ザ・グレート・展開予測ショー

ダブル・ブッキング


投稿者名:トンプソン
投稿日時:(04/ 5/16)

柄にも無く本屋に足を運んだシロである。
「えっと、オキヌ殿が言ってた料理の本とはこれで御座るか?」
なんでもオキヌちゃんがファンだという調理本の最新作が出たとかで、
「お散歩の帰りでいいから、お願いしていい?」
そういわれ断る事も無く寄ったという事だ。
本屋も、広さ量と、ピンきりだ。流石に専門書という事で町の中でも一際大きい本屋に寄ったのも頷ける。
「あった、あった」
幸い直ぐに見つかった。
では早速と手を伸ばしたとき、
「あのーおねーさん」
「おろ?なんで御座るか?」
真横にいた男の子がやや顔を赤らめて声を掛ける。
「すいません。その隣の本取ってもらえますかぁ?」
まだ小学生低学年といった所か。シロの方が頭一つ大きいのが証拠である。
「あぁ、いいでござるともっ」
ひょい、とってやる
「ありがとう!おねーさん」
「どういたしまして」
小さな親切という奴か。シロも性格上困った人をほっとけない性質である。
その男の子、足を返してレジに向かおうと、背を向けたとき
「ぎゃっ!ししっぽがっ」
シロの尻尾を思いっきり踏んでしまった。
「えっ??うわっ」
通例、いくら可愛かったとしても尻尾の生えているおねーさんを見て驚くのは当然であろう。
「いたたたた」
体を捩らせ尻尾に息をかける。
「ご、ゴメンナサイ、不注意でぇ」
「い、いや拙者とて不覚で御座ったゆえ・・」
そ、そうですか、と小さく呟いて、
「あの、おねーさん、お詫びに何か奢らせてください」
「はぁ」
最初は断りをいれるが、この男の子の熱意に負けて
「じゃあ、遠慮なく」
と答える。
最も、近くの某フライドチキンの店という文句にまけたのかもしれない。
数分後。
既に卓上の二人である。先に飲み物だけを持ち、出来上がるのを待っている。
「さっきはゴメンナサイ。おねーさん」
再度深々と頭を下げる男の子である。
「いや、いや。もう痛くないで御座るぞ。・・えっと自己紹介が遅れたで御座る。拙者『犬塚シロ』と申す」
「シロさんですかぁ。僕真友、『真友康則』って言います」
「康則殿で御座るか。いや先ほども申しましたがこれは拙者のミスあまり自分を責められるな」
はい、と元気に答える真友君である。
「で、おねーさんは人間じゃないよねぇ」
「あぁ、拙者は誇り高き『人狼』の一種で御座るよっ」
左拳をやや上げて強調する。
「えー、狼さんなんですかー?だっておねーさんは名前からして日本の狼ですよね」
「あぁ、そうで御座るが?」
「だって、日本狼って絶滅種じゃ・・」
正直そういわれてもピンとこないシロである。生まれたときから周りには同属が少なからずいたからである。
「うーむ、長老殿からきいた話であるが、昔は拙者の一族はさる隠密から狙われていたらしいで御座る」
「隠密って?」
確かに、今日びの小学生が隠密の意味を知ってるとは思えない。
「あぁ・・まぁ、忍者みたいなモノで御座るな、でそれから逃げる為に隠れ里を作ったとか」
「ふーん」
興味津々といった所か。
「しかし、小さいながら日本狼の事、よくご存知で」
「うん。僕図鑑とか、見るのが好きでね、ちょっと勉強したんだ」
勉強、この言葉ほど似合わないキャラがシロである。
「う〜〜む。勉強で御座るかぁ、拙者にはとんと縁の無い世界で御座るぞ」
「そうなんですか?学校とか行ってないんですか?」
別に行きたいとも思わないし、行ってもしょうがないかと、思う、
「拙者は狼で御座るし、まぁ、いいと思う」
「そっか」
これ以上の追求はよそうと、決めたとき。
「おまちどうさまでした」
店員がメインの肉料理を持ってきた。
