ザ・グレート・展開予測ショー

だから拙者は…以下略。


投稿者名:ライス
投稿日時:(04/ 5/ 2)



「犬じゃなくて狼でござるっ!!」
 シロはぷんすか怒っていた。自分では犬ではない。それだけははっきりさせたい。からかわれると必ず使う常套句であった。
「じゃあ聞くがな。そのしっぽは一体どういう訳だ?」
 横島は間を置かずに聞き返した。彼女のしっぽはぷるぷると違う生き物みたいに活発に動いている。
「そ、それは先生と一緒に散歩に行けることが嬉しくて……」
「いつものことじゃねぇかよ。散歩なんて。そんなんだから犬とあんまり変わりばえしないんだよっ」
「違うでござる!」
「どう違うってんだ!」
「違うものは違うんでござる」
「大して違わねぇよ!」
「違うったら、違うんでござるぅ!」
「あっ、骨付き肉が空飛んでるぞ」
「え♪ ど、どこでござるかっ?」
 もちろんそんなものが飛んでるわけがない。なのに、シロのしっぽは今までにないほどに振るえた。さもとても嬉しそうに。
「ほら見ろ」
「うぅ。だましたでござるな、せんせえ……!」
 恨めしそうな表情で横島をにらむ。今にも化けて出てきそうな勢いである。と言っても死んではいないのだが。その落ち込みようには海の底のように深かった。するとシロの眉間にしわが寄り、ふくれっつらを見せる。
「拙者が骨付き肉好きなのを知っていて騙したんでござるかっっっ!?」
「だますって、普通だまされるかぁ?」
「そ、そんなぁ? それはないでござるよ、せんせえぇぇぇぇ!?」
「うっ、うわ、ばか!」
 シロは思いっきり横島に泣きついてきた。その拍子に彼は押し倒されて、彼女もろとも自分の部屋の畳に強く叩きつけられる。
 と、ここで妙な音がした。ぱきんっと高い音が。音はガラスや陶器が割れるような非常にきんきんしたおかしな音だった。
「ん? おい、シロ。変な音しなかったか?」
「わう?」
「んん?」
 違和感。今、何かがおかしかった。ほんの些細な事かもしれないが横島には凄く、物凄い違和感が襲ってきた。しかし、目の前はなんら変哲がない。シロはちゃんといるし、自分の部屋も変わりない。相変わらず汚なくてごみと洗濯物などが乱雑している。いやこの際、そんな事はどうでもよかった。一瞬何かが違っていた。これだけは確かな事だ。横島はいやな予感が拭いきれていなかったが再びシロに聞いてみた。
「なぁ、シロ」
「わん!」
「……おい。いくらなんでも、だまされたからって犬の真似なんかしなくても」
「わう? わんわんわんわんわん!」
「なっ!?」
「あうぅ!?」



