ザ・グレート・展開予測ショー

流れ往く蛇 終の章 次話


投稿者名:ヒロ
投稿日時:(04/ 5/13)



『果たして、彼女はこの世界の意味がわかったのでしょうかね?』

 ポツリと、キリストはそう嘆息のような言葉を漏らした。

『別に分かる必要はないんやないのか?どーせ記憶から消去してまうんやからな』

 キリストの横で、サタンが黒いその身を震わせた。

『一度死を向かえるごとにわれわれがまた復活の儀を行うだなんてな。まさに魂の牢獄だな・・・』

 仏陀が、皮肉をその唇に刻み込んで、薄く笑みを形作る。

『実際、ここに来て二回でしたか?彼女が命を落としたのは』

 キリストが、仏陀に呼応するように、指を折り曲げた。

『まぁ、なんにせよ、や。メドーサは『丁度都合よく美智恵が時間移動能力を発現させた』からな、ワイが転送させといたで』
『それはそれは、ご苦労様です』

 サタンのやや恩着せがましい言葉に、キリストは慇懃に頭を垂れた。

『とは言え、彼女がここに来るのは恐らくはあと一回だけ。そのときにこそ聞かせてもらいましょうか』

 薄く、そして不適に笑うキリストの言葉に、二人の主神は眉をひそめた。

『彼女の懺悔と悔恨の言葉を』





 いきなり空間が裂けて出来上がったトンネルのようなもの。あたしたちはそこから飛び出していた。
 ここは大体どれくらい前の場所なんだろう。
 あたしと美智恵は、お互いに目を合わせるとすぐに物陰に身を隠すための行動を開始する。
 あたしは、アルミ製で外に露出しているアルミの通風孔を背を向けた。ここからなら音がベコッとか言ってしまうけど、逆にそこにさえ気を配れば、まさかここに人がいるだなんて考えないだろ?それに美智恵の話じゃ、チューブラー・ベルのヤツは美智恵しか感じられないみたいな事言ってたしね。あたしの方にまで気を配るなんてことは無いと思う。
 
 あたしは、そっと通風孔から目だけを外に向けた。
 そこには、三人の人物がいた。

『テメーのたわごとにお情けで聴いてやったがヨォォオ!!もうやめだ!!美智恵をぶっ殺してからお前も仲良くあの世行きだ!!変人同士仲良くしやがれッ!!!』

 闇夜を裂く怒号が、辺りを激しく震わせた。その言葉を吐き出すのはヤツ―チューブラー・ベルだ。奴はこちらから向かいのビルで、天に向かって激しく吼えていた。
 やつがさらに何事かを言うと、飛び降り防止柵手前で呆然と突っ立っていた女性、美智恵がゆっくりと地上へ向けて歩き出した。

「美智恵!止めろ!!死ぬぞ!!」

 そう叫んだのは、やや小柄な髪の長い少女―あたしだ。
 そして、深い谷底にも似た地面へと落下していく美智恵、それを追いかけて行くようにして―ッて実際追いかけて言ったんだけど―落下していくあたし。
 なんか・・・どっかのテレビでも見てるみたいだ。『過去の自分』を見ているっていうのは、まるで他人事のような気持ちと、同時に不思議な新鮮さを感じる。
 
 とは言え、そんなのに浸っている暇もないあたしは、チューブラー・ベルに近づくために、ゆっくりと物陰を頼りながら移動を開始ししようとした。
 けど、すぐにその足は止まる。

「う・・・うぅ」

 という、呻き声があたしの耳に入ったからだ。
 あたしは慌てて、その呻き声の方へ振り向いた。
 ビルの端っこのほうで真っ黒な血を頭から激しく垂れ流して、苦しそうに呻いていたのは唐巣だった。ものすごい体力を消耗しているのは、素人目にもわかるくらいだけど、それと同じくらい霊力も消費している。大出力の攻性術を連続で放ったんだろう。唐巣のことだからさ、きっとこんなヤツを野に放ったらきっとみんな辛い目にあう、みたいなこと考えてたんじゃないのか?そんな情景が、なんとなく目に浮かんだ。
 あたしは急いで唐巣に駆け寄ると、静かにそっと唐巣の頭を持ち上げた。

