ザ・グレート・展開予測ショー

ナンバー329843 その2


投稿者名:青い猫又
投稿日時:(04/ 6/ 3)




月の無い魔界の森、生い茂る木々が重なり合い、星の光ひとつ地上に落とす事が無かった。
そんな暗闇の中から空へとなにかが飛び出す、そして森の木々たちのぎりぎり上を高速で飛び始めた。

その姿は周りの闇に溶け込み、まるで浮かび上がる事は無かった。
だが近寄って見ることが出来たのなら、それが昨日難攻不落と呼ばれた刑務所から脱獄した
ナンバー329843と分かったかもしれない。

彼女が今目指しているのは、魔界に数ある下界への門の中の一つだった。
刑務所から近い場所や、主だった大きな門は魔族軍によって封鎖されている。
そのため時間が掛かっても離れた場所の、それもお尋ね者が使うような小さな門に頼らざるおえなかった。

もちろん、近くの門を守っている魔族軍と戦っても突破できる自信はあったが、
今は目立つわけにはいかない。刑務所を脱獄した後騒ぎを大きくしなければ、
自分に向けられる追っ手は少数しか来ないはずだ。奴は確かにそう言っていた
そう自分は魔族軍からは脅威には感じられていない、目的を達成するためにはそこにつけこむしかないのだ。

ドカッ

突然横から殴られたように吹き飛ぶ、あまりにも不自然に飛ばされたにもかかわらず、
なんとか体勢を整えると地上に墜落する前に止まった、

ドキュゥゥゥン

そして銃声、彼女は手の中の精霊石で作られた銃弾を一瞥すると、近くの大木に向かって指で弾き飛ばす。
ただそれだけの動作で、銃弾を当てられた大木は音を立てて倒れた。

しかし銃弾が大木に当たる瞬間、その大木の陰からなにかが飛び出していた。

「あぶないあぶない、気づいていたのにシカトなんて性格悪いね。」

飛び出してきた相手が話しかけてきた、すぐには攻撃してこないようだが、
敵意だけは遠慮しないで向けてくる。

「魔族軍の追っ手?」

そう言って相手を観察する。
長い髪を束ねずに後ろに流し、黒いボディースーツに身を包んでいる。
大分力は強いようだが自分の知っている魔族では無かった。
古い力のある魔族なら大抵は知っているつもりだったが、こいつは最近生まれた魔族だろうか。

「まあまちな、いまうちの大将が来る。私は交渉ごとは苦手なんだよ、つい手が出ちまうからね。
しかし、あの距離を当てるのもすごいが、受け止めるなんてあんたやるね。」

すると遠距離から狙撃したと思われる相手が、こちらに向かって飛んでくるのが見える。
油断は出来ない、フェイクの可能性がある。
狙撃者だと思って油断した所を、再び狙われる可能性も考えられるからだ。

だが近寄ってくる相手を見てそんな考えはすべて吹き飛んでしまった。

「ワルキューレ・・・・」

だが聞こえたはずの相手は自分の問いかけには答えない。
無言で自分の前に立つ、何百年、何千年か忘れたが久しぶりに見る相手は、
あの頃となにも変わっては居なかった。皮肉だ・・・・自分の追っ手がワルキューレだったとは・・

「ベスパ少しはなれていろ。

目の前にいた相手が無言で頷くと、こちらを警戒しながら距離を取る。

こちらの動きを見て対処させるためか、どうしても逃がしたくないらしい。

「囚人ナンバー329843、お前には脱獄ならびに多数の罪によって捕縛の命令が出ている。
大人しく捕まればよし、抵抗するなら生死は問うなとの事だ。無駄な抵抗はやめて大人しく捕まれ!」

感情を一切殺し、淡々と相手は自分に要求を伝えてくる。
ワルキューレだって自分の事に気が付いていないはずは無いのに、それを一切表に出さない。
それを悲しいと思うより嬉しいと思うのは何故だろう。気を引き締める。
そうだ私は脱獄犯、そしてあいつは青臭かったガキではもう無いのだ。

「断る、私を止められるのなら止めてみなさい!!」

その言葉を合図に戦闘が始まる。
先手を取ったのはワルキューレ、手に持っていた銃を自分に向けて連射してくる。
だがその程度でやられるなら、あの刑務所から逃げるなんて出来なかった。
当然全弾を回避する。
いくら早かろうが、真っ直ぐ飛ぶしかできない銃で決着がつくとは向こうも思ってはいないだろう。

