ザ・グレート・展開予測ショー

幸せは、一瞬でいい


投稿者名:BOM
投稿日時:(04/ 5/ 2)


 その夜、横島はとある高層マンションの一室の前に立っていた。いつもと変わらぬ、GジャンとGパンという出で立ち。
 少し違うことと言えば、いつになく真剣な表情といつもよりもきつく締めたバンダナ。それと右手に持った花束であろうか。
 花束なんて柄に合わないが、流石に手ぶらで来るのもちょっとなぁ・・・とか思ったので買ってきたやつだ。まあ、花なんて全然わからないので店の人に選んでもらったものではあるが、なるたけ彼女に見合うのを選んだつもりだ。

 「・・・ここだよな。部屋の番号も合ってるし・・・時間は・・・大丈夫だ」

 腕時計を見て確認した後、深い深い深呼吸を2、3回。
 緊張と興奮に満ちあふれて今にも弾けそうになる高ぶった心臓の鼓動を抑えるために。
 やがてそれを終えて横島は、

 「よしっ!」

 左手で頬を軽く叩き、ドアに近づいた。
 そしてゆっくりとインターホンに手を伸ばし・・・

 『ピンポーン』

 無機質だが、妙に親しみの持てる電子音が鳴る。
 その音が鳴り止みしばらくすると、その向こうから彼女の声が聞こえてきた。

 「はい、美神ですけれども。どちらさまですか?」
 「あっ・・・!お、お、俺です!美神さん!横島でっ・・・!?」

 そこまで言って横島は突然、その場に崩れ落ちた。
 だがそんなことを知る由が無い美神はそのまま話し続ける。

 「横島クン、来たのね?待ってて、今開けるから」

 そう言って美神は玄関へと向かって歩き出す。そして、

 ガチャリ

 という音と共にドアが開け放たれた。
 その向こうにはトレーナーとズボンという、いたって普通の格好をした美神が立っている。しかし、

 「遅刻はしてないわね?いらっしゃい、横島クン。・・・って、アレ?・・・いない・・・?」

 ドアを開けた美神の視線の先にはそこにいるべきはずの横島の姿が見あたらない。

 (一体なんだっていうの?)

 そう思って美神はキョロキョロと横島を探し始める。そして、見つけた。
 ドアの真ん前で四つん這いになりながら口を抑えつつ、微妙に悶絶している横島を。

 「・・・アンタ、何やってるの?」
 「・・・ひや・・・ひょの・・・」
 「え?」
 「・・・ひゃっき、ヒンターホンほひた時に、ひた噛んじゃって・・・」
 「・・・はい?」

 先程の深呼吸、あんまり意味はなかったのかもしれない。


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                    幸せは、一瞬でいい

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 「アハハハハ!じゃあ何?緊張しすぎて舌噛んじゃったの?」
 「そんな笑わんでくださいよ・・・」

 横島が苦笑しながら答える。ただし、舌を出してヒーヒー言ったままだが。

 「大体、美神さんトコに来るのは初めてなんスから!緊張もしますよ!」
 「あれ?初めてだったっけ?」
 「そうっすよ!俺らが付き合ってから初めてなんスから!」

 横島が美神と付き合い始めて約半年に至る。先に告白したのは横島。
 2人で行った除霊の帰り道、横島は美神に想いを伝えた。

 「み、み、み、美神さん!お、お、お、俺と付き合って下さい!!」
 「いいわよ」
 「そうっすよね・・・やっぱ、ムリっすよね・・・・・・って、えぇえっ!!?」

 文字通り、即答だった。
 
 「私も今日告白するつもりでアンタと仕事に来たのよ」

 とはその直後に彼女が顔を赤らめながら言った台詞。
 だけども、それを聞いた時横島はといえば、

 「マジっすか?・・・嘘っすか?・・・何か面倒なことにでも付き合わせようって言うんじゃ・・・」
 「ふざけんじゃないわよ!好きだって言う気持ちに・・・大切な気持ちに疚しい事なんてあるわけないでしょ!?」

 顔面に鉄拳を喰らい、こっぴどく叱られてしまったが。

 ともかく、それから二人は付き合い始めた。デジャヴーランドだとか、夕食を食べに行ったりだとか、夕日の海岸線をドライブしたりだとか。
 たまに美神が横島の家に遊びに行った時もあった。しかし、横島が美神の家に行ったことは一度も無かった。
 と言うのも、デートは大概、美神が車で横島を送るのが主だったからだ。
 しかし、今日――

 「横島クン、今日私の家に来ない?」
 「えっ!?い、今何て?」
 「私の家に来ないかって言ってんの。来るわよね?」
 「もっ、もちろん行かせて頂きます!」
 「よかった。じゃあこの時間に来てね」