「大丈夫か、唐巣」

 そう呼びかけると、唐巣はゆっくりと目を開けて、あたしに弱弱しく笑いかけた。

「ハクミ君か・・・なんか、ほんのちょっと会っていないだけなのに・・・君とずいぶんと会ってないような気がするよ・・・」
「それはアレだ。気のせいだ」

 あたしは唐巣の頭をグッと力強く抱きしめると、傷に触らないように気を使いながら、物陰の中に引っ張っていった。
 アスファルトに残る黒い血の跡が、凄く痛々しかった。唐巣を引っ張る拳に力が入る。
 物陰に入ると唐巣は荒い息を吐き出して、顔を項垂れた。

「ハクミ君、私は君に・・・謝らなければいけないことがある・・・」

 あたしは、影から外の様子を窺いつつも、注意深く唐巣の様子を計る。
 その身体からは覇気なんか見えない。歴戦のGSであるのかすら、窺うことなんてできない。そこにいるのは、ただ傷だらけのくたびれたただの若造。その瞳が今は懺悔すら帯びてあたしに向けられる。あたしの胸に、痛みにも似た何かが駆け巡った。
 あたしは、泣きそうになる声を無理やり押し殺して、唐巣に答えた。 

「今じゃ無ければ無理なのか?後で病院にでも行ってさ、その時になったらゆっくり聞いてやるよ」

 唐巣はその言葉に悲壮すら漂わせた沈黙で返す。それは、どことなく拒絶にも近いように、あたしには感じられた。

「・・・わかったよ、なんだい。その謝らなくっちゃいけないことって?」

 あたしは嘆息を漏らして、唐巣の横にどっかりと腰を下ろした。
 荒く息を吐き出す唐巣は、弱弱しい眼差しをあたしに送った。

「GS協会に君の事をすでに連絡しておいた・・・それに公彦君にも、無用な混乱を避けるためにもきちんと説明した上で、口止めをしてもらっている・・・・」

 と、唐巣はいきなり意味のわからないことを語りだした。なんだ?何のことだ。

「何を言いたいんだ?」

 あたしは、眉をひそめて唐巣の言葉を待っていた。
 唐巣は、よたよたとあたしのほうへ向き直りながら、続く言葉を吐き出した。

「・・・実は、私は君が何者かを・・・最初から知っていたんだ」

 そう唐巣は、言葉を吐き出した。あたしはその紡ぎ出された言葉を、冷水でもかけられた見たいな気持ちで、黙って、それでも僅か以上の恐怖を内在した驚きをもって、聞いていた。
 唐巣が・・・あたしの正体を知っていた?あたしは今何の力も無い、内在する魔力すら感じ取れないくらいの存在を・・・いや、一流のGSともなれば、それでも魔族かどうかすらわかるってのか?
 いや、そんなことはどうでもいい。むしろ、何で唐巣は最初からあたしのことに気付いていながら、除霊しようとかしなかったんだ?

「本当は・・・今朝六道女史に連絡していたのさ。協会の監視の下、君を保護するようにって・・・ね」

 断片的ながら、今朝の唐巣の電話のやり取りが思い浮かんだ。そういえば、なんか言っていたっけ?

