ザ・グレート・展開予測ショー

セーラー服とお饅頭


投稿者名:veld
投稿日時:(04/ 5/11)



 ―――それは今から五ヶ月ほど前。
 どこにでもありそうな、ある学校風景。
 まじめに授業がすすんでいるとこもあれば、そうでない教室もある。
 週初めの月曜日の朝なんて言ったら、まじめにしてる方がどーかしてる、とか、そういう心象の我がくらすでは。
 皆机に突っ伏して教師の怒声を聞き流す、てなこともしょっちゅうなんだけど。
 どうにもその日は勝手が違ってた。それも全てはきっと―――この音のせいだろう。

 ぱくぱくもぐもぐ。
 音がするんだ。
 俺の耳元で。
 何かを誰かが食べる、音がするんだ。
 一瞬、視線を移す。
 俺の左斜め後ろの辺り。

 ―――宙に浮いている、目減りしていく饅頭とそれが入った紙袋。
 (と、幽霊少女、おキヌちゃん。今日はちょっと薄め。俺の目から見ても、ぼやけて見える。から)

 という認識を抱いているに違いないクラスメート達の怯えと好奇の視線。
 その中で、溜め息と含み笑いを浮かべる一部のクラスメート。
 いわずもがな、除霊委員―――ぴーと、たいがー、あいこ。
 そして、どこからあらわれたんだか、めぞぴあの―――は、この際関係ない。

 滝のような汗をだらだらと滴らせながら、国語の教師がチョークをすり減らしている。
 黒板に書かれているのは、彼の心理だろうか。酷く歪に心からの叫びが刻まれている。

 『帰りたい』





 何が、彼女をそうさせたのか。
 何故、彼女がこんなことをしているのか。
 さっぱり分からず俺は言葉に窮した。
 ただ、時折、彼女は俺を見つめ、何か言いたそうにしている。
 そして、俺は何も言えず、ただ黒板を見つめている。

 最初に、気づいたときに、何かを言えばよかったんだと思う。
 でも、言えなかったから。
 気まずい空気を漂わせてる。


 ふとした折に見せられた笑顔ってのぁ、始末が悪い。
 ぼけもつっこみも、まぁ、向けられない。

 『何故ここに?てか、何?その饅頭は?』と。




 刻一刻。とは言え、経った時間は僅かに五分。
 誰も騒ぎ出さない―――緊張感張り詰めたその中で。

 「・・・ねぇ、おキヌちゃん」

 言葉を吐いたのは俺が先。

 (教室の緊張感が少し緩んだ。あぁ、また、横島か・・・と。)

 眉を寄せて、考える素振り。むぅぅとした顔を黒板に向けた彼女の注意が俺に向くのも一瞬。
 彼女はまた、饅頭を口に押し込む。餡だらけの唇周り。それもまた、怪奇現象に色を重ねる。
 右手にはさむはあんまんじゅう。
 左腕に抱えるは紙袋。
 がさがさと音を立てながら、彼女は言う。


 「横島さん、学校って楽しそうですね」

 「いや、普通・・・」

 「とっても楽しそうです。もぐもぐ」

 「おキヌちゃん」

 「はぐはぐんっ・・・とんとんとん・・・ぷはっ。なんですか?横島さん」

 「・・・幽霊の身体でどうして饅頭食えるの?」

 「やくちんさんがくれたんです」

 へくしゅんっ、とくしゃみの音が聞こえた気がした。
 そぉか。やくちんか。やくちん。やくちん。厄・・・。

 「・・・はっ、吐けぇっぇぇぇ!!」

 「横島っ、授業中だぞっ、静かにせんかぁぁぁ!!」

 俺の叫びと、のいろーぜぎみな教師の叫びに間はほとんどない。
 きっと、俺の独り言を注意する機会を狙っていたに違いないのだ。
 でも、出来やしないだろう。

 宙に浮いていた饅頭と―――正確には、幽霊と話をしていた俺に話し掛けようなんて。









 「がっこう、って楽しいですか?」

 たたされぼうずに聞く饅頭。
 紙袋は既に屑箱の中にあるらしい。
 俺は苦笑しながら、彼女に言う。

 「楽しいのかなぁ」

 尋ねるような響きが漏れる。でも、実際にそう。
 楽しいこともあるし、つまらないこともある。前者の方が多いようで、後者の方が多いような。
 彼女はわからない、と言った顔を浮かべ、首を傾げた後で、ぱぁ、っと喜びがあふれ出たような笑顔を浮かべた。

 「楽しいですよ」

 そして、きっぱりと言った。
 それには俺が首を傾げた。

 「どうして?」

 彼女はふふふっ、と指を差し出した。

 「横島さん、楽しそうでしたよ?今日は!」

 そうなんだ。
 と、俺は彼女を見た。
 彼女も楽しそう。
 ということは、俺も楽しい。

 「おキヌちゃんがいたからかなぁ?」

 軽い口調で言ってみる。
 彼女はほんとうですかぁ!と、笑った。
 ほんとーだよ。と、俺も笑う。
 そう、やっぱりそうだ。


 と、そんなことがあったわけだが。




 五ヶ月。
 いろいろあったその中で―――。


 
 彼女は忘れてるみたいで。
 まぁ、そんなたいしたことでもないし。
 今更言っても、忘れている彼女を責めることにしかなんないし。
 だから、というかなんと言うか。

 俺はぶれざーを身に付けてあわただしく走る彼女を眺めることしか出来ないわけで。

 事務所の窓から背中を見つめながら。
 俺は背中に掛けられた美神さんの声に振り向いた。

 「横島くん、あんた、がっこーは?」

 朝の所為か、間延びした声音。週初め、月曜日ってことが関係するのかしないのか。
 知らないけど。
 俺は冴えない面を浮かべながら、美神さんに答える。

 「おキヌちゃんいないんで、休みます〜」

 「はぁ?」

 また、窓を向いて。
 彼女の去った辺りを見つめる。
 もしかしたら、せーらー服だったかもしれない彼女の幻が見えた気がして。
 うっすらと笑顔を向けるんだ。





 幻でもいいから、って。
 笑顔を向けるんだ。







 ―――fin, 


































 もぐもぐもぐ。

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