ザ・グレート・展開予測ショー

ナンバー329843 その3 前編


投稿者名:青い猫又
投稿日時:(04/ 6/ 9)











29日早朝、眠い目をこすりながら横島がやっている事は、何故か修業場の掃除だった。

「なんで俺がこんな事をしなきゃならんのだ・・・」

竹箒を杖にしてボーと回りを見渡すと、はやり眠そうな目をしたタマモとパピリオが、
亀のような速度で竹箒を動かしている。

「あ〜横島さんさぼっちゃ駄目ですよ。」

横島の後ろからおキヌの少し怒った声が聞こえるので、
仕方なく振り向くと巫女さんの格好をしたおキヌがこちらに近寄ってくるところだった。

「もう横島さん目を放すとすぐさぼるんですから、
駄目ですよせっかく泊めてもらってるんですから大掃除ぐらい手伝わないと。」

出来の悪い弟をしかるような口調で言ってくるおキヌに、横島も少しばかり反論をしてみる。
正直掃除なんてめんどくさいのは勘弁してほしかった。

「いやだってさ、小竜姫さまだってゆっくりしてくださいって言ってたし、
大体ジークだって朝から美神さんと小竜姫さま、3人で書斎に引っ込んだまま出て来ないじゃん。」

「そうですけど・・」

昨日ジークと小竜姫が戻ってきた後、美神と一緒に話をしていたが、
横島たちにはとくに詳しい話は無かった。
もうちょっと状況がはっきりしたら話すとは言っていたが、
のけ者扱いにされたような感じがして面白くないのが本音だった。
まだまだ自分はガキだなと思ってしまうのだが、思ってしまうのは止められない。
そんなわけで、少しばかりふてくされていた。

「話さないとは言ってないんですからもう少し待ちましょう、ね、横島さん。」

おキヌにそう諭されると、さすがの横島もこれ以上の文句は言えなかった。

あ〜もう、俺は馬鹿だな。
おキヌちゃんだって不安になってるに決まってるじゃね〜か、それなのに自分の事だけ考えてるなんて。

「ごめんおキヌちゃん。そうだよね、今は美神さんたちを信じて待ってないとね。」

「はい、横島さん。」

おキヌは嬉しそうに微笑むと、頬を染めながら横島をジッと見つめる。
あわや良い雰囲気になりそうな気配を感じるのだが、まあ現実は甘くないぞっと。

「おキヌどの〜〜〜〜、バケツに水汲んできたでござるよ〜」

「は、はい〜」

驚きのあまり声がひっくり返ったおキヌは、返事をしながら後ろを振り向く。
丁度こちらに走ってきていたシロが、おキヌを見て不思議そうな顔をするのだが、
なにを言う前におキヌによってバケツを奪われてしまった。

「よ、横島さん、私向こうの廊下の雑巾掛けしてきますね。横島さんたちは庭の箒掛けお願いします。
これ終わったら鬼門さんたちの掃除ですからね。サボったら駄目ですよ。」

言うだけ言うと顔を真っ赤にして逃げ出してしまった。

「タマモ、おキヌどのどうしたでござるか?」

状況がつかめないシロは、横のタマモに聞く。

「周りにこれだけ人が居るのに、自分の世界入ったのが恥ずかしかったんじゃない。」

めんどくさそうに箒を動かしながら、淡々とタマモが答えると、
同じく横に居たパピリオが話しに混じってくる。

「タマモ容赦ないでちゅね。」

「しょうがねえ、落ち葉集めて焼き芋でもやるか。」

おキヌが走っていった方を見つめていた横島が、ふと、そう言葉を漏らす。
落ち葉の時期は大分過ぎたが、かき集めれば出来ない事も無い。

「パピリオ、さつま芋ってあったよな。」

「たしか、料理に使うとか言ってもらってきてまちたよ。」

「おっしゃ、やる気が出てきたぞ。パピリオ、タマモ気合入れろ。」

二人に向かって横島が声を掛ける。
だが・・・

「「おぉ・・」」

二人の掛け声にやる気がまったく感じられない。

さすがの横島も、こらいかんと思い少し考える。

「よし、じゃまず少し動いて腹空かせるか。ん〜なにするかな・・・
そうだ野球やろうぜ。」

「野球?」

この時点ですでに、掃除の事はみんなの頭の中には存在していなかった。


まず、パピリオたちに野球のやり方を教える事から始まった。
シロとタマモは事務所でたまに野球観戦をした事があるので、ある程度は分かっているようだった。
問題はパピリオと思っていたのだが、これも意外な事にある程度教えるとあっさり理解した。