「本当はね・・・僕は今までずっと君を監視していたんだよ。上からの命でね・・・」

 弱弱しく、むしろ冷たさすら入った言葉で唐巣はそうあたしに言った。

「何で・・・なんで今更そんなことをあたしに言うんだ?」

 怒りのようなものが、あたしの心にふつふつと湧き出す。いや、どこか裏切られた、何てすら感じられる。あたしの中を、無作為に憤りと悲しみが吹き荒れた。
 ああ!!所詮人間なんてこんなもんさ。そんな言葉だけが、ただ現実感をもって嘶(いなな)いた。

「何でか・・・今君に謝っておかなければ、もう君に謝れるチャンスは二度とないからね・・・それに・・・・」
「・・・それに?」

 深く息を唐巣は吸い込んだ。呼吸はまるで、途中で別の穴から漏れてでもいるみたいに、ヒューヒューと異様な音を喉から漏らす。

「僕がそんな命を受けたのは、魔族の君にもGSの・・・人間のことをわかって欲しかったからだったんだよ」
「・・・・・・」

 弱弱しくそう漏らすと、唐巣は血にまみれたてで、あたしの指を優しく握り締めた。あたしは、何でかその手を振り払おうなんて気すら起きないで、むしろ力強く握り返してしまった。唐巣を握る手が弱々しく震える。

「我々GSは人に害するものと戦うことを主としている。だけど、誰だって好きでそうしているわけなんかじゃないって事を・・・わかって欲しかった。
 できるなら、我々と共に手を取り合える未来があるなら・・・そう考えたから、君を引き取ることにしたんだよ」

 あたしの胸に、ズシッと石よりも重い何かがのしかかった。あたしは唇を強くかみ締めて、自分の胸に手を添えた。
 身体が震えるのを、達観しつつも自覚する。これは恐怖でも怒りでもない、今まで自覚できなかった震え。あたしは今度こそ目頭が熱くなるのを止めようとも思わなかった。

「本当は思いっきりぶん殴るとこだけどさ・・・こんなときにそんなセリフを言うのは、卑怯だろ」
「・・・すまない。今まで騙すようなマネして、悪かったと思ってる」

 痛みに顔をしかめながらも、唐巣は首をたれた。

「すぐに終わらせて病院に急ぐぞ。だから・・・・・・それまでは頑張って生きてろよ」
「・・・わかった・・・」

 あたしの言葉に、それでも唐巣は気丈に微笑んだ。
 そして・・・

「でも退院したら、おぼえてろよ」
「・・・それは困る」

 あたしの言葉に苦笑を漏らした。





 あたしはゆっくりと物陰から這うようにでる。
 向かいに在るビルの屋上、今のあたしの位置から診てもそう遠くはないところに、チューブラー・ベルは突っ立っていた。
 そして、乾いた笑いを立てていた。それは狂気、そして何かを欲して止まないような、羨望。

 だけど、その表情はいきなりもろく崩れ去る。そして自分の胸をいきなり苦しそうにかきむしった。
 なんだ?なんだ?何が起こったって言うんだ?

『「グゥ・・・アァァ!!なんだ!?何が起こったってんだ?どうした、この俺様の身体がっ!?」』

 やつは自分の身体を掻き毟ったまま、地面に倒れ付した。倒れつつも、激しく自分の身体を掻いてやがる。なんだ?どうなったんだ?
 あたしは不審に思いつつも、物影を頼りにして、そっと近づいていく。そうしながらも、よくよく目を凝らしてみると、奴の顔にあるものが見えた。


 ――涙?


 何でだ?何でやつが泣いてるってんだ?
 いや、そんなことなんかどうでもいい。むしろ今は好機ってやつだ。この瞬間に、一瞬で片を付ける。
 でもどうやって片を付ける?普通に行ったらまず勝ち目なんかない。頼りになるのは美智恵だけなんだけど、美智恵の話じゃ既にあいつは感知されている恐れもある。
 やっぱりあたしがどうにかしなくっちゃなぁ・・・せめて霊力が戻れば・・・と、そこであたしははたと気付く。別に霊力事態は、つかえないこともない。

 ―そのときに生じるリスクさえ気にしなければ。

 ただ、あたしはそのリスクが怖かった。ためらいの気持ちだけが強かった。文字通り、最終手段ってヤツ。
 その使用方法は、自分の霊気構造から術に必要な霊力分を強制的に切り離して、切り離した部分を身体に循環させて術として使用する―って言う、まぁ、簡単なことなんだけどね。言うだけなら。
 要するに、腹減ったタコが自分の足を食うって言うのと、同じ原理―霊力が皮を被ってる、なんていうあたしら魔族にとってはね。
 でも、それには当然重いリスクがついてくる。

