ザ・グレート・展開予測ショー

蝉の鳴く頃


投稿者名:cymbal
投稿日時:(04/ 6/ 8)




しゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわ・・・・・・。←蝉の声。



「あー!もうどーしたらええだ!!わたす緊張してもう駄目だべ!!」
「お姉ちゃん落ち着いて!私が付いてってあげるから!!ねっ!」


二人の姉妹が山道の途中で立ち止っている。
その内の一人、姉の方が顔を赤くして地面に座り込んでいた。


「山田さんが(多分)プロポーズしてくれるんだよ!嬉しい事じゃない。」
「それはそうなんだげども・・・。ホントにそう言ってたべか・・・?」

 
姉の名前は氷室早苗。妹は氷室キヌである。
ちなみにこの二人は血は繋がってはいない。しかし本当の姉妹以上に仲は良い。

二人は母校である高校(おキヌは転校しましたが)へと向かっているところであった。
山田と言う男(早苗の恋人)に呼び出されたのである。


「間違い無いって!!私が昨日、出かけた時に偶然聞いちゃったんだから!」
「おキヌちゃんが嘘言うような子じゃないのはわかってるげども・・・。」


おキヌが早苗の腕を取り、引っ張ろうとする。しかしうつむいたまま照れて一向に動く気配が無い。


「・・・お姉ちゃん、もう何年付き合ってるんだっけ。」
「・・・・・・5年。」
「もう恥ずかしがるような年月じゃないと思うんだけど・・・。」


おキヌの記憶でも姉は高校時代から付き合っている。間違い無い。
早苗はもう23だし、結婚には・・・ちょっと早いような気もするがまあ適齢期だろう。
就職してる訳でも無いしね。家事手伝いという立場である。


そしておキヌはと言うと、今は東京に住んでいる。(夏休暇中で実家に帰って来てます。)
特殊な職業ではあるが、働いてもいる。付き合っている人もいる。
その点については姉と同じ状況であったりする。



つまり・・・・・・そろそろ、「ある一言」を言ってくれそうな雰囲気がある。



相手の名前は横島忠夫。彼女の仕事場の同僚だ。
付き合い的にはかなり長い。ぷかぷかと浮いてる時も(色々ありました)含めると姉と同じく5年ぐらいだろうか。


おキヌは動かない姉を引っ張るのを止めて、横にちょこんと座った。
世間話から始めて、説得を図ろうと考えたのだ。



・・・そして一転、場面は変わり、こちらは目的地の学校。



「・・・言うぞ、今日こそ言うんだ。早苗ちゃんをおらの奥さんに・・・!!」


一人の男が、ぶつぶつと呟いている。彼の名前は山田。
彼は今、人生の転機を迎えていた。


・・・ふいにそこへもう一人男が現れる。
髪の毛をオールバック気味に上げ、くたびれたスーツを身にまとう男。
彼もまた一大決心をし、わざわざ東京から山奥へと出向いて来ていた。


「あー、おキヌちゃんとこって何処だったっけか。ここに来たの5年振りぐらいだしなあ・・・。」


彼は道に迷っており、この学校で道を聞こうと訪れたのであった。


「早苗ちゃん、結婚してくれべさ!!!!」
「のわっ!!な、何だコイツ!!!」


急に男に結婚を迫られて動揺する男。顔に暑さとは別の汗が浮かぶ。


「お、男に迫られても嬉しゅーないわい!!暑いから離さんかい!!」
「えっ、あっ、す、すまねー!!てっきり早苗ちゃんが来たのかと・・・!」


山田が男から離れる。開放された男はほっとため息をつき、ネクタイを直す仕草を見せた。


「早苗・・・?どっかで聞いた事あるような・・・。まっ、いいか。」
「本当にすまねー。今日はおらにとって大事な日なんで、気が動転してただよ。」
「・・・いーよもう。事情も何となく掴めたし。その気持ちも良くわかるからな。」


男はポケットからタバコを出すと火をつける。
彼は二、三年前から何となーくタバコ吸うようになっていた。今では手放せなくなっている。


「・・・吸う?」
「そ、それじゃ、一本だけ。ほんと落ちつかないだよ。すまね。」


男がタバコを差し出す。山田はそれを手に取ると男に火を付けてもらった。




「ふーーーー。」

しゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわ・・・・・・。←再び蝉の声。




一息入れる二人。校庭のベンチに腰を下ろす。


「そういえば、あんた何の用でここさ来たんだ?」


ふいに気が付いたように尋ねる山田。男も忘れていたかのようにはっとして答えた。


「ああ、そうだった。えーと・・・氷室神社ってどっちに行ったらいいのかな?」
「氷室神社!?そ、そこに何のようがあるだか!?」
「その・・・、ちょっと大事な用事があって、・・・まああんたと同じ用件かな。」


