ザ・グレート・展開予測ショー

「秘密」 昼下がりの相談者


投稿者名:cymbal
投稿日時:(04/ 5/20)

・・・横島忠夫と横島蛍。
二人の意思は一つの流れとなり、運命を揺り動かす。
まだ奥に秘められた何かに気付くことは無く、答えを求め行動を開始した。





ピンポーン。





玄関の方でチャイムが鳴った。なんとなくだが、誰が来たのかは分かる。
下の娘は仕事で出ているし、私が出なければいけないかな。


「はいはい。ちょっと待ってね。」


画面に映るお昼の話題を消すと、ゆっくりと立ち上がり音の鳴る方へ向かう。
居間の中を自分のテンポで進んでいく。



・・・この子達に会うのは一月ぶり、その前までは何かと電話で話したりしていたのだが。
あの事件が起きてから、こちらも連絡が取りづらいしお葬式で会った時も様子が変でねえ。


「妙にあどけないというか・・・、まるで10代の娘を見ているようだったわね。」


その時の事を思い出しながら呟く。どう見ても40過ぎた娘の顔には見えなかった。
正直嫌な何かを感じていたのだが、さすがにあの場面で聞くのは躊躇(ためら)われる。
その後は連絡も取ってこないし、どうしようもなかった。


本音は・・・まだ若いつもりだが、意外と精神的に老けてきているのかなと思う。
昔の私なら何があっても問い詰めた事だろう。しかし最近は好奇心というものが薄れた感がある。
と言う訳であちらが話してこないのなら何か事情があるのだろう。


そして、ふと気が付けば現役を退いてからもう5年程経つ。
まだまだやれるという思いもあったが、さすがに身体がついていかない事も多くなったからだ。
下も順調に育っていたし、そろそろ誰かに責任を押し付けてもいいかなと・・・。





考え事から抜け出ると玄関の前に来ていた。家が広いというのも困りものねえ。
だって余計な事を考えてしまう時間を作ってしまうから。・・・どこか別の所に引っ越そうかしら。


ほおって置くと又思考モードに入りそうだったので動きだした。
慎重にノブを捻ると・・・、長女の顔がそこにあった。後ろには横島クンもいる。


「いらっしゃい、待ってたわ。何となくそんな気がしてたのよ。」


呆気に取られた顔を見せるが、すぐに真剣な顔つきになる二人。
でも・・・やっぱり目の前にいるのは、いつもの娘じゃない事はすぐ分かった。
かなり時間を置いて冷静に見ているせいもあるだろうが雰囲気が明らかに違う。
どちらかと言えば私の孫の顔つきね。親子だからとかそういう事じゃ無いけど。


「たいちょ・・・じゃありませんね。美智恵さん今日は相談があって来ました。聞いて頂けますか?」
「待ってたって言ったでしょ。私を舐めちゃ駄目よ。令子・・・いや蛍ちゃんかな?上がんなさい。」
「!!!!!」


さすがにこの言葉には面をくらったようだ。悪い冗談にも聞こえるカマかけだったけど。
まあ正直助かったわ、失敗してたら白い眼で見られても不思議は無いからねえ。


「何でそれを!?」


一呼吸置いて、横島クンが私に尋ねてくる。この反応が堪らない。
やっぱり私は人を驚かせる事に快感を感じるのだろう。ぞくぞくと忘れていた感覚が戻ってきた。


「ここじゃあ、話せないでしょ。とりあえず上がんなさいって。」


人が来るのもひのめ以外では(一緒に住んでるし)久しぶりで人恋しいってのもある。
何と言うか話相手がいないとねえ。旦那はアレだし・・・ちょっと話しにくい面もあるから。
まあ隠すことなんてこれっぽっちも今はありゃしないけど。


「はあ・・・じゃ、お邪魔します。」
「お邪・・・ただいま。」


言葉に気を付けているのだろうか?私には今隠しても無駄だと分かっていても(演技)している。
まあ想像なだけで何が起きているのかはさっぱりわからないけれどもね。


・・・それにしてもあのガサツな娘には似合わない表情をしてるわねえ。誰に似たのかしら。
ちなみにどっちともとれる言葉だけども深い意味は無いわよ。





また考え事が始まってしまったので・・・急いで広い通路を抜けて居間へと二人を連れて行く。
部屋の右端にあるソファーに座らせると、コーヒーを淹れる為にキッチンへと足を向けた。


