ザ・グレート・展開予測ショー

横島君の日常


投稿者名:BBテネ改
投稿日時:(04/ 5/ 8)


黄昏時、地に沈みかけた大きな夕日をバックに、血戦の火蓋が切って落とされようとしていた。

一匹の怯える子羊を巡って・・・



「横島さんは渡さない!」


「クックックッ・・・今宵の我が剣は血に餓えている・・・邪魔をするモノの血を吸いたいと!」


「やれるもんならやってみるんだな!」


「なんでこんな事になったんじゃー!!!」



目の前で繰り広げられようとしている死合いを、現実逃避する事も出来ずに

直視させられた横島は、言葉通り、なんでこんな事になってしまったのかを必死で考えた。
















極々平和な昼下がり、今日も今日とて、主人である美神のパシリをやらされる丁稚こと横島忠夫。

本日のお役目は厄珍堂に美神が注文した除霊道具を受け取りに行く事だった。

それがどうして冒頭のような事態に直面する破目になったのか、じっくりと見てみる事にしよう。



「おーっす厄珍。って・・・性懲りも無く昼メロ見て燃えてんのかよ」



ガララっと勢いよく厄珍堂の引き戸を開け放ち、この店の主人に声をかけるが、

当の主人、厄珍は納得のいかない展開を見せたテレビを愛用の金属バットで殴打し破壊していた。

因みに、横島が目撃した回数だけで、通算23個のテレビを破壊している。

家電リサイクル法と、近所の電気屋の常連である事は間違い無い。話が横道に逸れたので本筋に戻ろう。



「うるさいある! 彼女が出来たボウズにこの気持ちは分らんね!」



そう、読者諸君には信じられないかもしれないが、この煩悩魔人横島忠夫にも恋人が出来ていたのだ。

しかも美人が多い横島の交友関係内においても、決して引けをとる事のないレベルの容姿をもった人物・・・

姓は無し、名はルシオラ。アシュタロス3姉妹と、魔界でも有名"かも"しれない美人3姉妹の長女だった。

スレンダーな体型で、スラッと伸びたカモシカのような脚。綺麗にくびれた腰、

ちょっと発育が足りないのが悩みではあるが、形は良いと豪語する胸。

そして頭に生えているピコピコと動く2本の触角がチャームポイント。

お隣の美人で優しいお姉さんタイプの、横島にはもったいない女性。それがルシオラだった。

上記で横島にはもったいない、とは言ったものの、この2人が恋人同士という関係に到るまで、

聞くも涙、語るも涙の大長編的なドラマがあったので、読者の皆様には納得いかないかもしれないが我慢して頂こう。

尚、そのドラマについては容量の都合上、カットさせて頂きます。あしからずご了承くださいませ。



「がはははは! 辛かろう? 悔しかろう? 例えエロビデオを見ようとも、現実の女には敵わないのだ」


「ぐぬぬぬぬぬ!」



某外道調に厄珍を挑発する横島。厄珍のリミットゲージはグングンと伸び、

今にもリミットブレイクしそうだ。いや、既にリミットブレイクしているのかもしれない。

厄珍の手には数多の電化製品を粗大ゴミに変えてきた金属バット「THE PRINCE OF DARKNESS」が握られていた。

サングラスの奥に隠された瞳は血走り、横島に隙があらば即座に撲殺しようと身構える。

だが、この局面において天は横島に味方した。



「ま、そんな事はさて置いてだ。美神さんの注文した品を受け取りに来た。

 こんなとこに長居する気はねぇからとっとと渡せ」


「・・・・・・次は容赦しないね。ほらコレね。全部で数十億は下らないから落とす良くない」


「んな高価なモンを小キタネェ風呂敷に包んで渡すんじゃねぇ」



横島の放った言葉に、商売人としての厄珍の顔が現れ、ズルズルとリミットゲージが下がっていった。

