ザ・グレート・展開予測ショー

タイムムービー(後編)


投稿者名:SooMighty
投稿日時:(04/ 6/ 8)



written by SooMighty


タイムムービー(後編)







「もう過去の事は見なくていいんですか?」
横島は過去はもう見なくていい、そう言った。
そんな横島に妖怪は少し意外だった。



「特に印象的な事は憶えてないんだよな。これ以降って。」

「あなたと美神さんの出会いがあるじゃないですか。」

「あれは・・・自分でも結構よく憶えてるからいいよ。
 中学、小学時代の時の俺なんか見ても別に面白くないし。」
本当に興味のなさそうな顔でいう横島。


「まあそう言わずに見てみましょうよ。なんか新しい発見があるかも。」

「む・・・あまり気は進まないが。」
そう言いながらも渋々承諾する横島。
なんだかんだで人がいい。




丁度テレビは美神令子との出会いを映す。

「ここから俺の物語が始まった・・・なんて今は言えなくなっちまたな。」

「へえ、そう考えてるのは意外ですね。」

「もっと凡庸な人生を送っても良かったのかもしれない。
 確かにさっきも言ったように単純な強さは手に入れたよ。
 だけどそれで幸せになれるかなんて考えは甘ちゃんだって
 この歳になってようやく気づいたよ。」

「ゴーストスイパーになったのを後悔しているのですか?」
横島の話を聞いて疑問に思った妖怪はそんな質問を問いかけた。

「それも違うけどな。ただ普通に暮らしたら俺ってどうなって
 たんだろって思っただけさ。仮に後悔してたとしても今更生き方を
 変えるのは不可能だし。そんなやり直しが利く歳でもないしな。」
静かに語りかけるように横島はそう言った。

「なるほど。で他になんかこれ見てわかったことあります?」

「ん〜 あ! 何気にこれ大発見だ!」
急に興奮しだす横島。

「え? なんです?」
妖怪も身を乗り出してきた。

「美神さんって・・・」

「はい・・・」

「あんな見た目してながら案外お世辞に弱い・・・な。」
過去の横島が美神を褒めちぎるシーンを見て唐突にそんな
下らない事を見つけた。


「・・・確かに。で、それだけですか?」
やや不満げな表情を妖怪は作った。

「うん・・・それだけ。でも俺にとってみればかなりの大発見。」
何が嬉しいのかニヤニヤと笑っていた。

「確かに意外ちゃあ意外ですけどね。・・・ね?僕が言ったとおり
 新しい発見があったでしょ?」

「あ、そういやそうだな。でもこれ以上遡るは遠慮しとくよ。」

「そうですか。まあ無理にとは言いません。じゃあ今度は未来
 の人生を見てみましょうか。」

「ああ。」

「とその前に僕から1つ質問いいですか?」

「ん?なんだ?」
露骨に面倒くさそうな顔をする横島。

「母親の胎内から出てきた時ってどんな気分でした?・・・なんですかその顔は。」
突拍子も無い質問に思いっきり怪訝な表情を作ってしまった横島。

「そんな事・・・俺が聞きたいぐらいだ。俺自身が生まれようと思って生まれた
 わけじゃねぇしな。」
それでも質問にはきちんと答える横島。

「いやなんせ僕は生まれてからずっとこの姿なんですよね。いきなりこの世に
 立たされたわけで。それで生まれくる気分ってどんななのかなーなんて興味
 持っちゃいまして。」

「そんなん人間だって同じだって。
 好奇心旺盛で結構な事だがな、残念ながら俺もその辺の記憶は全く無い。
 てか知能がまだ無い赤ん坊の頃の記憶なんかあるわけねぇし。」

