ザ・グレート・展開予測ショー

ナンバー329843 その3 後編


投稿者名:青い猫又
投稿日時:(04/ 6/ 9)











嫌な任務だった。

神と魔の最高指導者が和平を考えている。その話が流れ始めたのはちょっと前からだった、
歓迎をする者も居れば当然歓迎をしない者も居る。
そしてなにより、戦いが好きなのは魔族だけでは無かったのだ。

しばらく落ち着いていた神と魔の戦いが、その話を境に活発になった。
魔界に神族の勢力が、かなりの勢いで入り込んできたのだ。
当然魔族軍も本腰を入れて迎撃するのだが、
どちらもハルマゲドンを恐れて小規模の戦闘が起こるぐらいだった。

そんな中一部の魔族の連中が、入り込んできた神族に対して大部隊を投入しようと提案をした。
当然意見は割れる。このまま、睨みあっていれば和平が決まる可能性が高いのだ。
なにもハルマゲドンを起こす必要は無いと言い張る和平派と、
戦いを起こすならいまだと主張する、武闘派連中。

そして自分たちに命令を出して来たのは、その武闘派連中の一人だった。

魔界に入り込んだ神族の勢力を正確に調べて来い。

命令は絶対だ、どんないけ好かない奴からの命令だろうと、階級が上なら従わなければいけない。
だから、403強行偵察部隊は持てる力をすべて使って任務を遂行する。

だがミスってしまった。やってはいけないミスをしてしまったのだ。




「スカイキャット04、スカイキャット04、応答しろ。誰でも良いスカイキャット応答しろ!!」

暗い森を、星の明かり一つ無い漆黒の森を、数人の魔族が走り抜ける。
お互いの顔も見えない状況で、彼らは何の問題も無く走り続けている。
通信鬼を使っていたのは若い女性型の魔族だ、赤い髪を肩ぐらいで無造作に切っているのが特徴だった。
彼女は通信鬼を腰に戻すと近くを走っている魔族に近寄る。

「02、スカイキャットチームから連絡が途絶えました。おそらく全滅です。」

「生き残って居るのは我々を残せばレッドバッドだけか・・」

喋りながらも彼らは決して止まらず、人間では考えられないスピードで森を進んでいる。

「隊長、隊長。」

近くを平行して走っていた男性型の魔族が、二人に近寄ってきた。
金髪の髪をポニーテールで縛っている男で、男のはずなのだが、肩から上だけを見たら誰も信じないだろう。

「05、隊長と呼ぶな。02と呼べ、お前は何度言ったら分かるんだ。」

「はっ、申し訳ありません02。それよりも隊長、相手は小竜姫だと思いますか。」

なにを言っても無駄だと悟ると、はぁとため息をついて諦めたように前を向く。

「分からんが・・可能性は高いな。倒され方が報告と似ている。」

「詳しい報告が無いうちに全滅コースですね。くっそ、ヒャクメさえなんとか出来れば、
小竜姫なんぞに見つかるヘマはしないのに。」

ヒャクメ・・・完全に誤算だった。
戦闘能力が皆無と言って良いヒャクメを、前線に連れて来ているとは思っても見なかった。
それにヒャクメなどの種族は、こちらでもマークをしている、
前線に来る場合は事前に把握できるはずなのだ。作戦前に確かに確認をした、間違いなく居なかったはずだ。
これはあきらかなミスだ、しかも誰かが仕組んだ可能性が高いときてる。
くそ、もっと自分で調べるべきだったのだ。

なによりたちが悪いのは、ヒャクメの索敵範囲内では我々がどんなに隠れても意味をなさない。
的確に見つけてきて、前線の兵に伝えられてしまうのだ。包囲して各個撃破、教科書道理の戦いをされる。
そうなると魔族側は逃げの選択肢しか残されない。