「あっ、みち・・・ママ、私が淹れるわ。」
「・・・あらそう?じゃあお願いするわね。」


私の横を通り抜けるとカップを3つ、まるで知っているかのように戸棚から出した。
その内の一つは私のお気に入りのカップで、目印に取ってが赤く染められている。


「・・・私のカップ知ってたっけ、蛍ちゃん。」
「えっ?あっ、そういえば・・・なんでだろ。見たことあるような気がして・・・。」


実に自然な動きに見えた。私の方に注意を向けながらも手元は危なげない。


(・・・この子が家に前来た時って・・・。)


「ママどうしたの?変な顔して・・・。」
「え?」


・・・どうもおかしい。玄関で見た時と又、印象が違う気がする。
どう見ても目の前にいるのは・・・。


「みち・・・ママ?コーヒー入ったけど・・・。」
「え、ええそうね。じゃあ戻りましょうか。」


もう一度良く見てみる。・・・気のせいだったのかしら。幼さが顔に浮かんでいる。
何か腑に落ちないモノを感じつつ居間へと戻っていく。





「・・・さて、なんの話だったかしら?」


コーヒーは一口啜るととぼけた顔を作り二人に話しかける。


「・・・美智恵さんわかってやってるでしょう?」
「あら、成長したのね横島クン。でもつっこみとしてはイマイチねえ。」


くすくすと笑い、場の雰囲気を冷たくさせる。
冗談をする時じゃ無いと分かっていても悪い癖だわ。


「なんで・・・蛍だってわかったんです?それに来る気がしてたって・・・。」
「六つめの感覚・・・って訳にはいかないかしら?ふふっ。」


明らかに彼は機嫌が悪そうになった。
・・・渋いおじさんになったわねえ横島クン。まじまじと見ると結構いい男に見えない事も無いかな。


「ママ、真面目に答えて。」


横の令子の姿をした蛍ちゃん(紛らわしいわね・・・)が、真剣な顔つきで口を挟む。


(・・・又だわ、今は間違い無く・・・。)


心の中を見せないように、もう一口冷静にコーヒーを口に運ぶ。


(どうしようかな・・・、今はまだ手探りなのよね。ある意味ほんとに六感だし・・・。)


葬式で見た違和感とここの所に連絡がつかなかった事。
最近、暇なので色々と考えていたらこの結論に行きついた訳だ。
正直唯のお遊びの空想だったんだけど、今日実際会って見ると正しい気がしただけなのだ。


来る感じがしたのはちょうどあれから一月で区切りが良く、この家を訪ねる人は他にいないから。
それだけ。ひのめならチャイム鳴らさないしね。


(こんな事言っても信じてくれないわねえ・・・。多分。)


天井に眼を移し考える。そうこうしている内に又、横島クンがじれてきたようだ。
とりあえず、適当に答えておきましょうか。


「そーねえ・・・、連絡が無かったから昔の仕事のつてを使ってちょっと・・・ね。」
「・・・家を張ってたんですか?そんな気配は感じなかったですけど?」
「まあ、横島クンにバレるようじゃ、やってけ無いわよ。」
「くっ・・・・まあでも娘の家に見張りをつけるような母親もどうかと思いますけどね?」


(・・・反撃してくるなんて可愛げ無くなったのねえ。嘆かわしいわあ。)


「まあ、いいでしょ?納得してくれたなら相談の方を聞きたいわね。出来れば一から話してくれる?」
「・・・そうですね。本当はあんまり納得いってないんですけど、勝てる気もしませんから。」


そう言うと目の前の彼と横の私の娘(?)は今日までの出来事を喋り始めた。
言いようのない現実と押し寄せてくる過去に・・・。





娘の死。令子の異変。不可思議な出来事。そして・・・3つの人格ついて。





「・・・なるほどね。ところで何ですぐに相談に来なかった訳?」
「ルシオラが関わっているので、あまり他人には話す気になれなかった・・・てところでしょうか。」


(・・・ありそうな話ね。彼女は彼にとってもう一つの聖域ともいえる存在なのだから。)


「私は他人なのかしら?冷たいわねえ。」
「いえ、そういう訳では・・・そのあんまり詮索されたくなかったというか・・・。」
「私に知られると余計な事までしそうだからかしら?」
「・・・・・・・・・。」


