ザ・グレート・展開予測ショー

ナンバー329843 その1


投稿者名:青い猫又
投稿日時:(04/ 5/19)

注意、一応単独の読み物として作っていますが、この作品は今まで青い猫又が作ったSSと、
そこはかとなく繋がっています。微妙に意味が分かりづらい場所があるかもしれませんが、
突っ込みは少しぐらいにしてください。よろしくお願いします。








深淵の闇、そこにある闇はあまりにも深く黒く静かだった。
だがその闇の中に突然音が響き渡る。
それは非常事態を伝えるためのサイレン、それと同時に聞こえてくるのは
銃弾の音と耳を塞ぎたくなるような悲鳴の声。

「うぎゃ〜〜」

ドキュゥゥン、ドドドドッ

「ここから逃げられると思っているのか!
無駄な抵抗は止めろ!!
くっそっ、来るな来るな〜〜〜。ギャ〜〜〜」

また他の方向からは、その場に駆けつけようとする一団の声。

「各班は第2種装備で武装!
2班は周りを封鎖しろ、3班は他の囚人が余計な事をしないように抑え付けていろ。
1班は俺とともにナンバー329843を取り押さえる、殺してもかまわん絶対に逃がすな!!」

最初焦ったように喋っていた一団の隊長が、少しずつ落ち着きを取り戻してくる。

「ここは地下1000メートルにある魔界でもっとも警備の堅い刑務所だ。
今までどんな魔族だって逃げ出せたものは居ない、そうだ、それはこれかもだ!」

「そうか、なら私が最初の一人目だな。」

「なっ?!」

それ以上、一団の隊長が言葉を喋ることは無かった。
突然現れた影の動作一つで、1班と呼ばれた魔族たちの半数が切り刻まれる。
そして響き渡るのは悲鳴と銃声。
再びその場が静寂に包まれるのは、さして時間を必要としなかった。

かつて魔族と呼ばれた切れ端を前に、ナンバー329843と呼ばれた者の姿が現われる。
それは女性だった、人間とほとんど変わらないその姿は、美しいと言っても良いだろう。
返り血にまみれた顔は整っており、サキュバスか、もしかしたら古い神の血が流れているのかもしれない。
長い髪を後ろでゆったりと縛り、血の滴る髪をかきあげる姿は見る者を魅了する。
だが、今彼女の顔に浮かぶのは、怒りと呼べるものだった。

「まだだ、まだ私の戦いは終わってはいない。
こんな場所に何百年、何千年閉じ込めようとも、私の戦いは終わりにはならないし、
私の部隊はまだ存在する。私が居る限りけっして消える事は無い。
待っていろ小竜姫、部下たちの敵は私が討つ、きさまは私が必ず殺してやる。」

そして彼女は歩き出す、まずは自分の目的を邪魔する者を蹴散らすために。




「少佐、これが囚人ナンバー329843の資料と、脱獄の際に起こした被害の報告書です。」

若い魔族は書類を渡しながら目の前を見る、そこには小男と呼ぶぐらいにしか背の無い年老いた男が居た。
二人は並んで座れるような立派な机に座っているのだが、
すでに白髪とかした髪を、撫で付けながら持ってきた資料に目を通す姿は、
どう見ても少佐と呼ばれるには貫禄が無かった。
だが見た目で判断する事が出来ない事は分かっていた、自分の前任者の話を聞いた時にそれは理解していた。

「ふむ、やってくれますね。警備隊はほぼ壊滅と言っていい被害じゃないですか。
仮にも刑務所は魔族軍管理の場所ですよ。二つ三つ首が飛ぶだけじゃすみませんね。」

「はっ」

若い魔族は少佐と呼ばれた男の言葉に恐れを感じながら、それでも律儀に返事を返す。

「この刑務所は囚人たちの力を奪う結界が張られていたはずです。
それが報告書によれば問題があった時には、原因不明のトラブルで動いて無かったと書かれています。
なぜ、都合よくトラブルが起こったのでしょうね?
このような事が無いように2重3重の対策は取られていた筈です。」