驚愕の表情を見せる山田。顔には焦りの色が見える。
そしてタバコを投げ捨てたかと思うと男の首根っこを掴んで襲い掛かった。


「だあっ!!な、何すんだよ!!」
「早苗ちゃんは渡せねえ!!いつの間に手を出しやがっただこの野郎!!」
「は、はあ!?何言ってんだお前!?」



緊迫感溢れる(?)この状況。でもちょっと姉妹の方を覗いてみる。



「・・・そろそろ落ち着いたお姉ちゃん?」
「ん、ありがとおキヌちゃん。大分落ち着いただよ。」
「んじゃ行こうか。山田さん待ってるよきっと。」
「そ、そだ。約束の時間過ぎてるでねっが!!」
「あっ、お、お姉ちゃん待ってよ!!」


急いで駆け出す二人。目的地へとまっしぐら。
しかし今、その場所には嵐が吹き荒れる状況に。


「だーかーら!誤解だって言ってんだろが!手ぇ離さんかい!!」
「駄目だ!!おめえみたいな都会もんに絶対渡す訳にはいかねえだ!!」
「全然聞いてねえーー!!!」


正に聞く耳持たずという感じでぐいぐいと男を威圧する。
冷静な判断が出来なくなっているようだ。


「すまねー!!遅れちまって・・・って何やってんの山田君!!」
「さ、早苗ちゃん!!」


勢い良く校庭に走りこんできた早苗とおキヌ。
そこで見たものは二人の男が取っ組み合いをしている所であった。


「よ、横島さん!!何でここに!?」
「お、おキヌちゃん!!じゃあ、早苗ってゆーのは・・・。」
「あー!!セクハラ男!!おめーなんでこんなとこにいんだ!!」
「やっぱり手を出してやがっただか!!許せねえ!!」


口々に思い思いの言葉をその場に発していく。
山奥の学校には似合わない騒がしさがその場を包み込んでいた。


「なんだなんだ?」
「うるせえなあ・・・。」
「何騒いでんだ?」


夏休みの最中とはいえ、学校には多少の人が来ていた。
校庭で起こっている騒動に興味を惹かれ4人の周りに集まってくる。





「一体、早苗ちゃんに何をしやがっただ!!おらの嫁さんになる人に!!」
「山田君!?」
「あっ!!!」




言ってからしまったと言う顔を山田が見せる。顔が赤くなり、黙り込む。
早苗はそんな彼を見つめながら目が潤んでいた。


「言うなあ、おっさん!エロいぞ!!」
「おめでとー!!ってまだ答え言ってねえけど・・・。」
「ねーちゃんの方も可愛いなあ・・・。」


集まって来た人達が口々に冷やかしの言葉をかける。
一応祝福の言葉でもあるけど。


「あ・・、あの、その、早苗ちゃん、お・・・おら・・・。」
「・・・山田君。それは・・・本気に・・・とってええだか?」


見つめ合う二人。周りの人間など蚊帳の外である。
横島とおキヌも置いてけぼりにあい、既に観衆と化していた。


「・・・・・・・・・先越されたか。」
「・・・えっ、!?横島さん今何て!?」





「そ・・・そうだ、おらは本気だよ!!早苗ちゃん、おらと結婚してくれ!!!!」
「・・・わたす、わたす!!幸せだあ!!もちろん!!もちろん受けるだよ!!」





「おおおおおお!!!見せるねえ!!いいぞおっさんら!!」
「今度こそおめでとーーー!!!!」
「羨ましい・・・。」


いつの間にか歓喜の場へと変貌する校庭。
祝福の花が一面に咲き誇るといった所でしょうか。


その中で真っ先に駆け寄ったおキヌが早苗に言葉をかける。


「お姉ちゃん・・・おめでとう!!」
「おキヌちゃん・・・、わたす・・・本当に・・・ぐすっ。」


続いて横島が後ろからゆっくりと近寄ってくる。


「まあ、とりあえずおめでと。良かったな、えーと山田さんだっけ。」
「あっ、す、すまねー!おらまた何か勘違いしちまってたみてーで・・!!」
「勘違いですんだら警察その他諸々はいらんのだがなあ・・・。」
「もう!横島さん意地悪するのは止めてあげて下さい。」


横島の隣でおキヌが頬を軽く膨らませながら冗談っぽく笑う。
その顔を見た時に彼の中のスイッチが勢い良くカチンと音を立てて入った。





「・・・そうだ、おキヌちゃん。その・・・。」
「ん、なんです横島さん。」





しゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわ・・・・・・。←三度蝉の声。


・・・しばらく後、姉妹の合同結婚式が行われたそうです。


おしまい。

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa