ザ・グレート・展開予測ショー

〜 『キツネと羽根と混沌と』 第1話後編 〜


投稿者名:かぜあめ
投稿日時:(04/ 6/ 4)



〜appendix. 1-3 『あのころの夢を見る』


夢を見た。


―――――――・・。


「あぁ、あぁ無理しちゃってまぁ・・ホレ、少しじっとしてろよ?」

そんなことを言いながら、肩をすくめて手当てを始める・・。
足を負傷し、その場に座りこんでいた私は・・彼の動作を押しとどめることができなかった。

「さ・・さわらないで。」

何とかそれだけ口にして・・目を合わせることだけは避けようと、私は窓の外へと目を向けた。

・・・。

3ヶ月。

私が殺生石から現世に目覚めて以来・・すでに3ヶ月の時が経過している。
人間たちに目をつけられ、GSの事務所の転がり込んだのが1ヶ月前。
社会の常識を学ぶ、という名目で引き止められているのは事実だが・・実際はそんなことなど、どうでもいい。

私が誘いに乗ったのは・・ここが逃亡の隠れ蓑に丁度いいと・・そう考えただけの話だ。


「お前ってさ〜・・」

「?」

少し可笑しそうに彼が笑う。急に話しかけられ、視線を戻した先・・
そこには、先ほどと変わらない様子で、やはり手当てを続ける青年がいて・・・

・・・横島忠夫。

事務所のメンバー中、私がもっとも馴染めない人間の一人だ。
度を越したセクハラ行為と、化け物じみたタフネスさもその原因として挙げられるのだが・・・
そんなことより何よりも・・・

「いつも冷静な割に変なところでそそっかしいよな。ま、それが面白いっちゃあ面白いんだけど・・」

「・・・・。」

これだ。

この・・こちらを微妙に見透かしたような、なおかつ私の神経を逆なでする言動・・。
出会って以来・・何故か横島は、事あるごとに私に対して干渉してくる。
その理由は本人曰く、『知り合いの中で一番からかいがあるから』
・・初めてそう聞かされた時は、正直、開いた口が塞がらなかった。

「よ〜っし・・こんなもんかな。大丈夫か?これで多分、動けると思うけど・・」

のぞきこんでくるその顔から、私は・・何とはなしに目をそらして・・・


「・・礼は・・言わないから。」

「はぁ・・素直じゃないね、お前も・・。感謝してんならストレートにそう言えよ。」

「だ・・だから・・!私は感謝なんかしてないって言って・・・」

私が立ち上がったことを横目でチラリと確認すると・・横島は苦笑まじりに伸びをする。
・・その時、私が言葉を止めたのは・・彼のわき腹からにじみ出る・・赤黒い血の色に気づいたからで・・

「ちょ・・ちょっと・・その傷一体・・・」
そう口にしようとして・・不意にあることに思い当たった。この位置・・この爪痕の形・・。そうだ・・これは・・

「・・さっき、私をかばったときの・・」



今日の朝・・2人で依頼をこなすように言われたあの時から・・
私は、横島の隣に立つことに、何となく居心地の悪さを覚えていた。

だからという訳ではないが・・・多少、気の緩みがあったことは否定できない。
廃ビルに侵入し、亡霊を追い詰めたまでは良かったが・・何を焦っていたのか・・。
気づけば私は・・周囲を大量の霊に取り囲まれていて・・・・

横島が飛び出してきたからこそ、こんな足の傷だけで済んだようなものの・・もしも間に合わなければ・・

・・考えたくもない想像が脳裏に浮かぶ。

(でも・・あのときはケガをしてる素振りなんて・・・)


動揺する私の前で、横島はヘラヘラとした笑みを浮かべて・・・

「ん?あぁ、これか?大したことねぇよ。一応、文殊で血止めはしたしな。」

「で・・でも・・」

なおも食い下がろうとしたが・・それは彼の緩んだ瞳に押しとめられてしまう。

静寂に包まれた廃ビルの一室で・・・


・・帰ろうか?