それは質問ではなく確認だった。
目の前の男は頭の回る者が好きで、回らない者はどうしようもなく嫌いだった。
それ故に時々こうやって自分は試される、おそらく答えられない時は自分も前任者と同じになるのだろう。

「現在原因については調査を進めていますが、第3者の介入も最悪考えられます。
アシュタロス事件以来、一部の過激派はなりを潜めていますが諦めたわけでは無いはずです。
今回ナンバー329843が脱獄した目的を考えれば、手助けをする価値は十分にあると考えられます。」

此処に来て初めて少佐に表情の変化が現れる。

「目的か・・・また厄介な所を目指していますね。せっかく落ち着いてきたと言うのに、
此処に手を出したら問題になるどころではありませんよ。
さて、どうしますか。」

「第1種装備を許可して3部隊を投入するのが最善と考えられます。
出来れば目的地に着く前に、最悪目標がむこうに手を出す前に捕まえなければ意味がありません。」

此処に来る前に考えてきた事を少佐に伝える、自分なりに計算をして突き詰めた答えだ自信はあった。
だがその考えも少佐の一言で跳ね除けられる。

「駄目ですね、それでは魔族軍の失態を広めるだけです。
今回の事件は起きなかった。刑務所内でのただのぼや騒ぎ、当然脱獄した者など居ないが、
神界に伝える正式発表です。部隊を動かす事は出来ません。」

「ですが、このままでは大変な事になってしまいます。」

その言葉に少佐の顔からいっさいの表情が消える、
鋭い眼光だけが若い魔族を射抜いて、先ほどまでの雰囲気をがらりと変える。
感じたのは恐怖、相手の気分次第で自分なんて何時でも消される存在だと言う事を、
身にしみて分からせられる。

「私はあなたの意見なんて聞いていませんよ。
ですがそうですね、討伐隊は送らないわけにはいかないでしょ。
丁度囚人ナンバー329843と縁のある者で適当なのが居ます、彼女に行ってもらいましょうか。
なに、部下の一人や二人つけてやれば十分です、
それに妙神山にはアシュタロスが作った出来損ないと留学生が居たはずです。
死ぬ気でがんばってもらいましょう。
いいですか、あなたは黙って此処にワルキューレを呼びなさい。それ以外は喋るな行け!!」

若い魔族が部屋から逃げ出すように出て行った。
それを見送った少佐は、再び手元の資料に目を向ける。

「せっかく出てきたんだ、少しぐらい騒いでくれたほうが上層部の馬鹿どもらには良い薬だろう。
なにが神族との和平だ、ばかばかしい!
最近神魔との間のでごまをすっている、忌々しいワルキューレと潰しあってくれれば万々歳なんだが・・・。
さて囚人ナンバー329843であるとともに、実験体ナンバー329843か、お手並み拝見と行こうかな。」








その日妙神山は千客万来だった。

「悪いわね、皆で押しかけちゃって。」

ジークのだしてくれたお茶を飲みながら、美神は小竜姫に話しかける。

「いいえ、気にしないでください。この時期に皆さんで来てくれるなんてパピリオも喜んでいます。」

「そうでちゅ、ヨコシマが来るなら多少の事は目を瞑るでちゅよ。」

年も終わる師走の時、12月28日に突然現れた美神除霊事務所一行は、
妙神山修業場の居間に上がり込むと、各自まったりとくつろぎ始めていた。
この辺はまあさすがと言う所だろう。厳しい修行で有名な妙神山に、
ここまで当たり前のように居座れるのは、世界中探しても美神除霊事務所だけだと思われる。