「知ってるでちゅよ!!、この間読んだ漫画でやっていたでちゅ。」

「へ〜、なら大丈夫だな。よっしゃやるか!」

ちなみに配置はと言うと。
ピッチャー パピリオ
バッター 横島
キャッチャー シロ
守備 タマモ
となった。パピリオがどうしてもピッチャーをやりたいと言った結果である。
軽くニ、三回パピリオが投球練習をした後、横島が箒のバットを持って打席に入る。
対するパピリオは、手ぬぐいを丸めて作ったボールを片手に、シロとサインのやり取りをしている。

ぜって〜サインなんて分かってないな。適当にやってるだけと見た。

ある程度やって満足したのか、パピリオが投げる体勢に入る。

「いくでちゅよ!
レインボース○ークボール!!」

「なんだと〜〜」

投げられたボール(手ぬぐいね)が不思議な軌道を描くと、
横島とパピリオの中間あたりで七つに分かれて横島に襲い掛かる。
しかも一つ一つが七色を描いているので、怖いと思うより綺麗と思ってしまうほどの光景だった。
だが、横島も黙ってはいない。

「ホームラン王ただちゃんと呼ばれた俺をなめるな!」

横島は七つの中の一つに狙いを定めると、バット(箒ね)の芯で捕らえる。
途端に感じるのは重い手ごたえ、だがその瞬間横島は勝利を確信した。

「うぉぉぉ〜〜〜〜〜」

横島は叫びと共にバット(箒だからね)を振りぬく。
突然手ごたえが消えて、ボール(手ぬぐいだと思われる)がホームランコースを取った。
タマモの頭の上を余裕で越えるコースだ、絶対に取れない。
だが、だが横島は見た。
打ち取ったと思った瞬間、パピリオが口を歪めてニヤリと笑ったのを!

バシドスドスドスドスドス

鈍い音が横島の後ろ、キャッチャーから聞こえる。

なに!ば、ばかな。

ホームランと思っていたボール(手ぬぐいじゃ無かったね)が、光のかけらに戻って宙に消える。
横島は放心状態のまま、後ろを振り向くとそこには・・・・
七色の他の六色によって撃ち抜かれたと思われるシロが、無残にも転がっていた。
ちなみにボール(手ぬぐいです)は、シロの横に転がっている。

「シロ、勝負の世界だ。恨むなよ。」

横島は一塁(木のきれっぱし)に向かって走る。振り逃げだ!

「こら〜〜〜〜、なにやってるでちゅか〜〜しっかり取るでちゅよ〜〜」

倒れているシロに向かってパピリオが怒り出した。

「取れるか〜〜〜〜〜!!」

パピリオの声に反応してシロが起き上がる。
まあ、どう考えても七つに分かれたボール(手ぬぐいなんだな)を取れと言うのは、無理な話である。

「馬鹿犬、ボールよこしなさい!」

一塁(木のきれっぱしだけどね)にカバーに入ったタマモが、シロに向かって叫んだ。
それに気づいて横島も走る速度を上げる。

「馬鹿犬じゃないでござる〜」

そう叫びながら全力投球、ほぼ一直線に一塁(木のきれっぱしだだだ)に向かう・・・はずだった。

ドカッ

シロの投げたボール(もう良いや・・)は横島の後頭部に命中する。

「「「あっ」」」

横島以外の3人の声が重なる。
横島は、衝撃でそのまま前に吹き飛ぶ、そこに居たタマモを巻き込んで盛大に倒れこんだ。




痛って〜

後頭部の痛みで目の前が朦朧とする。タマモを巻き込んでしまったところまでは覚えているのだが、
その後がはっきりとしなかった。

取り敢えず自分は地面に倒れこんだのか、思ったより土がやわらかくて怪我は無いようだ。
立ち上がろうと顔の前に手を着いて力を込める。

「あっ・・・」

あっ?

