ザ・グレート・展開予測ショー

はくぶん


投稿者名:竹
投稿日時:(04/ 5/10)

ふみぃ〜……




ピーッ……ピピッ……



カシャッ




……はっ!



…………………。
と、
失礼致しました。


……こほん。
皆様、初めまして。
わたくし、フミと申します。
孤島の名家、茂呂家に仕えます冥土……もといメイドであります。
しかし、今は訳あって、この東京でオカルトの名門・六道家に仕えさせて頂いております。
そこでは、主に旦那様のご息女・冥子様の身の回りのお世話や、台所全般を任して頂いています。
これはとても大変ですが、やり甲斐のある仕事です。……お給金もよろしいですし。
そう言う訳でして、わたくしは充実した日々を送っているのであります。




さて。
わたくしは今日、休暇を頂きました。
住み込みメイドのわたくしも、偶には外に出して頂けるのです。
そうして、わたくしは六道家の大きなお屋敷を後にし、街へと繰り出したのであります。
と言っても、遊んでいる暇なぞ御座いません。
一直線に、駅へと向かいましょう。
……いえ、矢張りお土産の一つも買っていくべきでしょうね。
では、お土産屋さんへと向かいましょう。



わたくしがお土産屋さんから出ますと、ドンガラガッシャンと言う派手な音が聞こえて参りました。
見ると、若い女性が大荷物を抱えて倒れていらっしゃいます。
どうやら、転んでしまわれた様です。

「大丈夫ですか?」
わたくしは、その女性に駆け寄りますと、荷物を起こして声を掛けて差し上げました。
「う〜ん、いたたたた……。あ、だ、大丈夫です!ほら、この通り」
女性は、元気そうに腕を回します。良かった、どうやら怪我は無さそうです。
て……え?
このお顔は……
「冥子お嬢様!?」
「え?」
なんと、その女性は六道家の冥子お嬢様だったのです。
……いえ、しかし……?
「あの……、何ですか?冥子お嬢様って……。私の名前は、ミソッカスですけど……」
「え!?あ、す、すいませんっ」
ふみぃ……。どうやら、人違いだった様です。
「申し訳ありません、知人に似ておりましたもので……」
「い、いえいえ、こちらこそ助かりました〜〜〜〜」
う〜ん、この笑顔、ますますお嬢様に似ていらっしゃいます。
この世には、同じ容姿の方が血縁者以外で三人はおられると言いますからね。
「あっ!」
「え?」
突然、ミソッカスさんが叫ばれました。
「し、しまった!早くしないとボスに怒られちゃう〜〜〜〜!」
「あの……?」
「す、すいません、えっと……」
「フミです」
「フミさん!急いでますんで、この辺で失礼します!もし又たどこかでお会いしましたら……」
「い、いえ、良いですよ、そんな事は」
「す、すいません!有り難うございました、失礼しますっ」
そう言うと、ミソッカスさんは荷物を抱え、ふらふらと雑踏へと消えていってしまわれました。
大丈夫でしょうか。
どこか、危なっかしくて目を離せない気にさせて頂ける辺りも、お嬢様とそっくりで御座います。





【はくぶん】





日曜日。
犬塚シロは、一人で散歩をしていた。
飼い主の美神から、厄珍堂へお使いに行かされ、その帰りである。
「マ〜ジカルプリンセス、マ〜ジカルプリンセス、赤ずきんチャ○ャ〜♪」
シロは、上機嫌で最近お気に入りの懐かしのテレビ漫画の主題歌を口ずさんでいる。
準主人公に共感するらしい。


「あれ?」
シロは、前方に見知った人影を認め、歩を止めた。
早速、声を掛ける。
「やあっ!」
「あ、シロさん」
向こうも、どうやらシロに気付いたらしい。連れの少年と共に、こちらへ駆け寄って来た。
「お主、女狐の“あいじん”の、まとまる君ではござらぬか!」

ズシャア!