 あたしはチラッと唐巣を見た。物陰に潜むあいつは、頭から血をだくだくと流し、苦しそうだ。早く病院に連れてってやらなけりゃ、命に関わる。むしろ、今まで意識を保ているのだって、ひとえに気力としか言いようがない。ぐずぐずなんて、してられない。

 あたしは、自分の身体の内にある霊気構造から、術に必要な部分を無理やり引き剥がす。
 図きり、と胸から来るような強烈な痛み。それは単に霊気を引き剥がしただけなんかじゃない、それこそ自分の内から来る痛みとも思えた。
 痛みをこらえて、あたしは唐巣をもう一度見詰めた。唐巣は、物陰から薄れていきそうな視線で、ゆっくりと頷くのが見えた。
 なんか・・・今までのことが全部バカらしく思えて、とっさにあたしは乾いた笑いを上げたくなる。
 
 今度こそ、あたしはチューブラー・ベルを獲物として捕らえた。

 胸を掻き毟るヤツは、異様と言ってもいいくらい加速度的に術を編んでいくあたしを、驚愕の眼差しで捕らえていた。
 奴とあたしの距離はだいたい十数メートル。やつがあたしに攻撃をするには遠い、とはいえあたしからの霊波砲なんかじゃ簡単に避けられる。とは言え、ここからならやつがあたしの心を読むには、やや遠いだろうね。
 あたしは、やたらと好戦的な笑みを浮かべながら、奴に向かって叫んだ。

「そういえば、あたしなりの『強さ』ってヤツをまだ言ってなかったね」

 やつは暴れ狂う自分の身体を、その腕で押さえつけながら、何とか立ち上がる。そして、霊気を徐々に帯びて行くあたしに、自分の強さを誇示するように、大きく胸をそらした。
 その強烈な圧迫感に、あたしは鋭く息を飲み込んだ・・・
 
 いや、あたしは奴に表れた違和感に、目をよく凝らしてみる。

 よく見れば、あの強靭な体つきはどこと無く痩せてきているように見え、鋭利な刃物にも似た形や爪などの末端部分は、今はだんだん小さくなってきている。そして、闇夜にもギラギラと怪しく光るその目つきは、今は『どこと無く頼りないあの目つき』にも見えなくも無い。
 やつの瞳の奥にいる『誰か』が、気のせいか優しく頷いた気がした。何よりも優しく、何よりも力強く。

 そうだよな、みんな、みんな頑張ってるんだよな。魔族の支配力を人間なんかじゃ勝てる訳はない、そんなこと思ってどこか諦めていたのかも知れない。チューブラー・ベルなんかに支配されている『あいつ』は、それでも頑張っていたんだよな。だれにも見えないトコでさ、すっごく頑張っていたんだよな。

「チューブラー・ベル。多分さ、本当に強いってのは無いんじゃないのか?やっと公彦の力を入手したなんて喜んでてもさ、やっぱりいつかは無くなってしまうもんさ。そんなのはな」
 
 あたしはむしろ、晴れやかな表情をしていたのかもしれない。体中が痛かったし、苦しかった。それでも、倒れてしまいたいような、そんな意思はまったくない。
 チューブラー・ベルはあたしの言葉に意識を向けているようなそぶりは見せていない。むしろ、『自分の体が自分のものではなくなっていく』様な感覚に、驚愕していた。

