ザ・グレート・展開予測ショー

狐の青春


投稿者名:殿下
投稿日時:(04/ 5/ 9)


時は四月、桜舞散る季節の公園に少女はいた。時より春特有の心地よい風が、自慢のナインテールを揺らす。
流された髪をさっと掻き上げながら公園の中へと足を踏み入れていく。

公園の大きな桜の木の下にいる自分を呼びだした男を見つけた。その男のすぐ近くに行き、その足を止めた。


「こんな所に呼び出して・・・なんの用なの?」
呼び出された少女タマモは、そう口にした。

 
「よう、来たか」
タマモを呼び出し、今タマモに声をかけられた男である横島忠夫は、彼女のほうに振り返って、そう答えた。心なしかその口元には薄っすらと笑みが浮かんでいる様にも見える。


「・・・来たかですって、こんな所に呼び出しておいて・・・。つまらない用だったら承知しないわよ!」
フンッと鼻を鳴らすと、彼女は一気に捲し立てるようにそう言った。そうやってきつい言葉を発しながらも、その時、彼女の心臓はこれ以上ないくらい激しいリズムを刻んでいたのだった。
仕事が終わってからすぐに、横島にこの公園に来るように言われて以来、彼女の中には、とある妄想が湧き出してきていたのである。


(なんの用かしら。・・・大きな桜の木の下で二人きり・・・もしかして、いや、絶対にそうよ!
そう、そうなのね。この鈍感男にやっと私の思いが通じたんだわ。そして私に告白する気になったのね。
大体気付くのが遅すぎるのよ。毎日家に遊びに行ったり、休日にはわざわざデートに誘ったりしてたっていうのに・・・でもその苦労も今日までなのよね)


暴走する思考


そもそも、退治されそうになったタマモを横島が助け出したのが始まりだったのだ。もちろんそれだけで好きになったわけではない。人間をあまり信用しておらず、性格もいたって素直ではなかった。そのせいで横島にキツイ言葉を当てることも多々あった。しかし、横島は全く気にすることもなく、いつも他の人と同じように接してくれた。
そんな所にだんだんと惹かれていき、気が付いたら好きになっていたのだが、「自分から告白するなんて死んでも嫌」という意地っ張りで難儀な性格が邪魔してか決して自分から「好き」という一言は言わなかった。その代わり態度で示していたのだが、横島の天性の鈍感さで全く効果が無かった。そんな行動を今まで続けていたのである。


が、そんな関係も今日で終わりだ。

先ほどからタマモは、そう確信していた。
正直、彼女も意地を張るのに疲れてきていた。しかし、最近のデートでもなかなか良い雰囲気だったのでそろそろではないか?とは密かに感じていたのである。


きゅっと口元を引き締め、横島がわざわざこんな所に呼び出してまで伝えようとした大事な「用件」を口にするのを、固ずを飲んで待っていた。


「タマモ・・・実は、頼みがあるんだけど・・」
横島はそう言った。


(頼み?そっか!付き合って下さいって言うんだから頼み事ともいえるわよね。いいわ、早くその頼みを言って!さぁ、早く早く!!)


先走る思考


そして再び横島の口が開かれる。















「・・・金貸してくれないか?210円でいいんだ」






「・・・・・・・・・はい?」
(聞き間違えかしら?)
思わず自分の耳を疑ってしまうタマモ

「いやぁー、今日行きの電車賃払ったら金が無くなっちゃってさぁ、帰りの電車賃が無くて困ってたんだよ」


一瞬にして桜の木が枯れ木に変わったかのような錯覚を起こすほどのショックを受け、タマモは完全にフリーズしてしまった。
先ほどからどういう風に返事をしようかと色々とシュミレーションまでしていたというのに・・・タマモは怒り心頭で横島をじっと睨み付けた。

横島は、その視線に気づき口を閉ざした。



二人の間に長い沈黙の時が流れる・・・



「用件はそれだけなの?」
沈黙を破り、恐ろしく冷たい口調でタマモが話す。

「あ、ああ」
その冷たい口調に少しびびりながら答える。


すぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ
タマモは、ゆっくりと大きく息を吸い込むと、横島を睨み付けて、一気に捲し立てた。

「そんなくだらないことで、呼び出さないでくれる!いったい、なに考えてんのよ!こんな所に呼び出しておいて挙げ句の果てに金貸してくれ?しかも、210円?ほんっっっっっとうに、せこい男ね、あんた!」

せこいという一言を聞き、横島もカチンと来て言い返す。

「せこくって悪かったなぁ!たった210円でも、こっちには死活問題なんだよ!だいたいタマモが『事務所のみんなのいる前ではあんまり話し掛けないで!』って言うから、わざわざこんな所に呼び出したんじゃないか!」

にらみ合う二人

春の暖かい空気がすっかり寒々とした空気に変わっていた。

(・・・はぁ、変な期待して損した。馬鹿みたい・・・ほんと・・)