   ◆



「とまぁ、そんなこんなでシロがいきなり喋らなくって」
「ふぅん」
 事務所にやって来た二人。シロをまじまじと見ていた美神は不機嫌だった。というより、いらついていた。言うなれば険悪な雰囲気が漂っている。
「あ、あのぉ〜」
「なによ」
「こんな事を言うのも恐縮なんですけど、眉間にしわ寄せてるとくせに」
「るさいっ!」
 横島は彼女の一喝とともに鉄槌を喰らっていた。シロは肩身が狭くして静かに黙っている。
「なんなんですか、いきなり!」
「ったく、これ見なさいよ! これ」
 美神は親指を突き立てて、精霊石のついているシロのネックレスを指し示した。精霊石はひび割れて、三分の一ほどが欠けている。
「あ、欠けてますね」
「原因はそれよ。シロは精霊石を身に付けることで人型になっているのは知っているわよね? その人として機能させているエネルギーが不足したから、喋れなくなっているみたい。まぁ、初めて会った時からずっと身に付けていたから色々とがたが来たんだと思うわ。ひびだらけなのはそれのせいね」
「じゃあ、精霊石を取り替えれば元通りになるわけですね? それだったら今すぐ」
「なに言ってんのよ? あんた、精霊石がいくらするか知らないわけじゃないでしょう?」
「そ、それはまぁ」
「なら分かるわよね?」
 冷ややかに微笑む美神。なにか凍て付くものを横島は本能で感じていた。それはシロも一緒であった。しかし彼女は諦めきれないようで、
「くぅ〜〜〜ん……」
と、どこか寂しそうな鳴き声で上目づかいに美神を見ていた。
「なによ、シロ。文句あるって言うの?」
 ぶんぶんと首を振った。逆らえないのは百も承知だが、話せない事が何よりも残念だった。
「いいじゃないですか、美神さん。わざとやったわけじゃないんですし 」
 そこにおキヌちゃんが救いの船を出してくれた。
「そうそ。わんわんきゃんきゃんと鳴かれるのも耳障りだしね」
 タマモも援護射撃をする。シロは少しむっとしたけれど聞き流す事にした。彼女が手助けしてくれているところは認めざるをえなかった。人をからかうような口調で言っていたことは確かだが、やっぱりタマモもシロがいないと張りあいがないのだろう。
「ん〜、私も鬼じゃないしね。別に構わないんだけど」
「うそばっか……」
「丁稚は黙ってなさい!」
 追い討ちを浴びて、宙を舞う横島。屍は何も喋ろうとはしなかった。
「ったく!」
「ああああ」
「まー、いつものことよね」
「わぅう!?」
 反応は様々。
「はぁっ」
 美神から溜息が漏れる。面倒くさい。何か付き合いきれなくなってきた。早く終わらせよう。彼女はあきれ顔に頬杖付いて、ややうんざりめに事態を収拾させようとする。
「いい? 今回だけだからね? 今度から気をつけなさいよ」
「わぉん!」
 シロが嬉しそうだった。愛くるしい鳴き声にまた尾っぽを振るわせている。ここら辺はやっぱり犬とあまり変わらないようなそうでないような。それはいいとして、たいした問題にはならないで済みそうだ。
「おキヌちゃん、悪いんだけど倉庫から精霊石のケースを」
「はい」
 だ、が。事はそう上手くいかないわけで。数分後の事。
「あの〜、美神さん」
「どうしたの、おキヌちゃん」
「精霊石がないんですけど」
「え、うそ!?」