「はは、そうですよね。」
残念そうに笑う妖怪

「まあ今の気分は・・・最悪かな。なんせ狭い部屋に、お前みたいな色気もクソ
 も無い妖怪とふたりっきりなんだからな。」

「ほんっと容赦ない言い方しますね。」
あからさまに不満だぞ!ってな顔を作った。

といっても本気で怒ってるわけじゃないってのは誰の目から
見ても明らかだった。
目が笑ってる。

「じゃあ気を取り直して未来でも見ていきましょうかね。」
そしてすぐに無邪気な顔に戻り、素早く次の行動に移す。

そんな妖怪を見て横島は


ーーこいつみたいな奴ばっかり敵だったらゴーストスイパーは廃業かもな。−−−


なんてあまり本筋と関係の無い事を考えていた。

「ん、準備はいいですか?」
考え事で動作が停止している横島の顔を覗き込む。

「ああ、気にせずにチャッチャやってくれ。」
顔を近づけられて、少し嫌な気分になったので追っ払うかのごとく
妖怪に次を進めるようにした。

「じゃあいきますよ。」
そう言いながらリモコンのボタンを押した。

すると今よりも老け込んだ、おそらく横島だろうと思われる人物が映された。

「これ、俺だよな?」

「ええ、これは7年後のあなたです。」

「ああ、なるほど。・・・隣に誰かいるな。女?」
未来の横島がいる場所は今住んでいる自宅と変わりなかった。
部屋の飾りつけ等の細かい部分は変わっているが今と比べても違和感が感じられない。
そして隣には見知らぬ女性が座っていた。
一緒に食事しているようだ。

「この人はいの未来より3年前・・・つまり今から4年後ですね。
 その時あなたの事務所に就職します。」

「そいで恋に落ちて結婚ってわけか。」
大体先が読めた横島は妖怪より先に口にしてみた。

「ええ、その通りです。」

「なんかめっちゃ普通な女やな。」
横島が言うとおりにその女は、
身長も顔も胸も本当に取り立てて目立つ所が無かった。

「でも結構な恋愛するんですよ。あなたとこの人。」

「へぇ。でその後はどうなるんだ?」

「ずっと仲良く暮らしていきます。平和にね。」

「・・・そうか。」

しばらくすると今度はまた別の女が映っていた。
少し老けているがかなりの美人に間違いない。

「美神さんか・・・やっぱ歳くっても美人やな。」
さっきの平凡な女を見た後だから余計冴えて見える。
そんな失礼な感情を抱いていた。

「そうです。たまに共同の仕事をしたりもしてたんですよ。」

「今はまだそういう事やってねぇんだけどな。」
テレビから目線は離さず淡々と語る。

事務所内で真剣な目つきで2人とも話し合っていた。
美神令子は昔のような派手な服装や化粧はもうしてなかった。
いや単純な見た目な問題ではなく、雰囲気が一番大人大人を醸し出しているのだ。
その事に横島は感銘を受けながらも寂しい気分におそわれた。

「月日が経てばどんな女でも淑女になれるもんなのかねー。」

「誰でもそういう才能は持っているもんですよ。」

「・・・なるほど。」
それだけ月日の流れは凄いって事か。
口には出さなかったが、ひどくそんな事を痛感した。

「美神さんって誰と結婚したの?」

「西条輝彦さんとです。あなたの良く知っているね。
 時期的にあなたが再婚した日と被りますね。」

「ふぅん。落ち着いてもやっぱりあいつと結婚するんだな。」

「まあ、昔なじみですしね。ちなみにあなたとは無二の親友になります。」

「そうか。あいつと俺は結構似通っている所もあるからな。それも無理は無い。」
この事には全く驚かなかった。
今でも実は仲良くやっているからだ。
元々美神の恋仲で争っていただけの2人だ。

最もいがみ合っていた昔を考えれば、これまた時の流れってやつを痛感して
しまうんだろうが。

「他の人達はどうなってるの?」

「色々・・・ありますが。あなたと接点が無いんで見ることはできないです。」

「他の人、例えばタマモなんかと恋愛してりゃあ何かが変わってたかな?」

「・・・」
沈黙する妖怪。

「いや、やっぱいい。」
そんなの変わるに決まってると途中で気づいた。




その後はお互いに雑談を交えながら老衰で死に行く横島を最後に見て幕を閉じた。
淡々と、本当に滞りの無い人生だった。



「これで終わりか。」

「ええ、長い間お疲れ様でした。」

「ああ、なんか本当に疲れたよ。ンーー。」
疲れきった体をリラックスさせるため屈伸運動を始めた。

「で疲れてるところ申し訳ないんですが、まだ話には続きがあるんですよ。」

「ん?なんだ。この際だ。聞こうじゃないか。」
今更何を聞いても驚かないぞって顔をしている。
しかしそんな彼でも次の言葉は予想外だった。

「この映画を見たあなたにはとある権利が与えられます。
 映画の中の好きな時代にタイムスリップするという権利を。」

「!! そりゃあまた随分急展開だな。」

「僕の道楽に付き合ってくれたほんのお礼ですよ。」

「でもよ、仮にタイムスリップしてもさ、時の作用が働いて結局は
 同じ道を歩む事になるんだろう? だったらする意味が無いじゃないか。」
せっかく手間をかけて戻っても同じ事を繰り返すのは無意味だ。
横島はなぜこんな事をわざわざ言うのか理解に苦しんだ。

