。

今まで静かだったから煩いぐらいだ。

メイン通りにたどり着く、ふと気になって後ろを振り返ると、
飲み屋の瓶ビールのケースなどが積まれた、人が通るには難しい小さな路地だった。

少なくても今まで歩いてきた路地とは全然違う。

幻覚?

ふとそう思ったが、自分の手の中にある紙風船が現実だったと言っている。

やばい本当に化かされたかしら・・・・・・まあ良いか

通りの時計を見ると、そろそろ待ち合わせの時間だったので、今は気にしないでおく事にした。


待ち合わせにしている商店街の入り口に来ると、少し早かったようでまだ相手は来てなかった。

仕方がないので、座るのに丁度良い塀に座って待つ事にする。

足をぷらぷらさせながら、目の前を通り過ぎる人たちを眺めていると、いろいろな人が通り過ぎる。

これから祭りに向かう人、手にたくさんの物を持って出て行く人。

水風船、綿飴、袋に入った金魚、お面、満足して帰っていく者、期待して入って行く者。

此処は想いの通り道、眺めて見ているのもまあ悪くはない。

だがそろそろ自分も混ざる時間だ。


こちらを見て走ってくるあいつを見つける。

さて、まずはりんご飴でも買ってもらいますか。





あとがき
ちょっと思い立って書いて見ました。
まだ気が早いけど七夕近いですしね。

今回、わざと一人の名前も出してません。
それでも分かってもらえるように作ったつもりですが、どうだったでしょうか。
ではでは

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