そして破魔札や神通棍、精霊石等々が包まれた唐草模様の風呂敷を無造作に取り出し、ヒョイと寄こした。

そのぞんざいな扱いに、横島はグチグチと文句をたれるが、高価な物なので大人しく受け取る。



「あ、ちょいと待つね」


「アン? なんだよ? またなんか俺を怪しげな薬の実験台に使おうってのか?」



受け取る物を受け取ったのでさっさと帰ろうとする横島を厄珍が呼び止める。

横島は、そら来た。といった感じで不機嫌な態度を隠そうともせずに振り返る。

このあからさまな横島の不機嫌さには訳がある。

実は厄珍、珍しい霊的アイテムが手に入ると客で実験するという恐ろしい趣味があるのだ。

以前、横島は厄珍に一錠で超能力者になれるという薬を飲まされ、

自業自得とも言えるが、酷い目に合っている。

しかも厄珍はそれに懲りる事無く、何度も横島を実験台に使っている。

騙される方も騙される方かもしれないが、そんな事があった以上、

横島が厄珍を疑うのは仕方ないというもの。

だがそんな横島の疑いは、次の瞬間、宇宙の彼方へとスッ飛ぶ事となるのだった。



「チッチッチッ、今回は何時もと違うね。

 聞いて驚くね、今回はナント、モテる薬が手に入ったあるよ!」



ズキューン!!

と、横島の顔どころか身体全ての彫りが深くなり、影が1段ほど追加された。

そして更に某トンデモ調査班の如く「なんだってー!!」の体制になり固まった。

この時既に横島の頭の中に厄珍への疑いなど微塵もなかった。



「それがコレネ!!」



カウンターテーブルの下に腕を突っ込み、取り出した物を横島の眼目に突き付ける。

ババーン! と擬音でも鳴りそうな出し方だ。



「寄こせー!!」



先ほどの厄珍とは違った意味で目を血走らせた横島は、目の前に突き付けられた箱を即座に奪い取ると、

引き戸を壊れんばかりに乱暴に開け、土埃を巻き上げながら事務所への帰り道を疾走した。

既に彼女が居るのにこの行動。やはり横島は煩悩の権化である事にかわりなさそうだった。

今横島の脳内は、言葉にするのも戸惑われる程の妄想が渦を巻き、嵐を巻き起こしていた。



「フハハハハハハ!! これで世のネーチャンは皆俺のモンじゃー!!!」



妄想のレベルが臨界点を突破したのか、高笑いと欲望が口から飛び出した。

その欲望の叫びを偶然にも耳にしてしまった小さな男の子が「ママー!」と母に尋ねるが、

母から返って来たのは首を横に振るという行為だけだった。



「今回も上手く引っかかってくれたね。ま、あのボウズが飲んで効果あったなら

 ワタシも使うね。ヒヒヒヒヒ」



横島が飛び出して行った後、厄珍は己の妄想に浸り、妖しく笑うのだった。








厄珍堂から事務所まで、方道30分はかかるところをたったの3分で駆け抜けた横島は、

事務所ビルとその隣のビルとの間に隠れ、厄珍から奪い取った戦利品を眺めていた。

その薬のパッケージには「神○モテモテ○国Z」と極太の明朝体で書かれており、

ついでに手足のデッサンがぞんざいな耳の部分に妙な突起物が付いているオヤジの絵が描かれていた。


「なんか怪しいなぁ・・・だがしかし! これを一錠飲めば俺は史上最高のモテ男になれるのだ!

 その史上最高のモテ男という称号の前には、この程度の怪しいパッケージなどホワイトアウトするのだー!!」



一瞬そのパッケージに効果を疑ったものの、己の欲望には勝てなかったようだ。

即座にパッケージを開け、中のカプセルを1個飲み込む。

そして事務所へと飛び込んだ!



「みっかみすわぁぁぁぁぁぁん!!!  俺の2号さんになってくれー!!!」


「貴様はまだ懲りんのかーーーっ!!!」



ギョチャー!!