うつむく私にそう言って、横島はゆっくりと立ち上がる。
何も言わず部屋を出て行こうとするその後ろ姿を見つめながら・・私は必死にかける言葉を探していた。

何か言わなければいけない気がした。

今、声をかけなければ、後できっと後悔する・・・意味も無く、そんな思いに囚われて・・

・・・・。



「・・・・・ないで」


唇が動く。



「?タマモ?」


「もう・・私にかまわないで。」


振り返った横島の顔にもう一度・・今度は、はっきりと告げる。
割れた窓から流れ込む風が・・・少し冷たい。謝罪の言葉を口にした方が良かっただろうか?
いずれにしろ、一度口にしてしまってはもう遅いが・・


「・・どうして・・私に近づこうとするの?」


分からなかった。
自分が傷を負ってまで、私を助けようとする・・その理由が分からない。
・・分かりたくもないと思った。


「・・・・・・。」

居心地の悪い沈黙が続く。目を見張って、しばらく動きを止めていた横島は・・・
やがて首をかしげ、うつむく私に向き合いながら・・・・・

「・・さぁ?」

気の抜けた声でそう口にして・・・

「さ・・さぁ?・・って・・」

「いや、どうしてかって聞かれてもなぁ・・知らねぇし・・。難問だな・・強いて言うなら、気になるからだけど・・」

・・・。

・・・・・?

今、こいつ・・何て・・・・


「な・・何・・それ・・」

自分でも分かるくらいに声が震えた。うろたえる私に・・横島は思いっきり半眼になって・・

「・・?お前・・なんか勘違いしてないか?そういう意味じゃねーっつーの。」

「う・・・」

それはそうか・・。私を異性として見ているなら、ここまでの道程で、こいつ飛び掛ってこないはずがない。
つまり今、横島が言う『気になる』というのは・・・

「・・何ていうかな・・お前、少し似てるんだ・・昔の知人に。
 性格も顔も全然違うのに・・そうやって一人で無茶しようとするところだけ妙に・・」

言いながら横島は・・私が一度も見たことがないような・・ひどく弱りきった笑みを浮かべて・・

「だから・・時々不安になる。タマモがいつか、そいつみたいにオレの前から居なくなっちまうんじゃないかって。」

消え入りそうな声で・・そう口にする。


「・・・当たり前よ。私だっていつまでも事務所に居座るつもりは・・」

少し、強い口調で言い返そうとする私に・・しかし、横島は首を振った。
そのまま、肩が触れるほどに、私のそばに近づいて・・・

・・・。

「・・そういう意味じゃないんだ・・。」

「え?」

「居なくなるっていうのは・・事務所から出て行くって意味じゃなくて・・」

・・・。

本当は・・・もっと・・・・


闇につぶやく。
どこか遠くを見つめる横島の瞳は・・墨を塗ったように暗く・・そしてひどく渇き切っていた。
本当に・・痛いくらいにただ渇いたままで・・・・

・・息がつまる。


「・・話が・・それたな。ま、オレが気になるっていうのはそういうこと。分かったか?」


閉じられた瞼が開いたときには・・『彼』はいつもの横島に戻っていた。
緩んだ表情で私の頭を撫でながら・・・・笑う。

「・・帰ろうか?」

少し困ったような顔で・・私に向かって手を差し伸べる。






・・事務所で一番馴染まない・・・馴染めないと思っていた人間。でも・・本当は違った。

私は恐かった。
・・これ以上横島と距離を縮めるのが・・恐い・・。

知っていたから・・。
私を助けてくれたあの日から・・彼が誰より優しいと・・心の何処かで知っていたから。

・・・だから・・・

これ以上優しくされたら、私はきっと・・横島から離れることが出来なくなる。
だめだと分かっていても・・・どうしようもなく心が揺れるのだ。


「・・・・。」


大丈夫。まだ・・もう少しだけ近づいても・・きっと大丈夫。
まだ引き返せる・・・離れられるはずだ。

言い訳のように、心の中で繰り返して・・・・

・・・私はそっと・・差し出された掌に触れたのだ。


―――――――・・。


・・・。

「・・・・さま!・・ー・・ま!」

・・?

視界に差し込む幾本もの光の筋。聞き覚えのある声を耳にして、タマモはヨロヨロと上体を起こした。
軽い眩暈を感じながら、じょじょにじょじょに覚醒する意識。
胸に感じる重みを不思議に思い・・・眉をひそめてのぞきこむと・・・

「?スズ・・・ノ?」

「ねーさま・・よかったぁ・・」

そこには、不安そうに自分の服へとしがみつくスズノの姿。
目に涙をにじませている所を見ると、随分と心配をかけたらしい。一体、自分はどれだけ意識を失っていたのだろう?

