ザ・グレート・展開予測ショー

〜 『キツネ羽根と混沌と』 第1話前編〜


投稿者名:かぜあめ
投稿日時:(04/ 6/ 4)



〜appendix.1-1 『色の無い幻を見る』



―――― まるで夢を見ているみたい・・。


宙を踊る体を見つめ、彼女は小さく口にした。
充満する血の匂いと・・その中心にぽっかりと映る真っ白な天井。

むしり取られた白い羽根が・・・ヒラヒラ空を舞っている。

ただ体が震えて・・・
誰かの温もりに触れたくて・・・・


・・・手を伸ばす。

迷走する闇の中で、それでも光を求めて・・手を伸ばす。
窓からのぞく外の景色へ・・・手を・・・・

・・・。

・・しかし・・・・

外へ向かって突き出されたその腕は・・やがて力尽きたように崩れ落ちてしまい・・
少女の瞼を覆うかすかな光は・・幻のように消え失せてしまい・・・


「まるで・・・夢を・・見てるみたい・・・」


暗転する意識の中で・・彼女は最後に、そうつぶやいたのだ。

・・・。
                



〜『キツネと羽根と混沌と 第1話』〜




・・もの凄い状況だった。

目の前を飛び交う、ほこりの渦。もう目を覆いたくなるような勢いで押し寄せてくるゴミの雪崩。
依頼を引き受けたときから、何となく嫌な予感はしていたが・・・正直、これは予想以上だ。


「ブホヒャヒャヒャッ!!!(笑い声)我はチリとホコリから生まれし妖 ハウスダスト!!
 山奥の廃屋に放置され、GSから見向きもされなかったこの20年間の恨み・・・今こそ晴ら(中略)ブホヒャヒャヒャッ!!」


煙っぽい広間の中央で、妖魔が叫ぶ。
久々に人と話すことが出来たため、どうやらおかしな方向にテンションが上がっているらしい。

「・・どうすっかな〜この状況は・・・」

部屋のすみ・・・ハウスダストの丁度、死角となっている柱の影で、横島忠夫がつぶやいた。
緊張感なく、眠たげな瞳で髪をかき上げ・・次いで、恨めしげにこちらを見つめる、一人の少女へと目を向ける。

「・・・悪かったよ・・んな恐い顔すんなって。」

「・・だから私はこんな依頼やめとけって言ったのよ・・。大体、美神さんにも止められてたじゃない。」

けほっけほっ・・と。彼女が咳きをするたび、金色の髪がサラサラ揺れる。

苦しげに息を吐きながら、タマモは憂鬱そうに頭を抱え・・・
五感が人間の数十倍は優れると言われる犬神にとって、この状況は正直、つらい。
たて続けに巻き起こるホコリの旋風に・・彼女の視覚と嗅覚はほとんど使い物にならなくなっていた。

「う〜ん依頼料が3万だったからなぁ・・。楽な相手だと思ってたのに・・料金と敵の強さは比例しないってことか。」

「・・・ほんと。小物そうに見えて妖力も結構強いし・・」

この報酬の低さは、ハウスダスト本人の力の有無というよりは・・むしろ除霊場所であるこの廃屋の立地条件による所が大きいだろう。
山の奥・・全くといっていいほど人気のないこんな場所に、妖魔の1匹や2匹出現しようと、人里には大した影響などありはしない。
放置したところでノープロブレムというわけだ。


「・・・勉強になるな。」 「・・・確かに。」

どこか感心したように声をもらす2人。
そんな彼らより一段低い高さから、おずおずと銀髪の少女が口を開いた。

「横島。それで・・私はどーすればいいのだろう?何か手伝えるとはあるか?」

スズノ。
タマモのことを姉と慕う、この妖狐の娘が横島たちと出会ったのは・・・つい2週間前のことである。

まだ11、2歳程度にしか見えない、幼い外見とは裏腹に・・その身に宿す絶大な魔力。
本来ならば、いつGメンに手配されてもおかしくない、危険な身の上の彼女ではあるが・・

「・・・?」

・・まぁ、色々あって・・・結局、事務所に居つくこととなった。
普段なら、絶対に倦厭するようなこんな仕事を受けたのも・・実はスズノの社会勉強の一環だったりする。

「うぅ・・くっそ〜見学用に思いっきり楽なやつを選んだはずなのに・・ただの依頼にしちゃ稀に見るぐらい厄介な・・」

奇声を発しながら、宙を舞い狂うハウスダスト。
あんな、見た目からしていかがわしい妖魔の相手をするかと思うと・・強烈な眩暈に襲われる。

・・・。

「どうする・・?」と、尋ねるタマモに・・・

「・・・やるっきゃねぇだろ。スズノはとりあえず休んでてくれ」と、横島が答える。

そして・・・

「ヴァァアアアアアアアア!!!」

何故か目の前に迫りくるハウスダスト。

「きゃっ!?」 「おおっ!?」
反射的に飛びのいた2人が、次の瞬間、目にしたのは・・

「??」

何時の間にか間合いをつめ、腕にスズノを抱える妖魔の姿で・・・・
人質のつもりなのだろう。不敵な笑みを浮かべ、こちらを見下ろしている。

「なっ!?す・・スズノ!?」

「・・・・・。」

やめときゃいいのに・・。
横島は何度かそう言いかけたが、なんだか敵が可哀想なので口に出すのはやめておいた。

「ブホヒャヒャヒャッ!!油断したなゴーストスイーパー!!我はホコリとチリの化身!!
 ホコリが存在する限りそこは全て我が門となる!!この廃屋で我に手の届かぬ場所など在りはしないのだ!!」