駆け寄って来た知人が、見事なヘッドスライディングをかました。
「あっ、愛人って……意味分かって言ってる!?しかも、僕は真友だよ!何、まとまる君て!僕、消しゴム!?」
眼鏡の少年――真友康則は、起き上がってシロに勢いの良い突っ込みを入れた。
「す……すまんでござるよ、真友殿。拙者、少々言い間違えたでござる」
シロとて小学生の真友に比べれば子供ではない。小学生相手に、意味も無く我を通す様な真似はしない。
こう言う時は、話題を変えるに限る。
「と、ところで、お連れの御仁は何者でござるか?」
「え?あ、ああ……」
真友は、後ろの頭髪を立てた少年を顧みて言った。
「こいつは、茂呂って言うんだ。何て言うか……、訳あってうちで預かってるんだ」
「ふ〜ん……?」
シロは、首を傾げて茂呂の生意気そうな眼を覗き込んだ。
「あ、あんまり深くは聞かないで」
真友が、引きつった笑顔でシロに言う。
何やら込み入った事情でもあるのだなと、シロにもそれくらいは察せた。
シロは、それを敢えて聞き出す様な無神経な少女ではないし、そうする理由も無い。
……まあ、良いだろう。
「それで、真友殿と茂呂殿はこんなトコに何をしにきたでござるか?」
「うん、茂呂の家で雇ってた……って言うか……、まあ、兎に角、茂呂ん家のメイドだった女の人が、今、別のトコで働いてるんだ」
「ふんふん」
「で……、その人……フミさんて言うんだけど、フミさんは、何て言うか、茂呂にとっては母親代わりみたいな人なんだ」
「はぁ〜」
「その人は、茂呂の養育費を払う為に別のお屋敷で働いてるんだけど、今日は休暇を貰えたらしくってウチん家に来るんだ。だから、そのお迎えにそこの駅までね」
「う〜む、感動するお話でござるなあ〜」
「う、うん、まあね……」
オーバーに感動で打ち震えるシロを見て、それまで黙っていた茂呂が口を挟んだ。
「べっ、別に僕はフミがいなくて淋しくて、フミに会いたいと言う訳ではないぞっ!フミが、僕の顔を見たいと言うから仕方無くだな……!」
小さな身体を補う様に、大袈裟に腕を振り回して力説する。
「……ごめん、素直じゃない奴なんだ」
「その様でござるな」
真友とシロは、顔を見合わせて軽く笑った。
「なっ、何が可笑しいんだ、お前達ぃっ!」




美神には特に時間の指定とかを受けていなかったので、ついででシロもフミの出迎えに付いていく事にした。
特にこれと言う訳も無いが、まあ、今日は仕事も無く暇だし、横島は美神と共に仕事で遠出しているしでやる事も無いので、暇潰しに知人に付き合うと言うのも良いだろうと思ったのだ。