「ねーさま・・眠っている間、ずっとうなされていた・・。恐い夢でも・・見たのか?」

「・・・私が?」

遠慮がちに尋ねるスズノに・・タマモは一瞬、驚いたように目を開いて・・・
・・そのまま、瓦礫の奥に映る・・漆黒の闇へと目を落とす。

「・・ううん。いい夢・・だったと思うわ・・多分。」

そう言って少し笑うと・・彼女は寂しげ薄く目を細めたのだった。

           
                            ◇


〜appendx.1-4 『果てのない闇を見る』


・・・。

ピアノの音が耳をかすめた。
一体どこまで続くのか・・・まるで判然としない、長い長い廊下の途中。
横島が足を止めたのは、不意に奏でられたその音律を耳にしたから。

人が住んでいるとも思えない・・半壊した家屋に響く、規則正しい鍵盤の音色。
不可解さ以上にその美しさに惹きつけられる。


「・・礼拝堂?」

ドアの隙間から漏れる、極彩色の光を目にし、横島がつぶやく。
ひどく・・・場違いな光だった。暗い、包むような闇を侵食するかのように・・ただただ明るい。

引き寄せられるようにノブを回し、足を踏み入れた横島を待っていたのは・・
キリストを象るステンドグラス・・頭の砕かれた聖母像。
その光景は礼拝堂というより、小規模な教会の一室と表す方がふさわしかった。


「・・・・?」

霧のように、白い光が立ち込める中・・・灰色の羽が舞い落ちる。
ヒラヒラと・・まるで自分をからかうように、数十の羽根が頬を撫で・・・・

・・その中心に、人の姿が浮かび上がった。

「ふふっ・・・」


それは少女。
光り輝く空間を浮遊する・・翼持つ少女。
あどけなさの残る、美しい顔とは対象的に・・その全身はすべて灰色で塗りつぶされ・・・
髪も、爪も・・切れ長の瞳も全て灰。不自然なまでに血色のいい肌が・・その中で唯一、異彩を放っていた。

「・・・綺麗な・・音色でしょう?」

少女が微笑む。
楽しげに宙を舞いながら、部屋の・・ピアノの鍵盤へと指を走らせる。

「これ・・・さっきの曲は・・君が?」

熱にうかされたように問いかける横島へ・・・静かに、少女は振り向いて・・・

「そう・・これはあなたのために『歌う』唄」

・・そして、嗤う。言葉通り、まるでその唇で紡ぐかのように、澄んだ音色を奏で続ける。

「お気に入りの曲なの。昔、お母さんが教えてくれた・・」
言いながら・・彼女は、身を抱くように・・虚ろな口調で肩をつかみ・・そして・・

・・・。
そして躊躇も無く・・唐突に自らの羽根をむしり始めた。

「・・・・・・・っ!」

噴出す鮮血。驚愕に目を見開く横島の前で・・ゴポゴポと、朱い血溜まりがつくられていく・・。


「赤い・・・・きれい・・・」

恍惚に体を震わせながら・・少女は、愛しそうに血溜まりをすくう。
寒気を覚えるほどの出血だった。・・息を飲む横島に目を向けて・・彼女はチェシャ猫のような笑みを浮かべる・・。


―――――タマモちゃんも・・こうなるかもしれないよ?


・・そう・・口にしながら・・・・



「・・っ!!お前・・!!」

「挨拶が遅れてごめんね。・・私はユミール。はじめまして・・横島忠夫くん。」


・・正面から向き合い、初めて分かった。
彼女の翼は・・・灰色の光を放つ、一見すれば美しく見えるその翼は・・・
・・肉が削げ落ち、白骨がのぞき・・今にも崩れ落ちんばかりに腐食している。


「ようやく見つけた・・・お兄ちゃんの探し物・・」

焦点の合わない瞳。
彩色にいろどられたその部屋に・・・灰色の天使が舞い降りた。


〜続きます〜

『あとがき』

皆さん、お久しぶりです〜かぜあめです。うう・・・1話目からいきなり前後編か・・。申し訳ないです・・。
連載再開ということで、

『ウェディング』→『聖痕』→『姉妹』ときましてこの『キツネと羽根と混沌と』始まったわけなのですが・・
こんないきなり、16kb超のお話なんて・・本当に読んでくれる人はいるのでしょうか・・(汗

このシリーズは、不死王編までのつなぎで・・ユミールさんがメインのお話なのですが・・
今回のラストでも分かるように・・彼女はなんだか弾けまくってますね〜(^^;
appendix.1-3に出てきた『お兄さん』は当然のごとく西条なのですが・・最後の「お兄ちゃん」は蒼髪の少年のことだったりします。

一応、『オリキャラを交えた横島たちの日常を描こう!』が今回のサブテーマなので・・
3話目からは大分、明るくなると思います。

次回は、横島V.S.ユミールですね〜。2話目からいきなりバトルとは・・(汗
では第2話でお会いしましょう。

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