およそ人体が発しそうも無い音を発し、血潮を撒き散らしながら事務所の壁にめり込む横島。

横島は事務所に飛び込むと超加速もかくやというスピードで所長室に侵入し、

所長室に居た美神に漢の真骨頂とも言うべきルパンダイブを慣行したのだ。



「・・・な、何故だ・・・」


「あん? 何言ってんのよ。何時もの事でしょうが。で? 頼んだ物は?」


「そ・・・それはソコに・・・」



虫の息になりつつも所長室のドアの横に置かれた風呂敷包みを指差す。

暴走しつつも持って帰る物はちゃんと持って帰っていたのだ。



「そ、ご苦労さん」



美神はそれだけ言うと風呂敷包みを持って所長室を後にした。

残されたのは血の海に沈んだ横島だけであった・・・








が、しかーし、横島がこの程度でくたばる訳も無く、

5秒程してバッと立ち上がると、暗い笑みを浮かべて笑い始めた。



「ふふふふふ・・・あんのグラサンちびめ・・・また俺を騙しやがったなー!!」



叫び声を上げると、事務所に戻ってきた時のスピードとほぼ変わらない速度で

事務所を飛び出し、厄珍堂に向かって走り出した。



「待ってろよー! 厄珍! そのいけすかねぇチョビ髭毟り取ってやるからなーっ!!!」



憎いアンチキショウを血祭りに上げる為、脇目もふらず走る横島に、

ビルの谷間から現れた人を避ける事など出来様はずもなく、物の見事に衝突してしまった。

横島の方に勢いがあった為、相手を巻き込んでもんどりうって転がる。



「イタタタタ・・・君! ちゃんと前を見て走りたまえ!」


「あたたた・・・あー、すんません・・・って、お前は!」



転がった後に下敷きにしてしまった相手から当たり前の文句が飛び出す。

頭に血が上っている横島に聞こえるのかとも思われたが、

人にぶつかった事で冷静さを取り戻し、素直に謝る横島。

が、ぶつかった人物を確認するなり激昂した。



「てめ! 西条じゃねぇか! 謝って損したぜ」


「ふん。僕も君になんか謝ってほしく・・・な・・・」



ぶつかった相手は横島の忌み嫌う天敵。ICPOオカルトGメンの西条輝彦だった。

相手が西条だと分った途端に悪態をつく横島。やはり相当に嫌っているらしい。

ある意味同族嫌悪なのだが・・・

その西条も横島の事は嫌っているので悪態をつく・・・はずなのだが。

西条の口から出た言葉は最後まで続かず、何故か頬を赤く染めた。

ゾクッ!

西条の表情を見た横島に薄ら寒い悪寒が走った。



「な、なんだ西条? どうした?」



脳内で鳴り響くALERTを必死で押さえつけ、脂汗をかきつつ尋ねる。



「・・・横島君・・・」


「な、なんだ?」



頬を赤く染めたまま俯く西条を直視できないまま返事を返す。

だが脳内のALERTは止むどころか更に激しくココから逃げろと警告する。



「・・・横島君・・・・・・好きだーっ!!!」



ガバァッ!



「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?!?」



さいじょうはよこしまに抱きついた!


よこしまはかたまっていて動けない!


さいじょうはよこしまにほおずりした!


よこしまは石化してしまった!



横島が悲鳴を上げてからの一連の行動を某超有名RPG風に解説するならこんなところだろう。



「ああ、横島君・・・君はなんて魅力的なんだ・・・この逞しい胸板、堪らないよ」


「失せろこのド変態がーーっ!!!」



ズゲゲン!