そんな中、居間のコタツの中で、いつの間にかヨコシマの横に座っていたパピリオが、
無い胸を反らしながら皆に告げた。

「こら、そんなふうに言うんじゃない。」

軽く頭をはたきながら横島はパピリオに注意する。
だがパピリオはよほど嬉しいのか、横島を見上げるとそのまま横島の胸に抱きついて甘えだす。

「「「「「あっ」」」」」

他の女性陣が漏らす声が見事に被る。
その声に横島は驚き、胸の中のパピリオの存在を一瞬忘れて周りを見渡した。

「あ?」

不思議に思って周りを見渡すのだが、誰一人として横島と目線を会わせようとしない。
だんだんと重くなっていく雰囲気に、耐えられなくなった美神が喋りだす。

「細かい事気にしてるんじゃないわよ、それよりもちょっとくっ付き過ぎよ!
あんた何時からロリコンになったの!!」

言われて横島も自分の状況を思い出す、そしてパピリオの頭を撫でながら注意をした。

「ほら、パピリオ少し離れろ。美神さんに俺が変な趣味持ってるって疑われるだろ。」

少しばかりぐりぐりと頭を撫でるのだが、よほど離れたくないのか必死にしがみ付いてくる。

「あんなおばんの言う事なんて気にしないで良いでちゅ、きっと羨ましいだけでちゅよ。」

「なっ?!、だれがおばんよ!!
それになんで私が横島に抱きつくのを羨ましがらないといけないのよ!!」

パピリオにおばんと言われた美神が、顔を真っ赤にして詰め寄ろうとする。
だが、おキヌがパピリオと美神の間に入り、必死に美神を止めた。

「まあ、まあ、美神さん落ち着いて、子供の言う事ですから。」

「パピリオ、なんて事を言うんですか。口が悪すぎますよ!
謝りなさい。」

小竜姫もさすがに言いすぎだと思い、美神に謝るように注意する。
だがそのぐらいで謝るようなパピリオでは無かった。

「すっごい行き遅れのおばんが出てきたでちゅ。」

そう言ってますます横島に抱き付いた。
さすがの横島もこれには生きた心地がしない、額に冷や汗がひとすじ流れるのを感じる。
ちなみに他の事務所の連中は、いつもの事だとまったく気にしないでくつろいでいる。

「馬鹿犬、そこの茶菓子取って、饅頭じゃなくて煎餅のほうよ。」

「だれが馬鹿犬でござるか!
この女狐め、いい加減言うのを止めるでござる。ちなみにこっちの豆入りの方でござるか?」

「そうそう」

こっちは平和であった。

一方平和じゃない方はと言うと、パピリオの一言に一瞬黙った小竜姫は、無言で部屋の隅へと向かう。
それを美神を押さえながら見送ったおキヌは、次の瞬間青ざめる。
部屋の隅に置いてあったのは小竜姫の神剣だった。

「パピリオ・・・言ってはいけない事を言いましたね。もう許しません!!」

鞘から剣を抜くとパピリオに切りかかる。
それに青ざめるのは横島とおキヌ、とくに横島はパピリオに抱き付かれているので、
パピリオに切りかかるイコール横島も切られるの方程式が出来上がっている。
しかも小竜姫が部屋の隅に行きだした時点で、パピリオは横島の背中のほうへと逃げている。
どう見ても先に切られるのは自分だった。

フルスイングで切りかかって来る小竜姫の一撃を、横島は根性で避ける。
避けきれない髪の一部が宙に舞うのを見て、小竜姫が結構本気だという事を嫌でも感じてしまう。

「なんで避けるんですか横島さん!!
パピリオの味方なんですか!!」

小竜姫は横島が避けた事に怒り出す。
結構理不尽だが今の小竜姫には理屈は通じない・・・

「避けなきゃ俺が死んじゃいますよ!!」

さすがに次の一撃を入れる前におキヌが間に入った。

「まあ、まあ、小竜姫さま、子供の、子供の言う事ですから。」

おキヌも場を収めようとかなり必死だ。
だがおキヌの努力もパピリオによって崩れ去る。

「きゃ〜、行き遅れが怒ったでちゅ〜〜」

やたら嬉しそうに言いながら横島の背中で騒ぎ出す。それを聞きながら横島は、自分の命の危機を感じる。
お袋、馬鹿親父、俺此処で死ぬかも。

そしてコタツをひっくり返しての大乱闘へと突入する。

「小竜姫、行けやっちゃいなさい!!
礼儀を知らない子供にはお仕置きが必要よ。」

美神は小竜姫側について、後ろから応援に入りますます事態を悪化させる。




いち早く部屋の隅へと逃げていた平和な一団は、相変わらずまったりしている。
だがさすがに大乱闘になると周りが少し騒がしくなる。
いや大乱闘の前から騒がしいような気もするが、平和な一団には気にならなかったようだ。