「うはっ、おいしそうで御座る」
別段空腹ではなかったのだが、そこは本能の勝るシロ。
「・・・・うわっ」
この真友君の驚きで諸兄(姉)はシロのおとこっぷりたっぷりな食べ方を想像していただきたい。
残り少なくなって漸く回りが見えたシロ。
柄にも無く真っ赤になり。
「うぅう」
「あははははは」
笑われるのも無理は無い。
「よっぽど好きなんですね。お肉」
「ま、まぁ性って奴で御座るよ、うぅ」
「なんだったら、これもどうですか?」
生来食が細いのか、自分のオーダーした肉料理を差し出す。
「いや、これはいいで御座るよ。真友殿の分で御座ろう?」
「ううん、別にいいけどぉ」
「じゃあ」
と、手を伸ばしたとき、通路からもう一つの手が現れる。
「シロがいらないなら、私がもらいましょーかっ?」
泥棒に等しい。
「こらっ、横から誰で・・・って」
「タマモちゃん!」
態々子供体型になってご登場のタマモである。やや顔が赤いのは恥ずかしいからではなかろう。
「タマモ・・で御座るか?」
「そうよ。アンタが遅いから見に行ってってオキヌちゃんから頼まれたの、そしたら何よっ!」
「何よって、話せば長いようで短いので御座るがっ」
別段やましい事をしてないシロとしては当然の反撃なのだが、
「それになによ、真友君も、こんな馬鹿犬をデートにさそっちゃってさっ!」
「馬鹿犬っ」
「ちょいと、タマモ?」
「何よ、馬鹿犬」
「何度もいっておるが、拙者は犬では御座らぬぞっ!」
今にも剣を抜くそうな勢い。
「・・何よ、人が心配してたらさっ、私の知り合いとデートしてるだなんてぇつ!」
「知り合いなので御座るか?真友殿」
真友君を見て、
「うん。デジャヴーランドで知り合った友達」
これ以上でも以下でもないのは皆もご承知の通り。
「・・へー、そうだって御座るか、ってタマモ?何を真っ赤に怒ってるでござるかぁ〜」
「べ、ベツニィ」
あからさまに声が上ずる。
「ふーん。あまり色恋沙汰には疎いメ狐だと思ってたで御座るが」
「う、五月蠅い、馬鹿犬」
手を組んでそっぽを向く仕草は嫉妬そのものなのかも知れない。
「ねぇ、タマモちゃん。このおねーちゃんの事しってるの」
まだまだ恋愛感情なんぞ、わかりえぬ年頃、知り合いの子が突然来て嬉しい、その程度の感情表現か。
「ま、まぁね。ほんと馬鹿なのよ、この犬は」
「犬?狼でしょ」
「どっちでも一緒よ!」
何時もなら喧嘩になるであろう台詞もこのときばかりはシロもにやけ顔になる。
「にしても、でござるなぁタマモ」
「何よ?」
「隅におけない、でござるよぉ〜」
「うるさいっ・・・」
あまり騒がしくしたので他の客がこちらを見始める。
「ね、とりあえず出ようよ。シロさん、タマモちゃん」
「そ、そうね」
外に出る。
「なかなかやるね〜アノ子」
と、真友を指してきゃっきゃ言い合う女学生軍団もいたとか。
「ま、知らずとはいえ、タマモの友達と勝手に食事したのは悪かったで御座る。
外の気温は寒くも無く、暑くも無く。
「ま、拙者はこれで帰るで御座る、真友殿ご馳走になったでござるよ」
と、顔面間近で言うから。
「こらっ、離れろ、馬鹿犬ぅ」
地団駄を踏むタマモである。
「ま、あとはごゆっくり、おふたりさーん」
矢張り子供姿が不味かったか。
終始からかわれっぱなしの感があるタマモである。
「何よ、馬鹿犬の癖に・・おねーさんて呼ばれて舞い上がっちゃって」
それでも真友君の悪口は言わない。
言えないと言う方が正しいのか。
「うーん。どっか行くタマモちゃん」
「・・そうね。デパートの屋上なんてどう?」
「うん!」
まだまだ子供なのである。

FIN

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