   ◆


 精霊石はなかった。これは事実であり、覆りもしない。シロが再び喋れるようになるのには精霊石が必要なわけであり、不可欠なものなのだ。
 なぜ美神の所にそれがなかったのか? たまたま除霊などで使ってしまってストックがなくなってしまったのだろうか。今となっては詮索の余地はない。大事なのはこの状況をどうやって打破するかだ。
「うそ。ほんとにないわね?」
「えぇ」
 倉庫はあらかた探しつくしていた。しかし精霊石のせの字も見えなかった。
「おかしいわね、ストックあったと思ったのに」
「どうするんですか? シロはこのままなんですか?」
「うるさいわね、今それを考えているんだから少し黙ってて。横島クン」
「わう〜〜〜」
 シロが困惑した表情で見つめている。
「どうした、シロ。心配か?」
 それを見ていた横島は彼女に話しかけた。
「う、わん、わわん!」
 彼女は首を横に振って、否定をした。何を言っているのか分からないが大丈夫そうだ。
「『そんなことないでござる!』だって」
 その横にいたタマモはさらっと呟く。それになるほどと思った横島は頷いていた。
「あぁ、なんだ……。って、おい。タマモ、お前シロの喋ってる事分かるのかよ?」
「ま、多少はね」
「なんで黙ってたんだ?」
「別に。聞かれなかったからよ。どっちにしても私がずっとシロの通訳やってるわけにも行かないでしょ? 大体、そんなのは私も面倒くさいし。シロも自分の言葉で喋った方がいいと思うから」
「そりゃま、そうだけど」
「よし、決めた!」
 脇にいた美神がいきなり大きな声で言い出した。
「でもねぇ、あぁやっぱり。けど、背に腹は変えられないか」
 珍しく彼女は決意を鈍らせてはいたが一度は約束した事だ。ひるがえせばシロの鳴き声がところ狭しと辺りに響く事だろう。彼女はうるさいのがいやだった。でも、これからする事もどちらかといえばあまりやりたくないのは確かである。なので二つを秤に掛けた。こうして出た結果が先ほど口から漏れた言葉なのだ。そして彼女は倉庫から戻ると受話器を手に取り、ダイアルボタンを素早く押した。
『は〜い、六道冥子ですが〜』
「あ、冥子? 私だけど」
『あら、令子ちゃん〜。どうしたの〜?』
「ちょっと聞きたいんだけど、そっちに精霊石ってまだあるかしら?」
『見てみないと分からないけど〜、確かなかったと思うわ〜?』
「そう」
『なにしろ年度始めでしょ〜? どこも仕入れにてんてこ舞いだから〜、まだ市場にも出てないんじゃないかしら〜』
「ストックもないの?」
『そうなのよ〜、精霊石がなくても式神ちゃんたちが何とかしてくれるしあんまり必要ないのよ〜』
「分かったわ、ありがと」
『あ、そうそ〜、今度令子ちゃんと一緒に出来そうな仕事が』
 ガチャンッ、ツーツー。
「次、行くわよ!」
「………」
 というわけで、美神は片っ端から電話をかけ始めた。
『あぁ、美神君か。えっ、精霊石かい? 金があったら買ってるんだけどねぇ』
 ガチャンッ。
『あら、令子。精霊石があるかって? 悪いけどこっちにはないわよ?』
 ガチャンッッ。
『精霊石ですか? 私、魔女ですのであんまりそういった道具は』
 ガチャンッッッ。
『精霊石だって? そりゃ一応あるけど』
「えっ、本当? 西条さん」
『でも公費で落としてるし、そう簡単には渡す事が出来ないんだが。何があったのか理由を聞かせてもらえないかい?』
「……ごめんなさい、やっぱりいいわ。どうもありがとう」
『お、おい。令子ちゃ』
 ガチャリ。
「はぁ〜あ、何処にもないわね」
 受話器を置き終えて、美神は溜息をついた。
「え、まだ一つあるじゃないですか」
 即座に横島が反論する。彼女は急に表情を曇らせて、顔つきが険しくなった。
「ないわよ」
「ありますよ」
「ないったら、ないの!」
「あるじゃないですか、まだエミさ」
 その瞬間、横島の顔は陥没した。
「ったく、その名前を出さないでよ」
「で、でも別にエミさんだったら頼んでも大丈夫だと思いますけど?」
「そうね、おキヌちゃん。なんら問題はないけど」
「けど?」
「あの女に借りを作るのだけはこの地球は破滅したってご免だわ……!!」
「なに言ってるんですか、今は美神さんの意地を押し通してる時じゃありませんよ?」
「そりゃ、そうなんだけど」
「意地が大切なのか、シロちゃんのことが大切なのか考えてください!」
 おキヌちゃんは真剣な表情だった。シロと意地。それを天秤にかける。簡単な事だ。要は二者択一。二つに一つとも言う。より重く考えている方を取るのが当たり前である。当然、美神もそのつもりである。しばしの熟考(それにしても目の前にいる人物と自分の気質を秤に掛ける時点でどうかと思う気がするがそれはさておき)の後、彼女は決断を下したようだった。
「意地、かしら?」
 と、美神はその決断をぽつり。
「び・か・み・さん?」
 それを聞いた瞬間、おキヌちゃんはとんでもない表情で彼女を見つめた。怖い、いや怖いなんてものじゃない。修羅だ。修羅雪姫がここにいる。鬼母神がいる。本気で怒ったママがいる。美神にはそんな感じだった。とにかく今までにない迫力を出していたのは事実だった。
「わ、分かりましたよ! 電話します、すればいいんでしょう?」
「ありがとうございます」
 今度はいつもの笑顔にすっかり戻ってる。怒らせないようにしよう。美神はそう思いつつ、再び受話器を手に取った。
『はい。こちら小笠原エミ除霊、あら。令子』
「手短に話すわ。精霊石はある?」
『あるけど、いったいどうしたってワケ?』
「実はこれこれしかじか」
『へぇ? で、おたくはどうしたいの?』
「譲って欲しいの」
『高いわよ?』
「……いくら」
『三億に負けといてあげるわ』
「高いわ、一億よ」
『はっ。話にならないワケ』
「じゃ、一億一千万」
『二億九千よ。これ以上はびた一文も』
 受話器越しに交渉が始まった。白熱する値切り。お互いに譲らないから長引く事、果てしがなかった。
「二億一千六百十一万三千二百七十一円よ!」
『二億一千六百十一万三千二百八十円! これ以上は譲れないワケ』
「じゃあ、二億一千……」
 既に交渉は一時間を過ぎようとしていた。値切りの桁は十の位と一の位を行き来するくらいみみっちくなっているが、それでもなお熱い交渉が行われていた。
「いつになったら終わるんだ、これ」
「さぁ……?」
「わぅぅぅ」
 完全に蚊帳の外に追いやられてしまった当事者たちは呆然としていた。金の交渉になった時点でこうなる事が予測ついたわけであるが仕方がなかった。やっぱり彼女はお金にうるさかった。そういう事が再認識できたのはいいが、その終わりは全く見えなかった。
「なぁ、シロ」
「わぅ?」
「美神さん、長引きそうだから今の内に散歩してくるか?」
「わんっ!」