ワルキューレはワンマガジンを撃ちつくすと、銃を捨てて後ろに飛びのく。
追おうかと思っていると、横からベスパと呼ばれた奴が蹴りをはなってきた。

多少腕にダメージが残るが右腕でその蹴りを受け止める。重い衝撃が来て腕の感覚が一瞬無くなった。

良い蹴りだ、ほんの少しの間だが右腕は使い物にならないか・・

左腕で蹴ってきた足をつかむと地面へと叩きつける。

ドカッ 「ぐぇ」

叩き付けた音と相手の声が同時に聞こえる。それを確認する前に次の行動に移りだす。
もし自分がワルキューレなら本命は・・・

自分の死角である後ろを振り返ると、ワルキューレがハンドガンを両手に持って密接してくる瞬間だった。

「銃で私が倒せると思うなぁぁ!!」

ドンドンドンドン

ワルキューレがハンドガンを連射してくる。
ほとんど0距離から撃たれた精霊弾は、避ける暇も無くすべてが当たる筈だった。

だが魔力を集中させた左手を、本来なら届かないはずのワルキューレに向かって振りぬくと、
魔力によって生まれた衝撃波が撃ち出される。
飛んでくる精霊弾をすべて弾き飛ばし、ワルキューレもそれに巻き込まれた。

離れた場所の大木を4つほど倒してワルキューレが止まる。

「腕を上げたねワルキューレ、それに良い部下を持ったじゃないか。」

やっと戻ってきた右腕の感覚を確かめる。

よし問題なく動く、こんな所で壊れてもらっては困るのだ。

「くっそ、渾身の蹴りを問題なく受け止めて言われるとかなりむかつくね。」

叩きつけられたベスパが距離を置いて再び戦闘体勢に入る。

「そう言うあなたは、相変わらずだな。ナンバー329843。」

倒れた大木を跳ね除けて、ワルキューレが自分の前に戻ってきた。

「相変わらず強い、だがそのぐらいであの刑務所から脱獄できるとは思えないが。
いったいどんな手品を持っているのだろうな。」

かぶった帽子を直しながらワルキューレが睨んでくる。

「さすがね、昔から頭の良い子だったけど、良い方向に伸びてるわ。ご褒美に見せてあげる。」

顔が笑ってしまうのを止められない。
他人が成長していく姿を見ると言うのは、なんて気持ちが良いのだろうか。
とくにそれが自分の部下だった者だとすると喜びもまた違う。
自分があんな穴倉に閉じ込められている間に、誰もが成長をしていく。
それは悲しくもあり嬉しくもある。

「行くわよ。受身は取りなさい。」

きっとワルキューレとベスパは何が起こったら分からなかっただろう。
目の前に居るはずの私の姿が一瞬で消え、次の瞬間には自分たちが地面に叩きつけられているのだ。




ドカッ、ドカッ

下に叩きつけられるのは、二人ともほぼ同時だった。
彼女を挟んでそれぞれ反対側に居たのにも係わらずだ。
そこから導かれる答えは、一つしかワルキューレには思いつかなかった。

「ばっ、馬鹿な。超加速だと!!」

ありえない、いやあってはならない。
超加速は本来韋駄天族の物、それ以外にも一部の神族やそこから流れてきた魔族が使っているが、
あくまで生まれ持った才能だ、努力でどうこうできるものではない。

持っていなかった、彼女は持っていなかったはずだ!!
持っていればあんな事件は起こらなかったはずなのだから。

「どう、これなら小竜姫になんて負けはしない。
殺せる、殺してやれる!!」

彼女の目に狂気の色が灯った。
痛む体を起き上がらせて、彼女の正面に立つ。
目線を送らないようにしながらベスパを確認するが、あちらも問題は無いようだ。

「ナンバー329843、あなたが脱獄するだけなら私はこれ以上追うつもりは無い、
元々あなたが捕まっていた事事態がおかしいのだ。
だが、小竜姫に、神族に手をだす事だけは許す事はできない!!、もう戦いは終わったのだ。
すでに神と魔の最高指導者は手を取り合った。もう争いを起こす意味は無いのだ。」