『なんだ、何でこの俺様の体が・・・?!』
「お前のなんかじゃないだろ!!その体も、力も!!全部おまえのモンなんかじゃない。公彦のだろッ!!」

 あたしがそう叫んだとき、影から光り輝く刃を携えた美智恵が飛び出してきた。腰溜めに刃を構え、裂迫の気合を吐き出した美智恵は、情け容赦のない一撃を加えようと刃を振りかぶった。
 どうにか美智恵の動きを察知したチューブラー・ベルは、ぎこちない動きながらも転がるようにして刃から身をかわした。光り輝く白刃が、アスファルトを撫でるように焼き斬る。

『な、何で心が読めないッ!?体の動きも重い?何でだ!?』
「潮時ってヤツよ!あんたのね!!」

 今度こそ、ヤツを捕らえるべくして振り上げられる白刃の刃。

『テメー、本気か?この身体はお前らと同じ人間の、公彦の身体なんだぞ?』

 それでもチューブラー・ベルは身体に恐怖を貼り付けながら、そう言った。
 あたしは術をさらに素早く練り上げながら、駆け出す。
 美智恵の刃が、プルプルと酷く震えだした。

「その言葉・・・その言葉が・・・」

 美智恵の顔が、遠くにいるあたしにも判るくらい真っ赤に染まった。目つきはとんでもなく鋭くなって、間違いなく殺意すらこもっている。

「そんな言葉で神父を騙して!後ろから殴りつけたクセにっ!!」
『何言ってやがる、あのアホ神父を殴り倒したのは他でもねぇ、テメーじゃねーか!!』

 美智恵の激昂を、チューブラー・ベルは酷く冷淡な声で笑い飛ばした。その直後、ヤツの―公彦の背中辺りから、黒い何かがせりあがるのが見えた。
 あれは・・・

「美智恵!!斬るな、チューブラー・ベルはお前に公彦を殺させるつもりだ!!」

 公彦の背中から飛び出てきたもの、それは公彦に取り付いていたチューブラー・ベルの本体だ。あのあたしの夢の中で出てきた、血管だらけの身体、双角を持つでかい頭、そして巨大な羽。
 チューブラー・ベルの安直な挑発によって、美智恵は公彦に刃を今まさに叩き込もうとしていた。

「間にあえ!!!!」

 あたしはさらに自分を構成している身体から、霊気をごっそりと消費する。激しい激痛がとたんにあたしの全身を駆け巡った。
 けど・・・

「術は――完成したよッ!!」

 韋駄天なんかが得意とする、『時間の進む時間を出来うる限り遅らせ、その中で術者のみが自由に動くこによって、擬似加速状態になる』、高等の上に超がつくほどの術。あたしはあたし以外でこの術を使える人物なんて、そうは見たことがない。

 ―超加速だ―

 あたしの身体が、激しく光り輝く。それと同時に、『振りかぶる美智恵の刃』が―『公彦の身体から離脱を試みようとしている、チューブラー・ベルのヤツの動き』が―世界にあるありとあらゆるものの動きが遅くなった。それと並行して、あたしの体も術の力に耐えられないみたいに、激しく震え始める。
 ちょっとくらい耐えろよ、あたしの体。あたしは自分の身体を、今までは考えられないほど優しく、そっと撫でた。
 そして、そのまま前方をキッと睨みつける。
 チューブラー・ベルが、美智恵が、公彦が『動けない時の中で』あたしを驚愕の視線で見詰めていた。

 ―そして、そのまま加速。加速、加速―
 あたしは、それこそ目にも止まらない速度で美智恵たちに近づく。
 限りなく遅い世界の中では、移動に生じる僅かな空気抵抗すら認めず、時間にして瞬きにも満たない間にあたしは空を疾駆する。

 あたしとチューブラー・ベルとの間合いは一瞬にも満たない間にゼロになり、それと同時にあたしは腕を振り上げる。すると、腕にはズシリとした懐かしい重みが加わった。
 長年愛用し続けた、あの鉾の感触。空間から呼び出されたそれは、主であるあたしの手に握られて、嬉しそうに光を乱反射する。

 振り上げる雷剛の如き一撃。
 その一撃に向かい打つ手立ては、ヤツには残されていないはずだった。

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