不思議な声と独特な手触りがする。

なんだこの、ビニールに粘度の高い液体を詰めたような物体は。

にぎにぎ

癖になる手ごたえでついつい何度も握ってしまう。

「くぅ〜、だ、駄目。」

駄目?

嫌な予感がして恐る恐る顔を上げると、真っ赤な顔をして目をうるうるさせているタマモの顔があった。
しかもちょっと前に顔を進めれば、キスぐらい簡単に出来そうな距離だ。

「あ、そ、そのタマモ・・・怪我は無いか。」

まず一番心配している事をはじめに聞いてみる。

「・・・・・・・・・・・無いわよ・・」

にぎにぎ

「そ、そうか・・」

にぎにぎ

「なんと言うか、お約束って言葉知っているか?。これはな」

「さっさとどくでちゅ!!!!」

お約束の説明に入ろうとしたが、パピリオの横からの一撃によって吹き飛ばされる。

「これもお約束って言うんだぞぉぉ〜〜」

20メートルは吹き飛ばされながら、それでも横島はそう叫んだ。
それを見ていたタマモは、やっと落ち着きを取り戻すと、だんだんと顔を怒りの表情に変える。

「よ、横島〜〜〜〜(怒」

だが残念ながら、タマモが横島に制裁を加える時間は無かった。

「こら〜〜〜〜〜、みんな遊んでちゃ駄目ですよ〜〜」

様子を見に来たおキヌが、どう見ても遊んでいるようにしか見えない横島たちに向かって、
叫びながら近寄ってくる。

「やばい、みんな撤収だ。」

横島の掛け声によって、全員が箒を担いでおキヌとは反対に逃げ始めた。

「あ、こら〜逃げたらご飯抜きですからね。」

その声にパピリオを抜かす全員がぴたりと動きを止める。
事務所内で彼女に勝てる者は居ないのだった。










「んで、その妙神山に向かってきてるって奴の資料がこれなの?」

美神はジークから受け取った資料を見ながら確認する。

「ええ、そうです。囚人ナンバー329843、魔界の刑務所に入っていたA級犯罪者ですね。」

小竜姫と美神に、ジークはお茶を用意しながら答える。

「この資料穴だらけじゃない、まず相手の名前すら載ってないってどう言う事よ。」

美神が怒るのも無理は無い、資料とは名ばかりで顔写真と身体的特徴ぐらいしか載ってはいなかった。

「はあ、すみません。ターゲット名ナンバー329843としか聞いて無いんですよ。」

自分の分まで用意が終わったジークは、美神に謝りながら自分の席につく。

「でも、私も出来る限りは自分で調べたので、資料に載っていない情報もある程度はつかみました。」

「ふ〜ん、まず相手は神魔との間に問題を起こそうとしている武闘派みたいな奴なの?」

用の無くなった資料を机の上に放り投げながら、美神はジークに聞いてみる。

「いえ、どうもそう言うのとは違うみたいですね。
理由は分かりませんが、純粋に小竜姫さまを殺す事を目的としているようです。」

「なるほど。」

美神はアシュタロスの時のような事が起こるのか心配したが、
どうやらそこまでは心配しなくてすみそうだった。

「取り敢えず私が調べた内容を言っていきます。それでよろしいでしょうか小竜姫さま。」

ジークは隣に座っている小竜姫に確認をする。
だが小竜姫は資料の写真を見ながら、ずっと考え込んでいるようで、ジークの言葉に反応をしなかった。

「・・・・・・・・・」

「小竜姫さま、小竜姫さま。」

2度ほど名前を呼ぶと、やっと気がついたのか顔をジークに向ける。

「え?、あ、すみません。ちょっと資料を見ていて気がつきませんでした。どうしましたか?」

「ナンバー329843について、調べた内容を言おうと思うのですがよろしいでしょうか?」

「はい、お願いします。」

それだけ言うと小竜姫はまた資料の写真へと目を落とした。

覚えがあるって顔してるわね。

美神はそう思うのだが、どうせ聞いても答えてくれない気がするので、黙っている事にする。

「ナンバー329843と呼ばれる囚人は、刑務所に入る前は403強行偵察部隊の中尉として、
部隊の指揮を執っていたみたいですね。あ、これって姉上も所属していた部隊ですよ。」