「終わってなどいない!!なにも終わってなどいないのだ!!
私の部隊は今でも戦いを続けている。あの者たちの仇を討たねばならない。
小竜姫を殺してくれと私に囁くのだ。お前には、あの時一緒に居たお前には聞こえないのか!!」

彼女はワルキューレの言葉を真っ向から否定する。
そして彼女の言葉に、ワルキューレは返す言葉を見つけることが出来なかった。
ただ黙ってその言葉を受け止める。

その沈黙を見て彼女が語りかける。

「そう、だからか。だからさっきから私の名前を呼ばないのか。
いくら軍隊で表面を鍛えても、心の弱さは変わらない。魔族の本質は闘争と殺戮と言うが、
私やお前にはほんの少しでもそれ以外の血が混じっているのだから。
だからお前は私をナンバーで呼んで切り捨てようとしている。弱い自分を隠そうとしているんだ!!」

「うるさい!!
私は小竜姫を恨んでなどいないし、あなたがナンバーで呼ばれる脱獄犯であるのも事実だ。
あれは魔族と神族との戦いだったのだ。殺し殺される、そこに恨みを持ち込むのは筋違いだ。」

その言葉に彼女の表情が変わる。

「なに、きさっぐっ」

ワルキューレの目の前で彼女の体から手が現れる。
いやそう見えるのは、隙を見ていたベスパが後ろから彼女を突き刺した手だった。

「どうでも良いけどあんた、前ばかりに気を取られて後ろが隙だらけだよ。」

「きさま!!」

背中からつかれている状態のまま、強引に振り向いてベスパの顔をつかむ。
そしてそのまま地面に叩き付けた。

ドカッ

「きさまは死ね!」

倒れたベスパに向かって手刀を振り下ろす。

「させるか!」

だがそれをワルキューレが体当たりをして止める。
2,3メートル近く吹き飛ばされたナンバー329843は、自分の不利を悟ってそのまま森の闇に逃げ込んだ。

すかさずベスパが追おうとするが、ワルキューレが手でそれを止める。

「止めておけ、いくら手負いとは言え、真正面からやれば負けるのはこっちだ。」

ベスパは少しの間名残惜しそうに森を見ていたが、すぐワルキューレに振り返る。

「一応急所は外しておいたよ。
あの様子じゃ死ぬこた〜無いと思うけど、ここで殺っちまったほうがよかったんじゃないのかい。」

「いや、作戦は最初話した通りだ。変更は無い。」

「ああそうかい。」

少しふてくされる様に頭を掻くと、戦いが始まる前に外していた自分の装備を拾い始める。

「なあワルキューレ、さっきの恨みを持ち込むのは筋違いだって言葉、本心かい?」

ベスパはワルキューレの顔を見ず、装備を集めながらゆっくり言葉にする。
少しの間ワルキューレは無言で居たが、少し考えた後ベスパの質問に答えを返す。

「ワルキューレと呼ぶな、隊長と呼べ。
・・・・・あれは軍隊が戦争でよく使う詭弁の一つだ。誰もがそう考えるなら争い自体が起こるはずも無い。
だが、私が小竜姫を恨んでいないと言ったのは本当だ。少なくとも今はな・・」

「今はか・・」

ベスパは何気なく呟く。

「小竜姫を恨み続けるには、千年以上と言う時間は・・・・私には長すぎたのだ・・・・。
余計なものを見過ぎる・・・」

そう言いながらワルキューレは、ベスパとは目線をあわせない様に頭の帽子を整える。

「恨み続けて幾千年か・・・狂わなきゃやってられないね。」

自分も、道を間違えればなっていたかもしれない姿だ。そう思うと今回の任務は少し複雑な気分になる。
それに、どうやら妙神山に行く事はすでに避けれないようだ、
いったいどんな顔でパピリオに会えば良いのか、分からないのが本音だった。