「こちらレッドバッド03、レッドバッド03、小竜姫を名のる者から攻撃を受けています。
敵は超加速を使います。敵の能力は超加速でガッガッ・・ザーーーーー」

突然通信鬼から流れた内容に周りの魔族が驚きの顔をする。
通信鬼を持っていた魔族が、急いで腰から外した。

「こちらブルーアイズ07、レッドバッド03どうした、現状をもう一度報告しろ。
レッドバッド03応答しろ、レッドバッド03!!」

狂ったように通信鬼に向かって叫ぶ07を、02は手で押さえて止める。

「もう良い、落ち着け07。」

「ですが!」

「今お前が叫んだってどうにかなるわけじゃない。今はレッドバッドチームを信じるんだ。」

05も声を掛けて07を落ち着かせる。
だが、05の慰めも通信鬼から流れてきた声で無駄になってしまった。

「竜神族小竜姫です。こちらはすべて片付けました。
あなたたちの場所もこちらで確認をしています。無駄な抵抗は止めてください。」

若い女性の声だ、だが能面のような声だった。
何の感情も無く、力強さも無く弱さも無い、まるで無機質な声。

通信鬼に向かって叫ぼうとしている07を05に預けると、一呼吸をしてから返事を返す。

「こちらからの返事は一つだ。くそっくらえだ、捕まえられるものなら捕まえてみろ。」

それだけ言うと通信を切り、通信鬼を07に放り投げる。

「08、08こっちに来い。」

「了解。」

周りの魔族の中から一人姿を現す。
黒い翼の生えた若い魔族、魔族特有の長い耳と赤いベレー帽が特徴的だった。

「08、いやワルキューレ、お前に特殊任務を与える。」

そう言うと胸元のネックレスと引きちぎり、数枚の紙と共にワルキューレに差し出す。

「それは、心眼封じだ。発動させれば短時間だがヒャクメから見つからないだろう。
お前はそれを使って我々が調べた内容を本部に伝えろ。そうすれば我々の勝ちだ」

「なぜ私なのですか!、隊長が使ってください。」

自分だけが逃げる事を不満だと言う様に、ワルキューレが声を荒げる。

「おいおい、お前は隊長の私に部隊を見捨てろと言うのか?。
私が居なくなったら誰が指示を出す。私が生きるも死ぬもこいつらと一緒なのだ。」

いつの間にか隊長の周りに全員が集まっている。
暗い森の中なので、全員の顔ははっきりと見えないのだが、
もうすぐ敵が来ると言う状況で、緊張した雰囲気はまったく感じられなかった。

「ですが、なぜ私なのですか!」

まだ入ったばかりとは言え、ワルキューレにだってプライドがある。
自分だけ逃げろと言われて、はいそうですかと言えるほど腐ってはいない。

「贅沢を言うなばか者、お前が一番足が速いのだ。心眼封じは何時まで使えるか分からんし、
敵を振り切るにもスピードが必要なのだ。
我々のチームは本来足を必要としないからどうしても鈍足が集まってしまうのだ。
お前がチーム分けする前で助かったよ。
なんなら全員に多数決をとってもいいぞ、ワルキューレで賛成の奴返事しろ!」

「「「「「「サーイエッサー」」」」」」

周りからいっせいに声が響く。

「と言う訳だ、悪いが貧乏くじを引いてくれ。さあ、分かったらさっさと行けもう時間が無いぞ。」

ワルキューレはしばらく下を向いて俯いていたが、
隊長から紙と心眼封じを受け取ると一人で空に羽ばたく。
しばらくの間ワルキューレが飛んでいった方を見ていたが、他の隊員に振り返る。

「悪いなお前ら、全員を逃がしてやれない。我々はワルキューレが逃げ切るまで時間を稼ぐぞ。」

05が隊長に近寄ると、そっと手を取る。

「隊長・・・LOVEです。」

ドカッ

07が横から蹴りを入れて05を吹き飛ばす。良い感じに首に決まったのだが、
05に近寄る者は一人も居なかった。

「02、馬鹿はほっとくとしてどうしますか?」

「なに、逃げてれば勝手に見つけてくれるさ。
レッドバッドチームの最後の報告では超加速を使うようだ、なんとしてでも相手の足を止めるんだ。
そうしなければ絶対勝てないぞ。」




襲撃は一瞬だった。
まず襲われたは先頭を進んでいた魔族だった。到来を告げる衝撃と共に03は逆袈裟で切られていた。
おそらくなにをされたか気がつかないうちに死ぬ事が出来ただろう。それだけが救いなのかも知れない。

「散れ!」

掛け声と共に周りの魔族は一瞬にして物影に潜むのだが、それは無駄な努力だった。
残った5人の内、一人を隠れた大木ごと真っ二つにする。

くそ、ヒャクメが近くまで来ているのか。

実際小竜姫にはこちらの位置が分かっているようだった。

「時間の無駄です。大人しく出てきてください。」

同じように近くに隠れている05が、手による無音会話をしてくる。

『隊長、どうしますか。ありゃ無理です。なぶり殺しですよ。』

『悔しいがしょうがない、投降して時間を稼ぐ、捕まった後逃げられるなら各自逃げ出せ。
ワルキューレが逃げる時間を稼げば我々の勝ちだ。小竜姫への復讐は次の機会にしてやるさ。
お前らまで死ぬんじゃない。』

