ザ・グレート・展開予測ショー

地獄への階段に至りて


投稿者名:トンプソン
投稿日時:(04/ 5/13)

蝋燭程度の明かりの中に。
幅は小柄な人間の両腕程度と狭くあるのは段差が緩やかな階段。
上に進むも下に足を歩めるも気が遠くなるほど有る。
「ここは・・・」
メドーサが意識が戻ったとき、見慣れない場所にいる。
「意外と早かったな」
「誰だっ!」
「直接話すのははじめてじゃがな。顔、声は知っておろう、欧州が魔王Drカオスじゃ」
「何故、それにここは?」
忌まわしいといってよい記憶が戻る。
「たしか私は宇宙空間に放り出された、アイツの所為でな」
なのに目の前には人間の真理を得た男がいる。ここは一体何処なのだ。
「地獄へと通づる階段の中腹じゃ」
「・・・何?」
「生きとし生ける物がが死を迎えた後来る場所じゃ」
「そうだろうな・・だが何故?」
貴様がいるのだ、そう問う事は必然である。
「人間を長くやってるとな、ひょんな事からこんな場所への出入り方を見つけてしまうものじゃ」
思えば、メドーサ自身この階段に神人魔問わず何人も送り込んできた場所という事か。だがこのような場所知り得なかった。
「ふ。私すら知らぬ道をしっているのか、食えない奴だ」
自嘲とも取れる態度で台詞を吐く。カオス半ばおどけてそりゃどうも、と返している。
ふん、と鼻から息を出し、軽く頭を振ってから、メドーサ、
「で、何でここにいるんだい?貴様は」
「聞きたいことがあるんじゃよ。お嬢ちゃん」
「お嬢ちゃんねぇ。人間に言われるほど、若くはないんだけど?」
「見た目はどうじゃ?ティーンエイジその物じゃろが」
「ふふ」
微笑がこぼれたが目は笑っていない。
「お嬢ちゃんの一連の行動、誰かの命があっての事か?」
顔色一つ変えずメドーサ。
「何だって?言ってる意味が判らないけど」
はぁ、とため息一つついてカオス、
「ここにいられる時間はそんなにないんじゃが、な。この所、そうよここ200年当たりからかな」
悪魔と呼ばれる存在の行動が変わってきているのでは無いかと。
「ワシが若い頃の悪魔は、己が信念や、欲望のみで動いていた、じゃがお嬢ちゃんは違う、明らかに」
明らかに何かの下準備をしてきた、と結論付ける。
聞いた話の天竜童子殺害未遂、香港での行動、そして月に於ける一連の作業、
「どう考えてもそうとしか思えん、他にも藻瑠田とか言う奴からの技術提供に白竜とやらを仲間に加えた行為・・」
その他諸々も。
一瞬光が薄らいだ、蝋燭の先端に蝋が溜まったかの如くに。
「答えてやってもいいが」
「が?」
「私も質問がある。この階段を上りきれば生き返れるか」
「あぁ、お嬢ちゃん程の存在ならな。じゃが肉体が何処にあるかは、知っておろうが」
呆れたとカオスの態度。メドーサも聞いて損したと思うか。
「ふふふ。そうだよ。貴様の想像どおり私を含めかなりの数の悪魔が、その時の為に行動していたのさ」
言い終わると突然笑い出す。
「はははは、あの方は既に行動を起こし始めている、もう人間文明、否神とやらが作った世界の秩序は」
「崩壊・・間近という事か」
「そうよ。でも残念だわ。その時をこの目で見られないのは」
笑い声が響き渡る。
「じゃがのぉ。神とやらもボンクラではないぞ。おそらくはワシですら感知せぬ所で行動はしてるハズじゃぞぅ」
はた、と笑うのをやめる。
「ま、そうだとしても今の私にはどうでもいいことさね」
「・・・・じゃのぅ」
一歩階段を下りたメドーサ。
「確かに、前世魔族だったあのクソアマの周りにあの男がいたりするのは、神の仕業かもね」
「クソアマとは美神の事じゃな」
言わば、味方にあたる物の悪口を言われてもいささかも怒りを現さぬカオスである。
「で、あの男とは横島の事か」
その男の名前が出た途端、きっと顔が怒りの様子になる。
「そうだよ、あの男にはかなり邪魔されたからね、横島さえ、いなければ、作戦の殆どは成功した・・はず・・だ」
やめようとはするが、唇を噛んでしまう。
「・・・。ふむ。面白い」
何を言い出すのかという面持ちのメドーサ、
「何故あの小僧なのじゃ?」
「何故って貴様あいつが悉く邪魔をしたから」
それは間違っていない。
「おい、お嬢ちゃんの目の前にいる爺は誰じゃ?」