「このタイムマシーンはそんなチャチなもんじゃないです。
 論理的な事は僕にもわからないですが、こいつで過去や未来に行った
 場合はなぜか時の作用は働かないんですよ。」

「な!? そりゃあ凄い代物だな。」
そんな画期的なもの存在するとは世界は広い。
そう思い知った。

「つまり過去の過ちも未来の望まない道でも変える事ができるんです。」

「・・・」
ただ押し黙る以外なかった。
なんせ突然にそんな転機を迫られてもどうしていいかわからない。

「嫌ならこのまま現代に戻ってもいいんですよ。
 ちなみに現代に戻った場合でもこの映画
 の通りの道を歩むとは限りません。といよりもう全く同じ道を歩む
 事はまずないでしょう。」

「そうなのか?」

「ええ。今映した未来はあくまでここには来ないあなたを想定した
 未来ですから。もう僕と出会っている時点で未来は変わってるんです。」

「なるほど。つまり映画の映した人生をやり直すか。先が見えない今に戻るか
 って事か。」

「そういう事になります。さあ? どうしますか?」
もの凄い真面目な顔をして選択を迫る妖怪。
対する横島は・・・

























「・・・迷う事じゃないさ。」












「今の時代に帰るさ。」
とニッコリ微笑んで答えを出した。




ほぼ即答だった。

























テレビに隠れて見えなかったが、その後ろにはドアがあった。

「じゃあお帰りはあちらからになりますので。」

「そうか、なんだかんだで結構楽しかったよ。じゃあまた会えたら会おうぜ。」

「あ、見送るんで、もうちょっと話しながら行きましょうよ。」
そう言いながら横島についていく妖怪。

「ん、そうだな。」
少し笑って、彼はドアを開けた。
その先には上に続く階段があった。

「それにしても、随分速く決断しましたね。ここに来た人は多くない
 んですけど、タイムスリップするにしろ、残るにしろ悩む人ばっかりでしたのに。」
妖怪は気になっていた事を聞いてみた。
なんせあそこで即答されるのは初めてのケースだったのだ。
疑問に思うのも無理はない。

「んー。まあ今の生活がなんだかんだで好きだからな。それにそういう事するのは
 後悔しちゃっているって事だろ? ただの強がりかもしれないけど俺はどんな形で
 あれここまで来ているんだ。それを悔やむなんて事したら自分を許せなくなる。
 ・・・それだけさ。」
あくまで大した事ないぜってな感じで言い放った。