しなを作りながら自分の胸板を人差し指でこねる西条に、ついに横島がキレた。

体中を駆け回る悪寒を気合で抑え、ジンマシンと鳥肌が立った皮膚を根性で元に戻した。

そして抱き付いている西条に対し、股間を潰しつつ膝で空へと浮かせ、顔面に向かって回し蹴りを叩きこんだ。

放物線どころか一直線に西条は吹き飛び、街路樹を2本程圧し折って漸く止まった。



「うぐぐ・・・これが横島君の愛なんだね・・・頑張って受け止めるよ!」


「ならこれも受け取れやー! 死ねーーっ!!!」



頭から血を流しながらも横島への愛を語る事を止めない。

横島はこの西条の変貌ぶりを怪しんで原因を考えるべきなのだろうが、

男から迫られるというある意味極限状態においてまともな思考が出来るはずもなく、

横島はワナワナと震えると、何時の間にか握っていた「滅」と「殺」の文字を入れた文珠

を西条に向けて全力投球した。どうやら本気で西条を殺す気のようだ。

2つの文珠は合わせて「滅殺」となり、西条を滅し、滅ぼさんとその効果を発動させる。

「滅殺」の文珠は光輝き、その輝きが収まる間もなく、何者かが西条に向かって接近し、掴みかかった。

その瞬間周囲は閉め切った部屋で電灯を切ったが如く真っ暗になり、

次に何かを殴打する音が聞こえた。ついでに「あべし!」「ひでぶ!」等の悲鳴も聞こえたような気がするが、

気にする事でもないので気にしない事にする。

そして数秒後、周囲に光が戻ると、肉塊と化し転がる西条らしき物体Xと、背中に神の文字が入った道着

を着た筋肉ムキムキでちょんまげをした男が立っていた。仮称として神・豪○とでも呼ぶべきか。

どうやら西条は突然現れたこのちょんまげのオッサンに殺されたようだ。

横島は西条が死んだ事によって満足し、神・豪○をと放置し意気揚々とその場を立ち去った。



「西条・・・お前の事は飯を食うまで忘れないぞ」



そう、捨て台詞を残して・・・やはり横島にとって西条とはその程度のものらしい。

それどころか、西条がくたばった事が余程嬉しいのか、暗い笑みまで浮かべている。

だがしかし、そうは問屋が卸さないのがこの小説。



「横島くーん! 待ってくれー!」


「なにーっ!?」



やはりというかなんというか、西条はガバッと起き上がると傷一つ無い身体で横島に迫った。

ギャグキャラはどんな事をしても死なないという不文律を見事に体言していた。



「うっぎゃぁぁぁぁぁぁっ!! 寄るんじゃねぇぇぇぇぇっ!!!」


「恥ずかしがる事はないよ横島君! さあ! 僕の胸に飛び込むんだー!!」



横島は逃げ出した! そりゃあもう力の一杯逃げ出した。

恥も外聞もかなぐり捨て、目からは涙を、鼻からは鼻水を撒き散らしながら一目散に逃げ出した。

背後から迫り来る変態から逃れる為に!

現在の横島の心境を歌にでもしたらこうなるだろう。


走るー、走るー。俺ーたーち♪

男ー同士は嫌だーかーら♪

以下JAS○ACが怖いので検問削除。


とまあ、横島にとって歌に出来る状況ではないのだが。

人々の合間を縫って駆け抜け、人ゴミを蹴散らし、必死で逃げる横島に、

ついに転機が訪れた。前方に知人を発見したのだ。



「ピートォッ!! 助けてくれーっ!!」



やっとこの恐怖から解放してくれそうな相手を見つけ、藁にもすがりそうな勢いで親友であるピートの背後に隠れる。

当のピートは、振り返ったと同時にギョッした体制のまま固まった。

それはそうだろう。突然声をかけられたと思ったら顔が涙と鼻水でグチャグチャになった

横島が、自分の名を叫びながら猛スピードで迫り、自分の背後に隠れたのだから。



「な、何があったんですか横島さん!」


「お、恐ろしいモノに追われてるんだ!」



根がクソ真面目なピートは、横島の様子から、ただ事ではない事態が起きていると察した。

横島がこんな顔をしている事は・・・・・・今までも多々あったが、それでも親友を思う気持ちから

横島が言う恐ろしいモノと対峙する為に身構えた。

そして現れたモノは・・・



「よっこしまくーーーんっ!! ジュッテーム! アイッラッビュー!」



目をハート型にした西条だった。

相変わらず横島への愛を高らかに叫んでいる。

目撃されたら近所の奥様方からヒソヒソ話をされる事間違いなしだ。

いやそれ以前に黄色い救急車のお世話になるかもしれない。



「よ、横島さん・・・追われてるって、アレですか?」


「そ、そーだ! アレは史上最低の変態でケダモノだ! 容赦無く殺せ!」



一瞬目が点になったピートであったが、自分の背後でガクガクと震える横島に気付き、

なんとか絞り出した言葉で横島に恐怖の原因の事を尋ねた。

返って来た言葉は、いつか聞いた事があるような気がする返答だった。

しかもその時の相手も西条だったような気がする。

一気に気が抜けるように脱力しかけたが、迫り来る西条の尋常ではない様子にハタと気付く。

現在の西条の様子を一言で表すなら、目がハート型に血走ったグリコ状態。であろう。

更に気付いた事が一つ、背後でガクガクブルブルと更に震えの度合いが増した横島への愛しさだ。

小さくなって震える横島には小動物のような魅力があった。

多分おキヌ辺りであれば母性本能に直撃を受けているだろう。

だがピートにとってはそれ以上のものがあったらしい。

横島の一挙手一投足が愛しくて仕方ないのだ。

今すぐ横島の心と身体を慰めたい。そういう想いにピートは激しく駆り立てられた。

そしてピートは自身を振るい立たせた! 一瞬でも脱力しかけた自分を恥じた!