ピルルルルルルル……

汽笛が鳴り、特急電車から人が降りてきたのが分かる。

カシャン、カシャン

人々は、次々と切符を自動改札に通し、三々五々の方向へと散っていく。
その中に、一際目立つエプロン姿の女性を、三人は見付けた。
「フミぃーーーーーーっ!」
茂呂が、大声で叫んだ。
それでこちらに気付いた女性――フミは、切符を通してこちらへやって来た。
「坊ちゃん!康則さん!」
「フミか、元気にしていたか?」
「はい、それはもう。それより、坊ちゃんこそ真友さんのお宅で良い子にしておられましたか?お友達は出来ました?我が侭ばかり言っていてはいけませんよ?」
「わ、分かっておる!久しぶりに会ったと言うのに、いらん事ばかり五月蠅いぞ、フミは!」
「はいはい、申し訳ありません」
口に手を当て、フミは嬉しそうに苦笑した。
「康則さんも、お元気そうで何よりです。有り難うございますね、いつも坊ちゃんと仲良くして下さって」
「いや、そんな……。一つ屋根の下で暮らしてる仲ですし」
「本当に、有り難うございます。坊ちゃんは島で暮らされていた頃からお友達が少なくて……、いえ、けして嫌われていると言う訳ではないのでしょうが……」
「五月蠅いぞ、フミ!」
さめざめと真友に礼を言うフミに、茂呂が半泣きの顔で制止を入れた。
「……あれ、こちらの方は……?」
そこで、フミがシロを認めて尋ねた。
「あ、ああ、この人は僕の友達なんだ。犬塚さんて言うんだよ」
「正確には、人ではござらぬがな」
その質問に真友が説明をし、シロ本人が補足を入れた。
「まあ、康則さんのお友達ですか。これはこれは。宜しくお願い致します。どうか、坊ちゃんとも仲良くしてあげて下さいませんか」
「あ、こ、こちらこそ宜しくでござる」
フミとシロは、お互いに頭を下げた。
「……あれ?」
不意に、シロが鼻を蠢かせた。
「どうされました?」
「いや……」
シロは一瞬口ごもったが、意を決して湧いた疑問を口にした。
「フミ殿は……、人間ではないでござるか……?」
「え?」
「いや、訊いてはならぬ事であったら申し訳ないでござるが……、フミ殿からは人間の臭いがしないでござるよ。さりとて、妖物とか神様の類ではない様でござるし……、いや、これは寧ろマリア殿の様な感覚……?」
間違い無く生物の様でありながら、“生きている”臭いが微塵とも感じられない。なんとも不思議な感覚であり、シロの野生はそれを恐れていた。
「良くお分かりになりましたね」
「え?」

「わたくしは、ロボットなのです」




「はぁ〜、“あんどろいど”でござるか。人間と言うのは、本当に凄いでござるな」
「ふふ……、茂呂家は天才の家系ですからね」
フミを伴い、真友と茂呂は自宅への帰路についた。途中まで道が同じなので、シロも一緒である。

「何だ、フミ。土産は東京バナナと草加煎餅か。こんなもの、毎日食べてるぞ」
「申し訳ありません、坊ちゃん。何せ、勤め先も東京なもので……」
「て言うか……、そんなんがおやつで出るウチもどうかと思うけどね」
「拙者も、この間、里に帰った時、土産を忘れて大変な事になったでござるなあ……。後で美神殿にドックフードを送っといてもらったでござるが……」
などと談笑していると……

ゴッ!
突然、後ろから来た何かが凄いスピードで四人を追い抜かしていき、
「え!?」
「な、なんでござるか!?」
次の瞬間、真友と茂呂が消えていた。


「なっ、何だ!?おい、真友!何だこれはぁーーーっ!?」
「し、知らないよ!こっちが訊きたいくらいだって!」
真友と茂呂は、妙な格好をした男達の脇に抱えられ、連れ去られていた。
男達は、二人を抱えて走る。
「へっへっへ、こうして現地人の子供を攫って洗脳していけば、やがてこの地球の社会は、内部から俺様達のものになるって寸法よ!」
「わあーーっ、なんて緻密でオリジナリティに溢れた計画なんだ!矢っ張りアニキは頭がいーなあーっ!」


一方、後方百五十メートル、フミとシロ。
「ひ、人攫い!?坊ちゃん!康則さんっ!」
「妖怪……、いや、違うか!?何にせよ、おのれ、拙者の相棒の“あいじん”を誘拐するとは許せんでござる!」

ザッ……

シロが、アスファルトにクラウチングスタートの体勢をとる。
「ここは拙者に任せるでござる、フミ殿!子供を攫う様な不逞の輩、この犬塚シロが成敗してくれる!」
「いえっ、私も行きます!坊ちゃんと康則さんをお助けするのは、茂呂家の使用人たる私の役目です」
「し、しかし……」
「心配ご無用、茂呂家の化学力を侮らないで下さい!」
「……分かったでござる。では――」
「参りましょう!」

ダッ!

二人――一匹と一機は、砂煙を立ててダッシュした。


「う、うわっ!」
「何だあ!?」

ダダダダダ!

三百メートル程走ったところで、フミとシロは二人の誘拐犯に追い付いた。
シロがそのまま犯人達を通り越して回り込むと、フミが後ろに立ちはだかり、退路を断った。

ズザアッ!