 何故かビシィッと兵士のように敬礼をする横島。そんな横島に美神は自宅の場所と時間を書いたメモを渡した。

 「私はちょっと準備があるから先に帰るわ。・・・横島クン?」
 「はい?」

 メモを見ている横島に向かって帰り際に一言。

 「遅刻したら・・・・・・許さないからね♪」
 「ヤ、ヤダナァ美神サン、僕が遅れるワケないじゃないッスか」

 それは他の人が見たら限りなく魅力的な笑顔、しかし横島にとっては脅迫に近い笑顔だったそうな。
 やがて美神が帰った後そこに残ったのは、

 (ぜ、絶対に遅れられん!もし遅れたら・・・殺されてしまうかもしれん・・・)
 
 と決心しながら何故か足をガクガクさせている横島だけだった。

 ――というわけで横島は美神の家に来ていた。
 そして先程、あまりの緊張でインターホンでの応答時に焦って舌を噛んでしまい、倒れ込んでいたのだ。

 「あいててて・・・あ、そうだ美神さん。コレ・・・」
 
 そう言って横島は美神に持ってきた花束を渡す。倒れた時にどうやら守ったらしく花は一輪も散ってない。

 「あら、ありがとう。・・・良い香り・・・」
 「店の人に選んでもらったんすけどね。喜んでもらえれば嬉しいっす」

 花の香りを静かに嗅ぐ彼女をみて、横島は思った。

 (うっわ・・・似合うなぁ・・・いや、そりゃ当たり前なんだけど・・・)

 「綺麗・・・だよなぁ・・・」
 「ん、何?何か言った?」
 「あっ、いえ!な、何でも無いッス!」

 ワタワタと慌てふためく横島を微笑んで見ながら美神は思った。

 (何か考えてるのバレバレだっての。それに・・・憶えててくれたみたいね)

 2人並んで廊下を歩いている間に、ドアの前に着いた。と、そこで横島の鼻が何かを感じ取る。

 「・・・ん?・・・美神さん、この匂い、なんすか?良い匂いだけど・・・」
 「え?ああ、そっか。そういえばそろそろ出来上がる頃ね、ちょっと椅子に座って待ってなさいよ」

 そう言うと美神はドアを開け、パタパタとスリッパの音を立てて台所の方へと歩いていく。
 何があるのか全くわからず、不思議に思いながらテーブルに着こうとする横島。
 ふと目をやるとテーブルの上には数々の料理が置かれている。どれもこれも豪勢でいかにも美味そうだ。
 横島が目を丸くして驚いていると、美神が皿を携えてやって来た。

 「あれ?どーしたの?座らないの?」
 「み、美神さん・・・これは・・・一体・・・?」

 数々の料理を指さし、半分震えながら横島は尋ねる。
 それを不思議に思いつつ美神はテーブルの上にたった今持ってきた料理の皿を載せて言った。

 「ああ、これ?アンタが来るって言うから準備しといたのよ。急だったからあまり良いモンは作れなかったけどね」
 「み、美神さんが俺に・・・?こ、この俺のために・・・て、手料理を・・・?
  こ、これはもう『何をしてもOKよ♪好きなようにして♪』というサイン!その思い、しかと受け止めっ――」
 「何暴走してんのよっ!?」

 ズガンッ!!

 美神の鉄拳があまりの嬉しさに突っ込んでくる横島の顔面にクリーンヒットする。
 拳のめり込んだ跡を残したまま、横島は床へと墜落した。出血こそしてないが、何やらピクピクいっている。
 急所にでも入ったか?

 「全く・・・ホラ、早く食べるわよ!せっかく作ってやったのに冷めちゃうじゃない!」

 くるりと回って横島に背を向けて美神はそう言い放つ。そして横島はその声を聞き、

 「・・・うぃっす・・・」

 と言って何とか立ちあがる。フラフラしているもののそう大したこともないようだ。
 確証は無いが、あと少しすれば回復するだろう。何せあの横島だし。

 美神はというとその顔は決して怒ってなく、逆に微笑んでいる。それはあの行動がいつも通りの横島だからか、それほどまでに自分のことを想ってくれていると感じたからかはわからないが。

 そして・・・

 「ふ〜〜!!いやあ、食った食った!」
 「お粗末様。どうだった?」
 「もちろん決まってるじゃないですか!美味いに決まってますよ!」
 「あらそう?お世辞でも嬉しいわね」
 「お世辞じゃないッスよ、本気です、本気!」
 「ハイハイ、わかったわよ。じゃ、片づけるから食器片づけるの手伝いなさい?」

 そう言って美神は食器を持って先に台所へと向かう。
 多少顔がニヤけているのは多分、自分の手料理が褒められたからだろう。
 やっぱり何のかんの言っても嬉しいのだ。

 横島も食器を持ってきて片づけた後、美神は冷蔵庫から冷えたビールを取り出す。
 イタズラに笑いながら美神は横島に言った。

 「アンタも飲む?」
 「俺、未成年っすよ?」
 「別にいいじゃない?たまには」
 「じゃあお言葉に甘えて・・・って、いや、今回は遠慮させて頂きますよ」
 「ふふっ、冗談よ」

 (いや、いくら俺でも流石に未成年の飲酒はマズイっしょ?)