「そう言えば私はナンバー329843ってやつの事、資料でしか知らないんだが、
いつになったら話してくれるんだい。」

本当になんでもない事のようにベスパはワルキューレに聞く。
これにはワルキューレも少し驚いた顔をしたが、すぐにいつもの冷静な顔に戻った。

「言わない訳にもいかんか・・少し長くなる後は移動しながら話してやる。
妙神山に行く前に向かう場所が出来たから時間が無い、急ぐぞ。」

ワルキューレが素直に話すと言った事にも驚いたのだが、今はそれよりも別の言葉にベスパは慌てる。

「ちょっとまちな、それじゃ妙神山はどうなる。あいつが小竜姫に手を出したら作戦は失敗だろ。」

「問題は無い、ナンバー329843の目的は小竜姫と戦って勝つ事だ。
妙神山で問題を起こして、神魔の間にハルマゲドンを起こす事じゃない。だからやつはまだ戦わない。」

「どうして戦わないって言い切れるんだ!」

ワルキューレの確信を持った言葉に、苛立ちを覚えたベスパは声を荒げる。

「やつは馬鹿じゃないからだ、いくら超加速を手に入れたからといって、
手負いで倒せるほど小竜姫は弱くは無い。お前につけられた傷が治るまで、正面から戦う事は無い。」

言われて見れば確かにそうかも知れない、ベスパがつけた傷は致命傷にはならないだろうが、
けっして浅い物ではない。
やつがどんな回復力を持っているか知らないが、1週間はまともに動けないはずだ。

「それに、妙神山にはジークフリードとパピリオが居る。あの二人が居れば問題は無いだろう。」

「だけど二人とも超加速は使えないぞ、私らと一緒で勝てないだろう。」

超加速を使える者と使えない者では決定的な差が出てしまう。
今回のように止まっている時を狙って襲うなら話は違うが、普通に戦って勝てるものではない。

「超加速が絶対的な強さを持っていたのは昔の話だ、妙神山には対超加速用の装備がある。
相手が早いならこちらも早くなれば良いだけの話だ。
お前は知らないだろうが、美神たちが超加速を使う魔族と戦って勝った事がある、
もはや超加速に絶対的な強さは無い。」