   ◆


 雲ひとつない晴れた空であった。
「わん、わんわんわんわわんっ!」
「ぎゃーーーーーっ!?」
 晴天の空の下、猛スピードで自転車が駆け抜けていく。季節は春から初夏に差しかかろうとしていた。ちょうど昼過ぎ。陽気はぽかぽかとしていて、風が心地よく駆け抜ける。そんな暖かい午後だった。
「わん♪」
 シロは走るのをやめた。と、同時に自転車も止まった。そこはちょうど川べりの土手の上。斜面では雑草が若々しい緑色で生い茂っている。彼女は大きく深呼吸をした。すぅと肺が空気で一杯になるくらい吸い込むと今度は大きく息を吐き出した。気持ちがいい。彼女は胸がうきうきしていた。
「おい」
「わう?」
 気持ちのよさそうな彼女を尻目にして横島は息も途絶え途絶えにばてていた。シロはきょとんとした表情でにっこりと微笑んで彼を見つめた。
「なに笑ってるんだよ! ったく、いつもいつもかっ飛ばしやがって。少しはおれのこと考えろよな?」
「わぅ〜」
 今度は申し訳無さそうな表情でこちらを見つめてくる。まったく百面相とはよく言ったものである。それほどに彼女の表情はころころ変わる。が、感情は分かりやすいほどに伝わってくるのはなぜだろうか。
「シロ、お前ババ抜き弱いだろ」
「わっ!? わわんっ!」
 驚いた表情を見せる彼女。横島はやっぱりなと思った。しかし、言葉で意思の相通ができないと言う事がこんなに不便だとは思いもしなかった。確かに彼女の表情は分かりやすい。でも彼女が言いたい事までは判らない。なんとなしに表情で読めるが細部までは分からない。横島はそのような一種のもどかしさを感じていた。
「でも、まぁ。いい天気だな」
「あぉん♪」
 彼は土手の斜面の寝転がると空を仰いだ。深い奥行きを持った綺麗な青空が彼の視界一面に広がる。その中に吸い込まれそうなくらいの青さ。見ていて不快になるはずもなく、ただ太陽の暖かかな陽気に包まれて心おおらかに空を見ていた。
「う? わんっわんわん!」
「ん、今度は何だよ?」
 シロに呼ばれて、横島は彼女の方へと向かった。するとそこには土手に根付いたたんぽぽの黄色い花がいくつもあった。
「おっ、珍しいな。こんなに連なってあると」
「わんわん」
 咲いているたんぽぽの花は青空と雑草の緑と絶妙なコントラストを生み出していた。彼の隣ではシロがやっぱりしっぽをふるふると揺らしている。なにかとても嬉しそうで可愛らしくもあった。
「わう!?」
 横島はその左右に動いているしっぽをなんとなしに掴んでみた。するとシロは背中を反り返らせて、ぴくっと驚く。彼女はそっと横島をのぞき見ると顔を赤らめている。
「な、なんだよ」
「わぅぅ……」
 言い出しづらそうでためらい気味な小声を漏らした。なにかとっても恥ずかしそうな顔を見せている。シロのこんな顔を見るのは今日が初めてだった。横島はいてもたっても入られなかったのか、掴んでいたしっぽを放すと気まずい気分に陥っていた。
(お、おれが何か悪いことでもしたのか? いやそれよりシロってこんなに可愛かったか? なんか妙に新鮮だ。でも、場の空気が微妙だ、どうすれば)
「しっぽ触ったのが不味かったのか?」
 恐る恐る、横島は聞いた。するとシロは頷く。
「もしかしてセクハラだったとか?」
 さらに頷いた。彼女はちらりと横島をのぞき見るとまた赤くなる。
「……すまん。俺が悪かった」
「わう、わおんわんわん」
 シロは横に首を振った。そしてまたしっぽを動かしていた。
「でも、やっぱりそういう仕草見てると犬とあんまり変わらないなぁ。お前」
「う〜〜、わんわん!!」
 犬じゃない狼だと言いたそうにやかましく吠える彼女。
「あ〜、分かってるよ。狼だって言いたいんだろ?」
「わん!」
「だってしょうがねぇじゃないか。そんなにしっぽ振れば、犬と同じだぜ」
「くぅぅ〜〜ん」
「まぁ、そう落ち込むなって。お前はお前さ。犬じゃない」
「わ?」
