ザ・グレート・展開予測ショー

無口


投稿者名:MAGIふぁ
投稿日時:(04/ 5/23)

 初夏の昼下がり。予報通りの土砂降りの雨に、今日の仕事を別の日にスライドさせる事を決定した美神令子は――ヒマだった。
 シロは朝、まだ雨が降っていない頃にどこかに出かけて帰って来ていない。逆にタマモは朝ご飯を食べた後、2度寝に部屋に戻ってそのまま出てこない。
 おキヌちゃんはまだ学校だし、あのバカもそうだろう。

「………………雨の日って、相変わらず嫌いだわ」

 窓越しに降りしきる大粒の雨を眺めて、気だるい空気を纏った美神は呟いた。
 一杯引っ掛けて、タマモみたいに寝てしまおうか?
 美神はどこかおっさん臭い考えを実行しようとして、ふと思い出した。
 そうだ。この事務所にはもう一人メンバーがいるじゃない…

「人工幽霊壱号」
「なんでしょう?美神オーナー」

 人工幽霊壱号。この事務所そのものに憑依する、名前通り人工的に生み出された生命体である。正式名称は渋鯖人工幽霊壱号。
 そして人工幽霊壱号に暇潰しの話し相手をさせようとして、美神は今更ながら気付いた。

「あんた…どうやって喋ってるの?」

 ………………もう一度言おう。彼(?)は人工幽霊壱号。事務所そのものと言っても良い存在である。当然の事ながら、事務所に口は存在しない。

「は?私はテレパシーで話しているのですが、それが何か?」

 まさに今更、という質問だったので、少し戸惑いつつ答える人工幽霊壱号。どうやら物理的に喋れないので、霊的に喋っていたらしい。

「………………テレパシー?」
「はい。テレパシーです」

 実の父が同じ能力を持っているので、そう言った相手と相対したらどうなるのか…かつてシミュレーションしてみた事があった美神は、それが自宅兼事務所に常に存在して、しかも自分の感情を常に感知していた場合どうなるのかに、すぐさま思い当たった。
 ……思い当たってしまった。

 例えば、脱税の事とか。例えば不正帳簿の事とか。



 ………………例えば、あのバカの事を考えると、最近自分がどうなるのかとか。


「ねぇ、人工幽霊壱号…?」




 その日から、人工幽霊壱号が妙に無口になったという。しかも、事務所所属の唯一の男性相手には特に。


「オーナー…差し出がましいとは思いますが、素直になられた方が…」

 彼(?)の忠告が届く日は……多分、遠い。

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