タマモは髪を掻き上げ、ポケットに手を突っ込んで、可愛らしい狐のマークが入った財布を取り出した。
彼女は、その中から300円を取り出して、つかつかと横島に歩み寄り、それを渡した。

「はい、お釣りはいらないわ!そのお金でさっさと貧乏アパートに帰りなさいよ」
突き放すように言い放ち、スカートのすそをヒラっとひるがえしながら、公園の出口へと向かって行く。


少しの間ボーゼンとしながら見ていたが、
「ちょ、ちょっと待てよ。あのなぁ、お前なぁ」

そう言いながら、タマモの後を追い、その横に並ぶ。

「なによ!」

タマモは足を止めると、横島の方を横目でじろっと睨んだ。
タマモの顔を見てみると、頬を紅潮させて膨れた子供のような表情になっていた。

(かわいい・・・)
横島はタマモのこういう表情を見るたびにそう思う。タマモは、口では正直になれない分、表情や仕種はとても素直だった。そのような表情や仕種を見るたびに、横島はタマモに惹かれていってたのだった。


「なに拗ねてるんだよ」
横島は、少し苦笑した後に、からかうようにそう言った。


「別に・・・拗ねてなんか無いわよ!」
横島の言葉に、さっきまで心に抱いていた期待感で胸をドキドキさせていた自分を思い出してしまったタマモは、思いっきり刺のある口調で吐き捨てるように言った。

睨み付けた先には、自分の大好きな人の顔・・・・

いつもその顔を見ていると何故か心が落ち着いた。そしてまた今回もその顔を見てすっかり勢いをなくしてしまった。

タマモは意を決したように、横島の顔を改めて睨みつけた。

「あんた、いつもそんなギリギリの生活してんの?」
少し落ち着かない様子でタマモは手をもぞもぞ動かしながら聞く。

「まあな」
ぎこちないタマモの様子を少し変に思いながら横島は肯いた。

「そう・・・」
一転して、うろうろさまよい始めるタマモの目

「どうかしたのか?」

「べっ、別に何でもないわよ」
ちょっと怒ったような声。上目遣いに睨み付ける目線にも力が無い。

再び二人の間に沈黙の時が流れる。


「・・・ねえ」
再び沈黙を破ったのはタマモ

「ん?」

「今からヨコシマの家に一緒に行ってもいい?」

「・・・ああ」






ガタンガタンッ ガタンガタンッ
事務所の帰りに聞くいつもと同じ電車の音
 
タマモは、何かを口にしそうな雰囲気だけはあるものの、なかなか口を開かない。

横島は、彼女の様子をじっと眺めていた。

しばらくして沈黙していたタマモが、ためらいがちに口を開いた。

「ねえ、ヨコシマ」

「うん?」

「今日、私にご飯作らせてくれない?」

「別にいいけど、料理なんか作れるのか?」

「だてにおキヌちゃんと暮らしてないわよ。一応私も女なんだから」
タマモは、横島の隣でいかにも不本意だといった口調で言い返した。

「そうだな・・・」

「別に私の料理なんか食べたくないって言うなら別にいいけど・・」

「食べたい・・かな?」 

「かな?って何よ!食べたいなら食べたいってハッキリ言いなさいよね!」
ぷくっと頬を膨らませ、突っかかってきたその表情の可愛さに思わず横島の口元に笑みが浮かんだ。

「・・わかった、わかっった。食べたい食べたい」
あしらうような口調で言う。

タマモの瞳に不機嫌の色が宿る。彼女は、横島の服の袖をくいと引っ張るようにして、彼を問い詰める。

「なに笑ってるのよ・・・」
子供っぽい仕種と弱々しい声音に、横島の笑いが更に深いものになる。

「別にぃ・・」

馴れ合いの言葉

「なに笑ってるのよぉ!」

「べっつにぃ」

「なによ、ハッキリ言いなさいよ!」

「なんでもないって」

「嘘よ!」

・・・・・・・・・。
・・・・・・。
・・・。

横島の袖をクイクイと引っ張って、彼に話し掛けているタマモと、楽しそうにそれに答える横島の姿に、電車の乗客達が奇異の視線を向ける。

タマモは、自分達を見ている乗客達に気づいて横島から離れようとしたが、人目にさらされても少しも変わった様子の無い横島を見て、気にするのを止めた。

何時の間にか、タマモの顔にも笑みが浮かんでいた。

タマモは気付いてないかもしれないが、二人の姿は乗客の目に間違いなく恋人同士として映っていた。


偶然乗り合わせていた乗客の女子高生がその光景を見てつぶやく。
「青春よね〜」


       【おしまい】



   《あとがき》
ども、殿下です。
う〜ん、なんかよくわからん感じですね。とりあえず横島は既にタマモと付き合ってると思ってるけど、タマモはまだ付き合ってないと思っているという関係の話でございます。
では、また短編か『らぶ・サバイバル』で


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