今、ピートの中で横島が親友から想い人へと昇華した瞬間だった。

これが更なる悪夢への引き金である事に、ピートはおろか、横島ですら気付いていなかったが・・・



「横島さんは、僕が守る!!」


「ありがとう! ピートォッ!」



ピートの内心にはまったく気付かず、更にピートの恋の炎にガソリンを注ぐ横島。

目に見えてピートの頬が赤く染まったのだが、西条から逃げる事に必死な横島はまだ気付かない。

そして横島を巡る戦いの第1ラウンドの火蓋が切って落とされたのだった。



「うおぉぉぉぉぉっ! ダンピールフラッシュ!!」



横島を守る為、漲る霊力を純粋な破壊エネルギーに変換し、恋敵へと叩きつける!

だが敵もさるもの、ハート型だった眼を真剣な物に変え、迫る破壊の衝撃を横に跳んでギリギリかわす。

回避された霊波砲は、地面に衝突し、アスファルトを抉って小規模なクレーターを形成した。



「・・・ピート君。君もか」


「ええ、西条さん。あなたに横島さんは渡しませんよ!」


「なら・・・勝負だ!」



ギラリ、と殺気の篭った目で睨み合う2人。

同じ男(ひと)を想う以上、この戦いは決して避けられる事はない。

さほど広くもない道路の真ん中で対峙する2人、動いたのはまったくの同時だった。

ピートが上へと飛び、西条はピート目掛けて突進した。

西条の突進を予測していたピートはニヤリと笑う。



「ダンピールフラッシュ乱れ撃ちぃぃぃっ!!!」



突進した所を上と逃れられ、虚を突かれた西条に、

ピートの親友の1人が得意とする霊波砲の乱れ撃ちをお見舞いする。

連続で撃ち出される霊波砲は西条を取り囲むように迫る。

だが西条は、思ってもみなかった行動に出たのだった。



「ふははははは! 横島君は頂いていくぞー!」


「なっ!? しまったーーっ!!」



そう、西条はピートが上に跳んだ事によって残された横島を、小脇に抱えて逃走を計ったのだ。

小脇に抱えられた横島は、もう声も出ないといった様子で目を虚ろにしてブツブツと何か呟いていた。

裏をかかれたピートは、西条を足止めすべく連続で霊波砲を放つが、尽く西条に回避され、足止めにもならない。

当たれば横島にも被害が出るのだが、焦ったピートにそこまで考える余裕はなかった。

と、思われるかもしれないが、ピートの思惑には怪我を負った横島を自身が介抱するという、

打算にまみれた考えがあったのだった。

そんなピートの思惑なんぞ知ったこっちゃないとばかりに逃げる西条だったが、

天がピートの味方をしたのか、西条の行くてを阻む者が現れた。



「待ちやがれ西条!」


「ちっ・・・雪之丞君。何時の間に!」


「ゆ、雪之丞!」



天の助け、横島はそう思った。

ピートまでもがおかしくなった今、助けてくれそうなのは雪之丞しかいなかったのだ。



「知れた事! ずっと横島の後を追って、出番を窺っていたのだ!」



ズベシャー!

西条の腕から脱出し、雪之丞に向かって駆け寄った横島は顔面からアスファルトへとダイブした。

お前もかー! と横島は心の中で叫んだ。

よくよく雪之丞の魔装術の胸の部分をよく見ると、「横島命」とデカデカと書いてあった。

瞳は殺気でギラつき、西条とピートを親の仇の如く睨んでいる。

そして話は冒頭へと戻る・・・



「こんな日常もう嫌だーーーーっ!!!」



横島の魂の叫びは、激しい戦いを繰り広げる3人に届くわけはなく。

虚しく辺りに響き渡ったのだった・・・



Fin

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