ワルキューレも所属していたと言う部分に、小竜姫が反応したのを美神は気がついた。
それは本当にかすかな反応だったので、よく見ていないと見落としそうだったが、
先ほどから小竜姫を気にしていた美神には感じる事が出来た。

「その、403強行偵察部隊ってのはどういう部隊なの?」

小竜姫に注意を向けながら、状況を知るためにジークに質問をする。

「私が調べた資料に寄れば、魔族として戦闘に向かない者たちを集めた部隊だったみたいですね。
でも、おかしいな、そのわりには功績がものすごいです。」

自分で作ったと思われる資料を覗き込みながら、ジークが不思議な顔をする。

「戦闘に向かないって?」

美神の質問に、資料に目を向けていたジークが顔を上げる。

「え、ああ。一口に魔族と言っていろんな者たちがいます。
僕のように迫害されるまで神の地位にいた者や、魔族でありながら女神と呼ばれている者。
そう言った、戦闘には向かない性質や性格を持った連中を集めた中の一つが、403強行偵察部隊です。」

「戦闘行動はしないって事かしら、後方に居るとかそんなふうに。」

「いえ、必要とあれば当然戦闘もします。戦闘に向かないであって戦闘が出来ないじゃないですからね。
とくにこの403強行偵察部隊は、その性質上戦闘もそれなりにこなしてたと思いますよ。
強行偵察部隊と言うのは、戦線と呼ばれる敵と味方の境界線を、大きく敵側に入り込んで偵察しますからね。
敵の本陣の構成や数、後方部隊の種類の確認など周りは敵だらけの場所での任務です。」

「なるほどね。」

さすがの美神も魔族軍の事は知らなかったので、ついうんうんと感心してしまった。

「脱線してしまいましたね。ナンバー329843の事ですが、命令無視による神族への干渉と、
部隊を全滅させた罪で刑務所に入れられたみたいですね。
えっと詳細ですが、待機命令を無視して神族側に進入、
ですが発見されてナンバー329843以外は全滅させられたみたいです。
姉上はこの作戦前に除隊になっていますが、一歩間違えればと思うと、
私もナンバー329843に関しては許せない気持ちですね。
おそらく戦いたかったんでしょうが時期が悪かった、神と魔の争いの時代が終わろうとしていた頃です。
実際この事件を境に、神と魔の争いは終了して和平が進められました。
ナンバー329843は神と魔の緩衝材として、吊るし上げをくらった形ですか。」

「ねえ、おかしくない?」

今まで黙ってジークの話を聞いていた美神が、話の区切りでジークに質問をする。

「なにがですか?」

「だってさっき言ってたじゃない。
戦闘には向かない性質や性格を持った連中を集めたのが、403強行偵察部隊だって。
そんな部隊の隊長が、命令無視までして戦いたいと思うかしら?」

ジークは驚いた顔を一瞬した後、う〜んと考え始めてしまった。

「どっちにしても情報が全然足りないわ、
私たちに出来る事はナンバー329843が来たら撃退する事ぐらいよ。」

そう言って美神は残っていたお茶に口をつけた。そして一呼吸してからゆっくり小竜姫に顔を向ける。

「ねえ、もしかしてナンバー329843の事、心当たりあるんじゃない?」

美神は小竜姫に声を掛ける。しばらくの間目を瞑って考えていたようだが、美神に顔を向けた。

「無いと言ったら嘘になりますね。恨まれる心当たりなら他にも沢山ありますし、
なにより403強行偵察部隊と言う名前は初めて聞きましたが、
あの時戦った部隊の事はよく覚えています。」

小竜姫の言葉にジークと美神に緊張が走る。
やはり知っていた、そう美神は思ってしまう。

「私が・・・私が全滅させた部隊ですから。」






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