「だから、お前は人狼で侍の子で元気のいいシロだってことだよ。お前はお前以外の何者でもないさ。それでいいじゃねぇか」
「わんわん!」
 彼女は彼の言葉を受けて嬉しそうだった。横島は上半身だけ起き上がると、青い空を再び見つめた。するとシロは彼に近付くとそっと脇に寄り添って、腕に抱きついた。
「お、おい。あんまり引っ付くなよ」
「わぉん♪」
 シロは彼の腕を決して放さなかった。自分は今、先生の腕に抱きついている。先生の匂いが自分を包まれている。そして、なによりも先生の存在をシロは今までの中で一番感じていた。
 風がそよいだ。たんぽぽのいくつかは既に花が綿毛の付いた種子に様変わりしていた。そこに風が吹くと、種子は空高くふんわりと舞っていく。それがいくつも土手の上の青空を飛んでいったのだった。
「さて、そろそろ帰るか。エミさんとの交渉が終わってればいいけどな」
「わん!」
 そしてまた、二人は帰路に着いた。帰り道も相変わらずシロが手加減せずに気持ちよく走るものだから、横島はまた危機感にさいなませながらの帰還となった。ま、それはいいとして。
 帰ると交渉は無事(?)に終わっていた。美神の落札価格はあまりにも細かくなりすぎていたので割愛するが残ったおキヌちゃんとタマモの話によれば、値段の交渉から壮絶なののしり合いへと化し、そこでまた一悶着あった上にそこからさらに美神が値切り、エミが対抗したようだったらしく結果的に美神の勝利だったらしい。その後、おキヌちゃんとタマモが精霊石を取りに行き、美神とエミは精根尽き果ててぐったりとしていたと言う。「高くつきそうだな」と、横島は言った。また「覚悟しておけよ、シロ」とも。この後のことを考えるとぞっとするが、とにかく精霊石は手に入ったのだ。
「ほら、シロ」
 横島はシロに新しい精霊石を差し出した。彼女は早速、それを身に着けてみた。すると。
「ん、あー、あー、拙者の喋る言葉は分かるでござろうか?」
「ばっちりだ。良かったな、シロ」
「あぁ、良かった! 良かったわね、シロちゃん」
「へへへ。一時はどうなる事かと思ったでござる」
「自業自得でしょ?」
「うるさいでござるよ、タマモ」
 ようやく普通に喋られたシロ。みんなもそのシロの声を聞いてやっと安堵する。やはりシロが喋るのと喋らないのではどうも雰囲気が違うようで、みんなで良かった良かったと胸をなでおろしていた。
「先生」
「ん、なんだ?」
 シロは横島の方を向いて言った。
「さっき、どうしても言えなかった事を今ここで言いたいのでござるが」
「あぁ、いいけどなんだ?」
「……せんせぇのえっち」
「な?」
 空気は一瞬にして氷河期。極寒の視線が横島に突き刺さった。
「横島さん、何やったんですか? まさか!?」
「ち、違う! おれは何も」
「そうやって、否定する所を見るとますます怪しいわ」
「なっ!? タマモ、それは誤解だ!!」
「詳しい話を聞かせてもらおうかしら?」
「ひぃぃ!? 美神さん、いつの間にぃ!?」
「まさかとは思うけど、ほんとにやるとはね。みっちりやってあげるから覚悟しなさい?」
「そ、そうだ。シロ、シロは何処行ったぁぁぁ!?」
 横島の悲痛な叫びは家中を駆け巡る。その頃、シロは屋根裏部屋に隠れていた。
「拙者にセクハラした罰でござる」
 と言ってはいるものの、内心は嬉しそうなシロであった。それもそのはずである。そういう対象で横島に見られたことが初めてだったからだ。やっぱり彼女も女の子である。それくらいの恥じらいと言うか、そんなものを持っている……はずである。
「うふふふふふふふふでござる♪」
 ベッドの上で転がり転げるシロ。なにかシロがやっているともの珍しくも思えてくるのだが、それはそれでいいとしておこう。
 そんな春の陽気な一日だった。


 END
 

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