「貴様の事か・・うっ」
唇から血が出る、ルージュにはなり得ないか。
「流石はお嬢ちゃん頭のめぐりは良いのぉ、そうこのワシもお嬢ちゃんの邪魔を楽しんだわい」
けけと、軽い音で笑う。
「笑うな」
咽の奥からの、音色を曇らせ低くした声、
そうでもしないと悲鳴が漏れたからか。
「失敬」
カオス己が手を胸に当てて小さく頭を下げる。が口調は今だ軽い。
「冷静になりきれてなかった様じゃな」
「何を言っても負け犬の戯言になるからね、そうだった貴様を真っ先に殺すべきだった」
香港で最大の失態はかの風水盤を元に戻された事、あれから彼女自身の地位も下がっていったのが事実であったのに。
「あのとき、お嬢ちゃんが言う所のクソアマとやらをからかっていたのが原因じゃろな」
「・・だな、遊びすぎたか」
「何故に?」
「・・・・判らない」
「ワシの見立てではのぉ『嫉妬』がお嬢ちゃんの判断を狂わした、どうじゃな?」
なんとも見当はずれな見立てではないかと思う。
「貴様呆けてるのか、私なんであのクソアマに嫉妬を・・」
「してないと?」
怪訝な顔がだんだんと崩れていく。そうあの男の顔が目に浮かんでからだ。
「・・・これから死にいくもの対しての仕打ちにしてはきついわね」
涙が不思議と毀れる、悟られまいとそっぽを向く。
「日本語とはなかなか面白くてな」
「?」
袖で涙を隠す。
「『愛憎』ちゅう真逆の言葉があるのじゃ、特に悪魔はその傾向が強い」
今更自分がわかった所で何になろうか、メドーサはそう自分で結論付けた。
「話をかえさせてもらうよ」
「あん?」
「そうだった。あのタコは失敗したけど、貴様をこっちの陣営に引っ張ろうと思うんだよね」
「お嬢ちゃんにゃもう関係のない世界の話じゃな」
それがどうした、といわんばかりの目の輝き。
「そうよ。貴様、いや、人間でありながら魔王の名を持つ男、Drカオス、本当の真族にならないかい?」
やや俯きかけたカオスを覗き込むようにして問う。
「人間千年以上やっとるワシは既に魔族と同義じゃろうが」
そうだろうともと、言わんばかりに頭を下げるメドーサ。
「それに魔族になればDrカオス、貴方の知識は激増する。誰か本当の魔族に頼めば知識の欠落もなくなるはずだ」
「むぅ」
腕を組んで考え込む。
魔族にとって人間の心の隙に入り込む事は快楽の一つである。
それも相手はあのカオス。
私も死ぬ間際になにか一つあのお方の為に役に立てるかもしれない。
そんな思いが死に向かう彼女の心を熱くするのか。
やや無音が続く。
「馬鹿もんが」
「へ?」
目が点になる。
「ワシは別に人間の仲間をしてると思わん。あえて言えば不利な方について逆転する、これがワシの趣味みたいなもんじゃ」
「・・だが、魔王カオスよ」
くくく、と笑みを零して。
「よいか、真の天才は孤独であるべきじゃ、何人、否神悪魔を含め誰ぞに寄った時点で天才ではないのだ」
ふっ、とメドーサの口からため息が漏れる。
「私程度の悪魔では駄目のようだな。まったく人が悪すぎる」
「悪魔に人が悪いといわれるとはのぉ」
気が付くと階段の上のほうから光が無くなり暗闇が迫ってくる。
「・・タイムリミットだね」
「じゃな、・・なかなか面白い事実がわかったぞ。面白い時間じゃった」
「私としても、死ぬ前にして悪くない出来事かもね」
体が宇宙空間の塵となっているメドーサは上に上がっても仕方が無い。
それに勝手に足が階段を下っている、そんな感覚だ。
「一つだけ頼みがある」
足を上に運んだカオスの後ろから声がかかる。
「何じゃ?」
メドーサ、ふうと、息を吸い込んで、
「私が嫉妬していた事は、貴様の胸の中に閉まっといてくれ、せめてめの頼み」
振り返らずカオスは。
「あぁ、安心せいどうせすぐ忘れるからな」
「・・そっか」
やや残念そうな顔をするが誰も確認は出来ない。
「なるべく覚えておくようにしてやる。それが最大限の約束・・じゃ」
これも振り返らず。後ろから手を振った。
足音だけが響き渡る。
100歳を超える老人は上へ、若い容姿の悪魔が下へ。
そして、
地獄への階段はすべて闇に包まれる。

FIN

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