『了解』

元々戦い自体には興味は無かった。
殺された仲間を考えれば、死んでも一太刀と言う気持ちもあるのだが、
それによって全滅するなんて本末転倒だ。

今は一人でも仲間を生かさなければいけない。
それに神魔の和平はもう間近だ。ワルキューレが持っていった敵の戦力を見れば、
どんな馬鹿でも戦闘をしようなどとは思うはずも無かった。

神族はかなりの戦力を魔界に投入している。ヒャクメまで前線に持ってきているのが良い例だ。

この情報を知れば、魔族の武闘派連中は黙らざるおえないだろう。
和平さえ決まれば、捕虜は戻されるはずだ。それに期待するしかない。

「出てこないならこちらから行きますよ。」

「まて、我々は投降する。」

持っていた武器を上に掲げて、小竜姫の前に出て行く。
それに倣うように周りから部下たちが出てきた。

そこで初めて小竜姫を見ることが出来た。
若い過ぎた、我々だって十分若い連中は居るのだが、
目の前の小竜姫はまだ成人して間もないような体をしている。

だがなによりも、目立つのは目だった。

「腐った魚のような目だな。」

誰にも聞こえないようにそう呟く。
若いと言うのに、目の輝きは一切無い。深くどこまでも濁っていた。
どうすればあんな目になるのだろうか、我々魔族のほうがよほど目に輝きを持っている。

「ひゅ〜、可愛い顔が台無しだね。」

横で05が冷やかしの声を入れるが、小竜姫はまったく反応を示さなかった。

「投降?」

小竜姫が聞き返す。

「ああ、我々は負けを認めて投降する。部下の安全は保障してほしい。」

ドスッ

「ぐぅはっ」

横で鈍い音して振り返ると、小竜姫の剣が05を突き刺している。
理解できない、なぜだ、なぜなんだ!!

「魔の者に投降など許されません。邪悪なる者は一欠けらも残さず殲滅しなければいけない。
無駄な抵抗は止めて大人しく死んでください。」

「き、きさま〜〜〜」

次の瞬間、胸を熱い塊が突き抜ける。
超加速を使った小竜姫が一瞬にして間合いを詰めてきて、自分の胸に剣を突き刺したようだ。
反応も出来ないスピードだったが、動こうとしていた事が幸運にも致命傷を回避してくれた。
だがそのまま後ろに吹き飛ばされる。

茂みに飛ばされて周りが見えなくなってしまったが、次々に部下たちが殺されていくのが聞こえる。

「うぁ〜」

「くそ、丸腰を襲うってのかよ。ぐわぁ〜」

武器を捨ててしまった事も災いして、一切の抵抗も出来ずに切られている。
とうとう最後まで一発の銃声も聞こえなかった。

くそ、くそ、くそ〜〜〜〜〜〜〜




「くそ〜〜〜」

木にもたれかかったままで意識を失っていたナンバー329843が、叫び声と共に目を覚ます。

「はぁ、はぁ、はぁ。」

呼吸が荒い、すでに魔界を抜けて下界にまで逃げ込んでいたのだが、
ベスパによってつけられた傷によって体力がつきかけていた。

「くそ、くそ、くそ、私には時間が無いんだ。休んでいる時間なんて無いんだ。部下たちの仇・・・
殺す殺してやる。」

再び空へと飛び立つのだが、すでに時間の感覚も狂っていた。今が昼なのか夜なのかそれすらも分からない。
意識の朦朧とした状態では、今が明るいのか暗いのかそれすらあやふやだった。

「妙神山はどこだ、どこなんだ・・」

そこで意識が限界に来て、ブラックアウトする。
そしてそのまま地面へと落ちていくのだった。




続く


あとがき
ども青い猫又です。
まず最初に、小竜姫ファンの方ごめんなさい。
どうしても話のストーリー上、この部分では小竜姫はこうなってしまいます。
流れとしては、この後ワルキューレの回想、小竜姫の回想と話は続く予定です。
その間に今の妙神山が入ってきます。

ではでは

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