「ふ、フミか!」
「フミさん!シロさん!」
「大丈夫ですか、お二人とも。すぐに助け出して差し上げますからね」
未だ誘拐犯の脇に抱えられたままの真友と茂呂に、フミが励ましの声を掛けた。
「ばっ、馬鹿な!現地人の筋力では、あの距離からこんなに早く俺達の足に追いつける筈は……」
誘拐犯(少なくとも、人間ではないらしい)の二人組の親分格らしい方が、慌てふためいた様子でそう言った。
「まあ、人間ならそうかも知れんでござるがな?」
それにそう答えながら、シロは右手に霊波刀を発生させる。
「レーザーソード!?ぐ……、く、くそう!」
「成敗してくれるでござるっ!」

ダッ!

シロは叫ぶと共に、真友を抱えた親分格の方の誘拐犯に跳び掛かると、その脳天に霊波刀を振り下ろした。

バチィッ!

「ぎゃああああっ!?」

ドシャア!

それをまともに喰らった誘拐犯は、目を回し、アスファルトに倒れ伏した。
「あっ、ああアニキぃーーーっ!?」
「安心せいっ、峰打ちでござる!」
ふん!と鼻を鳴らし、シロは胸を張った。
その足下では、解放された真友が、誘拐犯が倒れて投げ出された衝撃で落とした眼鏡を探している。
「くっ、くくく来るなあーーーっ!このガキがどうなっても良いのかあ!?」
「!」
親分を倒したシロに対し、もう一人の誘拐犯の男は、抱えている茂呂に銃を突きつけた。古いアニメにでも出てくるような、光線銃みたいな形状の銃だ。
「も、茂呂っ!」
眼鏡を掛け直した真友が叫ぶ。
「がっ!くそっ、放せ、このぉっ!」
「あっ、暴れるんじゃないっ!ほっ、本当に殺すぞぅ!?」

ガチャッ

銃口が、茂呂の頭につけられる。
「おのれ、卑怯な!」
そう言いつつも、シロは何も出来ない。
師やそのまた師匠の様に悪知恵にも世間知にも長けていない彼女には、子供を人質に取った悪人を捕らえると言うのは、少々荷が重い。
しかし、彼女は見た。
彼女の方を向いている誘拐犯の背後、そのすぐ後ろにフミの姿を。
そして――

ドカア!

そして、次の瞬間には、誘拐犯はフミの文字通り鉄拳に沈んでいた。
「ば……馬鹿な……、この星の技術力は……、低いんじゃなかったの……か……」
「茂呂家の化学力を、侮らないで下さい」
そう言って、フミは胸を張った。




「大丈夫ですか、坊ちゃん。さぞ恐かったでしょう?」
「ば、馬鹿にするな、フミ!お前が来なくても、あの程度……」
「はいはい」
「わ、笑うなあっ!僕は、泣いてなんかないぞっ」
フミとシロが誘拐犯を倒し、何とか事は終結を見た。
相変わらず涙目で強がる茂呂を見て、真友は苦笑した。
「素直じゃないんだから……」
けど、悪い奴では無いと思う。


「しかし、フミ殿もやるでござるな」
「ふふ、こう言う時に坊ちゃんと康則さんを助けるのは、私の使命ですからね」
「主君への忠義でござるか。武士道でござるなぁ〜」
あれ……?
「そんな事より、シロさんにまでお手数をお掛けして……」
「なあに、あの程度、全然構わぬ事でござるよ」
何だろう。
もう、恐くない……。
「拙者が、好きでやった事でござる」
「ええ、でも、結果として坊ちゃん達の救出を、――私の仕事を手伝ってもらったのですから」
ああ、そうか……。
「言わせて下さい、ありがとう、って」
そうでござるな……。
「――でござるな……」
「え?」
「フミ殿にも、心があるでござるな」
そうだ。
怖がる事はない。
フミ殿はきっと、冷たい機械人形なんかではないのでござるのだから……。
「……ええっ!」

「ありますとも、きちんとね。茂呂家の化学力を、侮ってはなりませんよ?」



そう、それは確かに“ここに在る”。
例えそれが、紛い物であったとしても……。

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