 とにかくビールの洗礼を避けた横島は美神と一緒にソファに座った。テレビを正面にして左が横島、右に美神。
 美神はソファに座ってテレビをつけた後、プシッ!っという音を立ててビールの缶を開け、まず一口。

 ぐびっ

 「ぷはーっ!ああ、美味しい!大人で良かった♪」
 「ハハハ・・・美味しいっすか?」
 「当たり前じゃない?この苦みが何とも言えないのよね・・・さて、もう一本っと・・・」
 「早っ!?もうっすか!?」
 「大丈夫大丈夫、このくらいじゃ酔いはしないわよ」

 横島から、いや周りから見ても異常にハイペースな美神。
 ソファから立ちあがって1個めの缶を片づけた後、冷蔵庫から再びビールを取り出してまた、

 ぐびっ、ぐびっ

 「・・・」

 もはや唖然とするしかない横島。まあ目の前であんなに飲まれれば仕方ないか。
 苦笑しながらテレビの方を見てみる。・・・あまり面白いとは言えない内容だった。
 テレビを消して再び美神の方を見る横島。横島の視界に入ったのは・・・

 「あー、おいし♪」

 などと言ってすでにワインに手を伸ばしている美神だった。
 もう本当に苦笑するしかない横島。ふと、今日あの時から思っていた疑問が頭をよぎる。

 (そーいや、美神さんは何で今日俺を呼んでくれたんだ?いや、嬉しいんだが・・・その・・・)

 そう思った横島は思い切って美神に聞いてみた。

 「美神さん?何で今日俺を呼んでくれたんだんスか?それに遅刻したらダメって・・・」
 「え?アンタ憶えてないの?」
 「はい?」
 「あっきれた・・・鈍感にも程があるわよ?」

 頭を抱えて言う美神。しかし横島は美神が何を言っているのかがよくわからない。

 「どーいうことっすか、美神さん?」
 「自分で考えなさいよね?何で私が今日に限ってアンタを呼んだのかを」

 (何だ、一体?今日は何の日だっけ?・・・ま、まさかアノ――ふごぽっ!?」

 「だ・れ・が・よ!?一体どーゆー思考回路してんのよ!!?」
 「まっ、また声にいっ!?すんませーん!」

 横島のある種危険な言葉に反応して青筋を立てて殴る美神。
 殴られて意識が朦朧としつつ横島は必死で謝りながら考える。

 (う〜ん、そうじゃないとすれば一体?・・・・・・・・・・・・!)

 「もしかして・・・誕生日・・・っすか?」

 思い出したように横島が言う。それを聞いて美神は顔に笑みを浮かべながら、

 「あら、よく知ってたわね?」

 と言うのだが、先程とはうって変わって嬉しいのが顔に表れまくりだ。

 「美神さんも人が悪いっすよ。一言言ってくれれば・・・」
 「私から言うのもなんとなく恥ずかしかったのよ。それに自分で自分の誕生日言っても虚しいだけでしょ?」
 「そりゃそうっすけどねえ・・・」
 「あーあ、でもこれでまた1歳年とっちゃったのね?いーな、横島クンは若くて」

 ワインをグラスに注ぎ、苦笑しながら美神が言う。

 「何言ってるんすか?まだ若いじゃないっすか。それに俺も年とるんスよ?」
 「そーね、こうやって2人で年をとっていくのかしらね?これからもずっと・・・」

 グラスを片手に美神が言う。顔は笑っているのだがそこにはいくつかの感情が隠されているようにも見える。
 そんな美神を見て、しばらくしてから横島が静かに聞いてみた。

 「・・・美神さん・・・?」
 「なーに?」

 ちょっとほろ酔い気分で聞き返す美神。

 「ちょっと・・・聞いても良いですか?」
 「何よ?」
 「美神さんは今・・・俺といて幸せですか?」
 「う〜ん、そーね、幸せね」
 「怖いモノとかは・・・ありますか?」
 「ないわね。あったらこんな幸せ感じてられないわよ・・・でもそれがどうかしたの?」
 「あ、いえ・・・ならいいんす。何でも無いッスよ」