「いや、お前・・自分で言ってて悲しくならないか?」

気だるげな会話。混迷を極める非常事態。しばらく続いた膠着状態を破ったのは・・・

「・・・あ。」

こんな、少し戸惑うようなスズノの声で・・
いまいち状況が飲み込めず、ぼ〜っとしていたスズノが『それ』に気づいたのはしばらく後のこと。

彼女が今日、事務所を出る際、着用してきたのは白い薄手のワンピース。そして、襟をつかまれる形で宙吊りにされている今のこの状況。
幸い、サイズが本来のものより小さかったため、首が絞まることはなかったが・・その代わり・・

「・・わっ!・・わっ!」

服がまるで移動するかのように、どんどんと上へずり上がっていく。
さすがに(笑)下着を見られるのは恥ずかしいらしく、スズノは顔を赤くしながら半身を手のひらで覆い隠そうとして・・

「す・・スズノ!?こ・・この変態!スズノから手を離して!」

「ブ・・ブホッ!?ちょ、ちょっと待て!!我とてこんなこと好きでやってるわけでは・・ええい!小娘!大人しくしろ!」

さらに混迷を極めていく場の空気。やがて、スズノの服が彼女のヘソの上までめくれ上がったあたりで・・・

「お・・お前ら・・もう口論はいいから、受身を取れるように準備しとけって。これは本気でシャレになってな・・」

ひきつるような横島の声が、目の前の光景を前にして・・・停止する。
視界の先で見えたのは、ゆでだこのように全身を赤くするスズノの姿・・と、その周りに渦巻く超高熱のプラズマ体だったりして・・
彼女の高ぶりに呼応するかのごとく、その火球の熱量は際限なく膨れ上がっていく。

「・・し・・白。」

「うわっ!!バカ!!オレがキャラ性を封印してまで黙ってた下着の色をあっさり・・」

ロリコン丸出しのハウスダストの言葉と、それに顔を青くする横島の声が・・最後だった。

「〜〜〜〜〜〜ッ!!」

スズノの声にならない悲鳴をかわきりにして、部屋全体に白い閃光がほとばしる。

・・・。

どっごーーーーーーーん!!!


・・その日、とある山奥の廃屋が、凄まじい爆炎と轟音のもと半壊したのだが・・・その真相を知る者はごくわずかである。

        
                            ◇

・・・。

・・・・・・。

「いっ・・たたたた・・ひでぇな、こりゃ。」

ガラガラと瓦礫を押しのけて・・横島がムクリと立ち上がる。
辺りを見回すと、そこは、先ほどまで激闘(?)が繰り広げられていた廃屋の2階ではなく・・

「・・1階だよな、ここ。」

屋根が跡形もなく消滅しているためなんとも言えないが・・おそらく、入る際に確認した玄関。
・・その中央のエントランスホール付近に位置する場所だろう。

「タマモ・・ケガは・・って、いないのか?」

自分以外、まわりに誰もいないことを確かめて、横島は小さくため息をついた。屋外に跳ね飛ばされなかったのが唯一の救いか。
同時に、自分がほとんど無傷なことに気づき、横島はかすかに苦笑する。

「スズノの奴、間髪で結界を張ってくれたのか・・ったく器用なんだか不器用なんだか・・」

タマモは当然として、おそらくはハウスダストも無事なのだろう。
まぁ、人畜無害とまではいかないが・・退治するほど危険な魔物とも思えないし・・別に構わないといえば構わないのだが・・

「・・はぁ、今回も依頼達成ならずか・・。一体、いつになったら毎食カップメンの生活から抜け出せんだろ。」

ガックリと肩を落とした後、タマモとスズノを探すべく・・横島はフラフラとその場を後にしたのだった。




〜appendix.1-2 『剥がれ落ちた過去を見る』



「お兄さん・・だぁれ?」




そこは彼女のお気に入りの場所だった。
お父さんにも、お母さんにも内緒の・・秘密の場所。
家の裏手の路地を抜け、森を横切った場所にある・・・静かな庭園。
一年中、花が絶えることのないその場所で、日が暮れるまで寝転がっている・・それが近頃の彼女の日課だ。

「・・お兄さん、だぁれ?」

もう一度、今度は少し大きな声で尋ねてみる。
自分以外誰も知らないはずのこの場所に・・どうしてこの人はたっているんだろう?


「・・え?あ、あぁ・・2日前、近くに配属・・いや、越してきた者なんだけど・・どうも道に迷ってしまったみたいでね。」

困った顔で『お兄さん』が笑う。
黒くて長い髪と・・自分よりも少し濃い肌の色・・多分、お母さんと同じ日本という国の出身だろう。

「君は、ここに住んでるのかい?」

「うん。少し向こうに行ったところに、お父さんとお母さんの3人で」

微笑みながら、少女は森の向こうを指差した。そんな彼女の様子に、男は何も言わず、ただ頷いて・・


優しそうな人だな・・

彼の横顔を見つめながら、なんとなくそう思った。自分が子供だからか・・それとも単に女好きなのか・・
妙に女性に対する接し方を心得ているのが気になったが・・それも、やはり些細なことのように思える。

「私、ユミールって言うの。お兄さんは・・名前・・何?」

火照った頬をごまかすように、早口でそう尋ねると、『お兄さん』は何故か可笑しそうに吹き出して・・

「僕は――――――――――」

大切な・・
今でも、決して忘れることの出来ないその大切な名前を・・私に向かって告げたのだった。

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