「ふうん。中々前向きですね。そういうの嫌いじゃあないですけど。」
感心する妖怪。

「かっこいいだろ?」

「まあ、そういう事にしてあげますよ。」
お互いに気楽に言葉を交わす。
なんとなく2人とも気が合っている。
そんな雰囲気が流れていた。

「おっと話しながらだと最終地点に着くのも速い。
 つうわけでこのドアを開けて外に出ればあなたは元いた場所に
 戻れます。」

「元いた場所ってぇと、俺が除霊してた場所か。」

「そうです。では名残惜しいですけど、お別れですね。」
本当に名残惜しそうにそう言った。

「お、そうか。じゃあありがとな。
 いいもん見せてもらったよ。・・・あ! そうだ!」
急に大声を上げた。顔も変になっている。

「わっ ビックリした。なんです?」
言葉とは裏腹にあまり驚いてなさそうだった。

「お前が言っていた生まれてきた気分ってのあるよな?」

「ええ、はい。言いましたね。」

「生まれた時の記憶は無いけど、それでもこれだけははっきり言えるぜ!
 この地に生まれてきて良かったってな!」
自信に満ちた声で叫んだ。

「ふふ、そうですか。」
妖怪も満足げに見える。

「まあ、お前が言っていた状況とはちょっと違うかもしれないけど
 これだけは伝えたかったって事さ。・・・じゃあな!」
その言葉を最後に横島はこの場所を去った。




「・・・確かに違いますね。でもそれだけはっきり言われたら
 まあいいかなって思えます。」
その言葉は既にいない横島に言ったもの。
つまり今では独り言になる。





「でも神様も難儀な宿題を出してくれるよね。人生に悩んでいる人間に
 ここの道具を使って道を示してやれなんて。」

さらに独り言を続ける妖怪。

「僕は楽しいからいいんだけど、仮にタイムスリップしても幸せになれるとは
 限らないのにさ。」

「本当に神様もなんだかんだで捻くれてるや。最初から100点満点の答えを用意
 してやらないなんて所なんかもう・・・
 僕達シルフなんかよりずっとタチが悪いや。」

「あーあと何人の人間を助ければここから出してくれるのかなー。
 ここで暮らすのも悪くはないんだけどね。」

そんな独り言を延々と言っていた。
彼は妖怪ではなくて妖精だったのだ。
シルフといういたずら好きの。
あまりにもいたずらが過ぎて(と言っても大被害が起きるほどひどい事はしてない)
神の怒りを買い、一定数の人間を助けるまでここからは出れないというわけだ。
死神のファッションをしているのは・・・単なる彼の美的センスと時の案内人というイメージ
から、何より人を脅かせるのが大好きな彼の難儀な性格からもきている。

「おっと、こんな事聞かれたらまた怒られちゃうよ。
 1人は寂しいから次の人間を速く探そうと!」

そう言って彼も出口のドアを後にした。












横島は既にさっきの除霊していた現場に戻っていた。
悪霊も当然ながらいなかった。


周りが暗い。
腕時計に目を移すと20時15分当たりを指していった。


「ふー。なんかえらい体験をしたもんだな。」
現代に戻った安心感やら解放感やらで一気に疲労が体を襲ってきた。
クライアントや事務所の従業員に迷惑が掛かってないかという心配は
あったが今日はそんな事忘れて家でグッスリ寝たかった。







帰りの道中は今日あった出来事を思い出していた。

そして自分が出した答えを。





ーーー迷う事じゃないさ・・・かーーー

本当は迷っていた。
悩んでいた時間こそ短かったが心では物凄い葛藤が走り回っていた。




ーーーそれを悔やむなんて事したら自分を許せなくなる・・・かーーー

そんなにキッパリとは割り切れてない。今でも。
もちろんその気持ちは嘘偽りない本心だ。半分なら。





ーーーこの地に生まれてきて良かったってな!・・・かーーー

実際は生まれる事に自由は無い。
新しい生命は時代や環境を選べない。
それで手放しで良かったと果たして言い切れるか?


色んな迷いがあった末に出した答えなのだ。

でもできなかった。



確かにやり直すべき事はいっぱいあるのかもしれない。
タイムスリップすれば無限大の可能性や幸せが広がるのかもしれない。

でも結局そんな事をしても傷は完全には癒えないし、不幸を1つ消しても
またすぐ別の不幸が襲ってくるともわからないのだ。


人生なんて1つ2つやり直したぐらいでどうなるものでもない。
他がどうであれ横島は少なくともそう思ってた。


そしてなにより


自分を否定したくもないし、まだまだこれから先を
知れない未来でやれるべき事があると信じているから。

今はまだそうなれないけど

やっぱりこの地で生まれて良かった!と胸を張っていたい。

死ぬ時は色んな事があったけど、やっぱり楽しかった そう言って自分を愛せるように
なりたい。

時の流れは確かに非常で、抗っていても無駄なのかもしれない。



それでも俺はそうありたい。
自分のこの人生をまっとうしたい。


前向きでも後ろ向きでも無い。

意味も必要性すら無い。



さんざん迷いながら、今の自分に疑問を抱きながら、
今でも悔やんでいる事柄があるというのを認めながらも
必死に出した思いがそこにはあった。



もちろんそれが正しいかなんてわからない。
だけどこの気持ちだけは忘れないように生きて生きたい。















そんな思いに駆られながら、ふと立ち止まる。

「とりあえずスゲェ疲れてるけど、やれるべき事の1つでもやっておこうかね。」
そういいながら横島は携帯電話を手にした。


そして電話帳のとある女性のメモリーを押した。





END




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