図星ね。そうそう、この顔が見たいのよ。悪い女だわね、私って。


「うーん、話を聞いた限りではとりあえず、わかった事はいくつかあるわねえ。」
「何でも良いので聞かせて下さい。お願いします。」


身体を乗り出してこちらに迫ってくる。まー、大胆ねえ。


「・・・まず、令子は死んだ訳じゃないのは間違いないわ。そして蛍ちゃんは・・・無理ね。」
「やっぱり・・・そうですよね。それは何となくわかっていました。」
「・・・・・・・・・・・。」


横島クンの横で一点を見つめたまま彼女は佇(たたず)んでいる。
何を考えているのかその表情からは読み取れない。


「そして、この事の発端はやはり交通事故の瞬間にあると思うわ。令子が何かをしたんでしょうね。」
「何か・・・・・と言うと?」
「自分の娘が車に轢かれそうになってるのよ?助けようとするのは当然の事だと思うわ。」


これは間違い無いだろう。そしてその時、おそらくは・・・・。


「その場面で使うもの・・・といえば多分・・・文珠ね。」
「・・・でも、最近はストックは作って無かったし。持ってる筈は・・・。」
「抜け目の無いあの子の事よ、少しぐらい隠し持ってる可能性はあるわ。」





「そこまでにしとかない?」





「!?」
「!!!???」


突然、聞きなれない言葉が部屋の中を駆け巡る。
いや、聞いたことはあるかもしれない。それは遠い昔に。


「どうせ、無駄になる気がするわ。ねえヨコシマ?私と一緒に過ごした方が幸せかもよ。」
「ル・・・・・ルシ・・・オラ。」


(・・・出てきたわね。さっき聞いた情報では、夕方に出てくるのが筋だと思ってたけど・・・。)


横島クンは固まっている。何をしていいのかわからない状況かな。


「ルシオラ?久しぶりね。私の事覚えてる?」


まず様子を探らなくては。彼女は何かを知ってる可能性がある。
私達の知らない大事な情報を。


(さっきの会話にまずい事があった?それで彼女は出て来ざるえなくなったのかも・・・。)


「もちろん覚えてるわ。お世話になったし。・・・あなた魔族じゃないの?顔変わってないわ。」


皮肉の利いた言葉だこと。横島クンとは一味も二味も違うわね。


「あなたは随分姿が変わったみたいね。私の娘にそっくりだもの。」


落ち着いて、言葉を返す。自分のペースを守るのが交渉事の秘訣なのよ。


「・・・それはしょうがないわ。色々とあったみたいだから。」
「そうね、そしてあなたは何かを知ってる筈よルシオラ。良かったら聞かせてくれないかしら?」


流れるように問いかける。この反応で何か感じとれるといいけど。


「・・・もし知ってても教えると思うかしら?このままでいれば・・・最愛の人といられるのに。」
「・・・あなたはもう死んでいるはずの存在よ。二度目の死も迎えた。また次もあるんじゃない?」
「きつい事言うのね。・・・次にまた、ヨコシマに会える保証はあると思う?」


悲しそうな眼を向けてくる。怒りの意思らしきものも感じられる。


「・・・さあ?あなた達の結びつきが強ければ有り得るんじゃないかしら?」
「そんな曖昧な事じゃ困るわ。折角のチャンスだもの私は逃したくないの!」


ここが攻め時だと感じる。一気に進んでみるしかなさそうだわ。時間も無いかも知れないし。


「・・・あなたは自分が本当にここにいると思ってる?」
「・・・どういう意味かしら。」


怪訝な表情を浮かべる彼女。意味を取りかねているようだ。


「他人の身体を使って愛する人に抱かれたとしてもそれはあなたにとって幸せな事かしら?」
「それは・・・・・・・!」


下に顔を向けて言葉に詰まっている。彼女自身も理解はしているのだろう。


「それに疑問もあるのよね。娘として安定していた筈のあなたが何故今ごろ出てきたのかしら?」
「・・・事故に遭って死んだショックで現れたとすれば問題ないんじゃないですか?」


横島クンがやっと落ち着きを取り戻したのか言葉を発した。


「まあ、それもあるかもねえ。身を守る為に・・・って結局間に合わなかった訳だけど。」
「他に何かあるとでも?」


(・・・可能性はあるのよねえ。文珠を持ってたとすれば・・・。そしてさっきの話。)


「心して聞いてくれるかしら?今から私の言う事を・・・。あくまで推測の一つなんだけど。」


続く。

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa