ザ・グレート・展開予測ショー

君ともう一度出会えたら(23)


投稿者名:湖畔のスナフキン
投稿日時:(04/ 5/ 6)

『君ともう一度出会えたら』 −23−



 美神さんの予想外の言葉に、俺はその場で凍りついてしまった。

 ドクッドクッ!

 心臓の鼓動が高まり、手がブルブルと震えた。
 何か喋ろうとしたが、口がパクパク開くだけで言葉が出てこない。

「……えっと、何の冗談ですか、美神さん?」

 ようやく出てきた言葉が、これだった。

「まだシラを切る気なの? これだけ慌てていれば、十分状況証拠になるんだけどねー」

 ダメだ。誤魔化しにも何もなっていない。それなら……

「あの、ヒャクメが何か言ったんですか?」
「ふーん、ヒャクメも知っていたんだ。まあヒャクメなら、それくらいわかるかもしれないわね」

 あうっ! どんどん追い詰められていくような気がする。

「横島クン、ルシオラを連れて戻ってきてから、ずいぶん性格が変わったわね。理由を説明できるかしら?」
「あれは逆天号でいろいろ鍛えられて、精神的に成長したからだと……」
「ヨコシマ。東京タワーで夕陽を見た後に、『すべてが終われば』って言ったわよね。
 私、あの時の答えを聞いてないわ」

 ル、ルシオラまで! 既に退路は絶たれているのか!?

「あんたね、いいかげん降参したら?」
「ヨコシマ。私たちの間で、隠し事は作りたくないの」

 今まで、ヒャクメ以外に気づかれた気配は、ほとんどなかったんだけど。
 おかしい。いったい、いつバレたんだろうか?

「横島クン。ここで話したことは誰にも聞かれないし、念のために文珠で結界も張ってもらったから、
 秘密は絶対に漏れないわ。今まで隠してきた気持ちは、理解できるけど……」

 俺が秘密をずっと隠してきたのは、周囲から無用の疑いを受けないためだった。
 だがルシオラも美神さんも、俺の秘密について疑念どころか、ほぼ確信をもっている。
 もう隠すのも限界か。

「……いつ、気がついたんですか?」
「横島クンが、パピリオの鱗粉を吸って倒れた時。
 あの時、横島クンを覚醒させるために、ルシオラがサイコダイブを試みたんだけど、
 たまたま傍にいた私も巻き込まれて、そこで横島クンの記憶を見たってわけ」

 俺は大きく深呼吸した。
 記憶を覗かれたのか。道理でいろんなことを知っているわけだ。

「……どこまで知っています?」
「大筋はわかっているつもり。できれば、横島クンの口から事実を確認したいんだけど」
「約束してください。今から話すことは、誰にも喋らないと」

 アイコンタクトをした美神さんとルシオラが、俺の顔をみて軽くうなずいた。

「わかりました。ちょっと長くなりますけど……」

 ようやく観念した俺は、今までの出来事をかいつまんで、二人に話し始めた。




「……とまあ、こんな感じです」
「だいたい、見てきた内容と一致するわね」
「そうですね、美神さん」

 俺の話を、美神さんとルシオラはじっと聞いていた。
 俺はまだ起きていない未来の出来事や、今回の歴史には無かったことまで話したが、二人が少しも疑問を口にしなかったのは、同じ内容を既に見ていたからであろう。

「横島クンが未来から戻ってきた理由は、だいたいわかっているけど……」

 美神さんがルシオラにチラリと視線を向けた。
 その言葉を聞いたルシオラの頬が、ポッと赤く染まる。

「正直言って、アシュタロスを倒すだけで大仕事よ。勝算はあるの?」
「もちろんです!」

 俺はすかさず断言する。
 俺の言葉を聞いた美神さんはじっと考え込んでいたが、やがて口を開いた。

「わかったわ。いまさら後戻りもできないしね。私も協力するわ」

「ルシオラは?」

 俺はルシオラの返事を待った。

「私は……ヨコシマを信じてるから」
「それって、OKってこと?」

 ルシオラは黙ってうなずいた。




 その後、俺と美神さんとルシオラの三人で、今後の方針について話し合った。
 俺は今までどおり、時間を稼いで時間切れを待つ作戦を主張したが、美神さんが強硬に反対した。

「この方法が一番危険が少ないと思うんですが。ベスパだけなら、俺たちだけで撃退できるし」
「甘い! タイムリミットについては相手の方がよくわかっているのよ。
 いざとなったら、アシュタロスが直接乗り出してくるわ。
 やはり、前回と同じように、私が囮になった方がいいと思うけど」
「で、でも、その方法だと美神さんが……」
「危険なことはわかっているわ。前回のことは、横島クンの記憶でひととおり見てきたから。
 でもね、この方法が一番確実なのよ」

 美神さんは、前回と同じ方法を取ることを強く主張する。
 勝負だけにこだわるのであれば、一番確実なんだろうが──

「今の私たちにとって、一番有利な点はなんだと思う? 前回の記憶をもっていることよ。
 先の出来事をある程度予測できるから、先手先手で手を打つことができる。
 横島クンも、今までそうやってきたんでしょ?」
「ええ。まあそうですが……」
「だったら、そのメリットを最大限に生かすべきよ!」
「けれども、前回のやり方だと美神さんが……ルシオラはどう思う?」