「少しうるさいわね、静かに出来ないのかしら。
まあ良いわ馬鹿犬お茶のお代わりって誰に言えば良いのかな。」

「何度言えば分かるでござるか!馬鹿犬じゃござらん!!
だからそんな事知らないでござる。」

さすがのシロもふんと顔をタマモから背ける。

「使えないわね。」

「お茶なら入れますよ。」

突然横から声を掛けられたシロとタマモは、驚きながら声のしたほうに顔を向ける。
そこにはお茶セットをお盆に乗せたジークが立っていた。

シロとタマモはそろって手を顔の前に出し挨拶をする。

「「やっ」」

「さっきも挨拶しましたって・・」

そう言ってシロとタマモのお茶を入れ始める。
自分の分も入れ終わると、二人に混じって我関せずの態度を取った。

「ねえ。」

「はい?」

さすがにジークまで後ろを気にしないで、まったりしているのを不思議に思いタマモは声を掛ける。

「後ろ、止めなくて良いの?」

「あの状態になったら二人の気が済むまで止まりませんよ。
ああ見えても二人のスキンシップみたいなものです、どうせ壊れた所直すのは私ですから・・・
ほっとくのが一番です。」

「あんた、苦労してるのね。」

ジークの説明になにかを感じたタマモは、取り敢えず慰めの言葉でも送ってみる。
ジークは一つ大きくため息をつく。

「言わないでください、ちょっとだけ悲しくなります。」




「うぉ〜〜〜〜小竜姫さま、死ぬ死んでしまう〜〜」

「パピリオを懲らしめる為です。大人しく切られてください!!」

「きゃ〜横島さんまで切れちゃいますよ〜」

「きゃはははは、ヨコシマ逃げないと小竜姫に切られるでちゅよ〜」

「横島君、生きて帰ってくるのよ。」

そう言って美神は手を振る。

取り敢えず後ろは、まだまだ静かになる様子は見られなかった・・・
だが、突然鳴り出したベルの音が全員の動きを止める。

ジリリリリリリン、ジリリリリリリン、ジリリリリリリン、ジリリリリリリン

それが電話の音だと気がつくのに、誰しもが少し時間を必要とした。

ジリリリリリリン、ジリリリリリリン、ジリリリリリリン、ジリリリリリリン

「電話・・・ですよね。」

やっと横島がそれだけを搾り出す。
ふと見ると、小竜姫の顔は先ほどまでとは違い真剣な顔になっている。
元々、電話帳にも載っていない妙神山の電話は、普通にかかってくる事などありえないのだ。
神界との連絡用に置いてあるだけ、しかも普段の連絡は手紙などの形式を取るため、
電話を使う事などまず無い。

それが掛かって来るという事は、緊急のしかもあまり良い内容じゃ無いとい事。

「私が出ます。」

そう言ってジークが立ち上がった。

「すみません、お願いします。」

小竜姫はジークに礼を言いながら剣を鞘へとしまう。
なんだか、不吉な予感が小竜姫の中にあった。
そしてそれが現実になってしまったのはもう少し後のお話、
後になって小竜姫は思うのだ、すべてはこの電話から始まったのだと・・・




続く

あとがき
今月に入ってすでに19日目・・・・日にちってあっという間ですね。
最近忙しさが増してしまい、書いてる時間も見てる時間も少なくなっていました。

まあそれは置いておいて、今回は初のオリキャラ?を出します。
いや、オリキャラなんて使える自信無いので使わないつもりだったんですが、
まあためしにと思い今回の作品を書きます。
そして、今回の登場人物の多さに今から泣きそうです。(おいおい
長くなりそうな予感・・・

ではまた次であいましょう

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