 ちょっとした笑いを浮かべて返事をする横島。でもその顔は少々作り笑い。
 美神はそれに気づき、何か隠していると感じて横島に問いつめる。

 「ちょっと!何変なこと考えてんのよ!?教えなさいってば!」
 「え?いや、その・・・ひててて!い、言います、言いますから!ほ、頬を抓らんで下さい!」
 「あっ!?ゴ、ゴメン」

 ぱっ、と美神は抓っていた横島の頬から手を離す。横島の顔はいきなり離された事によりちょっとばかし反動をつけて後ろに下がった。

 「あいててて・・・美神さん・・・俺、時々怖いんす・・・」
 「何がよ?」
 「美神さんと一緒に入れるこの時間、俺はとても幸せです。この幸せな空間には、ずっといても飽きやしない。・・・だから、怖い・・・
  いつも思うんすよ。この幸せな日々が永遠に続けばいいって。永遠に美神さんと一緒にいれたらいいって。
  でもそんな幸せな日々も時に流されて、段々と一瞬に近づいて、いつか忘れ去られていくんじゃないかって・・・
  俺が感じているこの幸せな日々は他の人とか、時間から見れば、ほんのちょびっと、一瞬にしかならないわけじゃないですか。
  だから・・・俺はそれが・・・どうしようもなく、怖いんす・・・」

 どこか物寂しげに、どこか切なそうに横島はそう話した。
 永遠に続いて欲しいこの幸せが、もしかしたら一瞬というものへと変わってしまうんじゃないかと。

 「・・・ふ〜ん、アンタ、そんな風に思ってたんだ?」
 「え?」

 美神は横島の顔をじっと見据えて、そしてこう言った。

 「幸せが永遠に続いて欲しいってのはそりゃわかるけど、そんなに色々と悩む必要ないんじゃない?少なくとも私はそうは思わないわよ?寧ろ一瞬でもいいと思うぐらいだわ」
 「なっ、何でですか!?美神さん、俺と一緒にいる時間が、一瞬でいいと思ってるんすか!?」
 「そんなわけないでしょうがっ!!」

 横島がビクッとなるほど、大きな声で美神はそう叫んだ。そして顔を赤くして再び大声で言う。

 「私だってね!アンタのことが好きなのよ!?アンタといる時間は・・・その・・・とっても幸せなんだから!!」
 「じゃ、じゃあ何で・・・ですか?何で幸せは一瞬でいいって言うんですか?」

 すると美神はちょっと恥ずかしそうにしながら、横島の右腕を自分の胸元に抱きよせて、自分の体は横島に預けながら、言った。

 「幸せっていうのは、一瞬で、それでいて永遠なものなのよ」
 「?」

 全く訳がわからないといった顔をしている横島。美神はそんな横島の顔を見つつ、さらにこう付け加えた。

 「だってそーでしょ?」

























 ―――――――『幸せな瞬間(とき)』っていうのは、他人や時の流れから見たら一瞬かも知れないけど、その『幸せ』を感じている人達、つまり私たちにとってはいつまで経っても変わらない、永遠なものなんだから―――――――


















 しばし、部屋の中が静寂に包まれる。どれくらいそうしていただろうか。その静寂を破るように、美神が静かに喋りだす。

 「だから私は幸せは一瞬でいいって言ったのよ。・・・どう?」
 「・・・そっか、そうっすよね。俺たちにとっては・・・この瞬間は、ずっと永遠なんですね」
 「その通り!って、う〜ん、酔いが冷めちゃったわね。そうね、一つ学んだことに乾杯でもするわよ!」
 「俺、まだ未成年だって言ったでしょう!?」
 「私が許す!世界を相手にしても今日は飲ませるわよ?」
 「・・・ったく、わかりましたよ。・・・じゃあその乾杯の前に・・・」
 「えっ・・・?あっ・・・」

 横島から美神へのいきなりのキス。まるで『幸せ』を教えてくれたことに対してのお礼とも言うべきに、濃厚なヤツを。
 だけど横島はすぐにそれを止めて唇を離した。困惑の表情を表す美神。

 「・・・これも俺たちにとっちゃ『永遠』になるんすよね?」
 「・・・バカね、こういうのはもうちょっと長くするものなのよ?」
 「そんなもんっすか?」
 「そんなもんよ・・・」

 そしてまた、2人は唇を重ねた。今度は、美神から横島へ。今度はまるで・・・永遠のように・・・








 ――――――永遠に続く幸せはいらない。一瞬でいいから。ずっと、心に残るから。それが、本当の『幸せ』だから―――――――





 おしまい。

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