「なるほどね。」

確かに相手と同じ速さにさえなれば、ベスパだってそう簡単に負けるつもりは無かった。

パピリオだってけっして弱いと言うわけでは無い、今は信じるしかないか・・

「しっかし、さっき戦った感じじゃ結構さっぱりとした奴かと思ったんだけどね。
復讐に燃える殺戮者か・・なんとも言えないな。」

そう言ってベスパは頭を掻く。
その呟きを聞いてワルキューレが振り向いた。

「さっぱりとした奴?、殺戮者?、誰がだ?」

すごく不思議そうに聞き返してくる。
その顔を見て、ベスパはなにかまずい事でも言ったのかと不安になる。

「いや、さっきのナンバー329843って奴だよ。途中まではなんかよさげな奴だったじゃないか。」

「ああ。」

やっと誰の事を言ったのか理解したワルキューレは、自分の荷物の中から通信鬼を取り出しながら答える。

「そうだな、私も常々魔族軍の人格修正技術は素晴しいものだと思っていた。」

「はぁ?」

ワルキューレの答えになっていない答えに、さすがのベスパもどう言って良いのか分からない。
なぜ、魔族軍の人格修正技術なんて出て来るのだろうか・・・

「これから妙神山と連絡を取る、終わったら出発だ用意しておけ。」

「はいよ。」

なんだかよく分からないが、聞き返すのもなんなのでベスパは大人しく引き下がる事にする。

まあ、いいか、後で嫌でも分かるだろう。しかしパピリオと会うのも久しぶりだな、なんて言って会うかね〜

そう考えていると横から突然ワルキューレの怒鳴り声が聞こえてきた。

「こら、誰がそんな事を言った。あ、まて。」

そこでどうやら通信が途切れたようで、ワルキューレはしばらく通信鬼を睨んでいた。

「どうした?」

少し心配になったベスパが、いまだに通信鬼を睨んでいるワルキューレに尋ねる。
ベスパが声を掛けると、通信鬼から目をそらして荷物の中にしまう。

「なんでもない、それより急ぐぞ。」





「もしもし、妙神山修業場です。」

ジークは恐る恐る受話器を取る。ここに掛かってくるのはろくでもない内容が多いのだ。
そう思うと身構えてしまう。

『取るのが遅いぞ。これは緊急回線なんだすばやく取らないと意味が無い。』

いきなり取ったとたんに怒鳴られたので、ジークも一瞬慌ててしまう。

「す、すみません・・・・って姉上ですか?」

『任務中だ、姉上と呼ぶな!』

「はい!、すみません。サー」

ジークは思わず受話器を片手に敬礼をしてしまった。まったく習慣というのは恐ろしいものである。

『時間が無い、ジークフリード少尉、ただいまの時刻を持ってきさまは私の指揮下に入る。
特殊任務だ手短に話すからよく聞け。』

「イエッサー」

『27日に魔界の刑務所よりA級犯罪者、ターゲット名ナンバー329843が脱獄した。
刑務所内は魔族軍が警備にあたっていたが、ほぼ全滅したそうだ。』

「全滅ですか・・・」

ジークは受話器を握る手に、嫌な汗が出てくるのを感じる。

『ナンバー329843がどうして脱獄できたのかは不明だが、目的ははっきりしている。
妙神山管理人小竜姫を殺す事だ。』

「そんな事をすれば最終戦争のきっかけになってしまう。」

『そうだ、だが刑務所を脱獄された魔族軍の失態を隠すために、正規の部隊は使えない。
私とベスパで任務にあたっているのだが、先ほど手傷を負わせたが逃げられてしまった。』

ワルキューレとベスパ二人を相手にして逃げ切れるなんて、
どれほどの者か正直ジークには想像がつかなかった。

『ナンバー329843は間違いなく妙神山に向かっている、
我々もすぐに追いたいのだが、どうしても寄らなくてはいけない場所が出来てしまった。
資料を送るからパピリオとお前で、なんとしても妙神山に入る前に防げ。』

「まってください、パピリオは軍とは関係ありません。戦いにまき込むのは反対です。」

軍に入っているなら、どんな任務が来ても戦うのは当たり前だと思っている。
だがパピリオは軍に入っていない、それにどんなに強いと言ってもまだまだ精神的には子供と同じだった。
そんなパピリオを危険な目にあわせるのは、軍人としてもジーク本人としても反対だった。

『お前の言いたい事は分かる、だがこれはハルマゲドンに繋がるかもしれない問題なのだ。
先ほどの戦いでナンバー329843が超加速を使うのを確認した。』

「そんな、あれは一部の神魔だけが使える技のはずでは。」

『そうだ、だが奴は使える。妙神山にある装備を使えば超加速に対する対策にはなるが、
それだけではお前が勝つのは無理だ。贅沢は言ってられない、これは命令だパピリオを戦わせろ。』

「ですが!」

理屈では分かるのだが感情がついてこない、
いつも回りの魔族や上官から言われ続けた、任務のために冷酷にはなれない性格が出てきてしまう。
なまじ一緒に生活をしているせいでよけいにだ、パピリオの性格は戦いには向かない。

『ジークフリード少尉、これは命令だ復唱しろ。』

「サーイエッサー、妙神山管理人小竜姫に協力を仰いで対超加速用装備を借り、
ナンバー329843を捕獲または撃退を本官がおこないます。以上これより作戦に入ります。」

本官と言う部分を強調する。

『こら、誰がそんな事を言った。』

ガチャン

ワルキューレが文句を言う前に電話を切ってしまった。
受話器を下ろした状態のままジークはしばらくジッとしている。

「はぁ〜、やはり僕は軍人には向いていないな・・・後で姉上に怒られるどころじゃない。」

下手をすれば命令無視で裁かれてしまうかもしれない。それでもジークはパピリオを巻き込みたくなかった。

「勝算が無い訳じゃない、姉上は知らないだろうが美神さん達が居る。協力さえしてくれれば・・・・・」

そこまで言ってジークは考え込んでしまう。
相手は美神だ、たとえハルマゲドンになろうとも料金を払わなければ動いてくれないかもしれない・・・
美神だって鬼じゃない一生懸命お願いすれば・・・・・・でも美神だしな・・・・
でも人間界だって滅んでしまうかもしれない時に・・・・自分の金だけもって神界か魔界に逃げそうだな・・

「今の電話はなんだったんですか?」

ジークが考え込んでいると、様子を見に来たのであろう小竜姫が横から声を掛けてくる。

「小竜姫さま、ご相談があります。」

考え込んでいてもしょうがない、時間は迫っている、今は行動あるのみだ。

そうジークフリードは決意するのだった。


続く

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