 俺と美神さんの議論は、平行線をたどっていた。
 俺は横から見ていたルシオラに意見を振ってみる。

「そうね。私はやっぱり、前回と同じ方法を取る方がいいと思う。
 ヨコシマの意見は、一見リスクが低そうに見えるけど、先の展開が読めなくなるというのが難点ね。
 前回の経験を生かすためにも、やはり前回と同じ方法を取った方が確実だわ」
「しかし……」

 ルシオラの意見には説得力があったが、俺は納得しきれなかった。
 前回と同じ方法を取るということは、一時的にせよ美神さんの魂が抜き取られ、宇宙処理装置(コスモ・プロセッサ)に取り込まれる結果となる。
 美神さんが死ぬほどの苦痛を味わうばかりでなく、一つ間違えば魂そのものが消滅しかねない。
 失敗した時のリスクや、美神さんが味わう苦痛を考えると、どうしても強気になれなかった。

「大丈夫よ。前回も何とか乗りきったんでしょ。今回は心の準備ができる分だけ余裕ができるわ」
「大変ですよ。前回、亜空間迷宮の中で美神さんを見つけた時には、魂が分解寸前でしたから」

 だが、美神さんの決意は揺るがない。
 しばらく話し合った結果、美神さんを囮とする作戦で同意した。

「心配しないで。アンタたち二人を信じているから」

 不安を拭いきれず美神さんを心配していた俺に向かって、美神さんがにっこりと微笑んだ。




 気がついたら、時刻は夜の八時を回っていた。
 中身の濃い話をしていたとは言え、ぶっ続けで数時間も議論を続けている。

「今日はここまでね。
 後は細かい話を詰めるだけだし、あまりここの会議室を占拠していると、怪しまれるから」

 美神さんのこの発言で、今日はお開きとなった。

「ふうーっ」

 ようやく解放された俺は、大きなため息をついた。

「だいぶ疲れたみたいね」

 椅子から立ち上がった美神さんが、にやにや笑いながら俺の顔を見下ろしている。

「もう、5年は寿命が縮みましたよ」
「私たちを騙して、コソコソと動き回ってた罰よ」
「秘密をバラされるのが、こんなに心臓に悪いなんて。俺って、絶対スパイには向いてないな」

 俺の言葉を聞いていたルシオラが、クスクスと笑う。
 まあ、逆天号でスパイをしていた時も、ルシオラにはバレバレだったから仕方ないか。

「ヨコシマ、私は先に事務所に帰るわ」
「せっかくだから、三人で夕メシでも食ってかない?」
「ちょっと用事があるから……」
「あっ、そう」

 俺はルシオラに誘いを断られてしまい、ちょっとがっかりしてしまう。

「仕方ないわね。今日は私がおごるわ」




 Gメンの基地を出てルシオラと別れたあと、俺と美神さんは車で美神さんの行きつけのレストランに向かった。
 二人で夕食を食べたあと、美神さんがドライブに誘ってきた。

「いや、あまり遅くなると、ルシオラが心配しそうで……」
「大丈夫よ。12時までに返す約束をしてるから」
「裏で協定を結んでいたんですね」

 ハァ

 思わず、ため息が漏れてしまった。
 他にどんな悪巧みをしていることやら。

「最近、ルシオラと仲がよさそうだったんで、不思議に思ってたんですよ。
 前回もそうだったんですけど、美神さんとルシオラって、お互いに避けている感じでしたし」
「そうね。横島クンのことがなければ、積極的に交流しようなんて、夢にも思わなかったと思うわ」

 美神さんは、つい数日前にドライブした時と、同じコースを走っている。
 海辺に見えるレインボーブリッジが、とてもきれいだった。

「横島クン、今何歳だっけ?」
「17歳ですけど」
「そっちじゃなくて、精神年齢の方よ」
「ええっと、22歳です」
「私より一つ上ね。道理で、しっかりしてると思った」
「俺自身は、そんなに変わってないつもりですけど」

 前に隊長にも言われたけど、俺自身はそんなに変わったとは思わない。
 鏡に写した顔も、使える霊力も17歳の頃そのままだ。
 まあ、未来での修行の結果、引き出せるパワーは段違いに増えているが。

「そうね。強くなっているというのもあるけれど、それだけじゃない。
 心構えかな? 前と比べると、覚悟が違うって感じがするわ」

 覚悟か……
 それならば、確かに以前とは違っているかもしれない。

「少し前に、この道を走ったのを覚えてる?」
「そう言えば、同じところを走ってますね」
「あの時の返事なんだけど……」

 俺はドキッとした。あれからいろいろあったから、返事をすることすら忘れていた。
 でも今の美神さんは、俺の気持ちをわかっているはずだよな……

「そ、その……」
「今は言わないで。でもね、私の気持ちは変わっていないんだから……」
「そ、それって……」
「とりあえず、ルシオラとの約束があるから、事件が片付くまでは何もしないけど、
 それが終わったら覚悟しといてね」

 美神さんが俺の方を振り向いて微笑んだ。
 何というか、今まで見た中で一番いい笑顔をしていた。


(続く)

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa